くだらない勇気

夕日ゆうや

くだらない勇気

「俺、勇気あるから」

 そう言って黒木くろきが断崖絶壁から飛び降り、二メートルはある滝壺にダイブする。

 怖じ気づいた僕はその場でへたり込む。

「情けないやつだな。お前も男なら飛び込んでみろ!」

 黒木はそう言うけど。

 無理無理無理!

 この高さで、もしもあの岩場にぶつかれば?

 そう考えただけで身震いする。

「おめー。俺にコーチしてほしいんじゃなかったのかよ!?」

 確かにクラス一番のイケメンである黒木くんに申し出たのは僕だけど!

「は。興が冷めた。てめーは破門な」


 それから一ヶ月。

「あれ……」

 黒木が電車内で怪しい動きをする男を見つけていた。

 黒い服に穴あきジーンズ。膨れた腹に、キモい顔立ち。

 その男が女子高生の後ろで立っている。

 周りは空いているのに、なぜかそこにいる。

「もしかして痴漢か?」

 黒木は震えるが、前にでない。

 もしもこのまま見逃せば、また彼女が、他の人が被害にあうかもしれない。

 そう思うと僕は動いていた。

 男の手をつかみ、声を荒げる。

「な、何をしていた!」

 声が上擦った。

 でも僕はようやく知った。

 勇気の本当の意味を。

 黒木の見せたくだらない勇気とは別の何かを。

「ぼ、ぼくちんはやっていないもん!」

 痴漢魔はそう言うが、被害者の女子高生が認めたことで、駅員さんに連れていかれた。

 僕とその女子高生も一緒に事情聴取を受けることになった。


 女子高生は僕に連絡先を聞いてきたけど、僕はそれを断った。

 彼女につけいるために助けたわけじゃない。

 くだらない勇気なんていらないんだ。

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くだらない勇気 夕日ゆうや @PT03wing

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