第100話 越谷さんに『宵闇』を返す

 蘇生の珠を手の中で転がす。

 これで一回は死んでも復活できるな。


「タカシ、これ、収納しておいてくれ」

「あ、わたしも~」

「僕も僕も」


 全員の蘇生の珠を預かって収納袋に入れた。

 賞品チケットも入れた。

 この袋を無くしたら大損害だな。

 気を付けなくては。


 フロアボスフィールドには興奮冷めやらない配信冒険者が留まって話をしていた。

 あちこちに半グレの死体がごろごろしている。


 越谷さんと蝉丸さんが近寄って来た。


「越谷さん、『宵闇』ありがとうございました、助かりました」


 俺が『宵闇』差し出すと越谷さんは首を小さく振った。


「こいつはタカシさんが持って居てくだせえ。あなたが持っているべき武器だ」

「いえ、『宵闇』が選んだのは越谷さんですから。たぶんこの剣は便利だからといって一人が持っていてはいけない物なんだと思います」

「しかし、強敵が出た時に……」

「たぶん、二振りが必要な時は勝手に集まる物なんでしょう。越谷さんが持っているべきです」

「タカシさん、あんたって人は、本当に……」


 越谷さんは苦笑して『宵闇』を受け取った。


「わかりやした、あっしが預かっておきます、いつでも必要な時はおっしゃってくだせえ」

「はい、その時はお願いします」


 越谷さんは頭を深く下げた。


「司馬の坊ちゃんのかたきを討って頂いて感謝いたします」

「いえ、そんな」


 やっぱり越谷さんは立派な人だな。


「そう言えば蝉丸さんをパーティに入れたんですか」

「へい、一騎打ちで勝ちやしてね」

「いやあ、完敗でござったよ、それで小太郎さんのパーティに入れてもらったのでござるよ」


 越谷さんと蝉丸さんの一騎打ちは見物だったろうなあ。

 見たかった。

 ライブラリにあるかな。


「所でタカシさん、半グレで顔を覚えている奴はおりやすかい?」

「え?」


 まあ、鼻血デブと足を切った盗賊ぐらいは覚えているが、あいつらはどこかな。

 あ、端っこで鼻血デブが半分になって死んでいるな。

 ちかくに足切り盗賊も倒れてる。

 二人とも死んだのか。


「こいつとこいつですかい?」

「ええ、でも権八に食われて死んだみたいですね」


 越谷さんと蝉丸さんは懐から蘇生の珠を出して鼻血デブと足切り盗賊にぶつけた。


「な、なにを?」

「メンバー勧誘でさあ」

「だからって、そんな」

「この蘇生の珠は悪魔の罠でござるよ、一回死んでも大丈夫って気持ちがあるとパーティは全滅するでござる」

「あっ」


 それはそうなのかもしれない。

 確かに蘇生の珠があると緊張感が薄れる気はする。


「と、俺らは考えてやすけどね」


 鼻血デブと足切り盗賊の体が逆回しのように集まり、蘇生した。


「ひょえええっ、ご、権八さん、ゆるし……、え?」

「ああっ、俺のはらわたが……、あれ?」


 越谷さんはしゃがんで二人の半グレと目線を合わせた。


「おめえらは俺と蝉丸が蘇生させた」

「ほ、本当ですかっ! 権八さんはっ!!」

「タカシ殿が倒して死んだでござるよ」

「タ、タカシ、お前がっ! よ、良くやってくれたっ!!」

「た、助かったのか、俺たちは」

「そういう訳だ、おめえらは俺のパーティに入ってくれや」

「へ、へいっ! よ、よろこんで、兄貴っ!!」

「死んだ気になって働きますっ!! 兄貴っ!!」

「おめえは盗賊だな、いろいろ頑張ってくんな、お前さんは戦士かい?」

「は、はいっ、戦士っす!!」

「そうかいそうかい、戦士は要らねえから僧侶になってくれや」

「え、ええっ!! そ、僧侶っすか、し、信仰心がねえんですがっ」

「どっかの寺に話つけるからよ、修行をがんばりな」

「あ、うわ、その、ががが、がんばるっす、兄貴っ!!」


 越谷さんは立ち上がった、鼻血デブと足切り盗賊が立つまでまってやっていた。


「それじゃ、俺たちはこいつらを仕込みますんで、失礼しやす」

「ありがとうございました、越谷さん」

「こっちのセリフでさあ、それじゃあ」


 頭を下げて、越谷さんと蝉丸さん、そして半グレ二人は去って行く。


「ほほほ、ほんとに蘇生の珠は罠なのかな」

「解らない、だけど、あそこまで俺は思い切れ無いなあ」

「そうだね、でも、パーティで四回しか蘇生できないから、本当にいざという時にしか使えないって考えた方がいいね」

「あー、越谷強いのになあ、欲しかった」

「もう、前衛は要らないって」


 『ホワイトファング』の人達が寄ってきた。

 Bランク配信冒険者パーティだ。


「やあ、タカシ君、俺は『ホワイトファング』リーダー、田上だよろしくね」

「あ、はい、新宮タカシです、よろしくおねがいします」

「いやあ、『暁』は凄い剣だね、ちょっと見せてくれないか」


 ああ、良いですよと言おうと思ったら頭の後ろがチリチリした。

 【危険察知】?


 見ると、隣に立った魔法使いのお姉さんが小さく首を振っていた。


「こいつに渡すと、握ったまま、値段交渉に入られるよ。渡したらだめ」

「おい、邪魔すんじゃねえよ、柊」

「こいつは欲深だからさ、他のパーティが持ってるもんなんでも欲しがるのさ」


 田上は舌打ちをした。


「サッチャンに届くような剣は、Eランクのお前が持っていて良いわけねえよな、黙ってよこせよ」

「嫌ですよ」

「ここで俺らと殺し合う、ってんだな」

「あたしはやらないよ、というか、喧嘩になるならあたしはタカシくんに付くからね」

「てめえっ、柊」


 鏡子ねえさんが前に出て来た。


「タカシ、こいつ、殺す?」

「いや、まだ、交渉中」

「そうか」


 鏡子ねえさんは俺の横に立った。


「わかってねえなタカシ、サッチャンに届くような剣、アメリカとかのSランクパーティがほっとかねえぞ、俺に渡した方が利口だって」

「俺はそうは思わない」

「ちっ!! 俺は欲しい物があったら絶対に手に入れる男だ、首を洗ってまってろ、タカシ」


 踵を返して田上は去って行った。


「タカシくん、気を付けてね、高ランクパーティの人間は結構嫌な奴多いから」

「味方してくれてありがとうございました、柊さん」

「いいんだよ、じゃあね」


 そうか『暁』はSランク配信パーティでも欲しがる武器なんだな。

 しかも、全世界の……。


「は、早く実力を付けないといけないよねえ」

「そうだね、最悪、高レベルパーティは全部敵に回るかもね」

「おもしれーじゃん、ぶっつぶしてやるぜっ」


 もう、鏡子ねえさんは脳筋なんだからなあ。

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