第82話 泥舟はジョブチェンジをする

 俺たちは四階に上がった。


 階上の安全地帯で『オーバーザレインボー』が盛りあがっていた。


「やあ、新宮っ」

「どうしたんだ、東海林、なにかレア物でも出したか?」

「いや……」

「タカシさんっ、鏡子さんっ、【気配察知】が生えたっす!」

「おー」

「おー」


 それはめでたい。

 浮かれた感じになるのも解るね。


『樹里ちゃんも【盗賊シーフ】街道まっしぐらだな』

『【気配察知】がある【盗賊シーフ】は有能だな』

『そんなに違うのか』

『ああ、不意打ちやバックアタックを食らわなくなるからな、すごいお勧めスキル』

『うちの盗賊生えてねえや、生やさせよう』


 樹里さんと、藍田さん、高田くんがわーいわーいと盛りあがっていた。


「良かったな東海林」

「ああ、正直助かる」

「東海林は【微電撃エレクトロ】持ってるか?」

「いや、無いぞ」

「そうか、出たんだが使うか」

「……、出すなあ、『Dリンクス』」

「まあ、幸運の女神が付いてるっぽい」

「だが、金が……」

「バーターで良いよ、コモン呪文はあれば有るほどいいだろう」

「すまない、新宮」


 俺は東海林に【微電撃エレクトロ】を渡した。

 それほど強い魔法じゃないが、電撃なので対人に使い勝手が良いし、水棲の魔物に特攻がある。

 射程距離は二メートルほどで短いが水や電線で距離を延長する事が出来る。


『【微電撃エレクトロ】はなかなか面白い呪文だぞ』

『雷撃だから乱戦に良いんだよな。魔法使いの自衛用に便利だ』

『『虹超え』の借金が増える増える』


「いつもすまないね、新宮くん」

「良いんだよ、同盟パーティだしね」

「この恩は必ず」


 東海林は律儀だなあ。

 そういう所が信頼感に繋がってるな。


 少し距離を置いて、『Dリンクス』と『オーバーザレインボー』で三階への上がり階段をのぼる。


 広い草原も夕焼け空で、冒険配信者たちが上り階段に向けて移動していくのが見える。


「おお、帰ってきおった」

「はい、爺ちゃん、陣笠出たよ」

「おおっ、ありがとうな、これは良い」


 雲舟師匠は陣笠をかぶって有頂天である。

 なんだか足軽頭みたいな感じになるね。


 霧積はレジャーシートの上で体育座りをしていた。

 師匠達と雑談をしながら『オーバーザレインボー』を待っていたらしい。


「霧積、【剣術】は生えたっすかー?」

「まだだ、おめーのスキルはよ樹里」


 樹里さんは答えずに指でVサインを作った。


「マジかよ、ちっくしょうー」

「まあ、真面目にやってれば、そのうち生えるぞ」

「基本って大事なんだなあ、俺は魔剣振り回していればすぐに生えると思ってた」

「なんでも芸事に近道はないわい」

「そっすね、雲舟師匠」


 霧積も鼻っ柱が折られて大分素直になってきているな。

 師匠が良いからな。


 みんなでぞろぞろと上り階段をあがって二階にのぼった。


「換金、ポーション類は残すかタカシ」

「魔石と装備だけだね、楽譜スコアとかは外の方が買い取りが高いよ」


 巻物スクロールは温存して、峰屋みのりにでも持たせておこう。


 俺たちは買い取りカウンターに並んだ。

 今日は眠そうな女悪魔さんだな。

 おっとりしてそうで、結構好きなタイプの人だ。


 順番が来たので、鏡子ねえさんと俺の鞄から魔石と装備品を出して置いた。


「あ、タカシさんいらっしゃい、わあ、今日も大漁ですねえ~」

「ありがとう、なんか沢山出たんだ」

「まあ、そうでしょうねえ、ええと、魔石がー」


 パパパパと女悪魔のお姉さんは魔石をより分け、装備を確かめた。


「全部で十六万七千二百円になります」


 周りからおおと感嘆の声が上がった。


『五階の短時間狩りでこれは凄いな』

『装備品が意外に馬鹿にならないんだよ』

『おお、今日もDリンクスは大漁ではないか、よきかなよきかな』


 あ、余さんだ。

 なんか久しぶりな感じだけど、昨日は迷宮外でいろいろあったからなあ。

 迷宮内では普通に一日ぶりぐらいだ。


 換金してもらい、現金を貰った。


「まいどありがとうございま~す」


