第6話 一人で戦いながら階層を上がる
九階への上り階段を目指してフロアを移動する。
りっちょんの歩みはふらふらして遅い。
オークの三人組が出て来た。
俺は片手剣を抜いて対峙する。
りっちょんの方には行かせない。
左手にはバックラーを握りしめて接敵する。
バキャキャン!
おお、5レベル分ステータスが上がったから良い感じに動ける。
コモンスキルの【気配察知】で死角にいるオークの動きも解る。
行ける!
「強い……」
りっちょんがつぶやいた。
もうその時点で三匹のオークは俺に斬られて地面に転がっている。
「レベルアップもしたからね」
「そう、なんだ……」
オークが塵になって、三つの魔石とドロップアイテムのオークハムが一個現れた。
赤いハムの固まりで、結構美味しい。
紫色の魔力は、俺とりっちょんに流れ吸収された。
「どうしてこんなに強いのに、ソロをやってるの……?」
「まだ高校生だから、あと、前のパーティは俺を残して全滅したんだ」
「そう……」
ビロリン!
ビロリン!
スパチャが入った。
スマホで確認する。
『タカシやるなあっ』
『浅い階のソロって、たまにこういう凄腕配信者いるよね』
「ミッチーさん、リンゴさん、スパチャありがとう」
そりゃあね、ここ三年ぐらいは五階から十階にかけて毎日狩りをしてたから。
色々な悲喜劇を見てきたよ。
九階の階段に着いた。
階段付近は魔物がポップしない安全地帯だ。
水場があるので水筒に水を詰めて、少し飲む。
「りっちょんさんも飲む?」
「ちょうだい」
水筒のコップに水を入れて渡すと、りっちょんは美味しそうに飲んだ。
良く見ると綺麗な子だな。
さすが、アイドルって感じだ。
「これが九回続くとか、信じられない」
「五階を超えれば遊びゾーンだから楽になるよ。九階八階が勝負だね」
「どうして十階のフロアボスを倒して無いの? 下に潜ればもっと稼げるでしょ」
「一人じゃ倒せないんだ。あと、一人なら十階までで結構稼げるよ」
「だから底辺Dチューバーなのよっ、もっと上を目指しなさいよっ」
「そうだね、レアスキルを手に入れたから十階以下に潜れそうだよ」
りっちょんは忌々しげに舌打ちをした。
彼女側のカメラピクシーも撮影してるから、舌打ちは良く無いと思うな。
まあ、余裕が無いんだろうな。
かーちゃんの治癒魔法が無かったら死んでいるぐらいの怪我だったし。
ポーションは宝箱から良く出る。
毒消しとかも出る。
でも、十階までで狩りをしているような底辺配信層はそんな物を使ったりしない。
高く売れるからだ。
ハイヒール相当の治癒魔法が使える、かーちゃんは一日三回でも破格の性能なんだよな。
そんで強いし。
戦技スキル持ちだし。
かーちゃんに寄生すれば十階のフロアボスのワーウルフを倒す事は可能だろう。
だが、どうするかな、かーちゃんは切り札で持っていて、自分だけでフロアボスを倒せるようにならないと将来的に怖いと思う。
時間制限と回数制限はスキルとして絶妙だな。
どちらかがフリーだったら、サーバントに寄生してレベルを上げ放題になる。
かーちゃんはソロでミノタウロスを倒せるからな。
二人で階段を上がる。
アタックドックを二匹倒す。
ジャイアントトードを三匹倒す。
りっちょんの方に行かせないように位置取りが難しいな。
一秒でも早く、急所をえぐって動けなくする。
魔石が出る。
ドロップアイテムも少し出る。
アタックドックからはお洒落なチョーカー。
ジャイアントトードからはガマの塗り薬。
わりと迷宮の担当者はドロップアイテムで遊んでる感じがあるよな。
ガマの塗り薬は軽ポーションみたいな感じで俺も良くお世話になる。
軽い傷なら良く治る。
「りっちょんさんチョーカー要る?」
「いらないっ、クソダサいっ!」
似合うと思うのだけどなあ。
ガマの塗り薬だけ渡しておいた。
「……」
まあ、要らないだろうけどさ。
マップアプリで最短距離を表示して歩く。
出て来た魔物は瞬殺する。
階段を上って八階。
りっちょんの息があがってるな。
あとで安全地帯で休むか。
時々スマホで社長と通話している。
ゴブリン四匹だ。
三匹は引きつけたが一匹がりっちょんの方へ抜けた。
シールドバッシュの後にそのゴブリンから処理。
返す刀でもう一匹のゴブリンの首を落とす。
あと二匹。
りっちょんは棒立ちになって何もしない。
まあ、アイドルだからね。
しかたがないか。
ゴブリンの短剣を肩に受けた。
ぐっ! 結構深い、が、気にするほどではない。
シールドバッシュで押し込んで心臓を貫く。
後一匹。
足を踏んで動きを止めて首に一撃。
ヨシ!
ああ、弱くても多数は結構キツイ。
岩陰で隠れて肩当てを外し、傷口にガマの塗り薬を塗る。
しゅわーっと煙が出て傷が塞がっていく。
軽傷だとポーションより早いんだよね。
「もっと早く片付けなさいよっ、弱いわねっ」
「それはごめんな」
「サーバントを呼べば良いじゃ無いっ」
「今日は後一回しか呼べないんだ」
「使えないわねっ、あんたみたいな奴が私のスタッフだったら首よ首っ」
「幸いな事に俺は君のスタッフじゃないからな」
りっちょんもだんだん遠慮が無くなってきたな。
『タカシは我慢強いのう、こんな奴置いていったらどうじゃ』
「いやそれは」
余さんは適当な事を言うなあ。
『アイドルは戦えないからなあ、ガンバレ』
ビロリン。
「リンゲンさん、スパチャありがとう」
おおお、同接数が二百を越えたぞ、凄い。
いつもは同接一桁で、余さんだけの時が多いからな。
ありがたいありがたい。
これもアイドル輸送任務のお陰だな。
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