Another Story From.Sky Pirates×Fox tail

ソメイヨシノ

Sky Pirates×Fox tail


「街で大暴れしてる賊がいるっつーから来てみれば・・・・・・」

飛行機で気ままに空の旅人をしているスカイ・パイレーツと名乗る青年、いや、まだ16歳は少年の年齢だ。

彼が無敵と言われたサードニックスという空賊だった頃、アレキサンドライトと言う空賊の最強シャークを倒し、そのシャークは捕まったのだが、脱獄し、地上で賊達がまた勢力を増していた。

シャークの行方は未だ不明だが、どこかにシャークがいると言う恐れが地上を支配し、恐怖は、賊達の力となり、人々を脅かしていたのだ。

スカイは、無闇に暴れる賊達を叩き潰してやろうと思って、真夜中の星空を流星の如く愛機であるウィッシュスターを飛ばして、賊が大暴れしてるという街に来たのだが、どうやらスカイが来る前に誰かが賊達を潰してしまったようだ。皆、伸びて気絶している。

スカイは不思議に思い、誰が?と、1人の賊を起こそうとしたが、伸びている男の横に落ちている飴玉に気付いて、拾って、手の平に置いてみる。

「・・・・・・飴?」

と、アナタ飴ですか?と問うように手の平の上の飴らしいモノに呟いた。

「誰かいるのか!? 手をあげろ!」

今更、国の騎士達がライトを持って走って来る。

顔にライトを当てられ、ヤバイと、スカイは逃げる。

騎士は追い駆けて来たが、スカイは夜の街へとうまく消えた。

次の日の朝、スカイは無線でサードニックスに連絡をとった。

そして空で合流し、スカイは飛行機をプロペラ飛行に変えて、サードニックスの船のデッキに停めて、昔の仲間に会う。

「セルト! オヤジは?」

スカイが一番に声をかけたのは、セルト・サードニックス。

この船の副船長候補者だ。

「寝てるよ、でも今日は、まぁまぁ気分がいいみてぇだ」

「そうか。あのさ、オヤジはダメって言うかもだけどさ」

「うん?」

「地上で暴れてる賊を叩き潰す時はオイラにも声をかけてくれよ。賞金稼ぎになるしさ」

「は?」

「昨夜、暴れたんだろう? 見事に全滅させてたな、しかも誰も死んじゃいねぇ。そんな事ができるっつったら、無敵のサードニックスだろ」

と、スカイは飴をセルトに見せる。セルトは眉間に皺を寄せ、

「何の話してやがる?」

と、スカイを睨む。とぼけてんのか?と、スカイも眉間に皺を寄せる。

「セルトの飴だろう? これ? ほら、小さい頃、よく飴玉出してくれただろ? 手品で」

「俺のじゃねぇよ、大体ソレ、飴じゃねぇだろ、キャラメルだ」

「セルトのじゃない・・・・・・?」

「お前、キャラメルと飴の違いもわかんねぇのか?」

スカイはキャラメル?と、セルトのではなければ、だったら、誰のだ?と思う。

賊達が飴玉、いや、キャラメルを持っていたとは考え難いし、子供の姿はどこにもなかったし、それにセルト以外で、今、賊達を殺さずに叩き潰せる実力のある奴なんて・・・・・・と、そこまで考えた後、

「まさか・・・・・・シャーク・アレキサンドライト?」

そう呟く。セルトは、難しい表情のスカイに、

「お前、何しに来たんだ? キャラメル持って? シャークの名を呟いて?」

と、不思議そう。

「まぁ、どうでもいいが、俺達は買い出しに船を地上へ下すぞ、お前、どうすんだ? 行くならサッサと飛んでけよ、オヤジに挨拶忘れんな」

「あぁ・・・・・・折角来たし、夕飯食ってく」

「は!?」

「買い出し手伝うっつってんの」

と、笑うスカイに、調子のいい奴だとセルトは舌打ち。

「どこに停船させんだ? ジェイドか? フォータルタウンか? それとも――」

「カーネリアンだ」

「カーネリアン? あぁ、確か、かなり南の方の島国だっけ? 地図上、熱帯地域なのに然程暑くもなく、住みやすい環境だって話だよな? オイラ、一度も行った事ないけど」

「カーネリアンはいいぞ、年老いて、永住するならカーネリアンだ」

「ははっ、面白いな、セルト」

「ジョークかましてねぇよ、マジで言ってんだ」

「真っ当じゃない生き方してる奴が国の世話になれねぇだろ、永住って、しかも閉鎖された島国で、速攻、捕まって、首釣り下げられんぞ」

「カーネリアンは指名手配なしの国だ。どんな悪党も、裁かない」

「嘘!?」

「面白ぇ国だろう?」

と、笑うセルトに、マジで!?とスカイは驚き顔。

「どんだけ荒れた場所なんだ、カーネリアンって!! ヤバイだろう、そんなとこ、まともな店とかあるのか? しかもそんなとこで買い出しって、闇市場とかあるのか? 何を買う気だ、セルト!?」

「何って、普通に食材に決まってんだろ」

「いや、待て! おかしいぞ、お前が買いに出るのか? 副船長候補のお前が!?」

「食材を買いに出るのは他の連中だ」

「だったら何でお前、財布持ってくんだよ!?」

「俺だって買い物すんだよ! 悪ぃかよ、俺がショッピングしちゃぁ!! 金は持ってるっつーんだ!! 賊共から巻き上げた金だけどなぁ!!」

「何買うっつーんだよ!? 何ショッピングするっつーんだよ!? セルト様が!?」

「何買おうがテメェに関係ねぇだろ!!」

「関係ねぇって何買うか言えないもん買う気なのか!? まともな店もない国で!!」

「うるせぇな! 帰れよ! 旅続行してろよ! 何しに来たんだ、テメェは全く! ストーカーみてぇに俺の後付回して横でゴチャゴチャゴチャゴチャ!! 小姑か!!」

「小姑上等だ!! セルトはオイラのアニキなんだからなぁ!!」

「アホか!! お前はサードニックス追放されてんだろ!! アニキでも何でもねぇ!! 大体しょっちゅう来るんじゃねぇ!! この暇人がぁ!!」

またいつもの兄弟喧嘩が始まったと、周囲の連中は、なるべく二人から離れる。

地上は上空より暖かいだろうと、セルトは上着を脱いだ。

スカイは、いつものセルトの格好に、今更だが気付く。

「・・・・・・なぁ、セルト? その腰に付けてるフワフワって何? 前から気になってたんだ」

「ん? あぁ、キツネの尻尾みてぇだろ? ちょっとしたアクセサリーだ」

「ダサっ」

「まぁな」

と、笑うセルトに、ダサいと言われて笑いながら付けてる心境がわからず、でもだったら余計に自分で購入したものじゃないだろうなと、

「オヤジからもらったものなのか?」

そう聞いた。

「なんでオヤジ?」

「いや、オイラが小さい頃から、付けてたなぁって思って。余程大事なもんなんだろうなって思ったからさ。形見とかお守りとか、そういうもんだとしたら、オヤジからかなと」

「冗談だろ、俺はお前と違って親離れしてるよ」

「・・・・・・女からか!?」

「は?」

「誰!? 誰!? 誰!? どこの誰!?」

興味津々のシンバに、セルトは笑いながら、

「お前もそういう話できるようになったか。ガキだガキだと思ってたが、一端の男やってんじゃん。ま、モテねぇお前にゃぁ無駄な会話だがな」

と、アクセサリーについては何も答えてくれない。

寧ろ、話をはぐらかしてるように思える。

「なんだよ、教えてくれよ、つぅかさ、お守りとかなら、オイラにくれよ。セルトからオイラに受け継いでやるよ。リーファスの飛行機みてぇに」

「・・・・・・悪いが、これはお前に受け継がせるものじゃない。お前には不向きだよ」

「え?」

「お前は裏も表もないからな、すぐ目の色で魂胆がわかる」

そう言われ、スカイはラブラドライトアイを、額を押さえるようにして隠すから、

「隠しても遅いっつーの」

と、笑いながら、船を陸に下す準備に向かう。

スカイはセルトの後をくっついて行くから、セルトはうっとうしいなと、睨む。

そういえば、セルトの腰の後ろには長剣が携えられている。

いつもダガーを武器として戦うセルトが、長剣は使わないのに、何故だろう。

小さい頃、長剣の事を聞いたら、敵を欺く為のものだと言っていた。

確かに賊の中には、使いもしないのに威嚇的な意味で、銃だの斧だの剣だのと多くの武器を持ち歩く者がいる。だが、セルトはそんな威嚇や脅しを必要としなくていい程、強い。

それに威嚇にしては、細身の軽そうなソードで、持っていても動きに何の邪魔もならないくらい、いや、誰も気付きもしない飾り気のない全く派手さのないソードだ。

それに柄の部分は完全に使い切っている持ち慣れた感があり、脅しと言う理由だけで持っているとは考え難いだろう。

その腰から下げているアクセサリーも長剣も何か意味があるように思えてきたスカイ。

スカイがムッとした表情で睨んでいるのを無視して、セルトは口笛を吹きながら操縦室へ向かい、操縦者の横に立つと、望遠鏡レンズで地上を覗き、

「カーネリアン南東方向・・・・・・海賊船はっけーん」

と、上機嫌に呟いた後、口笛をまた吹き始める。

どうしますか?と、問う操縦者に、このまま予定通り海の上に着水してくれと伝えると、操縦室から出て、ガムパスに報告に向かう。

予定通りの運行、離陸、天気の崩れなし、数分後には目的地カーネリアンと、報告。

海賊船の報告をしないのは戦いにならないとでも思うのか?と、スカイはしかめっ面。

船長室を後にしたセルトはキッチンを通った時に、買い出しする物が多い為、もう少し誰かに手伝ってもらおうと言う話を聞き、俺が手伝ってやるよと、なんと副船長候補本人が名乗り出るから、スカイは、余計に顔を顰める。

さて、そろそろ着水かって時に、なんなんだと、

「おい、お前、なんでさっきからそんな目の色してんだよ? 機嫌悪ぃな?」

セルトの方からスカイに声をかけた。

「目で機嫌探るなよ! 顔見りゃわかるだろ! 不機嫌だよ!!」

「帰れよ、機嫌悪ぃなら。帰って寝ろ、機嫌良くなるまで」

「なんでセルトが動くんだよ?」

「は?」

「オヤジ、もう寝たきりなんだろ? オヤジは船長だけど、今、この船で、船長と言っても過言でない立場にいるのはセルトだろ? なのに全部セルトが動くんだな?」

「そういうもんだろ」

「そうか?」

「それに立場ってなら、俺は只のキャプテン候補。キャプテンになるかどうかもわかんねぇ男だ。そして現キャプテンはオヤジ。俺はオヤジの変わりにイロイロと万全である事をチェックするのが役目。デーンと構えてられるのは、もっと先の話で、俺がキャプテンになれたらって話だ。まぁ、俺の実力なら、なったも同然だと、お前が俺を買うのは当然だけどな、俺は何も受け継いじゃいねぇし、只のオヤジの下っ端にすぎねぇよ」

「だったら・・・・・・なんで海賊船が近くにいる事をオヤジに報告しねぇんだよ?」

「・・・・・・」

「それに買い出しくらいは、下の者がやるべきだろ。セルトが買い出しの手伝いする事に、当たり前みてぇになってた。下の者になめられてんじゃねぇか? そんなんじゃ、船長の座は奪われるぞ? いいのかよ!?」

「別にいいよ、誰がキャプテンになろうとさ、あんま興味ねぇし」

と、ヘラヘラそう言って、船が海にザッパーンと下りた時に、おっとっとと体を揺らし、碇を下せなどと言って、その場を離れていくセルトに、シンバは余計に不機嫌面。

――キャプテンに興味ないし!?

――そんなバカな!!

――だってオイラを倒そうと必死だったじゃんか!!

――オイラがオヤジの跡継ぎになるの気に食わねぇって・・・・・・・

――オイラが現れなければ自分がサードニックスのキャプテンだったのにって!!

船は島から少し離れて下りた為、浅瀬の海の中へジャバジャバと入り、セルトは笑いながら、街をブラブラ歩いてりゃブーツも乾くだろうと言いながら、島へと向かう。

――アレキサンドライトにまで寝返ってオイラを倒そうとしてたじゃんか!!

ムゥッとした顔をしながら、スカイは、セルトの後を付いて行く。

セルトは振り向いて、何だよその目の色!と、笑いながら、足で波を蹴って、スカイに飛沫をかけて笑う。

バシャッと飛ぶ飛沫が顔にかかるが、スカイはムゥッとしたままの表情でいるから、セルトは、舌打ちして、リアクションのない奴だなと背を向ける。

島から少し歩いて、カーネリアンの城下町に辿り着く。

城の周囲に、街が広がっていて、何区かに分かれているような大きな街ではないが、結構な賑わいと活気があり、スカイは驚く。

「なんだ、もっと静かなとこかと思ったら、いろんな店があんだなぁ」

「そりゃそうだろ、大体の賊連中はここで買い物するしな。指名手配されてないんだ、道のど真ん中歩いても誰にも文句言われねぇし、堂々と買い物できるってもんだ」

「賊が買い物ねぇ・・・・・・ちゃんと金払う連中がいるのか? 指名手配されてねぇのに」

「金払わなきゃとっ捕まえるだけだろ。指名手配されてなくても、この国にも普通に騎士がいるからな。悪い奴は、怖い騎士が捕まえに来る」

「騎士・・・・・・賊に敵うのかよ、騎士が」

と、笑うスカイに、セルトは、

「ここには騎士の他にも、おもしれぇのがいるよ」

と、ニヤニヤしながら言うから、おもしれぇの?と、スカイは首を傾げる。

「俺がオヤジに海賊が近くにいるって報告をしなかったのは、ここで戦う事はできねぇからだ。戦って暴れたりしたら、速攻で騎士が飛んで来る。なんせ、島国という閉鎖された狭い場所で、逃げ場所はないに等しい。いいか、スカイ、覚えておけ、指名手配しないのは、そんなもんしなくても簡単に捕まえる余裕があっからだよ」

