第225話 混んで居たので逆に早い

 ポータル石碑に触って二十階まで跳んだ。

 階段の近くまで行って、みんなの装備を出して渡す。

 俺も装備を身にまとい、『暁』と『浦波』を腰に付けると準備完了だ。


「くつした、君に決めた!」


 チアキが格好つけてくつしたを呼んだが、決めるも何も従魔はくつした一匹だからなあ、そういうのはもう少しポケモンが増えてからにしなさい。


「わおんっ」


 ふよふよとどこからかカメラピクシーさんたちが現れた。

 リボンちゃんとサムズアップを交わす。

 今日も頼んだよ。


『お、『Dリンクス』フロアボス攻略か』

『十階分下りるのに時間が掛かるからなあ』

『ついにタカシ因縁のミノタウロス戦か、かーちゃんの力を借りずに倒せるかな?』

『鏡子さんも、泥舟も、みのりんも、ちあきも、くつしたも居るからな、楽勝でしょ』

『せっかくだから、鏡子さんチームと、タカシチームに分けて二回攻略すればお得なのになあ』

『そういう舐めた事するパーティは、すぐ全滅するぜ』

『基本が一番だよ』


 俺もそう思うな。

 何があるか解らないのが迷宮だし。


「さあ、行こうぜっ」


 鏡子ねえさんがガチンと『金時の籠手』を打ち鳴らして宣言した。

 チアキがくつしたの上に乗って階段を下りていった。

 俺はいつものように最後尾だ。

 さあ、三十階を目指そう。


 通路を行く。

 今回は宝箱は無視して最短距離で階段を目指す。


「リザードマン五」


 みのりが静かにリュートを弾き始める。

 俺達はポケットからハイパーミント飴を出して口に入れる。


「『ねーむれ~~よいこよ~~♪ おかあさんのむねのなかで~~♪ ゆめをみよ~~よ~~♪』」


 リザードマンの足取りが乱れ始め、パタパタと倒れていった。

 やっぱり【睡眠】の状態異常に弱いな。


 寝ているリザードマンどもを、鏡子ねえさん、俺、泥舟、くつしたで手分けして殺した。

 ふむ、泥舟の銃剣もよく切れるな。


 リザードマンたちは粒子になって消えて行く。

 魔力霧が発生し、魔石とドロップ品が落ちてきた。


 ドロップ品は、トカゲ皮紳士ベルト、青水晶、楽譜スコア【お休みの歌】、精力抜群トカゲミンSSが出た。


「なにこれ?」

「栄養剤かな」


『結構高い精力剤、買い取り価格五千円、まあまあレア』

『トカゲミンは仕事のデスマーチ時によく飲んだ、結構効く』


 収納袋に入れようかなと思ったら鏡子ねえさんが分捕って蓋を開け、一挙動で飲み干した。


「なんか、精力飲料な味」

「そりゃあ、そうでしょうよ」

「買い取り五千円だと、売店だと一万円の精力剤だね」

「ねえさん大丈夫か?」

「特に問題はない」


 まったく、ねえさんは油断も隙もないな。


 サクサク歩いて、ハイオークとトロールの群れに遭遇した。

 問題なく倒す。


 ドロップ品は、高級オークハム、オーク靴下、トパーズ原石が出た。

 宝石系は結構良い値で売れるので嬉しい。


 魔物にあまり会えずに階段まで歩けた。

 なんか、安全地帯に配信冒険者パーティが多いな。


「今日は【従魔創造の珠】が出ると噂のケロベロス狩りに、我が『ミラクルショット』も参戦したいと思います。現在は二十一階の安全地帯です」


 配信冒険者がカメラピクシーの前で前説をしていた。

 ああ、ケロベロス狙いのパーティが多いのか。


『『ミラクルショット』Cランク配信冒険者パーティだな』

『結構、高位のパーティもいる』


「おっ、現在売り出し中の『Dリンクス』さんがいますね。幼女を乗せているあの灰色のでっかいワンコが従魔化したケロベロスです」


 うむむ、カメラに撮られて落ち着かない、とっとと階段を下りよう。


「今日は人がいっぱいだね、タカシくん」

「ケロベロスブームだね」


 二十二階を行く。

 この階も配信冒険者パーティがうろうろしていて、魔物に会えないな。

 すたすたと通路を行く。

 レグルス陛下の撃ったブレスの焦げ痕も大分薄くなってきたな。


「魔物がでないぞ」

「人が多いからね、二十三階過ぎれば空くと思うよ」


 後ろにも前にも冒険者パーティがいるね。

 こんなのは初めてだ。


 さっくりと下り階段に付いた。

 わあ、配信冒険者パーティが六組もたむろってるぞ。

 高位パーティも多い。


「お、新宮くんだ」


 げ、『ホワイトファング』の田上さんだ。

 柊さんもいるぞ。


「こんにちは」

「へー、それがケロベロスの従魔か」


 田上さんはがしっと、くつしたの首根っこを掴んだ。


「で、幾らで譲ってくれる?」

「噛みつけ、くつした!」

「バウバウバウッ!!」

「ギャー!!」


 チアキの命令でくつしたが田上さんの太ももに噛みついた。


「何やってんだ、田上、すまないね、新宮くん」

「いえ、先に行きますね」

「いたいいたい」


 柊さんが謝って来たので、先に行くことにした。

 彼女は面倒くさそうに田上さんにポーションを掛けていた。

 相変わらずだなあ。


 階段を下りるとワンコ階の二十三階であるが……。

 うっは、人が多いな。

 下の安全地帯でも八パーティぐらい居て混み混みである。

 隅のパーティは安全地帯からはみ出てるんじゃないかな。


「これは休むに休めないね、二十四階まで行って小休止しようか」

「そうだね」

「賛成~~っ」


 休んでいるパーティを縫うようにして通路に出た。

 オルトロス三匹と戦っているパーティがいる。

 くっそ邪魔である。

 しかも、あまり強く無い。

 なかなか終わらないのである。


「すいませーん、『吟遊詩人バード』なんですが、歌って良いですか~」

「み、みのりちゃん、歌って歌って」

「はい、『ゆっくりゆっくりゆっくりなりたまえ~~♪ あせってもしかたがないからのんびりいこうじゃないか~~♪』」


 【スロウバラード】がオルトロス三匹に掛かり、動きがゆっくりになった。

 苦戦していた前衛が元気を取り戻し、押し返し、倒した。


「あ、ありがとう、助かった」

「いえいえ、頑張って下さい~~」


 魔力の霧を吸い込まないように一旦下がって、彼らが吸い込んだ後、脇を通り過ぎた。


『辻バード行為だ』

『名もないモブパーティは儲けたなあ』

『みのりんの生支援、いいなあ』


 しかし、パーティの数が異常だ。

 こんなにすれ違う経験はないぞ。


『【サーバント召喚】お爺ちゃんやっちゃってーっ!!』

『オーケーキャシー』


 ズドドドドドドム!!


『ナイスだキャシー』


 向こうの通りで『ホワッツマイケル』が戦っていた。

 キャシーがこっちに気が付いて手を振ってきたので振り返す。


『タカシは何階~~?』

『三十~~!』

『オー、頑張れ~~!!』


 キャシーに見送られて先を急ぐ。

 というか、一日三回しか使えないお爺ちゃんを雑魚に使って良いのか、キャシー。

 マイケルの声も聞こえたから良いんだろうな。

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