無効化能力者の倒し方

 圧倒的に相性の悪いチート能力者を前に、魔女側が勝つ見込みがあるのか。

 まずは情報収集だな。


「ステータスオープン、あの魔女の詳細。」


【魔王軍 四天王[絶望の七色ディスペアレインボウ リリベル] 詳細情報】

 遥か昔、魔術師の家系に生まれる。幼少の頃から魔力が異様に高く、魔術師たちのトップに立つまでそう時間はかからなかった。当時の国王が最も信頼する魔法使いとして、国の天下太平を守り続けた。

 しかしある時「混沌魔法」に目覚めると周囲の評価は一転。まるで魔物を見るよう忌み嫌い、国家を追われるようになる。復讐心に苛まれる中、ついに彼女は人間から魔女へ一段階超越した存在になってしまう。

 それは最悪の展開だった。超越したことで「モンスター」の扱いになってしまい、人間の最高位召喚術師に「召喚」されるようになる。命令には逆らえず、あるときは大量殺戮、あるときは見世物、慰め者に。そこに人権は無くただの”道具”として使い潰されてはまた蘇生され何度も――――


 うわ、長え。

 ここまで詳細が覗けるとは思わなかった。

 しかもエグイ内容。

 魔王軍側も色々な人生……モンスター生?を歩んでるんだな。


 俺はステータス画面を、タブレットを操作するように指でスクロールする。

 すると画面にこんな表示が。



【★以下ネタバレを含みます★】

 この世界の原住生命体はモンスター側。

 人間はほぼ、とある人物によって作られた人形である。

 増長した人間側は異世界から死亡した人間を召喚し、特殊能力を与えモンスター達を殲滅してしまった。

 かろうじて残ったモンスターは環境の不安定な「魔界」という擬似空間を作り、そこへ逃げ込んだ。



 ……え?

 じゃあこの状況って――――



「ちょっと待ってくれーーー!!」



ガラガラガラ!!



 瓦礫を支えていた大きなステータスウィンドウを動かす。

 思わず飛び出てしまった。

 すごいネタバレを見て、居ても立ってもいられなかった。


「ちょっと待ってくれないか……」


 拘束されている魔女、剣を振り上げてる男の子、黄緑服の魔女っ子とモンスター娘?みたいな子。

 全員が俺の方を見て固まる。


 この世界は何か間違ってる気がする。

 俺たち異世界転生者が関与してはいけない、何か。

 それを伝えなければ。


「その……魔族にも色々理由があるんじゃないかな。人類を滅ぼす理由が。

それなのにいきなり殺して良いのかい? 少しは聞いてあげても……」


「なに? おじさん誰? いきなり出てきて何言ってるの?」


 俺の言葉に黄緑服の女の子が反論する。


「私達人間は、この魔族に沢山殺されてるわけ。知ってるでしょ?

なのに今更話し合いで解決? 出来るわけないじゃない。」


 確かに、戦争とは憎しみの連鎖だ。

 だが真実は知ってほしい。

 特に外からやってきた、転生勇者の彼には。

 と思ったが彼もまた続ける。


「そうだ。この子の言うとおりだよ。

おっさん、法律って知ってるか? 人を殺したら裁かれないといけないんだよ。

分かるかなぁ囚人のおっさん。」


 いやお前こそ法律の何を知ってるんだよ。

 被告人には弁解する権利もあるだろ。

 冤罪の恐怖はよく知っている。

 そもそも戦争中だし……ええと、なんて説明しよう。

 そうだ。


「で、でもほら、君たちの仲間の鳥モンスターの子だって魔族だろ? 魔族にも友好的な――」



バキィ!!



 男の子は剣を振り下ろし、近くあった瓦礫を叩き割った。


「おっさん!! 人を見た目で判断するんじゃねぇ!!

この子は人間だ! よく人のコンプレックスを土足で踏みにじれるなぁ!!」


 え、人間!?