「なんだよ、やけに推すなぁ、ここの騎士ってそんなに強ぇのか?」

「まぁな、それを知らねぇ賊もいるから、おもしれぇ事が起こる」

「なんだよ、おもしれぇってさっきから」

「あの海賊達がもしここに来て、暴れるような事があれば、おもしれぇもんが見れる。楽しみにしとけ」

出し惜しみしやがって、どうせ賊が騎士に叩き潰される所でも見ろって言うんだろうと、

「悪趣味だな、セルトは」

と、溜息。

セルトは買い出しのメモを見て、

「おい、スカイ、調味料買うから荷物持ちに手伝え」

と、スタスタと慣れた感じに歩いて行くから、この街で結構買い物してんだなと思う。

ふと、子供達が同じ格好で歩いて行くのを目にして、立ち止まって見てると、

「学校へ行くんだろ、いや、帰りかな」

そう言ったセルトに、学校!?と、スカイはセルトを見る。

「こんなとこでも学校なんてあるのか? まぁ子供が学ぶ場所はあるだろうけどさ。学校っていうと、かなりちゃんとした施設な気がする」

「ちゃんとした学校だ、魔法学校ってな、みんな魔法学校の制服着てんだよ」

「魔法!?」

驚いたスカイの顔に、笑うセルト。

「魔法ってアレか? なんかこう・・・・・・呪文唱えて何かなるヤツか!?」

「何かなるって何がどうなるんだよ」

セルトは笑いながら、行くぞと、また歩き出す。

笑っているセルトに、魔法!?と、何度も聞きながら、スカイは如何わしい表情。

小さな子供が転んで泣いている。

皆、友達は泣いてる子に気付かずに走って行ってしまうから、放って行かれたと、余計に大きな声で泣き喚く子に、セルトは足を止めた。

それこそ放っておけばいいのにと思うが、セルトは子供好きなんだよなと、スカイは溜息。

何も持ってない手の中から飴を出して見せるセルトに、スカイは、お決まりの子供騙しだと、少しバカにした感じで鼻で笑いながらも、そうやってセルトはいつも飴を出してくれたっけと、懐かしく思う。

そういえばと・・・・・・

――そういえば、小さい頃、あれは魔法だと思ってたっけ・・・・・・

飴では泣き止まない子供に、セルトはどこからかボールを取り出して、ジャグリングして見せるから、スカイはぼんやりと昔の景色を眺めるように、光景を見つめる。

――小さい頃、何度となく、セルトは芸をして見せてくれた。

――笑わないオイラに、笑えよって何度も何度も・・・・・・

――でも・・・・・・オイラはうまく笑えなくて・・・・・・

――なんでだろう、なんでオイラ笑えなくなってたんだっけ・・・・・・?

――いつからだろう、セルトがオイラに何もしてくれなくなったのは・・・・・・?

――セルトに追いつこう、追い抜こう、追い越そうと必死にもがいてた日々。

――セルトのように強くなって、サードニックスで名を挙げたい。

――誰にも負けない強さを手に入れたい。

――勝ち抜かなきゃ、サードニックスの敗北なんて絶対に許されない。

――毎日が無我夢中で生き抜く戦いだった。

――そんな風に生きてたら、気付いた時、セルトはオイラを敵視してた・・・・・・。

あれ?と、スカイは自分の考えに疑問を持つ。

敵視されてたんだろうかと――・・・・・・

難しい顔で考え事をしているスカイに、

「おい、おいってばよ! 見ろ見ろ見ろ! すげぇだろ、俺!」

と、ジャグリングの技を披露して、

「そんな顔ばっかしてねぇで、お前も笑えよ! 笑えよ、スカイ!」

と、セルトは笑っている。

いつの間にか大勢の子供達に囲まれているセルトに、スカイは余計しかめっ面になる。

いや、膨れっ面と言った方がいいだろうか。

「セルトってさぁ!!」

突然、大声を出すスカイに、セルトはビックリしてボールを落とし、何事だ?と、スカイを見ると、子供達もスカイを見る。

「セルトってさぁ、子供好きだけど、オイラの事、大嫌いだよな!!」

そう叫ぶスカイに、セルトは、は?と、眉間に皺を寄せる。

子供達は怒っているかのようなスカイに逃げて行ってしまった。

「今、オイラ、気付いたけどさ、セルトってキャプテンの座とか、全然興味ないのに、オイラがキャプテンになるかもってなったら、アレキサンドライトにまで寝返ってオイラを倒そうとしたよなぁ!?よく考えたらおかしい! それってオイラがキャプテンになるとか、ならないとか関係なく、只単に、オイラと仲間になりたくないみたいじゃんか!! オイラとサードニックスを背負ってくの、そんな嫌なのかよ!?」

「いつの話してんだよ、お前」

「いつって――」

「古い話してんなよ、バーカ」

と、セルトはボールを拾って、行ってしまうから、

「答えろよ、セルト!! なんであの時、オイラをあんなに嫌ってたんだよ!?」

と、セルトを追い駆ける。

「お、スカイ、カーネリアンで獲れた果実ジュースだってよ、飲んでみようぜ」

と、セルトはスカイの質問を無視して、子供みたいにドリンクワゴンへ駆けて行く。

――もしかして・・・・・・あの時じゃなく、今も嫌ってるのか!?

――だからオイラがサードニックスに遊びに行くと、あんまり来るなって言うのか?

――直ぐに帰れ帰れ言うのは、そういう事だったのか!?

――まぁ・・・・・・好かれてはないと思ってたけど、嫌われてもないと思ってた・・・・・・

――つぅかオイラはセルト好きなのに!!!!

「おい、スカイ、金払っとけよ」

「なんでオイラが!?」

「お前の奢りに決まってんだろ、子供達、お前の怖い顔に逃げ出したんだぞ! 折角この俺が新技見せてやろうと思ってたのに」

「なんだよ新技って・・・・・・高がジャグリングだろ・・・・・・」

「妬くな妬くな」

「は?」

「俺が子供達を可愛がるのが気に入らねぇんだろ? さっきから怖ぇ顔して、しょうがねぇ奴だな。今度お前にだけ特別俺の新技見せてやっから! 新技は神業だぞ」

笑いながら、セルトはジュースにストローを突き刺す。スカイも金を払い、ジュースを受け取り、こんな甘ったるいもん飲みたくもねぇと呟きながらも、一口、飲むと、結構美味いので、ムッとしていた表情が和らいで、なかなかイケると言おうとした時、

「うちのバカ息子見なかった!?」

と、突然、物凄い勢いで飛んで来た男が、ワゴンの店員に、息を切らせながら聞いた。

「今日はまだ・・・・・・多分見てませんけど・・・・・・またいなくなったんですか?」

と、店員が普通に受け答えしてる様子を見ると、どうやらいつもの事のようだ。

男はスカイに気付き、スカイをジィーっと見て、

「うちの息子じゃなさそうだな」

そう言うから、スカイは、は!?と、男に、バカなのか?と思う。男は、

「いや、失礼!」

と、スカイに軽く頭を下げ、店員にも手を上げて挨拶をすると、また息子を探しに走り出した。スカイは眉間に皺を寄せて、男を見送りながら、

「なんなんだ、あの人?」

と、横にいる筈のセルトに問うように言って、見ると、セルトがいなくて、またも、は!?と、思うと、足元で蹲って、まるでワゴンの陰に隠れるようにしてズズズーッとジュースを飲んでいるから、

