第123話 銘判明、その名は『浦波』

 みんなで乃木先生邸に押し掛けて、東郷先生に亀の飾り物を見せた。


「これは、何という物を……」

「由緒ある物なんですか?」

「『浦波』かあ、京都にあったとは……」


 乃木先生がしみじみと言った。


「こいつは、ユタの術師にして剣士だった、カマド嬢の持っていた手盾だ、そうかそんな所にあったのか」

「お土産物屋とか、行きませんからね」


 美春さんがしみじみと言った。


「カマドさん、偉い人だったんですか?」

「まあ、何とも懐かしい名前よなあ、カマドちゃんにはほんに良くしてもろうてなあ」


 顔をくしゃくしゃにして桔梗おばあさんが言った。


『カマドで女性の名前なんだ、カマドタンジロウかと思った』

『沖縄の女性で良くある名前よ』


 キャシーが横やりを入れたが、俺もそう思っていたのは秘密だ。


「今の陰陽剣法の基礎を作った方だ、幕末に京都に出て来て縁あって陰陽師になったんだ。明るくて綺麗な人で、オヤジの世代には惚れていた奴が多かったそうだよ」

「そうぞ、東郷の先代も、乃木の先代も惚れておって、必死に武具を打っておったわいなあ」


 幕末から明治時期の陰陽師のアイドルな人だったのか。


「手矛の『帚星』と手盾『浦波』で封じた大妖は二つ、『野鎚』と『温石』だな。で『大狐』と戦い亡くなった」


 凄い人だったんだな。


「おっしゃ、起動を試してみようかい、みのりや手伝っとくれ」

「はい、おばあちゃん」


 みのりが桔梗おばあさんの隣に座った。

 彼女にリュートを渡す。


「ぬおー、また退魔武器かあ、さすがはタカシ、良く見つけたっ」

「まあ、『巡行』じゃろうて。まだ残るならばフツノミタマは『キクリヒメノミコト』じゃな」

「ククリ姫ですか」


 わりと有名な感じの神様だな。

 メガテンとかで良く出てくる。


 俺は収納袋から『暁』を取り出した。

 『浦波』は切れた東郷さんによって頭をもがれ四肢を取られ、髭を引き抜かれて手盾の形を取り戻している。

 まあ、塗料は落とせなかったのか表面に『開運招福』と書かれているが。


 これでフツノミタマが残っているなら、『大神降ろし』が起動するはずだが、さて。

 桔梗おばあさんとみのりが声を合わせて『謡』を歌っていた。

 綺麗な声だな。


 シュワッと音がして、表面の塗料にひびが入り、ばらばらと落ちていく。


「「「おおっ!!」」」


 『浦波』は往年の赤銅色の輝きを取り戻した。


 だが、起動を知らせる告知の声は聞こえなかった。

 桔梗おばあさんが琵琶の手を止め、ふうと大きく息を吐いた。


「キクリヒメノミコトはもう天にお帰りになったかのう」

「残念ですねえ」

「真権能は『縁切』で、強力なのだがなあ」


 なんか名前だけでも強そうな権能だね。

 まあ、いらっしゃらないならしかたが無い。

 表権能の[自動防御]だけでも十分美味しい手盾だ。


 ふと、森の方に、快活な表情をした綺麗な女の人がいて、ぺこりと小さく頭を下げて、樹間に消えていった。


 カマドさん、かな?

 『浦波』をよろしくね、って言いに来たかな。

 はい、大事にします。

 ありがとうございます。


『どうしたの、タカシ』

『ん、いや、なんでもない』

『そういえば、なんだお前は、外人!』


 鏡子ねえさんがキャシーに声を掛けた。

 英語できるのか。


『英語話せるのねっ』

『まかせろ、よく知らないが前世は英語やってたようだ』


 ねえさん、前世じゃないから。


『私はキャシー・アイランドよ、よろしくね鏡子』

『どこかで聞いた事があるような名前だ』

『二人目のサーバントスキル持ちだよ、鏡子さん』

『おおっ、タカシと同じなのかっ!』

『そして、『ホワッツマイケル』のメンバーよっ!!』

『敵だ~~~!!』


 やめなさい、ねえさん。

 俺は、キャシーにつかみ掛かろうとしたねえさんを止めた。


『止めるな~~』

『キャシーとは休戦中だから、喧嘩したらだめだよ』

『そうかー』


 なんだか残念そうだな。

 キャシーも腰から折りたたみの槍を出すのをやめなさい。


『折りたたみの槍を持ってるんだ』

『護身用よ』


 細身の槍だが結構長いね。

 強度はどんな物かな。


『槍士か』


「やれやれ、鏡子は血の気が多いのう」

「『ホワッツマイケル』は敵だ」

「昨日も攻めて来たんじゃろ」

「マイケル氏と『盗賊シーフ』のパティさんが攻めてきましたよ」

『パティがタカシの事褒めてたわよ、勘が鋭いって』


 スキルのお陰なんだけどね。


「ここに攻めてはこんだろうな」

「奈良に行ってるようですよ」

「奈良? なんじゃろうか」

「なんであろうなあ」


 退魔鍛冶の先生二人も解らないか。


『でも良いわねえ日本は、伝統が残っているのね』

『アメリカも隠されているが、バチカン系の退魔組織があるぞい』

『西洋はカトリック系が多いな』

『そう、なのっ!!』

『オカルトだからな、隠されておるんじゃ』


 中国とかは道教系なんだろうか。

 各国の退魔組織の情報が欲しいね。


「世界の退魔組織は、大迷宮に対してどういう立場なんですか?」

「立場もなにも、近代前にだいたい妖魔のたぐいは封じて解散した所が多いの」

「バチカンは積極的に迷宮探索しているな」


 各国で色々なのかあ。

 ロシアはどうなんだろうかな。

 ロシア正教の退魔組織なのかな。

 共産主義の影響とかもありそうだなあ。

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