第25話 デモンズ神殿に行く

 小学生二人組を伴って階段を上がって行く。


「階段の途中で風景が変わるのが不思議よねえ」

「魔法だからね、峰屋さん」

「タカシ先生っ、最初の装備は何がいいですか?」

「槍か片手剣と盾だな」

「「やり~?」」


 小学生は不満げだが槍は扱いやすくて強い武器だ。

 泥舟だって使っている。

 

 三階の草原をみんなで横切っていく。

 空が赤くなって、みんな帰り支度だな。

 なんとなく切ない気分になる。


「この階で土日に爺さん冒険者が子供向けの剣術講座をやってるよ、俺も爺さんの弟子だよ」

「え、幾らぐらいですか?」

「無料だったよ」

「無料!」

「行ってみるかコウちゃん」

「そうだねっ」


『子供チューバーの配信は可愛くて良いんだけど、やられたときに辛いんだよな』

『わかる~~、思わず助けに行ったりしちゃう』

『基本装備とか、最低限の武器の取り扱いとかを覚えてから冒険してほしい』

『爺さん冒険者? ああ、厳岩師匠かあ。俺も弟子』


 うん、手首にコメントが流れてくるのは変な感じだったけど、慣れるといいな。


 三階の上り階段まで到着した。

 ここを登れば子供達の今日の冒険は終わりだな。


 階段を上りきると小学生二人はみるからにほっとしている。

 二階はもうほとんど地上だしね。


 さらに近くの階段を上がると迷宮ロビーだ。


「タカシさん、どうもありがとうございましたっ」

「講習受けてから再挑戦しますっ」

「ん、気を付けてな。一緒に換金しに行くかい」

「「はいっ!!」」


 俺たちは換金カウンターに並んだ。

 今日はあまり混んでなかったので、すぐ順番が来た。

 担当は眠そうな女悪魔さんだった。


「あ、タカシさんこんちゃー、換金ですね、ここに換金したい品物を出して下さい」

「先にやりなよ」

「はい、ちょっとですけど」

「これです」


 小学生二人はスライムと角兎の物らしい魔石をお皿に入れた。


「千三百五十円です。まいどあり~」

「わっ、やったあっ」

「帰りマック寄って帰ろうぜっ」


 次に、泥舟と峰屋みのりが狩った魔石を置いた。

 ドロップアイテムの角兎の角も一緒に乗せた。


「二千四百五十円です、まいどあり~」


 現金がお皿にのって出て来た。


「えとえと、どうするもの?」

「パーティで山分けですよ、峰屋さん」

「良いの? タカシ君が多く取るとか無いの?」

「無いよ、不公平を作ると喧嘩の元だから」

「僕は陣笠を貰ったから良いかな」

「装備品とも相殺するんだよ」

「ちょっと面倒臭いわね」


 わりと報酬の分割で揉めて解散するパーティは多いらしい。

 よくロビーで殴り合いの喧嘩をしているのを見る事がある。


「本来は五等分して、パーティの積立金にして、必要経費を払ったりするね」

「そうしようっ、タカシくんパーティのお金も必要よっ」

「よせやい、まだ良いだろ」

「だめよ、最初からきちんとしとかないとっ」


 うむむ、峰屋みのりは口うるさいな。

 俺はずっとソロだったからそういうのに慣れてないんだ。

 学校の部活もやってなかったしな。


「泥舟、管理頼めるか?」

「うん、タカシはそういうの苦手だもんね、まかせておいてっ」


 泥舟はにこやかに答えた。

 出来る幼なじみを持つと助かるな。


「ねえねえ、タカシくん、わたしデモンズ寺院の中を見てみたい」

「え、まだ転職とかはできないぞ?」

「将来『吟遊詩人』バードに転職するときにどうするか見たいの」


 そう言って峰屋みのりは青い羽根を触ってくふふと笑った。

 そいつはダストアイテムだと思うんだけどな。


 この迷宮には何に使うか解らない物がドロップする事がある。

 なんか綺麗な青い珠とか、四角い黒いキューブとか。

 その手のガラクタはダストアイテムと言われて、正体が解らない限り、買い取りカウンターでも買い取ってくれないのだ。


「僕らも行っていいですかっ」

「デモンズ神殿行きたいです」


『フラグにしか聞こえない』

『縁起が悪いぞコウちゃん』


 まあ、そう言ってやるなリスナーよ。

 小学生は自分が死んで神殿に運ばれるとか考え無いのだ。


 ロビーの東の方にデモンズ神殿がある。

 重々しい厨二っぽいドアを通ると、真っ黒な石で出来た礼拝堂があって、奧に邪悪な感じの大悪魔の像が飾ってあった。

 今日の担当神父さんは山羊頭さんだった。

 山羊の頭で、額に赤い目があって我々をぎょろりと睨んだ。

 小学生と峰屋みのりは、びくりと身をすくませた。


「いらっしゃい、蘇生かい?」


 姿はおっかないが、山羊頭さんは意外と柔らかくて優しい声だ。


「いや、転職をどうするか、初心者が見たいって言ってたので来ました」

「そうかそうか、おや、君はタカシだね、有名人だ、ははは、得をした」

「ありがとうございます」


 ロビーの高位の悪魔さんたちに逆らっても良い事は無いのでフレンドリーに対応するのが一番なのだ。


「どれどれ、ええと、誰からかね」


 峰屋みのりが泥舟を後ろからぐいぐい押した。

 最初は怖いらしい。


「あ、では僕から」

「じゃあ近寄って」


 山羊頭さんは泥舟の体を六本の手でぺたぺた触った。


「まだ転職条件はクリアしていないねえ、【戦士】ウォリアーになるなら力がちょっと足りないかんじだね」

「そうですか……」


 泥舟はがっかりした声をだしたが、まあレベル1だしな。

 すぐに転職出来る恵まれたパラメータの持ち主もいるらしいが、だいたいみんな10レベルぐらいは無いと『参入者』ビギナーからジョブ持ちにはなれない。


「お、おねがいしまーす」

「やあ、かわいいねえ君、食べちゃいたいぐらいだよ」

「ひいいっ」

「冗談冗談、はははは」


 山羊頭さんは峰屋みのりの体を六本の手でペタペタ触った。

 セクハラっぽいが、異人種だからセーフかな。


「うん、君、魅力が高いね、すごいね、『吟遊詩人』バードに転職できるよ」


 山羊頭さんがそういうと、峰屋みのりの前に『吟遊詩人』バードに転職可能と書かれたウインドウが広がった。


「なりますっ!」


 峰屋みのりは即答でウインドウの『はい』ボタンを押した。

 はい?


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