「何? なんで隠れてんの!?」

と、スカイはセルトに聞く。セルトは、行った?と、ヒョコッと顔を出し、

「今の人、この国の王様」

そう言うから、マジ!?と、スカイは驚く。

「え? でも、この国は指名手配されてる悪人っていないんだろ? なんで隠れた訳?」

「・・・・・・習慣って恐ろしいね」

と、セルトは笑ってそう答えるから、成る程と、頷く。

「でも王様にしちゃ若いなぁ、リーファスくらいに見えた。それにちょっと頭おかしいかも。オイラをマジマジ見といて息子じゃなさそうだって、そりゃそうだろ、それだけ見なくても息子ならわかんだろって。なぁ!? 息子は変装の名人か、それともオイラは本当は三つ子でレオンの他にソックリな兄弟がいたとか言うのかっつーの」

「ははっ」

「ま、悪人を指名手配しねぇ国の王様なんざ、頭がどうかしてんのかもね」

「あんまり悪く言うなよ」

「はぁ!?」

「この国の王様の名前、シンバってんだぜ?」

マジ!?と、スカイはまた驚く。

「な? だからあんま悪く言うなって」

と、笑いながらセルトは空の紙コップをワゴンの横に設置されているゴミ箱に捨てる。

スカイもジュースを飲み干し、紙コップをゴミ箱に投げ捨てる。

「本当にシンバって名前なのか?」

「ん? あぁ、お前が呼ばれてたシンバって名前、ジェイド王が付けたらしいから、ここの王様の名前からとられたのかもな」

「嘘だろ、だってシンバってオヤジが付けたんだろ!?」

「まぁ、そういう事になってたな。そりゃお前がジェイド王の子供だって知らなかった時の話だろ。実際、俺も聞いちゃいねぇから知らねぇけど、お前の面倒をみてやれってオヤジから渡された時、シンバだとよって言われたんだよな。だからオヤジが名付けたって訳じゃねぇと思うんだけど」

「だってオイラ、シンバ・サードニックスって名前捨てろってオヤジに言われたんだぞ」

「そりゃそうだろ、シンバ・サードニックスって名前で賊やってたんだから」

「オヤジ、自分が名付けたって言ってたぞ!」

「だったらオヤジが名付けたのかな? どうでもいいじゃん、今のお前にゃぁ関係ねぇ話だろ、スカイ・パイレーツ」

「よくねぇよ! なんか初で知ったぞ、今!」

「ははっ、つぅかさ、スカイ・パイレーツって名前、ギャグだよな」

と、大笑いし始めるセルトに、スカイはまたも不機嫌になる。

なんだか知らない事ばかりの気がして、最初から自分だけ仲間じゃなかったのかと言う気にさせられる。

そして二人、調味料を買い込むと、その大きな袋をセルトはスカイ1人に持たせ、

「悪ぃけど、これ持って船に先に戻ってろ。俺、他に買い物あるから」

と、手を上げる。

「ちょっ!? ふざけんなよ! 買い物ってなんだよ!? おもしれぇもん見れるとか言って何も見てねぇし!」

吠えるスカイに、

「だって、何も起きねぇんだもん。あの海賊達、来なかったのか、大人しく買い物してるかだろ、無理に騒ぎ起こす必要もねぇしな」

と、軽快な足取りで、立ち去るセルト。スカイは冗談じゃないと、買い物したものを一旦、また取りに来るから預かっておいてと、店に戻し、セルトを追い駆ける。

「買い物って、何買う気だ? セルトの奴・・・・・・」

と、スカイはセルトを尾行。

「新しい剣かな。それとも銃? いや、防弾服とか守備力上げる系のものか?」

だったら自分もセルトと同じ武器を手に入れて、パワーアップしてやると、何故か対抗意識を燃やすスカイ。

「おにいさん、おにいさん!」

隠れてコソコソしているスカイに声をかける人。

「あ!?」

振り向くと、直ぐそこの店の人らしく、

「これ、どう?」

と、キツネの尻尾アクセサリーを差し出してきた。

「安くしとくよ? おにいさん見かけない顔だし、格好からして、飛行機乗りかな? 旅の土産にどう? カーネリアン名物フォックステイル!!」

「・・・・・・フォックステイル?」

スカイはきょとんとして、そのキツネの尻尾アクセサリーを見つめ、セルトの腰にあるアクセサリーと同じだと思う。

「他の店より、うちのフォックステイルは質が違う! この毛触り! 最高だろう?」

「え? 他の店でも売ってんの? これ?」

「・・・・・・まぁ、カーネリアンの土産と言えばフォックステイルだから」

「・・・・・・へぇ」

こんなダサいものを土産として誰が買う訳?と、スカイは苦笑い。

貰った方も困るだろう。

まさかセルトもここで買ったのか? それとも誰かに土産でもらったのか? と、

「あ! しまった! セルト!」

と、セルトを探すが、見当たらない。急いで駆け出して、セルトを探し回る。

どこへ行ったんだろうと、キョロキョロしながら、路地へ入り込み、入り組んだ道に迷い始め、気が付いたら、賑わいだ通りから外れてしまっている。

戻るかと、思ったが、一軒の書店に、セルトの姿を見つける。

本屋? と、店を見上げ、スカイは、セルトに見つからないように、中に入る。

「すいません、新刊は売り切れてまして・・・・・・」

「そうっすか・・・・・・予約ってできるんすか?」

本屋の男とセルトの会話に、セルトが本を予約!?と、スカイは本棚の影で声を上げそうな程、驚いて、思わず、自分で自分の口を両手で押さえる。

「はいはい、できますできます」

「あー・・・・・・でも・・・・・・俺・・・・・・アドレスとか連絡先とか持ってなくて――」

「はぁ?」

「それでも予約ってできるもんすかね? 無理ならいいんすけど・・・・・・」

「お宅・・・・・・賊?」

本屋の男が、セルトを上から下まで見た後、そう聞いた。

「はぁ・・・・・・まぁ・・・・・・えっと・・・・・・先払いで金置いて行くんで・・・・・・」

「・・・・・・」

暫く、本屋全体が静かになる。

「あぁ、ダメならいいんす。また買いに来るんで・・・・・・」

「いいよ、名前だけで。金も本と引き換えで構わない」

「え!? マジっすか?」

「名前だけで予約受け貯まります、ここに氏名をふりがな付けて書いて下さい。一ヶ月以内には届くと思うので、連絡はできないとの事なので、必ず取りに起こし下さい」

「はい! あ、えっと、じゃぁ・・・・・・それと、半年前に出たのも下さい」

「あぁ、それならあるよ、ちょっと待って」

本屋の男は、本棚から一冊の本を取り出し、これだね?と、セルトに確認した後、本を包装し、セルトに渡した。

セルトは金を払い、それじゃあ一ヶ月後にと、店を後にする。

スカイは、本屋の男に、

「すいません、さっきの人、何の本買って行ったんですか?」

と、尋ねた。

「ん? アンタ、さっきの人の仲間? て事は賊? 何? 賊の間で流行ってるの? フォックステイル」

と、笑いながら、一冊の絵本を出してきた。

「フォックステイル?」

と、スカイは絵本を手にする。

「この国のヒーローだよ」

本屋の男はそう言って、説明を始める。

「シリーズ物でね、小さな子供達には結構人気があるんだよ。一冊ごとに完結してるストーリーなんだけどね、まだ連載中なんだ。フォックステイルという怪盗が悪党相手に戦う話しだよ。戦うと言っても、倒すんじゃなくて、騙して、悪党の持っている宝を奪い、その宝を貧しい人達に恵んでいくんだ。キメ台詞は〝笑えよ〟」

