第13話 叔父夫婦の世界

 今日の授業が全部終わった。

 さあ、迷宮の時間だ。


「新宮くんっ、今日の放課後っ」


 峰屋みのりは諦めないな。


「今日は親友が迷宮デビューするから付き添いで行くんだ、ファミレスはまた後でね」

「わ、私も迷宮、行くっ! 連れて行ってっ!」

「はあ? あぶないよ峰屋さん」

「そろそろそろそろパパもママも迷宮には行っておいた方が良いって、いろいろ良い影響があるからお金を出して装備を調えて先生つけてあげるから行きなさいって」


 峰屋みのりは切羽詰まった表情だ。


「だけどっ、私は新宮くんに先生になって欲しいっ!!」


 東海林三太郎が立ち上がった。


「そういう事なら僕が峰屋さんをエスコートしようではないか、ふふふ」

「東海林君はレアスキル持って無いからやだっ!」

「ぐぬぬっ」


 峰屋みのりはぐいぐい来るなあ。

 さりげなくボディタッチも挟み、可愛らしいポーズで、こちらの目をじっとみる。


「迷宮の装備を調えてから来てよ、そうしたら付き合うから」

「ほんとうっ! あっ、親友君は装備をもう調えたのかな?」

「まだ、職業ジョブの希望とか聞いてないし」

「ふん、最初はみんな『参入者』ビギナーからだから、基本防具で良いのでは無いか? 僕はもう『魔術師』ウイザードだから基本防具のほとんどが無駄になってしまったけれどね」

「東海林君『魔術師』ウイザードやってるのか、凄いなあ」

「まだまだレアスキル魔法を取れてないから、コモン魔法しか使えないけれどね。新宮は『戦士』ウォーリアだな、この方面で伸ばしていくのかい?」

「出来たら『剣士』か、かーちゃんと一緒の『僧兵』も良いかと思ってるよ。『僧兵』はなんか、『聖騎士』の前段階なんだって」

「そうなのか! 『聖騎士』は格好いいな」


 東海林とはあまり喋った事がなかったが、同じDチューバーだけあって、話しやすいな。


「もー、Dチューバーどうしで難しい話しないで!! じゃあさ、その親友君の装備の買い出しと迷宮デビューに付き合ってもいいかなっ」

「ま、まあいいけど」

「ふん、この俺も忙しいが、付き合ってやろう、峰屋さんの護衛だ」

「わあああっ、東海林君ありがとーっ!」


 峰屋みのりの敵対グループの女子が冷たい目をこちらにそそいでいた。


「あーあ、タカシがみのりにロックオンされたな」

「みのりの尊敬する人って知ってる? 『サッチャン』だってさ」

「あー、似てる~~、受ける~~」


 ああ、確かに動きを参考にしてる感じがあるな。

 女子は女子の事を良く見てるな。


 結局、峰屋と東海林を連れていかなければならないのか。

 まったく困ったな。


 と、思ったら、俺のDスマホが振動した。

 おばさんから通話だ。


「はい、タカシだけど」

『あ、タカシ君、お話があるから今日はすぐ家に帰ってきてちょうだい』


 ん? なんだろう。


「ん、なんだ、用事か?」

「そうみたいだ、迷宮入りは明日かな」

「ざんねん~~、でも絶対に誘ってね」


 よし、峰屋と東海林が離れていった。

 一度家に帰って、おばさんの用事を済ませてから、迷宮に行くかな。

 あとで泥舟にも連絡しとかないと。


 叔父の家は高校からわりと近い。

 徒歩での登校が可能なのがありがたいね。


 家に帰ると、おばさんとおじさんがリビングに居た。

 みどりも台所のテーブルに座っている。

 なんだよ?


「タカシちゃん、今日一緒に銀行に行くわよ」

「なんでまた」


 おばさんは俺の通帳と判子をテーブルに出した。


「Dチューバーって儲かるのね、一日で一千万近く入っているわ。で、おばさんお金をおろして、うちの口座に付け替えようとしたんだけれど、大金の場合は本人確認が要るらしくて、ほんとに無駄足をくっちゃったわ」


 うわ、配信料ってそんなに入るのか。


「普通に嫌だけど、どうして?」


 叔父夫婦は大変なショックを受けたみたいな顔をした。


「ちょと! 何言ってるの、ダンジョンで稼いだお金は全部こっちによこす約束でしょっ!」

「そんな約束した覚えは無いけど」

「なあタカシ、おじさんの会社な、今ちょっと苦しくてな、ボーナスが少なくなったんだよ、悪いんだが融通してくれないか、たのむよ、家族だろ」


 よしおおじさんは製薬会社に勤めている。

 昔は勝ち組だったんだけど、迷宮産のポーションやエリクサーが出たせいでもの凄い不況になっているそうだ。


「や、約束は守りなさいようっ!!」

「……、たしか、狩りの売り上げが少ないから、俺にはご飯が出せなくなったんだよね」

「そ、そうよ、高校のお金とか、税金とか、全部うちが持ってあげていたのよ、少しぐらい助けなさいよっ!」

「ああ、ご飯の事はごめん、俺は知らなかったんだ、今日からちゃんと出すよ、みんなで食卓を囲もう。旅行とか、おでかけとかもさ、みんなで一緒に行こうよ、なっ」

「あなたっ、あなたが言ったんじゃないっ! あんな穀潰しに飯をださなくていいって!!」

「ばっ、言葉の綾って奴だろうっ!! 今言うなっ!!」

「お、おばさんが悪かったわ、タカシちゃん、だからご機嫌を直してちょうだいっ、ほら、みどりからも頼みなさいよ」

「えー、タカシ居ないほうがいいじゃんよ」

「みどり、なんて事を言うんだっ!!」


 なんだか、リビングが混乱の渦に巻き込まれているな。

 はあ。

 俺はなんだか面倒臭くなったので、かーちゃんに任せることにした。


「【オカン乱入】」


 虚空から光の柱が下りてきて、中からかーちゃんが現れた。

 というか、どうでも良い事に呼んでごめんな。


「お? おおっ、よしお、久しぶりやなあっ、お前がタカシの面倒みてくれてたんか、おおきになあ」

「ひっ、ね、ねえちゃんっ!! ば、化けて出た!!」

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