幕間SS:【恋愛感情察知】騒動

「たたたたた、タカシくんが私を、どどど、どう思っているか正直な事が聞きたいのですっ」


 フロアボス突破のお祝いで、今日はお寿司を取って俺の部屋で晩ご飯会となった。

 俺たちは1.5人前、鏡子ねえさんだけ三人前で七人前の大きい奴を頼んだ。

 まあお祝いだからね。


 フロアボス戦とか、権田権八戦とか、貰った賞品チケットで何を交換するかとか、喋る事は尽きないのだ。


 そんな中、俺の隣に座ったみのりが座った目で聞いて来た。


「どうって、いやその」


 何を言っているのだこの子は。


「権田権八さんのスキル【恋愛感情察知】の事、忘れてませんからねえ~~」

「ねえさん、こいつにビール飲ませた?」

「飲ませて無い、ビールは私が独り占め」


 そう言って鏡子ねえさんは缶ビールをぐびぐび飲んだ。


「タカシくんが、私に恋愛感情を向けていると、言ってましたっ」

「言ってたなあ、だが、お前はあんな奴の言葉を信じるのか」

「そ、それは……」

「俺はたしかに最近、みのりの事が気に入ったという感じが無いでも無いのだが、まだまだ微弱な感じでそれは恋とはとても言えないのだ」

「ききき、気に入ってますかっ、そそそ、そうですかっ」


 泥舟がみのりの肩をつついた。


「峰屋さん、タカシは思春期来て無いから」

「あっ」

「ゆっくり詰めて行かないと駄目だよ、怖くなって逃げるからね」

「そ、そうなんですね」


 なんだよ、その俺をお子ちゃま扱いする発言は。

 ふざけんなよっ。

 俺は怒りのあまり、ウニを取って食べた。

 うーん、美味しい。

 お寿司なんて何年ぶりかな。

 しかも、ちゃんとしたお店の上寿司だ。


「なんだか先が長そうですね」

「まあ、惹かれてるのは本当みたいだから、がんばって」

「ふふふふ」


 みのりは幸せそうに笑った。


「最近は、みのりって下の名前で呼んでくれますし」


 そう言ってみのりは俺をちらっちらっと見た。

 もう、あざといなあ。


 そういや、いつの間にか、みのりって呼んでいたな。

 いつからだ?


 ああ、そうか、権八がたわごとを言って溶解液を【絶対命中パーフェクトヒット】で打ち出した時だ。

 あの時は怖かった。

 みのりと泥舟が死んでしまうかと思ったよ。

 おかっぱちゃんと三つ編みちゃんに感謝である。


「やあああ、十一階に行けるなあ、楽しみ楽しみ」


 鏡子ねえさんは缶ビールをガンガン飲んでベロベロである。

 ときどき、みのりが【回復の歌】と【冷静の歌】を歌って正気に戻している。

 『吟遊詩人』バードは色々と便利だな。


「泥舟はレア装備引換券を何にするか決めたか」

「迷い中だよ。槍も良いし、将来を考えると魔術師の杖のレア物も良いし、どうしようかなあ」


 将来の職業ジョブが固まって無いと、せっかくのレア装備が無駄になるかもしれないのが痛いよな。


「京都にはいつ行くんだ、いつ?」

「来週の連休にしよう、金曜日が休みだから三日間行ける」

「ああ、退魔護拳、作ってくれるかなあ、心配だ」


 結局、退魔装備引換券は鏡子ねえさんの護拳を作る事に決まった。

 ねえさんがパワーアップすると『Dリンクス』全体に益があるからね。

 あとのレア装備引換券は一人一枚ずつだ。


「タカシはどうするの? レアバックラー?」

「それが、バックラーのレアは出て無いんだよ。カイトシールドとかタワーシールドのレアは出てるんだけど、大きさが違うとスキルがなあ」

「常設でリボンちゃんを盾にしよう」

「あほう、箝口呪が掛かってる間はカメラピクシーは加勢してくれないよ」

「ざんねんだなあ、バリアがあって凄く楽だったのに」


 後衛にカメラピクシーの盾はすごくシナジー効果を発生させて良かったな。

 いつも使えたら素晴らしいのだが、そんな良い事ばかりは続かないんだな。


 ちなみに鏡子ねえさんに貰った良さげなバックラーは権八に溶かされた。

 今は前に買ったバックラーを出して来た。

 レア効果が付いたバックラーがあれば良かったんだが。


「みのりは何に交換するんだ?」

「装備だけというのが困るのよねえ、レア楽譜スコアと交換できれば良かったんだけど」

楽譜スコアとか、呪文スペルとか、奇跡ミラクルとか、レアスキルとかに交換だと威力が強すぎるからだろうな、その点装備ならもの凄いパワーアップになりにくいからだろう」

「よく考えているのよねえ。リュートはあるし、弓、短剣、うーん」

「【お止まりなさいの歌】で、レア短剣で無双するのはどう?」

「あの歌ねえ、効果が凄いだけあってMPの消費も凄いの、緊急回避ぐらいにしか使えないのよねえ」


 それはそうだよな。

 時間を止める歌が安かったら簡単に無双されてしまう。

 一瞬でも時間を止めて、レア弓矢でシュートとかも可能になるのだが、楽譜スコアとレアスキルの重ね掛けは一人では出来ないからな。

 色々と悩ましいものだ。


「みのりは防具にするべき、なんだかんだ言って、HPと防御力がやっぱ少ないぞ」


 鏡子ねえさんが海老のにぎりを口に放り込みながら言った。


「『吟遊詩人の帽子』とかにしようかなあ、防御力が高いし、楽譜スコアの成功率と威力が上がるし」

「ああ、派手な羽のついた帽子かあ、いいないいな」


 鏡子ねえさんが笑った。

 俺のレア装備引換券はねえさんの防具にしても良いな。

 ねえさんは『Dリンクス』のかなめだし。


「泥舟の槍はまだ陳腐化してないから、二十階のフロアボスの宝箱を見てからにしても良いんじゃ無いか?」

「そうだね、良い物が出れば良いけど、レアスキルとか」


 楽しく語りながら、『Dリンクス』の十階フロアボス突破パーティは続いていく。

 おっと、日付が変わる前にかーちゃんを呼んでお寿司を食べてもらおうか。

 かーちゃんも『Dリンクス』のメンバーだしね。


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