 ここはファンタジー世界だから、モンスター娘かと思ったが違うのか。

 コンプレックスってことは好んでこの姿じゃないとか? 病気か何か?

 よくわからないがどうやら怒らせてしまったようだ。


「うぅ、それは申し訳……」



シュルルル、ギュッ!



「うおっ! がっ……何……」


 全身を植物のツルに縛られた。

 黄緑服の魔女っ子が両手を前に出している。

 恐らく先程の魔法だ。

 口元も塞がれて喋れない。


「黙って見てなよおっさん。さあ勇者様、殺っちゃって。」


「違ンンーー、これンー!」


 ステータスウィンドウを見てくれ。

 これに全てが記載されている。

 そう言いたいが伝えられない。


 まずい、このままだと誤解が解けないまま終わってしまう。

 そうだ、男の子の腰のベルトをウィンドウで切ってみて、注目してもらおう。

 俺の口は塞がれているが、なんとか叫ぶ。


「フヘーフーフン!(ステータスオープン!)」


 ――――消えた!?

 男の子の近くにウィンドウを近づけると、消えてしまった。

 この世の現象に干渉されない、俺のバグったステータスウィンドウ。

 それすらも消滅させられるのか。


「……あんた、今。」


 しまった!

 女の子に見られた!

 サイズ調整をして小さいウィンドウにしておくべきだった。



ボキッ



 は?

 俺の腕が変な方向に……


「うがああーーーーーーー!!!」


 痛ってえええええ!

 気を失いそうな痛さ。変な汗がドバドバ出てきた。


「次は腕じゃ済まないから。」


 女の子が俺に忠告をする。

 そこに魔女の叫び声が。


「ぎゃあああああ!!」


「おいおい、避けるから首を切れなかっただろ。」


 この拘束された状態で身体を動かすとは流石四天王。

 しかしもう片方の腕を切られてしまった。

 これは以上逃げようが無い……。



 ――――ああ。



 もう、俺は駄目な人間だ。



 チートで一方的に攻撃する彼を、彼女たちを説得出来なかった。

 生前だってそうだ。

 冤罪だろうが仕事を押し付けられようが、自分の主張を貫き通すことが出来なかった。

 この世界でも結局、理不尽に屈した弱くて惨めな人間として存在してしまうのか。



 ……いや。



 ……チャンスだ。



 一度死んだ身に訪れた、挽回のチャンスだろ。

 死ぬ気になれば、こんな自分だって世界を変えられるかもしれない。

 この世界から「理不尽チート」を排除できるかもしれない。


 心を鬼にする。

 エゴ? 他の異世界人と同じ悪行?

 そうかもな。

 ただ、俺は俺の正義を貫く。

 いや、悪かもしれないがどうでもいい。


 今、魔女に注目が行ってる今しかない。

 この状況をひっくり返す。慎重に、慎重に操作しよう。


 異世界人チーターよ! 天に還れ!!



ズゴオォォォォン!!




◆◆◆◆◆




「すげーなお前。それで倒しちゃったのかよ。」


 酒場で酒を飲みながら会話をする、俺と巨体な男性。


「いや、偶然だよ。うまくいくとは思ってなかった。」


「それでもすげーよ。あの[消滅の勇者 カツヒロ]だぞ?

四天王のリリベル様でも適わないんだから相当だろ。」


「相性……ってやつなのかな。」


 こんなに誉めてくるとは思わなかった。

 出会った時はオラオラ系のキャラかと思ってたのに。

 見た目からは想像できない。


「それでリリベル様に飼われ始めたんだろ?