「・・・・・・笑えよ?」

〝笑えよ、シンバ〟

子供の頃、セルトはよくそう言っていた。そして、さっきも、

〝笑えよ、スカイ〟

そう言った。それはセルトの口癖のようなものだと思っていた――。

「さっきの人は、そのフォックステイルの絵本の新刊を買いに来たんだけど、生憎、売り切れてて、予約して行ったんだよ。その前に出た奴も買って行ったよ」

「・・・・・・」

「子供向けのストーリーだけど、大人でも好きな人がいてね、グッズまで集めてる人も少なくはないよ」

「じゃあ・・・・・・これ下さい」

そう言って、スカイは手に持っているフォックステイルの絵本を一冊買う。

書店を出て、絵本を開いた瞬間、パンッと絵本から大きな音が鳴り、まるでクラッカーみたいに紙吹雪が飛び出してきて、うわぁ!!と、スカイは絵本を放り投げてしまい、落ちた絵本を、追いかけっこしていた子供達がズカズカと踏んでいくから、

「うわぁ!!!! 買ったばかりなのに!!!! このクソガキがぁ!!!!」

と、泣き喚きながら、ボロボロになってしまった絵本を拾う。

「くっそ!! 泥で汚れて最初の方全然読めねぇ!! なんなんだ!! この国、ガキ多すぎだろ!! つぅか・・・・・・なんで開いたら大きな音と紙吹雪が出てきたんだ、この本!?」

折角フォックステイルというものを知るチャンスだったのにと、スカイは溜息。

しょうがないので、セルト本人に聞くかと、トボトボと船へと戻る道中・・・・・・賑わいだ商店街通りで、海賊達が大暴れしている事に気が付いた。

海賊達は、酒を出せ、食い物出せ、女を出せと、喚き散らしている。

「アイツ等、どこの一味だ? ったく! しょうがねぇ・・・・・・ちょっと躾けてやるか」

と、スカイが出て行こうとした時、スカイの肩を誰かが掴んだ。振り向くと、

「まぁ見てろって、おもしれぇもんが見れっから」

と、セルトが立っている。

「セルト・・・・・・おもしれぇって、このままだと怪我人とか出るぞ。あの一味、名も知らねぇけど、人数結構多いし、この街、子供が多いから放っておくと危ねーよ」

「黙って見てろって。ショータイムの始まりだ」

と、笑うセルトに、スカイはショータイム?と、クエスチョン顔。

賊達が大声で脅すだけでなく、武器を出し始め、人々が悲鳴を上げると、

「誰も動かないで! そこに着地するからさ! 危ないから誰も動いちゃダメだよ!」

と、誰かの大きな叫び声が降り注ぐ。皆が、危ない?と、空を見上げると、太陽の光が眩しくて、目を細めた。すると、光で反射した人影が、空から降って来るようにして、賊のど真ん中に舞い降りて来た。

子供達がワァッと、まるで声援でもしてる声で騒ぎ出す。

スカイは、持っている絵本の表紙を見て、汚れている部分を手で擦って、表紙に描かれたキャラクターを見ると、空から降ってきた人を見て、また絵本のキャラクターに目をやる。

セルトはクックックックッと、肩を揺らして、楽しそうに笑っている。

「何者だ! 貴様!?」

賊が剣を向け、そう叫ぶと、

「フォックステイルだ!!」

子供達が答えるから、空から降ってきた奴が、

「オレの台詞とっちゃダメっていつも言ってるだろ」

と、子供達に言う。

ていうか、フォックステイル!?と、スカイは、賊に囲まれてる妙な格好の奴を見て、それって何者!?と、不思議に思う。だが、すぐに正体がわかった。

「王子ー! 頑張ってぇ!!」

と、街の者達がフォックステイルと言う奴を応援しているからだ。

王子?と、スカイはフォックステイルを指差して、隣で声を殺して笑っているセルトを見ると、セルトは笑いすぎて腹が痛ぇと、腹を抱えながら、

「仮面まで付けてるけど、正体がバレてるのがいいだろ?」

そう言って、笑いすぎて涙目になっている。

なんなんだ、この国の王族は?と、スカイは笑えねぇだろうと、妙な顔になる。

「おい、セルト、笑ってないで助けた方がいいんじゃねぇか? 相手は賊だぞ、幾ら名もわかんねぇ奴等とは言え、あんなフザけた奴が賊相手に敵う訳ねぇだろ! まさかこの国に恨みでもあって、王子が賊達にやられるのを見て楽しむってんじゃねぇだろうな? そりゃちょっと悪趣味だ」

「ははは、いいから、お前も楽しめって」

笑いながら、セルトはそう言うけど、こんなの楽しめる訳ないだろうと、スカイは思う。

だが、スカイの心配は無用だったようだ。

フォックステイルと、賊達は剣を交えるが、なんと言うか、それは戦いと言うよりも、小さな子供達がお遊戯をしているように見える。

ドベッと転んで剣を遠くに飛ばしてしまう奴や、尻餅をついてしまう奴に、お互いが打つかってノックダウンする奴、それにフォックステイルを目で追っている内に目を回し倒れる奴、間抜けな連中ばかりで、スカイはなんつーバカばっかと、見てるこっちが恥ずかしくなると言う顔で、苦笑い。

なんせ、フォックステイル本人が間抜けな行動で、あたふたしているにも関わらず、倒れて行くのは賊ばかり。

「幾らなんでも酷すぎる・・・・・・なんなんだこの茶番は・・・・・・あの賊達、流石、名も知られちゃいねぇだけあって、戦いもろくにできねぇ連中ばっかだな、人数多いからって思ったけど、なんであんな連中が集まってんだ? 少しはまともに戦える奴がいねぇのか」

そう言ったスカイに、

「お前空賊以外にうといな」

と、セルトが言う。何が?とスカイがセルトを見ると、

「いや、それだけお前が賊から遠ざかったって事かな」

と、笑いながら、

「ありゃぁ海で有名なヤガラ一味だ、特に最近は名が売れて、どこの国の海軍共も手古摺ってやがる連中だ。尤も海にゃぁサードニックスがいねぇから、粋がってるだけだろうがな。シャークも今はいねぇ。だから余計に海賊王とか言って、バカ丸出しの連中だが、言うだけ海では無敵で最強誇ってる輩だ。ま、その地位を保つ為か、空に来る様子はねぇがな。ある意味、サードニックスを避けて通る、利口だよ、賊として名を売るにはな」

