無言のさようなら

夕日ゆうや

無言のさようなら

『さようなら』

 葬式でそう呟く。

 どこかで彼女が漏らした声に似ていた。

 絵美えみがそう嘆いているように感じた。

 俺と絵美は共に一冊のノートによって結ばれていた。

 それは誕生日に送り合ったノート。

《わたし、こうなるまで宏斗ひろとのこと、知らずにいた》

 絵美とは家も隣同士の仲の良い幼馴染みであった。

 でも16の時に事故で失った。

 その葬式のあと、大学ノートが俺と絵美をつないでいた。

 俺と絵美は知り合った。

 お互いを知り、仲を深めていった。

 ノートによる筆談でしか、お互いを知ることができない。

 俺は絵美を、絵美は俺を失って情緒不安定になっていた。

 ――もう一度、会いたい。

 そんな願いのもと、友人の入田いりだ芽依めいが開発した多重時空突飛移動マシンをつくってくれた。

 それは俺が絵美に、絵美が俺に会える最後のチャンスだ。

 でも、それは同時にこれまで培ってきた仲間との別れてでもある。

 俺は誰にも告げずにその移動マシンに乗る。

「さようなら」

 そう告げると、世界は一転する。

 俺は目の前に現れた絵美を抱きしめて、その存在の大きさを知る。

 無言のさよならは、出会いを生んだ。

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無言のさようなら 夕日ゆうや @PT03wing

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