第95話 その名は罪獣【暴食】

 溶解液の固まりは放物線を描いて正確に峰屋みのりと泥舟の元へと落ちていく。


 パアアンッ!


 正六角形の障壁が溶解液を跳ね返した。

 カメラピクシーのおかっぱちゃんと三つ編みちゃんが溶解液の軌道に交差していた。


「え?」

『『『『『え?』』』』』

「な、なんなんでしゅかっ!! どうちてカメラピクシーが邪魔をするのでしゅあかっ!?」


 戻って来た溶解液を浴びた権田権八が憤慨したように言った。


『カメラピクシーの新しいスキル、【物理反射】と【魔術反射】だ!!』

『だけど、ピクシーは配信冒険者を助けないはずだろう?』


 みのりと泥舟が助かってほっとしたが、だが何故だ。


《大魔王迷宮運営からのお知らせです》

《大魔王迷宮運営からのお知らせです》

《大魔王迷宮運営からのお知らせです》


 カメラピクシーたちが口々にそう言った。


 ビーブビーブ!!


 ここにいる全員のDスマホから耳障りなアラート音が鳴った。

 迷宮内にアナウンスが響き渡る。


『大魔王迷宮運営からのお知らせです。現在、突発大規模レイドが発生いたしました。場所は十階のフロアボスフィールド付近です。これにより、十階では一時的に多人数制限が解除されます。敵は強大な罪獣『暴食』の権田権八、レベル150(現在)です』


 突発大規模レイド!!

 運営が権田権八を敵と認めたのかっ!!


『権田権八に沢山のダメージを与えたパーティには順位賞品、素晴らしい活躍を見せてくれたパーティに敢闘賞、MVPのパーティにはレア武器チケットなどの豪華賞品が用意されています。腕自慢のパーティのあなた、是非十階フロアボスフィールドにお集まりください』


 運営は数で押すつもりか。


『また、迷宮のモンスター、カメラピクシーなどの箝口呪も解除されます。日頃戦っていた魔物達と一緒に迷宮の敵、罪獣権田権八と戦い倒しましょう』

『『『『『は?』』』』』


 箝口呪?


 フィールドの中心に光が集まり始めた。


「ぎゃはは、間に合わなかったようでしゅねっ!! アイドル殺しか、多人数殺しがポップしましたでしゅよっ!!」

『ちがうな』

『これは、フィールドボスの再ポップだ』


 光が集まりワーウルフと三匹の森狼が現れる。

 ワーウルフは、かっと目を開き、天を向き、遠吠えを放った。


《さあ、人間たちよっ! 我と共に、あの巨大な罪獣を倒そうではないかっ!!》


 ワーウルフは権田権八に駈け寄り触手をツメで斬り飛ばした。

 狼も権田権八へと向かう。


『ワーウルフ兄貴が喋ったーっ!!』

『こうしちゃいられねえ、俺は十階にいそぐぜっ!!』

『くそう、参加賞だけでも貰うぞっ!!』

『俺も俺もっ』


 配信の同接数が半分ぐらいにガクッと減った。


「タカシ、今がたたみかけるチャンスや。うちはそろそろ時間やけど、次は最後の一撃にぐらいに呼んでえな」

「わかった、かーちゃん、ありがとう」


 かーちゃんが粒子になって消えて行った。

 よし。


「この場に残っている半グレに告ぐ、俺たち『Dリンクス』は必ず権田権八を始末するっ!! 後で追われる心配は無いっ!! すぐ逃げろ!! 配信冒険者に殺されるか、権田権八の餌になるかだ!! 今すぐ逃げろ!!」


 俺が大声で宣言すると半グレたちは我先にと逃げ出した。

 フィールドに残るのは、俺たちと罪獣化した権田権八だけになった。


 権田権八は顔をゆがめてぶるぶると震えていた。


「ゆるちませんよっ!! 運営が敵になったからといって何だというんでしゅかーっ!! ちになしゃいっ!!」


 そう言うと触手を振り回し、四方八方に溶解液をまき散らした。


 バシュウウンバシュバシュ!!


 溶解液はカメラピクシーたちのバリアではじき返された。


《タカシくん、溶解液は私たちが食い止めるわっ》

「リボンちゃん、こんな声だったのか」

《大好きなタカシくんの為に頑張るからっ》


 そう言ってリボンちゃんはジグザグに飛んだ。


 ああ、なんだか、夢のようだな。


 鏡子ねえさんは【狂化】バーサークしながらガンガン本体を殴っている。

 触手はお団子ちゃんが食い止める。

 ワーウルフが肩を並べて本体を切り刻む。


「うっとおしいでしゅっ!!」

「うるるぁあああああありいっ!!」


 大型の腕が権田権八から生えた。

 鏡子ねえさんを殴ろうとしたが、お団子ちゃんが【物理反射】をして打ち返す。


 俺は前に出て『暁』で切り裂く。

 だが、象のような巨体だ、あまり効いているようには思えない。

 溶解液が無効になったのはでかいが。


 シュドーン!!


 炎の固まりが着弾した。


「タカシ!! 加勢する」

「東海林!!」

「うっひゃー、でっかいんだよー」


 高田くんが手斧を投げる。

 巨体の頂点にある権田権八の頭を打つ、かと思ったがギリギリで触手に阻まれた。


「タカシ師匠! 来たっす」

「支援します」

「おう、俺も来たぜ~」


 『オーバーザレインボー』の連中がポータルドアの所から続々と出て来た。


「みんなきたーっ!」

「後衛は邪魔にならないように、下がって、カメラピクシーの傘の下で支援して!」

「わかったっす、泥舟くんっ!」


 樹里さんは腰から短弓を取り出すと射撃を開始した。

 藍田さんは、仲間達に【プロテクト】を掛けてくれた。


 ポータルドアから、十階の奧から、ぞくぞくと配信冒険者パーティがやってくる。


「みんな、死ぬな、食われると権田権八がパワーアップするっ! 今回の突発レイドはどう考えても配信料が三百万円は入る、死んでも寺院で蘇生可能だっ! 仲間の死体は回収してポータルルームへ移動させてくれ!」

「「「「了解! タカシ!」」」」


 よし、権田権八を追い込むぞ!

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