そう説明をした。

「・・・・・・嘘だろ? じゃあ、なんでこんなバカ気た戦い!?」

「かっこいいよなぁ」

「は?」

「俺にはできねぇ戦い方だ、すげぇカッコイイ」

「何言ってんの!? セルト!? このカッコ悪い賊連中の戦い方がカッコイイ!?」

「バカ! 誰がヤガラ一味をカッコイイって言うかよ、フォックステイルだ」

そう言われ、スカイは、フォックステイルを見るが、カッコイイとは到底思えない。

「何がどこがどういう風に?」

そう問うスカイに、

「傷ひとつ与えないで笑いで敵を倒してる。すげぇだろ、お前にできるか? こんな無敵で最強の戦い方。笑えるくらいヒーローだろ。カッコイイよなぁ」

そう答えたセルトに、スカイはハッと気付く。

傷ひとつ与えないで剣を交えるなんて、そんな戦い、有り得るのだろうか。

有り得ている。

なんせ、街の人々を避難さえさせる必要もなく、子供達も笑っているくらいだ。

賊が街で暴れていると言うのに、誰もが、笑って見ている。

賊達はたった独りのフォックステイルにあたふた状態で、だが、余りにもフザけているフォックステイルに、自分達が追い詰められた立場だと気付いていない。

なんなんだ、これ・・・・・・と、スカイはポカーンとした顔になってしまう。

だが、フォックステイルが、後ろから羽交い絞めに合い、剣を飛ばされてしまった男が、拳だけで、フォックステイルの顔を殴り付けて行くから、さっきまで笑っていた者達が、悲鳴を上げ始める。

「ヒーローのピンチは、ある意味、見せ所だな」

セルトが腕組して、そう言うから、まさかこれもシナリオ通りとか言う気か?と、スカイは思う。どう見ても、ピンチだろうと、助けた方がいいのではないかと、ドキドキハラハラして、気が付けば、スカイ自身が、物語にワクワクするような感覚になっている。

フォックステイルが、何度と殴られた後、気を失ったようにクッタリとして、後ろから羽交い絞めしていた男が手を離すと、フォックステイルはその場でガクンと足から落ちる。

嫌な笑いで、賊達が、フォックステイルを更に痛めつけようと、近付く。

だが、直ぐに後退し、驚いている。そりゃそうだ、あんなに痛めつけたのに、フォックステイルは気絶していたのが嘘で、普通に立ち上がり、笑っているからだ。

不死身か!と、賊達は驚くが、観客になっている街の者達は歓声を上げ、スカイまで、よしっ!とガッツポーズ!

そんなスカイにクックックッと笑うセルト。

スカイは、違う違うと何やってんだとばかりに、ガッツポーズを解く。

そして、スカイの背後で、

「あのタフさは俺に似たな」

そう言った男がいて、見ると、騎士の鎧を身につけている。

セルトが小声で、騎士隊長ツナ殿のお出ましかと呟く。

騎士隊長?と、スカイは、ツナを見るが、大きな歓声で、またフォックステイルに目を向けると、フォックステイルが胸倉を掴まれた瞬間、フォックステイルの体がプクーッと膨らんでいき、みるみる太った姿になって行くから、賊はビビッて、胸倉から手を離そうとするが、離れないらしく、大慌て。

どんどん膨らんだ体がパンッと弾けると同時に、近くにいた賊達は頭を押さえて身を屈め、胸倉を掴んでいた賊はビックリしすぎて、引っ繰り返って、気絶。

「ごめんね、驚かせすぎちゃった」

と、笑うフォックステイル。

「あの独創的な発想力、まさにオイラ似」

そう言った男がいて、見ると、カーディガンを着ている男が騎士隊長の隣に立っている。

セルトが小声で、魔法学校の教授カモメ先生のお出ましかと呟く。

スカイが、カモメに目を向けるが、女の子達の弾んだ声が聞こえ、またフォックステイルに目を向けると、街の女の子達がフォックステイルに声援を送っていて、

「可愛いなぁ、キミ達、明日の午後とか暇?」

と、フォックステイルが、戦いを止めて、女の子達の肩に手を回し、ナンパしている。

だが、ボーイフレンドが傍にいたようで、フォックステイルに俺の女だと怒り出す男に、

「でもオレのが男前。仮面外せないのが残念だ」

と、余計な一言。それは賊と戦いの最中とは思えぬ言動で、皆を笑わせる。

「女の子にモテるとこは僕に似たんだね」

そう言った男がいて、見ると、白衣を着ている男が教授の隣に立っている。

セルトが小声で、医療施設のシカドクターのお出ましかと呟く。

スカイが、シカに目を向けると、シカの隣に太ったポヨンとした男がいて、

「女の子にモテると言うより、女好きなとこが似たんだね」

そう言って、

「余計な一言が多いのは誰に似たのかなぁ?」

と、シカに言われ、顔を抓られている。

「痛い痛い! シカ、オラの顔引っ張らないで、伸びてる伸びてる!」

そう言って泣いている太った男を指差して、

「あれは? 誰?」

スカイは、セルトに、そう聞いた。セルトは、

「絵本作家」

そう答えたから、絵本作家?と、眉間に皺を寄せたが、直ぐに気付いて、手に持っているフォックステイルの本を見て、作家名にパンダと書かれているのを確認し、

「パンダ」

と、口に出して言ってみる。そして、

「フォックステイル」

と、口に出して、絵本のタイトルを言ってみた後、賊と戦っている男を見て、また、

「フォックステイル」

と、口に出して言う。

フォックステイルは、まだ戦えるぞと立ち上がって、いきり立っている賊達に、どこから出したのか、キャラメルを出して、

「甘い物でも食べて機嫌なおしてよ、ほら、笑って? 笑ってよ」

と、沢山のキャラメルを、賊に渡し始め、戦いを見ていた子供達にも配り出す。

フォックステイルと賊を囲んでいる輪を、クルッと一回りする気か、スカイの所にも来て、

「ハイ、キミにもあげる」

と、キャラメルを差し出すから、セルトがガキだと思われてると笑う。

ガキだと思われてる事にはムカつくが、それよりも、そのキャラメルに、スカイは見覚えがあった。昨夜、倒されていた賊の傍に落ちていたキャラメルと同じものだ。

どういう事だ?と、

「フォックステイル」

と、キャラメルを受け取り、口に出して、また言ってみる。

いや、言葉にしてみても全然わからないと、スカイは、アイツ何者なの?と、セルトに聞こうとした時、

「いい加減にしろ!!!!」

誰かの怒鳴り声で、シーンと静まり返り、見ると・・・・・・

「・・・・・・あの人王様だったよな? 王様登場だ」

と、スカイが、そう言って、怒鳴った男を見て、セルトを見る。が! 隣にいた筈のセルトがいなくなっていて、あれ?と、セルトをキョロキョロ探すが、見当たらない。

そんなスカイの真横を王は通り抜けて、フォックステイルと賊の所へズカズカ入って行き、そして、賊を突き飛ばし、フォックステイルの前に立つと、

「何のつもりだ! 暴れている賊相手にするなら、まず人々を避難させろと、いつも言ってるだろう! お前の遊びに付き合って誰かが怪我でもしたらどうするつもりだ!」

そう怒鳴る。

「誰も怪我させてないよ」

反論するフォックステイルは、子供っぽい拗ねた口調で、仮面で目元はわからないが、口元は尖らせているから、表情も拗ねてるんだろうとわかる。その口元から少し血が出ていて、それは多分、羽交い絞めに合い、殴られた時のものだろう。

