くだらない勇気
夕日ゆうや
くだらない勇気
「俺、勇気あるから」
そう言って
怖じ気づいた僕はその場でへたり込む。
「情けないやつだな。お前も男なら飛び込んでみろ!」
黒木はそう言うけど。
無理無理無理!
この高さで、もしもあの岩場にぶつかれば?
そう考えただけで身震いする。
「おめー。俺にコーチしてほしいんじゃなかったのかよ!?」
確かにクラス一番のイケメンである黒木くんに申し出たのは僕だけど!
「は。興が冷めた。てめーは破門な」
それから一ヶ月。
「あれ……」
黒木が電車内で怪しい動きをする男を見つけていた。
黒い服に穴あきジーンズ。膨れた腹に、キモい顔立ち。
その男が女子高生の後ろで立っている。
周りは空いているのに、なぜかそこにいる。
「もしかして痴漢か?」
黒木は震えるが、前にでない。
もしもこのまま見逃せば、また彼女が、他の人が被害にあうかもしれない。
そう思うと僕は動いていた。
男の手をつかみ、声を荒げる。
「な、何をしていた!」
声が上擦った。
でも僕はようやく知った。
勇気の本当の意味を。
黒木の見せたくだらない勇気とは別の何かを。
「ぼ、ぼくちんはやっていないもん!」
痴漢魔はそう言うが、被害者の女子高生が認めたことで、駅員さんに連れていかれた。
僕とその女子高生も一緒に事情聴取を受けることになった。
女子高生は僕に連絡先を聞いてきたけど、僕はそれを断った。
彼女につけいるために助けたわけじゃない。
くだらない勇気なんていらないんだ。
くだらない勇気 夕日ゆうや @PT03wing
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます