第94話 権八は峰屋みのりに狙いを付ける

「【オカン乱入】」


 思った通りだ、権田権八から離して召喚すれば【危険察知】は起動しない。

 光の柱からかーちゃんが現れた。


「どうしたタカシ……、な、なんやあれっ!!」

「この前倒した権田が化けた」

「ちょっとまってな、あああ、レベルが上がりまくっとるっ、なんやあのスキルの数はっ!」

「かーちゃん、【鑑定眼】……」

「使えるで~、それほど珍しいスキルでも無いでなっ」


 こっちでは【鑑定眼】は特級レアなのに……。

 異世界格差があるな。


『オカン、【鑑定眼】持ちか~~!!』

『異世界ではわりとあるのか~~!!』

『俺の唯一の利点が……』


「あいつを倒せるかな」

「ぎりぎりやな、倒したいんか、タカシ」

「倒したい」

「そうか、ほな手伝うで、幼体のうちで良かった、あと一時間辺りを食いまくったら手がつけられへんようになっとったで」

「いこう!」


 権田権八はぶくりと膨れまた一回り大きくなった。

 もう、象ぐらいの大きさがある。


「僕は神になるのでしゅ、この世をおちんちんランドに作り替えるのでしゅっ! 邪魔する物はゆるちませんっ!!」

「このホモ野郎っ!!」


 鏡子ねえさんが権田権八に向かって走って行く。


「これだから日本は遅れているのでしゅ、外国ではLGBTは尊重されるのでしゅよおおっ!!」

「ああああああっぃあああるうううううっ!!」


 鏡子ねえさんの目の色が赤くなり、筋肉がぼこりとふくれあがる。

 【狂化】バーサークだ!


 もの凄い速度で触手を打ち返し、本体に肉薄する。


「うざいでしゅっ! この裸メスザルめっ!!」

「うるるあああありいいいいっ!!」


 ガンガン!!

 本体の急所にはレア甲冑がバラバラになってくっついていて、鏡子ねえさんの攻撃を跳ね返す。

 かーちゃんと俺も権田権八に接敵する。

 くっそでかい!

 

 ブンと振るわれた触手をバックラーで打ち落とし、『暁』を振る。

 ジュッと音を立てて触手は切れて飛んだ。


「いたっ!! 痛いでしゅよタカシくんっ!!」


 三本の触手が俺目がけて落ちてくる。

 ビタンビタビタッ!!

 かーちゃんがカバーに入り、丸盾で弾いてくれた。


「いりいいいいいいいぃぃぃぃああるっ!!」


 異言をひしりあげながら、鏡子ねえさんが籠手の一部に手をかけて引っ剥がした。


「あっ、装甲がっ!! ゆるさんでしゅっ!! ちねいっ!!」


 触手から何かの液体が飛び、鏡子ねえさんを襲った。

 バチャリと体に掛かったそれは、ねえさんの蛇皮スーツを溶かし、中の肉体をも焼いた。


「ぎゃああるくううううっ!!」


 鏡子ねえさんは煙を上げて溶かされながら吠え声を上げる。


「あかんっ、『我が女神に願いて、ここに請願せいがんす、わが友の傷を癒やしたまえ』」


 かーちゃんのハイヒールが飛び、鏡子ねえさんの火傷が治っていく。

 【狂化】バーサークの治癒も加算されているようだ。


「おばさんっ、邪魔しるなっ!! でしゅっ!!」


 かーちゃんは触手をメイスで打ち落とす。


「『おおきくおおきくするどくつよく~~♪ あなたのちからはこんなものじゃないわ~~♪ がんばれがんばれちからをいれろ~~♪』」


 峰屋みのりの【威力増幅の歌】に乗って、かーちゃんのメイスが光る。


「いっくでーっ!! 【輝く戦棍】シャイニングメイス!!」


 光の残像を残してかーちゃんの戦技スキルが鏡子ねえさんが装甲を剥ぎ取った場所へと打ち込まれた。


 バギャン!!


 権田権八の巨体の四分の一ほどの肉塊が爆散して飛んだ。


「やったか?」

『『『『『やったか?』』』』』


 巨体の頂点にある権田権八の顔は醜く歪んだ。


「ゆるちません、ゆるしませんよ~~、おばはん~~」


 ブルリと権田権八は伸び上がり、半グレどもを飲み込んだ。


「ぎゃーっ!!」

「権田さん、何をっ!!」

「スキルとステータスと、ヒットポイントをよこしゅのですっ!!」


 凄惨な光景が広がる。

 くそ、追い打ちの攻撃があれば。


「かーちゃん、もう一発!」

「戦技にはクールダウンがあるんや。これは半グレどもが居る限り回復されてまうなっ」


 権田権八の巨体はピタリと止まった。


「うふふふ、タカシく~~ん、面白いスキルを持っていた子がいたでしゅよ。【恋愛感情察知】でしゅって。ホストでしたからねえ、斉藤きゅん」

「それがなんだっ!」


 戦闘中に何を言っている。

 なんだよ【恋愛感情察知】って。


「タカシくん、君は恋をしてましゅね、あはは、だから僕の求愛を断るのでしゅね」

「常識的に考えて、お前の求愛を受けるわけがないだろう!」

「見える、見えましゅ、タカシくんが好きなのは、あのクソビッチバードでしゅねっ!!」


 権田権八はびしりと峰屋みのりを触手で指した。


「なに言ってんだ? おまえ」

「えええええええ、まじまじまじですかっ」

「ど、動揺するな峰屋」


 権田権八はにちゃ~~と笑った。


「生け捕りを頼まれてましゅたが、気が変わりましゅた、あのクソビッチバードをここで殺して、僕はタカシくんの心を手に入れましゅっ!! 死ねいっ!! 【絶対命中パーフェクトヒット】!!」


 そう言うと、権田権八は溶解液の固まりを峰屋みのりに向かって投げつけた。


「あかんっ!!」

『『『『『いかんっ!』』』』』


 溶解液がまっすぐ峰屋みのりに向かって飛ぶ。

 彼女は、ヒットポイントが、少ない。

 即死して、しまう。


 かーちゃんのカバーは間に合わない。

 俺も射線まで走り寄れない。

 鏡子ねえさんは気づいていない、ただ権田権八の懐で暴れている。


 泥舟が峰屋みのりの前に出る。

 だが、奴は槍だ。

 盾が要る。

 あれでは、二人とも死ぬ。


 俺の、大事な人が、二人とも死んでしまうっ。


「みのりっ!! よけろーっ!!!」

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