第26話 豪運少女(ラッキーガール)

『史上二番目の『吟遊詩人』バード、キターッ!!』

『みのりんっ『吟遊詩人』バード爆誕~~!!』

『すげえぜ、なんでだ、必要パラメーターは幾つよ』

『数値は解らねえが、たぶん魅力値が最重要、サブで知性値、器用度って所か』

『魅力値……、あっ、コモンスキルの【魅惑】で下駄が履かされたのかっ!!』

『それだーっ!!』


 大騒ぎのコメントが怒濤のように流れて行く。

 峰屋みのりが『吟遊詩人』バードの転職を引いた。

 そして、間髪を入れずに転職をした。


 タタターーン。

 どこからか透明な弦楽器のメロディが聞こえてきて、真っ白な雲が天井にもくもくと広がり、中から巨大な美しい女の顔が現れた。


『異世界の嬰児みどりごよ、魔術を知らぬ世界の子よ、あなたは『吟遊詩人』バードの転職条件を満たした。よってここに新たなる職業ジョブを授け、その力を引き上げよう』


 あまりに神々しいお姿に我々は自然と床に膝を付けて頭を下げていた。

 山羊頭さんだけが普通にしている。


『転職中継だーーっ!』

『あ、みたことない女神様っ』

『吟遊詩人』バードの守護神かーっ!!』

『ええと、芸事の守護神メルリカさまかな、お美しい』


 カメラピクシーたちもハイテンションで飛び回り、あちこちを激写している。


 峰屋みのりも土下座をしている。


「ははぁ~~」


『鳥のように歌い踊り遊べ、その調べで友を癒やし、活力を与え、敵を弱らせよ。ミネヤミノリよ、お前の行く末に幸有らんことを願う。世界の果てまでも旅をし英雄を語り継げ』


「ががが、がんばりますっ!」


 女神さまは満足そうにうなずくとにっこりと微笑んだ。

 峰屋みのりに光が注ぎ込まれてあふれた力がキラキラとこぼれ落ち、床に跳ねて消えた。


「あ、体、膨らむ膨らむ」


 レベルアップの時と同じか。

 あれは不思議だよな、体は別に膨らんでないんだけど、膨らんだ感があるんだ。


 光が天に去って行き、雲がだんだんと薄れて女神さまのお顔は消えた。


「や、おめでとう、君は『吟遊詩人』バードに転職した、がんばってくれ」


 峰屋みのりはすっくりと立った。

 うわ、さっきよりずいぶん綺麗に見える。

 峰屋みのりMark2マークツーという感じだ。


「ありがとーっ!! 山羊さんーーっ!!」

「ワシはバフォメットな」

「バフォメットさんっ!! ありがとーっ!!」


 バフォメットさんは目を細めてニコニコと笑った。

 というか、意外に有名悪魔さんだった。


『有名なサバトの悪魔じゃん、なんで神父さんやってん?』

『悪魔の中で信仰値が高い奴が交代で神父役をやっとるのじゃ』

『人間の僧侶でよくね?』

『この世界の人間の僧侶のレベルでは蘇生もままならんし、職替えの儀式もできんわい』

『悪魔も大変だな』


 峰屋みのりがこちらに振り返った。


「や、やったよ、みんな、『吟遊詩人』バードに転職できたーっ!」

「やっぱり青い羽根が転職アイテムだったんだ!」

「峰屋さん、すごいよ、史上二番目の『吟遊詩人』バードだよ!」

「やったなあ」

「みのりねえちゃんすげえっ!!」

「さっきより綺麗だ!!」


 みんなに褒め讃えられて、峰屋みのりは頬を赤らめてとても嬉しそうだ。

 見ているこっちもなんだか嬉しく……。


 あっ!


「峰屋、こっちにこい!」

「え、ちょ、どこ行くのタカシくん!!」

「売店」

「な、なんで?」

「いいから来いっ!!」


『『『『『あっ!! タカシ鋭いっ!!』』』』』

『俺もこうしちゃいられねえっ』

『乗るしかねえ、このビックウエーブに』

『え、何々? なんで売店?』

『リュートでも買うのか?』


 俺はデモンズ神殿を飛び出しフロアを横切って売店に飛びこんだ。


「いらっしゃいませー、あら、タカシさん」

「お姉さん、売店にある楽譜スコア全部ください、あと、『吟遊詩人』バード用レアスキルオーブはありますか?」

「あらあら、『吟遊詩人』バードさんがやっと誕生なんですね。ありますよ、ありますよ、コモン楽譜スコアは全種類。レア楽譜スコアは残念ながら一種類【スロウバラード】だけです。『吟遊詩人』バード用レアスキルオーブは【透き通る歌声】がございます」

「全部押さえて、支払いは……」


 くそ、少なくとも数千万クラスの売買になるな。

 お姉さんは端末をタッチして、品物を押さえてくれた。

 ふう、一安心だ。


「もう、なんなのよう、呪歌を使う楽譜スコアは後でもいいじゃない、余韻に浸らせて……」

「あー!! そうか、新宮、お前は偉いっ!!」

「ん? どゆこと?」

「今、『吟遊詩人』バードの転職条件が全世界に向けて配信されたんだよ、しかもタカシは今注目の的のDチューバーだ、それは解るね峰屋さん」

「う、うん」

「どうして、迷宮の売店にこんなにも楽譜スコアがあるかと言うと、だれも使わなかったから売られて換金されて在庫になっていたんだ」

「あっ!! みんなが、『吟遊詩人』バードに転職出来るとなると、売り切れる?」

「そうだ、Dアイドル垂涎の的の職業ジョブだよ、楽譜スコアなんかマッハで売り切れる、そして外界でめっちゃ値上がりして、駆け出し『吟遊詩人』バードでは、絶対に手が届かない値段になる」


 東海林の説明は解りやすいな。


「そうかーっ!! ありがとうタカシくんっ!!」

「いや、レアスキルオーブまであってラッキーだった」

「いつもはもう少しあるんですけど、アラブの方で『吟遊詩人』バードスキルオーブを歌手に覚えさせる遊びが流行ってまして、一個しかありませんでした」

「それは惜しいけど、一個だけでも助かる」


 さて、支払いはどうしようか。

 下界に出て俺の口座から下ろしてくるかな。

 昨日は一千万入っていたが、今日の支払いはもう在ったのかな?

 公式まとめ動画のロイヤリティとかも入ってくるはずだが。


 最優先は、レアスキルオーブ、レア楽譜スコアの順だ。

 コモン楽譜スコアは最悪無くてもいい。

 あれば便利だけど、入手難易度が低いから頑張ればなんとか。


「あ、じゃあ、あそこのリュートも下さい」

「はい、呪歌効果がとっても上がる魔法の品ですよ、二千五百万円になります」

「おおっ? お金たりるかな、はい、これで」


 峰屋みのりがお姉さんに差し出したのは、限度額一億円のブラックカードだった。

 そうか、こいつの実家は大富豪だった。

 貧乏人の俺が心配することは無かった。


 お姉さんに精算して貰ったところ、迷宮売店の定価なので思ったよりも安くすんだ。

 まあ、それでも四千万とか行ってたけどね。

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