反射能力者の倒し方
スッ……
「え!? 何!? なんだ!?」
突然、周囲の明かりが完全に消える。
自分の姿すら見えない状態に、勇者も戸惑う。
「まーまー落ち着けよ。確か……レンくんだっけ?」
「てめー、何をした!」
怒りの表情で叫ぶ[反撃の勇者 レン]。
真っ暗だから表情は見えないがたぶん。
「君のスキルは『自分に害のあるものの反射』だろ?
つまり『周囲の光源が対象の魔法』は反射出来ないってことだ。」
「んなことねーよ。周囲の魔力の流れを制御すればいいだけだ。
こんな子供だましテクニックで逃げようなんて、そうはさせねーよ!」
勇者が両手を広げている。と思う。暗いから見えないけど。
「逃げる? 誰がそんなことをすると言った。
俺はこれからお前に"攻撃魔法を放つ"!」
「は? 何まだわかんねーの? だから攻撃魔法は効かないんだって。」
「こいつを食らっても同じことを言えるかな?」
なんとなく勇者が身構えている気がする。
俺は魔法の呪文を唱える。
「彼に重力の枷を! 潰れてしまえ《グラビティ・フィールド》!!」
「だから意味――――は?」
ガクっと膝をつく勇者。
急に体が重くなり、立ち上がれないようだ。
「は? 何だこれ! 重っ! 体が重い!!」
「ほらほらどんどん重くなるぞ!」
彼にかかる重力は増えていき、両手が地面に付くまでになった。
「何だこれ! どういうことだよ! は? 魔法!?」
「俺の魔法にはなぁ、『愛』が含まれているんだよ!
だから攻撃魔法ではない! これは『愛の重さ』だ!!」
「馬鹿じゃねーの!? そんなことあってたまるか!」
「そのまま潰れてしまえ。この攻撃を回避する手段があるなら別だけどな。」
「あー、やってやろうじゃん。俺を誰だと思ってるんだ!」
激しい重力場の中、勇者が無理やり起き上がる。
そしてガードの姿勢を取る。
「俺にかかるすべての"魔法"よ、"力"よ、"ベクトル"よ!
生命維持に関するもの以外、すべてを一旦"拒絶"する!!」
フワッ……
勇者が浮かび上がる。
重力も何もかも、自分にかかるすべての力をゼロにしたようだ。
俺の攻撃ももちろん無効化されている。
俺は彼に対し称賛の言葉を贈る。
「素晴らしい! 素晴らしいよ君! 俺の攻撃すら無効化するなんて!
いやー、予想外だなー、すごいなー、ねえ聞こえてますか? ねぇ。」
「ぷはぁ、聞こえてるっての!」
空気すら遮断していたようだ。
勇者が呼吸した瞬間、彼は床に足を付けた。
能力を解除したらしい。
「いやー、敵ながらあっぱれだよ。こんなすごい能力だったとは。」
「あー、もうウザイなお前。殺しに行くからそこで待ってろ。
まずこの暗闇を解除してやる。」
「あ! 待って待って、マジで! ほんと一旦ストップ!!」
「はぁ?」
俺の全力の静止に、勇者は一旦手を止めてくれた。
「それはやばいと思うんだ。
まずはほら、何で君に俺の魔法が効いたか説明聞きたくない?」
「何でヤバイんだよ。なんか愛がどうのこうの言ってなかったか?」
「実はね。ちょっとしたトリックなんだ。
君の弱点を知るためにしっかり聞いておいたほうがいいと思うよ。」
「何だよ早く言えよ。」
「惑星の自転と公転って知ってる?」
「……」
勇者が無言で両手を広げたのを感じた。
「待って待って! 悪かった! 結論から言おう!
――――君は今、宇宙にいます。」
「……はぁ!? 何いってんだよ、そんなわけねーだろ!
ワープ魔法も効かないし、催眠術系も効かないんだからよ!」
「でも俺の攻撃は効いただろ?」
「……」
勇者が黙ってしまった。
俺は説明を続ける。
「実はね、重力魔法なんて嘘なんだ。
俺が呪文を叫んだときから、君をエレベーターで囲み、急上昇させてたんだ。」
「きゅ、急上昇!?」
「君はこの世界でエレベーターに乗ったことはあるか?」
「エレ……まあ上昇する床や絨毯には乗ったことあるけど。」
「本来であれば君に対する"上昇"は攻撃とみなされて、エレベーターが壊れてしまう。
しかし壊れていないということは、生活に重力は必須だということを判断されてたんだ。」
「でも急上昇は攻撃じゃねーか!」
「そこは俺も賭けだったんだけどね。
少しずつスピードを上げてったらうまく効いてくれたみたい。」
「あれは重力魔法じゃなく……いや、でもあんな短時間で宇宙に行けるわけない!」
そのとおり。
急上昇は途中で「全ての力をゼロにする」効果で止められた。
しかし「全ての力をゼロにする」とはどういうことなのか。
「君は体にかかる重力や等速直線運動を"すべてリセット"した。
すると君自身がどうなってしまうか想像出来るかい?
……この星の自転と公転に置いてかれるんだよ。」
「自転と……公転?」
「そう。偏差値が高い大学生だから知ってるだろ?