俺も飼われたいわー、あの美しいお体に近づいてみたいもんだね!」


 ワーウルフも人間に欲情したりするのだろうか。

 全身筋肉・銀色の毛並みの人狼。

 狼と言いつつ体が相当大きいため、人熊ワーベアのように思える。

 俺は今、そんな相手と酒を飲んでいる。


「でもよぉ、どうして死んだんだ? 魔法が効かない勇者なのに。」


「そうだな、簡単に説明すると……」


 おつまみとして食べてたナッツをつまんだ。


「ステータス・オープン。この画面を水平に展開して、ここにナッツを置く。

そしてずーっと上まで持っていく。」


 おつまみを乗せて、ステータスウィンドウを俺の真上まで操作した。


「そして画面を解除するとーーあむっ! モグモグ。

これが瓦礫だったら、ってことねモグモグ。わかる?」


 ステータス画面が消え、上から落ちてきたナッツを口でキャッチして食べた。


「いや、ぜんぜんわからねぇ。」


「リリベルが瓦礫をぶっ飛ばしても、無効化されてその場に落ちたんだ。

つまり魔法で動かした物体すら停止する能力なわけね?

でも今ナッツが落ちてきたように、上から降ってくる力は『重力』、自然法則だ。

たまたまその下に勇者がいたらどうなる?

事故みたいなものだから、無効化出来ずにつぶされて死ぬって訳さ。」


「へ、へー。わかったような……」


 絶対わかってない、この脳筋。


「でもすごいことはわかった! さすがだぜ大将!」


「いやいや、褒めても何も出ないって~」


 照れて頭をかきながら後ろにのけぞる。



ゴン! バラバラ……



「え? あ! すみません、失礼しました!」


「ハハハ、なにを石像に謝ってるんだよ。」


「せ、石像って。」


 俺は酒場の床に転がる石の破片をまとめた。

 そして両手を合わせる。


「元人間なわけだし。なんまんだぶー」


 苦しそうな表情をした人間の石像の、腕がもげてしまった。

 その周囲にも倒れた人間の石像が。

 奥のテーブルには何体もの石像が転がっている。

 カウンターの中には、壁にもたれかかった店主の石像が。


「お前がやったくせに何ビビッてんだよ。

今日の作戦は完璧だったぞ~、まさか地下水道から石化ガスを流すなんて。

こんなに早く街を制圧できたなんて初めてだぜ。」


「え、いやいやたまたまだって~。下水道がある街でよかったよ本当。」


 水の都・オーカイチコ。

 ここはヨーロッパにある水の都市のような、運河が張り巡らされている街だ。

 水も澄んでおり上下水道も発達していて、街全体が清潔感で溢れている。

 そのため地酒が美味しく、ぜひとも手に入れたい街だった。


 我ら魔王軍は人間界への侵略を進めている。

 ……というか実際にはモンスターの故郷を取り戻している事になる。

 今回の侵略計画では下水道の調査を行った。

 この街の"詳細ステータス"を覗き見ることができる俺には最適な仕事だった。


「しかし街を守護する聖騎士様ですらあっさり石化だもんな。

ちょっと暴れ足りないぜ。せっかく魔獣兵団の団長サマが来てやったのによ。」


【魔王軍 魔獣兵団長[覇狼 ガイアー]】

 レベル:86

 スキル:覇王闘気


「残党の魔法使いとか戦士がいたら、魔獣兵団にお願いしようと思ってたけどね。

まさかこんなにうまくいくとは。」


「次はちょっとくらい残してくれよ~? 勇者討伐団の団長 タカトよぉ。」


【魔王軍 [勇者討伐団長 タカト]】

 レベル:13

 スキル:無し


「無茶言わないでー。」


 酒を飲みながら二人で笑いあう。


 消滅の勇者との戦いの後、行く当てのない俺は魔王軍に入隊した。

 現実世界で着ていたような黒いスーツを身にまとい、襟には魔王軍の紋章。

 ……なぜか首には赤い首輪。

 異世界転生チート能力持ち勇者の討伐を行い、増長した人類を抑制するのが俺の任務だ。




VS 消滅の勇者 おわり



無効化系能力者の倒し方:

物理法則で押し潰す

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