第288話 カバー曲『ダンジョンアタック』『あいつはあいつはDチューバー』

『私とあなたは下町で生まれて育った♪ 私は音楽、あなたは迷宮に夢中になったけど、何時までも何時までも友達だった♪』


 彼女のミリオンセラーナンバー『ダンジョンアタック』だ。

 世界中でヒットして、日本でもよくテレビで流れていたな。


「私はあなたが音楽業界でヒットしていくのをまぶしく見てたわ♪ 駆け出しの配信冒険者にはあなたがまぶしくて♪」


 歌のモデルは死んでしまったDチューバーのケイト・ベーエという『ホワッツマイケル』の初期メンバーの女性だと言われている。

 みのりが日本語で、ケイトさんのパートを歌っている。


『いつしかあなたは迷宮深く潜り、魔物を倒し、名前をあげていく♪ 動画をみて生配信を応援して、離れていてもずっと心は一緒だった♪』


 みのりとマリアさんが寄り添い、声を合わせてサビを歌う。


「『ダンジョンアタック、ダンジョンアタック♪ 地上でも地下でもどこでも。だれでもみんな、迷宮に挑んでいく♪ 困難を打ち砕け、謎を解け、栄光をつかむんだ♪』」


 呪歌じゃないけど、とても良い曲だな。

 親友のケイトさんがフロアボスアタックで負けて死んだ日、マリアさんは泣きながら一晩でこの曲を書いたという。


 マリアさんが『ホワッツマイケル』に吟遊詩人バードとして参加したのは、ケイトさんの見た物をみたいのもあるのだろう。


 しかし、さすがは世界の歌姫の歌唱力だ、引き込まれる。

 みのりの歌声は彼女ほどの熟練はないのだけど、スキルから来る声の透明度と、レアのリュートの演奏技術で堂々と渡り合っている。

 いやあ、凄いな、【歌唱】スキルのレベルが上がってるのもあるのだろうけどね。

 少し前まで只の高校生だったとは思えない存在感だな。

 ダンスも格段に上手くなってるな。

 頑張ったんだな、みのり。


 大盛り上がりで『ダンジョンアタック』は終わった。

 マリアはみのりを抱きしめて頬にキスをした。


『『魔術師ウィザード』のケイトは死んでしまったけど、わたしは極東で吟遊詩人バードのミノリと出会ったわ、人生は季節のように移り変わり、出会って別れて動いていくわ』

『マリアさん、ありがとう、大事な歌を歌わせてくれて』

『いいのよ、ミノリは大事なバディだからねっ』


 観客が一斉に沸いた。


「それでは、次の曲は私が選んだカバー曲です、迷宮で散ってしまった、世界初の吟遊詩人バード、木の下ゆかりさんの大ヒット曲『あいつはあいつはDチューバー』ですっ」

「うおおお、ゆかにゃんの名曲!!」

吟遊詩人バード二号のみのりんが歌うなんてっ」


 軽快なシンセサイザーの音がひらめいて前奏が始まった。


 ロシア人もりっちょんも、まだ動かないな……。

 プログラムでは、次の曲がトリの『マリア&みのり』の新曲だ。

 仕掛けてくるなら、新曲の途中だろうか。

 りっちょんもDアイドルだから、一番効果的なタイミングで仕掛けて来るだろう。


「「「「セイッセイッセイッセイッ」」」」


 『あいつはあいつはDチューバー』はアイドルオタクさんだと基礎教養らしく、組織的なかけ声が掛かり、サイリウムが規則正しく振られた。


「あ~~~あ~っ♪ あいつはあいつは小憎らしいこんちくしょうのDチューバー♪」

「「「「Dチューバー!!」」」」


 おお、訓練されたアイドルオタクさんが一連隊いらっしゃるぞ。

 マリアさんはニコニコ笑ってコーラスを担当している。

 アイドル楽曲特有のチープな味わいだけど、それが良い。


「迷宮入って大冒険♪ フロアボスまで頑張るぞっ♪ どこまでも深くどこまでも強く♪ 開けるぞ金箱宝箱、レア装備をゲットする♪」


「『ああ~~♪ あいつはあいつはDチューバー♪ くじけないで死なないで、私を心配させないで~♪ 迷宮は何でも手に入るけど、あなたの気持ちはどこに探しに行けばいいのかな~~♪』」


 ポップでリズミックで、三年前に大ヒットした歌だ。

 ミュージックビデオは迷宮の洞窟ゾーンで撮られていた。

 日本語の曲なのに、マリアさんもよく合わせているなあ。

 耳がいいんだろうね。


「「「「「うおおおっ!! みのり~ん~~~!!!」」」」


 最後にみのりとマリアさんがかっこいいポーズを決めて、スモークがどばっと噴きだし、バーンとギターが鳴って、曲は終わった。


 観客席はみんな立ち上がってノリノリである。

 ああ、なんだか気分が高揚するなあ。

 結構汗をかく。


「さてさて、『マリア&みのり』のマリエンライブも最後の一曲となりました。まだまだ曲が足りなくて、短くてごめんね~! 夏休みにはもっと長いライブを色んな所でしますので、おたのしみに~~!」


 ツアーライブの予告に観客席がどっと沸いた。

 夏休みはみのりは忙しくなりそうだな。

 俺たちはどうしようかな。


『全米ツアーも計画されているわよ、世界のみのりファンも、私のファンも楽しみに待っててね』


 アメリカにも行くのか。

 ちょっとみのりが遠くになって行きそうで、ちょっと寂しい感じもするけど、これはみのりの夢だからなあ。


「それでは、私たちの新曲ですっ、『吟遊詩人バードは地の果てまでも旅をする』ですっ!」

『いきましょーっ!』


 新しい曲か、楽しみだ。





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