なおみ 晩夏
瀬戸はや
第6話 なおみ 晩夏
夏が終わろうとしていた。夏は暑くて嫌いな季節だったが、夏の終わりはとても寂しい。1年の中で一番嫌いな季節だった。夏の理由のない 明るさがなくなって、ただただ 暗く 寂しい季節が始まる。まぁ夏の暑さも収まって涼しくなっていくという点では いい季節なのだが。
以前はこの季節が一番好きだった。1年の中で一番好きな季節は秋だった。今でも秋は好きなのだが、夏の 明るく 華やかな季節がなくなってしまうのは寂しかった。人間の気分なんて お天気次第とはよく言うけれど、明るい時間が短くなって1日の時間がすぐに終わりになってしまうと、人間は敏感に時の動きを感じて 切なく寂しくなってしまう。常夏の国へ行けば人間の感情は全く違ったものになるだろうし、寂しいとか切ないとかはこの国にいてこの季節の中にいるからそうなるだけで 他に対した意味はない。
だけど気分というやつは結構強くて抗いがたい。寂しく切ない気持ちはどこでどうやれば消えてくれるのか…。
何かに夢中になれれば 多少は楽になるんだろうけど、そんなに簡単に夢中になれるものは見つからなかった。一番近いものは…ドラッグだな。どんな国でもいつの時代でも この憂鬱な時間を何とかするために人はいろんなことをしていた。そして発明したのが ドラッグ だろう。ドラグを買う お金なんてないし、どこに行けば手に入るのかもよくわからない。分かったところで買う気もやる気もないけどね。とにかくこの切なくて寂しい気持ちは結構 厄介なやつだってことだ。
ドラッグ以外にもう一つ 手があった。それは忙しくすることだ。こんな気分に浸っていられないほど忙しくしてしまえば気は紛れる。これはとても夢中になること と似ているし、いいことにお金にもなる。
なおみと付き合い始めてからもう半年が過ぎた。付き合い始めたのは春だったから、季節で言えば夏が過ぎて夏の終わり晩夏だ。
なおみは相変わらずかわいらしかった。なおみは普段はほとんど化粧をしていない。だから時折口紅を塗ったりすると、唇が急に鮮やかに生えて、こんなに色が白かったのかと驚いたりする。そのことをなおみに言うと
「ルージュを塗ると口紅が目立って、そういう風に見えたりするのよ。」
なおみはさも当たり前のことのように言った。女性の間では当たり前のことなのかもしれないけど、僕はひどく驚いた。白粉を叩かなくても女性は色白に見えたりするらしい。よくよく考えたら当たり前のことだ、唇が鮮やかに赤く濃くなれば相対的に他は白く見える。ただそれだけのことだ。何でもない。でも僕にはとても不思議だった。唇の色を少し変えるだけで色白に見えてしまう。社会人になる前10代の頃は何もしなくても平気だった。放っておいても10代の肌はきめ細やかで美しい。20代そして社会人になれば放っておくわけにはいかない。確実にお肌にも年齢は現れ、歳ごとに衰えていく。
知り合ったころ、なおみはまだ10代だった。お肌も気持ちも若々しく、活力に満ちていた。整った顔立ちのせいで、なおみは年齢よりずっと年上に見えた。19歳が25~6歳に見えてしまった。だから僕は安心してなおみを誘い付き合い始めた。嬉しかった。とても楽しかった。若く美しい娘と毎晩のように会い抱き合った。そして半年、至福の半年だった。なおみと過ごした時間は、いつも新鮮で楽しかった。退屈が入り込む余地などなかった。そして、はじめに退屈を覚えだったのは若いなおみの方だった。僕にはどうすることもできなかった。誰も過ぎ去った時間を戻すことはできない。毎日のようになおみと過ごしていた時間は、週に1~2度 そして2~3週間に1度になり。なくなった。夏が終わっていくように 2人で会う時間も終わって行った。
なおみ 晩夏 瀬戸はや @hase-yasu
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