王は、手を伸ばし、フォックステイルの口元を親指で拭い、

「怪我してるじゃないか」

そう呟くと、直ぐに厳しい眼差しをフォックステイルに向け、

「民を危険に晒すな。お前は王族失格だ」

厳しい口調で、そう言った。

「みんな喜んでくれてるよ! 大笑いしてた! オレだってギャラリーいないとテンション上がんないし!!」

「お前のテンションなんて関係ない」

「テンション落ちてると、戦えない!!」

「戦うのは、お前の仕事じゃない」

「仕事って言うなら、オレはみんなを助けようとしてた!!」

「誰も助けてない!! いいか、お前がやってるのは、お前の只の趣味だ! お前がフォックステイルだと言ってコスプレして、遊んでるのは構わないさ。だが、人々を巻き込んで、お前自身の楽しみの為に、危険になるかもしれない状況を遊びに使うな!!」

そんなに言わなくてもいいのにと、スカイは自分が言われているように思えて、少し落ち込んだ気持ちになる。

勿論、それは街の人も思っているのだろう、シンと静まり返った中、皆、自分が怒られているかのような顔で、シュンッとしながら、王を見ている。

「それだけじゃない! お前、また転送装置をつかって、昨夜、勝手に外の世界へ行っただろう!?」

転送装置?と、スカイは、クエスチョン顔。

「街で大暴れしてる賊がいるって無線で聞こえたから」

「だからなんだ?」

「だから助けに行かなきゃって!」

「助けに? お前が? ふざけるのも大概にしろ! 何様のつもりだ? お前」

「フォックステイル」

「そのフォックステイルは賊と言うものを何だと思ってるんだ? フォックステイルがヒーローで賊は悪党だとでも?」

「当然!」

「お前もやってる事は悪党と変わらんだろうが!! ここは絵本の世界じゃないんだ!! 夢の中で正義でも現実は悪である事もあるんだ!! いいか、人を裁く権利を持ちたいなら、ちゃんと王族の道を歩め! それにお前は賊をわかっちゃいない。アイツ等がどんなに恐ろしいものか、お前は知らないだけだ。お前がコスプレして楽しむ事は構わない。だが二度と賊には関わるんじゃない! 賊を捕まえるのは騎士に任せるんだ! この国にも立派な騎士隊がいる。お前も知ってるだろう、うちの騎士達の強さを! お前がでしゃばる必要なんてないんだ」

「なんでフォックステイルが悪みたいな事言うんだよ!」

「正義じゃない」

「正義だ!」

「正義じゃないとわからないお前にフォックステイルなど勤まるか! お前は夢を見すぎてるんだ! 悪でもないかもしれんが、正義でもないって事、ちゃんと知るべきだ! 絵本だけのストーリーを楽しむ年齢じゃなく、もう善悪の区別が付く年齢だろうが!」

「・・・・・・嫌いだ」

フォックステイルが呟く。

「嫌いだ!! パパなんて大嫌いだ!!」

フォックステイルがキッと王を睨んで叫んだ。

静粛が余計に静けさを呼ぶ。

「結構だ」

更に冷たい静けさを運ぶ王の一言。

「そのナメた真似はまだまだ続くのか? フォックステイル?」

と、人々を突き飛ばし、輪の中に入って来る男は、ヤガラだ。

このヤガラ一味を率いる親玉の登場で、静けさだけでなく、冷たい空気までが辺りを包む。

「どうでもいいが、その親子喧嘩みてぇなもんも、小芝居なのかねぇ? どちらにしろナメられたまま、おれ達が大人しく引き下がる連中だと思うか?」

と、ヤガラは、腕を組み、嫌な微笑を浮かべ、王と、フォックステイルの前に仁王立ち。

「この国は妙な国だ。地図上の理論で言えば、この天候は有り得ないらしい。元は吹雪きで危険空域とも言われたエリアが、穏やかな気候を保ち、この島だけでも農作物の収穫が世界で30パーセンも占めてるって言うじゃないか? まるで天気を操る魔法でもあるみてぇだな。その上、フォックステイルの絵本が生み出された地? 絵本だと? あのフォックステイルが架空だって言うのか? おいおい、冗談じゃねぇ。あのシャークの腕を捥ぎ取った野郎だって事、賊なら誰でも知ってるぜ?」

スカイは驚愕の表情になる。

まさかシャークの腕をフォックステイルが落としたなんて、あの鍵腕が、フォックステイルの仕業だったなんて、知らなかったと、しかも賊なら誰でも知ってるのか?と、スカイは驚きを隠せない。

「ソイツ、フォックステイルなんだろう? 戦わせろよ、不思議な奇術を使うフォックステイルに勝てば、あのシャークにも勝ったも同然だろう? なぁ? もしかして、フォックステイルだって事を隠す為に、親子喧嘩の芝居までして見せて、只のコスプレマニアに仕立て上げようってんじゃねぇだろうなぁ?」

「仕立て上げる気はない。実際に只のコスプレマニアの息子なんだ。フォックステイルではないし、フォックステイルは架空人物であって、実在しない。シャークの腕の話も賊達の間でどう伝えられているのか知らないが、この国には関係のない話だ。ここで暴れるなら出て行ってもらうか、牢獄行きかだ」

「ほー、なら教えてやろうか、賊の間でフォックステイルがどういう奴だったか」

「結構だ。どうせ賊同士の戦いで負傷した事をフォックステイルという人物のせいにしてるだけだろう。それこそ賊達が仕立て上げた架空人物に踊らされてるだけだ」

「言ってくれるねぇ・・・・・・それもそうかもしれねぇな。あのシャークが例えばサードニックスのガムパスに腕をとられたとしても、シャーク本人は言わねぇだろう、そんな自慢にもならん事を。だが、それを見てた連中は言うだろうが、噂話に過ぎねぇし、信憑性もなければ、絶対的な確証もねぇなら・・・・・・噂に踊らされてるだけなんだろうな。フォックステイルってのは、うまいねぇ・・・・・・足跡ひとつ残さず消えるってんだから――」

「・・・・・・随分と拘るな、フォックステイルに――」

「あぁ、フォックステイルって名乗る奴なら、誰でもいいさ。奴の正体なんて謎なんだ。偽物だろうが、本物だろうが、どっちでもいい。そう、コスプレマニアの王子様でもいいんだ、こっちはフォックステイルをやるだけ。ギャラリーの皆さんには、是非、噂を流してほしいものだ、ヤガラがキツネを狩ったってね。信憑性もなければ、絶対的な確証もいらねぇだろ、ギャラリー含め皆殺しだからな。なんせ足跡は残す性質なんでね」

ヤガラがそう言うと、まだ気絶もしてないヤガラ一味達が、一斉に、ヤガラの背後に立ち、王独りの目の前で、戦闘態勢になった。

こりゃヤバイなと、スカイが、

「待ったぁ!!!!」

大声を出した。皆が、スカイを見る。

「おい、お前等、この街にサードニックスが来てるの知ってんのか?」

スカイの台詞に、なに!?と、ヤガラは眉間に皺を寄せる。

「国ひとつ潰す前に、まずは鉢合わせになった賊同士で戦わなきゃだろ。ヤガラとか言ったな? 空に来いよ、海でパチャパチャして、地上で粋がってんなら、空で喧嘩上等ってほざいてみろ」