 ロビーのソファーで上がりを山分けにする。


「まずは一人頭三万円、あとで外のポーションとか楽譜スコアとかあるからね、別途計算するよ」

「わあ、泥舟くんExcel使えるんだ、すっごーい」

「たいした事はないよ」


 泥舟が照れた。

 やっぱり泥舟は凄いな。

 俺もパソコン覚えないとなあ。


「じゃあ、神殿でジョブチェンジを試すか」

「そうだね、行こう」

「ワクワクするね」


 俺たちはデモンズ神殿の扉をくぐった。

 厳岩師匠と雲舟師匠も付いて来た。


 扉を越えると静寂な空間になるな。

 インテリアが厨二なんだが、ここは神を祀る場所というのがはっきり解る。

 解るのだが、今日の神父さんは冒涜的な方であった。


「うわ、蛇の髪の毛でクネクネしている」

「ナイスバディじゃのうっ」


 メデューサか? ゴルゴーンかな?


「ゴルゴーンじゃわいのう、姉妹の真ん中じゃ」


 うっ、この女神父さん、俺の思考を。


「読んでどらん読んどらん、良く聞かれるでな、さて、転職診断かえ?」


 泥舟がずいっと前に出た。


「よ、よろしくおねがいしますっ!」

「ほお、可愛い坊よの、おっといけないいけない仕事仕事」


 ゴルゴーンさんは泥舟の体をまさぐった。

 なんというか、エロいなあ。


「ふむ、こんな所じゃわいの」


 空中にパネルが三枚現れた。

 まずはベースの『参入者』ビギナー、そしてそれに続く『戦士』ウォーリア、そして【盗賊シーフ


「魔術師は……」

「ちょいとばかり知性が足りんなあ」

「そうですか……」


 泥舟は伸び上がって『戦士』ウォーリアのパネルを押した。

 まあ、無難だな。

 ある程度『戦士』ウォーリアでコモンスキルを生やして、それから魔術師という手もある。


『泥舟の槍は惜しいからなあ、戦士のコモンスキルの【頑強】とか【体力増強】とかを取ってからでも遅くない』

『魔槍士狙いか、あれもかなり知性要るから、戦士をある程度やって、魔術師をやる感じだな』

『複合職は手間がかかんなあ』


 鏡子ねえさんの時のように、腹に響く太鼓の音がドーンドーンと鳴り炎の中から戦神ドグルド様が現れた。


『異世界の嬰児みどりごよ、お前は修練に耐え、ここに戦う者として参入の資格を得た、今、ここに基本職『戦士』ウォーリアの位を授け、その力を引き上げてやろう、喜べ』

「はいっ」


 神様の威圧感に我々は自然とひざまずき、頭を床に付けていた。

 ゴルゴーンさんだけがドグルド様を見上げている。


『それでは戦の地平をどこまでも進め、お前の進路に栄光が待っている事を願う』

「はいっ」


 ドグルド閣下はやさしく泥舟の上に手をかざすと炎が生まれ、泥舟に吸い込まれた。


『では、修練を続けよ、槍使いよ』

「はいっ!!」


 ぱあっと光輝きドグルド閣下は消えた。


「私の神様と一緒だ」

「戦士系ツリーの担当はドグルド閣下だよ」


 俺の時もかの神様だったな。


「ああ、神を目の当たりにできるとはのう」

「ショーアップされておるからな、信仰心うなぎ登りじゃわいよ」


 師匠達が声を震わせてそう言った。

 確かに神の実在を見せつけて、さらに奇跡があるとなると、求心力は既成の宗教どころの騒ぎじゃ無いね。


「ワシも『戦士』ウォーリアを目指し、『槍士スピアマン』となろうぞっ!」

「ほほ、雲舟も燃えおったか」

「これ以上厳岩や泥舟に遅れを取る訳にもいかぬしな」

「よいよい、二人で霧積を連れて狩りにでも行こうかい」

「そうだな、行こう」


 霧積、がんばれな。


『人間国宝級の爺さんが燃え上がった~~』

『雲舟師匠って、あれだろ、日本の槍道協会のトップな感じの』

『爺婆が迷宮くると若返るからなあ、ほんに福祉にやさしいダンジョンやで』


 泥舟が立ち上がりこっちに来た。


「やったな泥舟」

「おめでとう泥舟くん」

「よしよし、これで第一歩だな」

「ありがとうみんな」


 泥舟ははにかんで笑った。

 良い笑顔だった。

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