第8話 Dダンジョンで二番目に怖い存在

「Dダンジョンであった事は全部動画として記録されているんだよ、今日の事件もきっと公式にまとめられてコンテンツになるよ」


 ゆかにゃん丸焦げ事件とか、Dダンジョン初パーティ全滅事件とか、Dダンジョンの目立った事件は凄腕デーモンさんたちによって発端から編集されて見応えのある一時間ほどの動画になって配信される。

 全てのカメラピクシーの映像とか、スマホの通話記録とかだけではなく、外での関係者のインタビューなど立体的に構成されてとても見応えがある。

 ゆかにゃん丸焦げ事件のコンテンツなんかは一億回再生とかされたと聞いた。


 Dダンジョンの中の物事は全て運営に把握されているんだ。

 人間の都合でごまかす事は出来ない。

 なぜなら悪魔は人の事情とかには興味が無いからだ。

 

 俺は頭上の大型モニターを見上げた。

 醜く顔をゆがめたりっちょんの動画の上に激しい批難のコメントが走っていた。


「撮さないでっ!! 撮すなああっ!!」


 絶叫と共にりっちょんがポケットから何かを出した。


 一瞬判断が遅れた。


 まさかそんな事をするとは夢にも思ってなかったのと、それを使った事が無いので想像の埒外だったからだ。


『燃え尽きろっ!! ファイヤーボール!!』

「ばっ!」


 両方の大型モニターのコメントが途絶えた。

 りっりょんが前に出した魔法の巻物スクロールが燃え上がり。炎の球が高速でリボンちゃんに向けて飛んだ。


 炎の球はリボンちゃんにぶつかり派手に爆発した。


 ドカーーン!!


 りっちょんだけがブルブルと震え、残った片目から涙をながしていた。

 全員が動きを止めていた。


 カメラピクシーに、攻撃しやがった……。


『『『『『『『ばかーっ!!』』』』』』』


 両方のディスプレイをコメント弾幕が埋め尽くした。


 炎が消えていく。

 リボンちゃんは無事だ。

 当然だ、彼女は小さいけど高位の魔物なのだから。


『ダンジョン一階ロビーに居る全員、逃げろっ!! カメラピクシーが暴れるぞっ!! 今すぐ批難しろっ!!』

『呪われろっ、クソアイドルめっ!! なんて事しやがるっ!!』

『ぐわー、アーカンソー五階事件の再現だっ!! ロビーの奴らは死を覚悟しろっ!! 全滅だっ!!』


 リボンちゃんは怒りの表情を浮かべた。

 そしてカメラを放り出した。

 彼女の体サイズの小さなカメラは床に落ちてガシャンと音を立てた。


 ヤバイ、ヤバイ、ヤバイッ!!

 りっちょんなんか死んでもかまわないが、リボンちゃんも死ぬ。

 故意に攻撃されたカメラピクシーは全魔力を突撃モードに変化させてその場を地獄に変えた後消滅する。


「死んじゃえ~~、みんな死んじゃえ~~」


 座った目でりっちょんが地獄の底から出したような声で呪詛を紡ぐ。


 リボンちゃんの目が真っ赤に光っていた。

 彼女は予備動作も無しに弾丸のような速度でりっちょんに向けて飛んだ。


「リボンちゃん、やめろっ!!」


 今度は体が動いた。

 バックラーを構えてリボンちゃんの突撃経路に割り込んだ。

 リボンちゃんは一瞬俺の顔を見て、速度を緩めた、ような気がする。


 ドカーン!!


 バックラーを構えていた手が折れ、かーちゃんに治してもらったあばらがバキバキに折れて俺は血を吐き出しながら吹っ飛ばされた。


「タカシナイス!! みんなりっちょんを守れっ!! りっちょんが死んだら、攻撃目標が俺たちに変わるぞっ!!」

「い、いや、無理だ、打ち抜かれる!!」


『タカシー!!』

『無茶すんなーっ!! カメラピクシーはDダンジョンで魔王さまに次いで怖い存在だぞーっ!!』

『タカシ!! クソアイドルなんかほったらかして逃げろよーっ!!』


 痛い、痛い、痛い、けど、リボンちゃんを助けないと。

 助けて、助けてかーちゃん!!


「【オカン乱入】!!」


 光の柱が虚空から落ちてきて、中からかーちゃんが現れた。


「タ、タカシ、どうしたんや、これはっ!!」

「リボンちゃんが暴走した……」

「すごい傷や、今なおすで」

「いいから、なんとか、なんとかリボンちゃんを止めてっ! 俺の友達なんだっ!!」


 かーちゃんは飛び回るリボンちゃんを目で追った。


「まったく、大変な事を言うなあ、でもタカシの友達と聞いたらほっとけんわ、うちがなんとかしてやるわっ!!」

「かーちゃん、かーちゃん、頼むっ!!」

「まっとれ」


『オカン キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!』

『オカン キタ─wwヘ√レvv~(゚∀゚)─wwヘ√レvv~ー!! 』

『オカン キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!』

『オカン キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!! 』

『オカン キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!』

『これで勝つるっ!! 何と言う安心感!!』

『俺は【鑑定眼】持ちなんだが、オカンすげえ、レベル60超えだぞっ』

『嘘乙! 画面越しに【鑑定眼】は効きませーん』


『タカシーお前ーっ!! そんなにカメラピクシーの事をーっ!!』

『馬鹿、タカシニワカのおまえらには判らぬかもしれんが、あいつは三年間、余とリボンとだけを相棒に狩りを続けておったのじゃ、そんじょそこらの繋がりではないのじゃぞ』

『うわ、常連風ウゼえっ、余って奴ブロックしようっと』

『泣かせる~~、タカシー、お前良い奴だなあ~~』

『わかるぞー、カメラピクシーって無愛想だけど、ちょっと感情があって、可愛いからなあ、ああ、ガンバレー、オカン~~!!』


「ああ、なんや、これ、配信されとんのか、戦闘中に応援されるのって、なかなか良い感じやな、異世界にも無かったで」


 そう言ってかーちゃんはメイスを構えた。

 頼んだぞ、かーちゃん!!

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