第30話 峰屋みのりを送って行く

 みんなが食べおわったので食後のコーヒーを飲んだ。

 ほろ苦い。

 良い香りでしゃっきりするな。


「さて、行こうか」

「美味しかった」

「みんなで食べると楽しいね」

「ああ、楽しいな」


 みんなで食べると食事が華やかで楽しいな。

 ずいぶん久しぶりだな。


 会計は割り勘で泥舟がやってくれた。

 配信冒険者割引は10%だった。

 結構お得だな。


 俺は財布のマジックテープをバリバリと外して、お金を出して席を立った。

 峰屋みのりが近寄って俺の袖を取った。


「今日はありがとうねタカシくん」

「きにするな」

「これからも一緒にパーティでいいのね」


 峰屋みのりはいつの間にか恒常的にパーティに居着いてしまったな。

 こういう所は上手いな。


「ああ、『吟遊詩人』バードが居ると心強いからな。これからも頼む」

「わっ、ありがとうっ!! 嬉しいよっ」


 峰屋みのりはワーイと両手を上げた。

 動きが洗練されてあざといな。


 泥舟がレジから戻って来た。


「ありがとう泥舟」

「タカシ、バリバリ開くお財布はやめなよ」

「あ、私もそう思った」

「えー、なんでだ」

「バリバリが許されるのは中学生までだ、新宮」

「そうなのか」


 知らなかった。

 財布も買い換えないといけないのか。


 皆で大師線に乗り込んで我が街まで帰る。

 ああ、今日はみんなと狩りができて楽しかったな。

 峰屋みのりと東海林の色々な顔が見えた。

 二人とも第一印象と違って、意外に良い奴だな。

 あまり偏見の目で人を見てはいけないという事だ。


 駅に着いた、夕方だから少し混んでるな。


 ん?

 なんか【気配感知】に引っかかった。

 視線を固定しないで後ろの方を見た。


 荒れた雰囲気の冒険配信者がいるな。

 三人……。


 あっ、りっちょんの時に声を掛けてきたレイパーどもだ。

 ふむ……。

 警官を呼ぶか?

 いや、まだ何をした訳ではないから駄目か。


「峰屋、もう暗いから送っていく」

「え、あ、ひゃあっ、嬉しいよタカシくんっ」

「最近物騒だからな」

「あ、そうねえ、Dチューバー犯罪とか多いわね」


 Dチューバーはレベルが上がるとオークも倒せるようになる。

 そして少し稼げるようになると、ふと気が付く。

 こんなに大変な思いをして魔物を狩らなくても、外界にはもっと弱くて、もっと儲かる獲物が沢山いるじゃないかって。

 そしてダンジョンで鍛えたパラメータとスキルを使って、一般市民を相手に犯罪を始めるDチューバーが絶えない。

 警察もDチューバーを養成して対処できるようにしてはいるがいたちごっこだ。


 峰屋みのりを先頭にして市街地を歩く。

 ここらへんにはお屋敷が多いな。

 だんだん人通りが少なくなってくる。


 峰屋みのりのリュート狙いか?

 ブラックカード?

 身柄をさらって身代金か?

