第144話 ヌマヤでチアキの服を買いあさる

「いやあ、可愛いなチアキ、素敵だぞ」

「ぎゃー、チアキちゃん似合う~~、これ買おうこれ買おう」

「……」


 なんだか歳なりの可愛い服を試着させて、鏡子ねえさんとみのりは大喜びだが、当のチアキはなんだか不満そうだ。


「可愛い服は嫌い?」

「服はシンプルで機能的じゃないと……、綺麗な服だと迷宮で的になる……」


 なんだかチアキのセンスはプロっぽかった。


 警察署に届け出をして、今はチアキの服を買いにみんなでヌマヤに来ている。

 ヌマヤは田原屋と並んで川崎の安い物衣料のお店なんだ。


「ここ、初めて来た、馬鹿みたいに安ーい」

「川崎市民ならシマムラよりもヌマヤだ!」


 鏡子ねえさんも個人記憶が無いのに妙な所の記憶は残っているなあ。

 みのりが服を買う店はもっと高級店なのだろうな。


「仕事用の服は迷宮の売店で良いの買ってあげるから、今は普段着と寝間着だね」

「わ、わかった……」


 普段着も寝間着も買って貰った事が無いんだろうなあ。


「服は……、たまに立ちんぼのお姉さんが買ってくれたりするんだけど……、外国の人だから、センスが……」


 解る、俺もかーちゃんに凄い色のセーターとか買われて困った時があったなあ。

 着ないと悲しい顔をされるし、着たら着たで泥舟に吹き出されて困ったものだったよ。


 鏡子ねえさんもみのりもセンスは良いからもの凄く可愛い感じにまとめてくるんだが、チアキの笑顔は引きつっているな。

 いいんだよ、可愛い格好をしても、怒られないから。


「よし、買ったあ買ったあ、今晩はチアキのファッションショーだ」

「賛成賛成~~」

「チアキが引きつってるから、手心を加えてやってくださいよ、ねえさん」

「いいんだいいんだ『Dリンクス』の仲間なんだからっ」

「仲間なんだからっ」


 いかん、二人に任せておくとどこまでも暴走しそうだな。

 というか、峰屋ママも峰屋パパも暴走しそうだ。

 強く生きろ、チアキ。


 支払いでも揉めた、俺が払うのが筋なのに、鏡子ねえさんも、みのりも払いたがってゆずらない。

 しょうが無いのでじゃんけんとなり、鏡子ねえさんが栄光を勝ち取っていった。


「わはは、勝利じゃ」

「くそう、見えないじゃんけんだ」

「ズルをしたわ、ぜったい」

「してないもーん」


 鏡子ねえさんが嬉々としてレジで支払いをするのをチアキは不思議そうな顔で見ていた。


「ど、どうして、お金を払うのに……、取りあうの……?」


 にゃろー、半グレどもめ、チアキの物を買うのに嫌な顔をしていたな。

 ゆるせん。

 サチオ頑張れ。


「チアキー、世の中にはなー、人の喜ぶ顔が好きな奴とー、自分が喜ぶのが好きな奴の二種類がいるんだー」


 ねえさん良い事を言うな。


「人の笑顔が好きな人には、笑顔を見るのが好きな人が集まってくるんだよ、チアキちゃん」


 みのりもとびっきりな善人の表情でそう言った。


「だから、面はゆいけど、気にしなくても良いんだよ」

「そうそう、タカシも人の笑顔好きだよね、僕もそうだし」


 チアキはうつむいてしまった。

 そう考えると『Dリンクス』はそういう奴ばかり集まっているな。

 かーちゃんもそうだし。


 鏡子ねえさんが大荷物になったチアキの買い物を抱えて店の外にでた。


「じゃあ、晩ご飯にしようか」

「どこに行きますか、宮川先生」

「モナリザンでも行こうか、どうだい新宮」

「お、おお、いいですね」

「タカシは知らないですよ、先生。タカシ、イタリア料理だよ」

「そうですか、イタリア良いですね」

「うん、新宮は知らないという顔だ」

「うるさい、東海林」


 ファミレスかな?

 先生が先導して道を歩く。


 車が来ないな、と思ったら、向こうから警官隊に囲まれたサチオがやってきた。

 片手に人相の悪いおじさんを抱えている。


「やあ、タカシ、奇遇だね」

「襲撃は終わったのかい?」

「襲撃だなんて、人聞きが悪いなあ、説得だよ、失敗したけどね」

「どうすんのその人?」

「迷宮に持って行って、サッチャンに説教して貰おうと思って」

「もうしねえ、もう占有とかしませんから、許してくださいっ」

「駄目だよ、サッチャンは僕の上司だからね」

「サッチャンだけは、サッチャンだけは~~」


 おじさんは子供のように泣き出した。


「サチオ!」


 チアキがサチオに声を掛けた。


「チアキ、上手くやってるみたいだね」

「わ、私、頑張るから、幸せになるからっ、し、心配しないでっ」

「うん、良いね。なんだか心がぽかぽかする感じがするよ、新鮮だね。じゃあ、また迷宮で会おうね」

「うんっ!」


 サチオは手を振って、おじさんを引っ張って通りを歩いていった。

 林田さんも包囲網に加わっているな。

 黙礼してくれた。


 このままサチオは地獄門まで練り歩くのだな。

 半グレに対する宣戦布告というか、そんな感じなんだろう。


「占有の人が居なくなるのね、宝箱採り放題かしら!」

「おお、それは良いな」

「ポップ時間が知られてますからね、時間まで近くでうろうろして、取り合いになる感じでしょうか?」

「ポップ時間も変わるんじゃないかな」


 Dスマホを開いて、大魔王迷宮のホームページを見てみた。

 ああ、書いてある書いてある。


「宝箱の出現はランダムな時間になるそうだ。あと、この占有殺しが開始されるのは一ヶ月前から予告されてたっぽい」

「半グレは字を読まないから」

「うま味が無くなると、六階から十階までの治安は良くなるかな」

「そうなると良いね、Dチューバーのレベル上げが楽になるわね」

「初心者が困ってたからね」


 迷宮運営の大掃除が上手くいけばいいけどね。

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