第99話 サッチャンが表彰にくる

 瞬間、世界に戻っていた。

 『暁』は権八の心臓を正確に貫いている。

 彼と目があった。

 柔らかく笑っていた。


 あふれるばかりの光が刀身からあふれ出し、権八の肉体を粉砕した。


 権田権八は死んだ。

 俺が送った。


 『暁』を一振りして残心する。


 [大神降ろし術式を終了す]


 みのりの歌が止まった。

 二振りの剣から大きい存在感が抜け、天に向けて帰っていく。

 ありがとう、二柱の神様。


『『『『『うおおおおおっ』』』』』

「「「「「タカシ!! タカシ!!」」」」


 現実でも、ネット空間でも俺に対する声援が上がった。

 ビヨリンビヨリンと怒濤のようなスパチャの音がする。


「ようやったな、タカシ」


 かーちゃんがにっこり笑ってくれて、それがとても嬉しくて。

 権八にはこんな経験は無かったんだなと思うと奴が不憫に思えた。


「ありがとう、かーちゃん」


 ドオンと吹き上がるようにして紫色の魔力の霧が降って来た。

 わあっとみんなが寄ってくる。


 体がふくれあがる感覚。

 ステータスアプリを見るとレベルが五上がっていた。

 これでレベルが三十台、もうすぐ鏡子ねえさんに追いつきそうだ。


 紫色の魔力の霧の間に真っ黒で嫌な感じの霧が漂っていた。

 半グレや人相の悪い配信冒険者に近づいてはこれは違うというように離れる。


 罪獣の種か?


 真っ黒な霧が急に引き寄せられて、緑色の珠に吸い込まれた。

 サッチャンがいつの間にか立っていて、怪しい珠に黒い霧を全て吸い込ませたようだ。


「はい、みなさーん♡ 大魔王迷宮初の突発大規模レイドは終了いたしましたー♡」


 サッチャンの声は甘ったるくて耳障りだけど良く通る。

 終了の宣言と共に、歓声と拍手が巻き起こった。


『大規模レイド、凄かった、大阪じゃなかったら行ったのに』

『俺札幌、右に同じ』

『博多ばい、地方配信冒険者はつらいたい』


『討伐に参加して下さった皆さんに感謝を♡ あ、そろそろ箝口呪を戻しますね。ワーウルフ君、もどんなさい』

《えー、もうかよっ》

「はやい、はやい」

「うっさいですよ、喋らしてるとすぐなれ合うんですから♡」


 サッチャンがパンパンパンと三つ手を鳴らすと、どうも箝口呪が発動したようだ。

 ワーウルフさんが肩をすくめて三頭の狼と共にフィールド中央に行き眠りについた。

 あ、鏡子ねえさん、一緒になって寝るんじゃありませんよ。

 だれか正気にもどしてやれ。


「『ああ~~あ~~、あたまをすっきりおんどをさげろ~~♪』」


 みのりが【冷静の歌】を歌うと鏡子ねえさんの目の色が元に戻った。

 寝て居るワーウルフの頭をぐりぐりと撫でてから、彼女はこちらに戻って来た。


「戻ったぞ」

「お帰り」

「凄かったね、大規模レイド」

「怖かったよー」


 『Dリンクス』のメンバーが俺の近くに集まる。


「みんな頑張ったな、えらいで~」


 もちろんかーちゃんも仲間だ。


「みんなありがとう」

「なに言ってんだ」

「仲間でしょ、タカシ」

「そーよそーよっ」


「さて、それでは表彰式に移らせて頂きます。栄えあるMVPパーティは、もちろん『Dリンクス』さんですっ♡ 拍手~~♡」


 わあっとフィールドが湧いた。

 なんだか、とても晴れがましいな。


「あ、ありがとうございます」

「罪獣をほとんど一人で平らげてしまいましたね。さすがは神降ろしの剣『暁』です。百階の私にも届きそうですね」

「初見ならそうかもしれませんが。サッチャンさんは実戦だとみのりを狙うでしょ」

「ふっふっふ、解ってますねえ♡ 油断も隙も無いタカシさんが大好きですよ。MVPパーティとなった『Dリンクス』には、レア装備引換券三枚と退魔装備製作券を一枚差し上げます」

「「「「は?」」」」


 さっちゃんは綺麗な封筒を俺に渡してきた。


「レア装備引換券はこれまで発生したレア装備、といっても金ランク装備はまだ出てませんけどね、を何でも一つ売店で交換出来る物です」


『す、すげえ、それを三枚!』

『宝箱ガチャするよりも割が良いぞそれ』

『三枚!! 『Dリンクス』の実力が更に上がるな、すげえぜっ』


 それは凄い、凄いが気になるのは退魔装備引換券の方だ。


「そして今回の目玉の退魔装備引換券ですが、『暁』『宵闇』を製作なされた乃木大作先生に、新しい退魔装備を一つ作って貰える券です」

「た、退魔装備を?」

「はい、神宿りするかどうかは解らないそうです」


 あ、この二本はフツノミタマが宿っているとシステムみたいな物が言ってたな。

 神が宿っている物と宿ってない物があるのか。


「何でも作れますよ、鏡子さんの護拳でも、泥舟くんの槍でも、みのりさんのリュートは無理かな、楽器は無理かもしれませんね」

「な、なんで、そこまで悪魔に不利になる武器を渡して平気なんですか?」

「楽しいからでーす♡」


 ああ、もう、なんか悪魔らしい返事だなあ。


「凄いな、誰の退魔武器を作る?」

「そうだなあ」

「鏡子さん一択だよ、僕はまだ職業ジョブの先が決まって無いし」

「え、悪いぞそれは」

「ああ、そうだなあ、鏡子ねえさんが退魔護拳があればもっと権八を追い詰められたと思う。今回は相性が悪かったのもあるけど、腕に対してねえさんは武器が良く無いね」

「そ、そりゃそうだけど、私はレア武器チケットでもいいぞ、退魔でなくても」


 俺たちが揉めている後ろで、サッチャンは次々にポイント上位者を表彰していった。

 二位は『ホワイトファング』レア装備チケットが二枚。

 三位が『オーバーザレインボー』レア装備チケットが一枚。

 四位がしらないC級パーティだった、賞品は同じくレア装備チケットが一枚。


 十位ぐらいまで、賞品が出た。

 賞金は出なかったが、たぶん配信報酬で来た人間は相当潤うはずだ。

 たぶん、公式でまとめ動画も作られるだろうしね。


「タカシ、時間や、またな」

「あ、かーちゃん、ありがとう」


 権八のママの事を知ると、かーちゃんの偉さが際立ってわかる。

 いつもありがとう、かーちゃん。

 かーちゃんは笑って粒子になって消えていった。


「それでは参加賞として、死んでしまった人は復活です」


 サッチャンが分身して、あちこちで【蘇生リザレクション】を死者の冒険配信者に掛けまくった。

 ああ、これは助かる。


「生き残った方々には、『蘇生の珠』を差し上げます」


 サッチャンが手を上げると、俺たちの手の中に野球ボールぐらいの青い珠が降りてきた。


『げえっ、希少アイテム!! ああ、なんでわいは大阪なんやーっ!!』

『100%の確率で一度だけ蘇生してくれる奴だっ、市販価格一億とか二億とかっ』

『なんという大盤振る舞いなのか! 参加できた奴、ラッキーだなあっ』


 なんだか、大魔王迷宮運営は頭がおかしいよなあ。

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