 史上二番目の『吟遊詩人』バードだ、外国に売り飛ばされる可能性だってある。


 先の配信で峰屋みのりが金持ちの娘だとばれてしまった。

 やばいな。


「つけられてる? タカシ」

「ああ」

「三人だな、どうする?」

「峰屋をまず家に帰す、その後三人で倒そう」

「いけるか?」

「五階オークぐらいの脅威度だ。職業ジョブは戦士二人、盗賊一人」

「そんなに読めるのか、タカシ」

「色々と見てきたからな」


 【鑑定眼】はレアスキルなので生えては来ない。

 これは普通の勘だ。


 峰屋みのりの家は豪邸だった。


「すごいね、これは」

「ガードマンとか居るんじゃないか?」

「沢山いそうだ」


 というか、だったら車で移動しろよ御令嬢は。

 運が良いからそういう所が麻痺してるんだろうなあ。


「タカシくん、ありがとうっ!! 今、お父さんとお母さん呼んで来るからっ」

「え、いいよ」


 というか中に入って安全になれよ。


「待ってて待ってて」


 峰屋みのりはデデデとお屋敷の中に入っていった。


「あれだよねえ、悪気は無いんだよね、あの押しつけがましい行動」

「峰屋さんはなあ、天然にあざとい真似をして、男心をかき乱すんだ」

「外側が綺麗なんで騙されたが、中身は結構ポンコツだな」

「純粋と言い給えよっ!! 童女のように純粋なのだ」


 ちらちらと後ろを見てみる。

 まだ三人組はいるな。

 電柱の影で談笑している風に装っている。


 大きなドアが開いて、善良そうな男性とやさしそうな女性が現れた。

 ごごごと電動で大きな門が開いた。


「いやあ、タカシくんタカシくんよく来たよく来た、さっきまで生配信を見ていたよっ、みのりを『吟遊詩人』バードにしてくれてありがとうっ」

楽譜スコアの事、すごいわタカシさん、何千万も節約できたわ、本当にありがとう、浩三さんと一緒に抱き合って歓声をあげてしまったわよ」


 峰屋みのりのご両親は満面の笑顔で俺に抱きついて来た。


「勝手に買い付けて申し訳ありません」

「何を言うのかねー、タカシくんのお陰でみのりは『吟遊詩人』バードに転職できたんだ、感謝してもしきれないよっ!」

「タカシさんの『オカンが来た』も見せて貰ったわ、もー、本当すばらしくて、家族みんなでファンになってしまったのよ」


 うん、これは、峰屋みのりの家族だな。

 すんごい好意でぐいぐい来る。


「食事は済んだかね、ああ、泥舟くんと東海林君も、今日はありがとうねっ」

「まあ、泥舟くんたら、生で見るとますます足軽ねっ、素敵よっ」

「あ、ありがとうございます」

「ど、ども」

「もう、お母さんも、お父さんも落ち着いてよ、もう駅前でご飯を食べてきたのよ」

「そうかー、残念だなあ」

「今度三人で家にいらして、色々聞かせてくださいね」

「これからもみのりを頼むよ、タカシくんなら安心だ」

「本当にまあ、何と言う良縁なのかしらねっ」

「もう、二人とも、帰って帰って」

「だってみのり」

「まあ、タカシくんを独り占めしたいのね、お母さん解るわ」


 峰屋みのりは両親を門の向こうに押し込んだ。


「ご、ごめんねタカシくん、私、うちに男の子を連れてきたのが初めてで、お父さんもおかあさんもテンパっちゃって」

「良い、お父さんとお母さんだね」

「うふふ、そうでしょ。じゃあ、また明日、学校でね」

「ああ、気を付けてな」


 峰屋みのりは家に帰っていった。

 俺はお父さんを手招いた。


「何かね? タカシくん、密談かね」

「電柱の向こうにDチューバーが三人居ます、みのりさんを狙って尾行してきたみたいです、この家にガードマンはいますか」


 お父さんはキリッと表情を引き締めた。


「セコムから三人警備員がいるが、抜かれると思うかね?」

「わかりません、五階から十階を根城にしているレイパーなので、たぶんレベルは十五から二十ですが、一人が盗賊です。塀を飛び越されるおそれがあります」

「解った、警察に連絡する。やはり『吟遊詩人』バードに転職したせいかな?」

「史上二番目の『吟遊詩人』バードです、無謀な行動をする価値は十分にあります」

「タカシ君」


 お父さんは目をうるうるさせた。


「君は格好いいなあ、どうだい、家の子にならないかね」

「あはは、考えておきますよ」

「もう、格好いいなあ」


 お父さんは門から離れて行った。


「どうする」

「話しかけて脅威度を測る、多分戦闘になる、東海林は大丈夫か?」

「三対三か、ここから魔法で狙撃できるなら簡単だが」


 外界で先手で魔法をぶっ放すのはまずい。

 無法地帯の迷宮の中では無いのだ。


「僕は低レベルだ、油断するだろうから、盗賊の足を突いて動きを止める、東海林君はそいつを仕留めて」


 泥舟がキリッとした顔でそう言った。

 腹が据わった泥舟は頼りになる。


「最悪、かーちゃんを呼ぶ、いいな」

「わかった」

「やろう」


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