俺らがいる異世界も、月や太陽があるということは惑星なんだ。
惑星は太陽の周りをグルグル回っている。
つまりここに住む生き物は、星に乗って移動してるようなものだ。
その運動エネルギーをぜーんぶ止めたらどうなる?」
「惑星が……先に行ってしまう……」
さっきまでとは違い、弱々しくつぶやく勇者。
やっと理解してくれたみたいだ。
自分がスキルで行った重大なミスを。
「ご明答~。それがバレないように、君の周りを暗くしてるって事さ。」
「いやいやいや、じゃあ俺が今立ってるコレは何だよ。
重力があるってことはギリギリ宇宙では無いだろ?
仮に超上空でも、熱と空気を操作する俺にとっちゃ関係ねーよ!」
勇者がその場でジャンプする。
勇者の動きは、地上のそれと違いがないように思える。
……が。
「君にかかっているそのベクトル、本当に重力か?」
「……は?」
「重力加速度って知ってるかい?」
「バカにすんなよ! それぐらい知ってるっつーの!
――っておいおい冗談だろ……手が込みすぎて無理だろそんなの……」
震えた声になる勇者。
まさかこのヒントで嫌な予感がするとは。
偏差値高い大学生は察しが早い。
「ここが何でもありの異世界だと言うことを忘れてないか?」
「じゃあ本当に……
本当に、
この惑星の重力加速度は、地球と同じであれば約9.8m/sだ。
宇宙空間に投げ出された彼に重力体験させるには……
彼を毎秒9.8メートル上方へ加速させ続ければいい。
「いやいや……さすがに信じる範囲を超えてるわ。
そんな動きが出来るなんてチートすぎる。」
「じゃあザッ――ザザッ――解除して――ザッ――」
魔王軍の技術を集結して作られた通信アイテムも、さすがに距離の限界。
むしろ届くのがすごい。
「は? どうした、おい返事しろ! クッソ、じゃあ解除してやるよ!」
暗闇の中、勇者は両手を広げる。
「俺にかかるすべての"魔法"よ、"力"よ、"ベクトル"よ!
生命維持に関するもの以外、もう一度すべてを"拒絶"する!!」
パッ
「カハッ……」
視界が戻ったそこは、宇宙空間だった。
俺のステータス画面も暗闇魔術も消え、残ったのは通信アイテムの人形だけ。
足元の方向を見ると、大きな青い惑星が見える。
「マジ……で……」
勇者は宇宙空間に放り出されていた。
◆◆◆
「タカト、あいつどうなったの?」
空を見ながら喋っていた俺が黙ったタイミングで、リリベルが話しかけてきた。
「さあ、この星からだいぶ離れたところまでぶっ飛んでったんじゃないかな。」
「この星からってのはよくわからないけど、すごい勢いで西に飛んでったわよね。」
魔族には天体や物理学という知識は無いんだろうか。
ファンタジーで常識が通じないこの異世界。
前は天動説も考慮していたが、古い文献からこの異世界も惑星である事は知っていた。
あとは魔法ではない物理学がどこまで通用するのかは実験あるのみ。
今回の作戦も事前準備の賜物であると言える。
とは言え、相手に通用するかはだろう運転のぶっつけ本番だった。
まずリリベルが撃たれ抱きかかえた際に、小さなステータスを出して指示を送る。
俺の合図とともに、周囲の明かりを消去する魔法を放ってもらい視界を奪う。
暗くなった瞬間、勇者の足元に通信アイテムを設置。
さらにステータスポリゴン、モデル:ロケットで彼を完全密封。
風圧や気圧でバレないようにする。
あとは勇者に説明した通りの動きだ。
最初は魔法を使うとハッタリをかまし、彼を上空までぶっ飛ばす。
焦った彼は重力ごと自分にかかるベクトルを解除してしまう。
その瞬間に惑星から放り出されるが、ステータスポリゴンは彼を追従。
俺の呼びかけが聞こえる=能力が解除された瞬間、ステータスポリゴンを上昇。
あとは能力が届く限り、宇宙の果てまで加速させるつもりでいた。
ちなみに加速度などの計算はステータス画面が行ってくれました。
「結局、あいつは死んだの?」
「さあ……わからない。宇宙のチリや圧力や有害物質は耐えられるだろうからね。
問題は空気だ。彼が何らかの手でこの惑星に帰ってくるとして。
それまで呼吸が持つかはわからないね。」
「ふーん。」
俺も地味に成長しているのかもしれない。
速度制御も出来るようになったし、はるか遠い宇宙まで能力が届くとは思わなかった。
また数々の幸運に助けられた。
これからもこのバグったステータス画面を有効活用する手を考えていこう。
こうして、反撃の勇者の討伐は達成された。
その後、俺達は空間切除のマーカーを予定通り設置し、宝の部屋ごと宙に浮かせる。
慌てふためく国王や兵士たちを後目に、そのまま堂々と魔王軍拠点まで運んだ。
VS 反撃の勇者 おわり
反射能力者の倒し方:
反射されないよう重力と同じ加速度で誤認させ飛ばす
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