スカイがそう言うと、ヤガラは、

「喧嘩か」

と、笑う。

「あぁ、喧嘩だ。サードニックス相手に戦争になるとでも思うか? お前等如き、オイラ1人でも充分かもな。叩き潰してやるよ、かかってこい! いつでも相手してやるよ! 空で待ってるから」

「・・・・・・お前、サードニックスのガキなのか?」

そう言われ、スカイは、ハッとして、

「いや・・・・・・えっと・・・・・・只の飛行機乗って旅してるだけなんだけど」

と、さっきまでの威勢はどこへやら、しどろもどろと答える。

「どいつもこいつもバカにしてんのか! クソガキ共! ハッタリかましやがって!!」

そう怒鳴ったヤガラに、

「サードニックスが来てんのは嘘じゃねぇ」

と、スカイの背後にズラっと並ぶサードニックスの連中。

ヤガラ一味がどよめき、ヤガラも、目を見開き、驚いた顔で硬直。

「こんなとこで縄張り争いか? どこの一味か知らんが、空では見かけねぇ面だな」

本当はヤガラだと知っているが、サードニックスの連中はそう言って笑っている。

「俺達は指名手配されてねぇ街でゆっくりと食事したり買い物したりしてぇんだよ、賊っつっても人間だからな、たまにはそういう人間らしさを楽しめる時間を持ちてぇ。誰の目も気にせず、船の上以外で、お天道様の下で笑って過ごす。今もそうやって過ごして機嫌も上々だったのによぉ・・・・・・俺達の機嫌損ねるだけじゃ足りねぇのか? これ以上、更に俺達サードニックスを不愉快にするってなら、テメェ等全員一匹残らず・・・・・・海の底に沈めんぞ!!!!」

最後の台詞を大声で言われ、ヤガラ一味が全員ビクッとする。

「優しいだろう? 海賊が海の底で死ねるって本望だろうよ? 俺達は心優しい賊だからな。感謝しろ? さぁ、どうすんだ? 海賊の誇り見せるか?」

ヤガラはギリギリと歯を食い縛り、

「覚えてろ、サードニックス。今日の所は引き上げてやる」

そう言った。スカイは笑いながら、ザマァ!と、中指を立て、

「そっちが覚えてろ! 終わらせるつもりねぇぞ! 始まったばっかだかんな! 潰してやんぜ、ヤガラ一味!!!!」

そう叫び、サードニックスの連中にどつかれる。

「アホか! お前は! 何が始まったばっかだ! お前はもう関係ないだろう!!」

「あれでも賊である事の誇り持っててくれたから、奴等、引き際を悟って、身を引いたんだぜ? プライドもねぇ連中なら、ここで無駄にかかってきただろうよ」

「そうだぞ、ヒヤヒヤさせる賭けをさせるな! ここで厄介な事を起こしたら指名手配されなくても出入り禁止にされんだろ! ここを気に入ってんだからな、俺達はよ!」

と、皆からバッシングを受けるスカイ。スカイはごめんと言いながら、逃げるようにして、王の目の前に行き、苦笑いしながら、

「感謝しなくていいよ、別に助けたなんて思ってないから」

と、言ってみる。

まさか王にそんな事を言いに行くとは思わず、サードニックスの連中は皆で頭を抱え、恥ずかしい奴だと呟く。

スカイは、感謝しなくていいとは言ったが、本当は感謝の言葉を待っていた。

ありがとうの一言でも良かった。だが、

「する訳ないだろう」

王はそう言い放った。え?と、思わず、スカイは聞き返す。

「賊に感謝などする訳ないだろう。悪いが、お前達賊が気持ちよく過ごせる為に、この国で悪の者を指名手配しないんじゃない。悪の道から出て、遣り直すチャンスを与える為に指名手配しないだけだ。サードニックスだか、アレキサンドライトだか知らないが、悪名を売って、偉そうにのさばっている事を恥に思え。お前達は絶対悪だ」

そう言うと、王はスタスタと背を向けて立ち去る。

サードニックスの連中は、そんな王に、何も言わず、何もせず、見送るだけ。

「ムッカツク!!!!」

そう言ったのはスカイとフォックステイル。まさかの同時台詞。

スカイとフォックステイルはお互い見合う。

すると、フォックステイルは仮面を外し、ニコッと笑ったので、スカイは、綺麗な顔してんなと少し驚くが、そうか、王子だもんなと直ぐに納得。

「ねぇ、レオン王子、今日はオレの負けだな、だって、レオン王子、すっげぇ変貌! 一瞬、誰かわかんなかったもん! でも顔はそのままだから直ぐにレオン王子って見破ったけどね!」

フォックステイルがそう言うので、スカイは、何の話だ?と思うが、直ぐに、

「あぁ! ジェイドのレオン王子と間違えてんのか? オイラ、レオンとソックリだけど違うんだ。スカイってんだ。飛行機乗って空の旅人してる」

そう言った。フォックステイルはキョトンとした顔をすると、スカイの顔を見つめ、

「わぉ、ホントだ、ラブラドライトアイだ」

そう言った。目の色変わったかと、スカイは苦笑い。

フォックステイルが仮面を外したと同時に、集まっていた街の人々も、旅行客も、みんな、散っていく。

「レオンとは知り合いなのか? あ、オイラはちょっと知り合いで・・・・・・いや、ホント、知り合いなんだよ、オイラ、こんな身形だけど・・・・・・」

「ジェイドは飛行機乗りエリアだもんね、空の大陸もあるし。飛行機に乗って旅をしてるって言うなら、知り合いでも変に思わないよ。でも飛行機乗って空の旅人って、なんか変なの、スピード競ったりしないの?」

「あぁ・・・・・・競ったりしない・・・・・・」

「フーン、中途半端な人だね、キミ」

「お前に言われたくねぇよ! お前こそ、そのフォックステイルっての、中途半端だろ!」

「そだね、正体バレバレだしね、あはは、中途半端同士だ。オレ、フックス。よろしく!レオン王子とは親戚関係なんだ」

「親戚!?」

「うん、母の兄の息子だから、レオン王子は――」

それってつまり、オイラもコイツの血が軽く流れてるって事か?と、そう思うと、ちょっとコスプレマニアの王子と血の繋がりがあるのは、嫌だなと笑顔も苦くなる。

「それにしてもお前の父親、ありゃ相当堅物だな」

「うん、ホント、嫌になる」

「ヤガラ一味から助けたとは言わねぇけどさ、でもちょっとくらい感謝しても良くないか? あのまま放っておいたら、やられてヤバイ事になってたのに」

「・・・・・・」

「うん?」

黙り込んだフックスを見ると、フックスは、

「やられないよ」

真顔で答えた。仮面を付けてないから、表情でわかる。それはハッタリでもなければ、冗談でもない。本気でそう答えている。

「やられない?」

聞き返すスカイに、

「やられる訳ないだろう、賊なんかに」

そう言われ、賊なんかにと言う台詞に、スカイはカチンと来る。

「あのなぁ!! 賊なんかにとはなんだ!! その賊に助けてもらっといて!!」

「キミが出しゃばる必要なんてなかったよ。助けられなくても、パパはみんなを守れた」

「・・・・・・ハッ! 結局はパパの味方かよ、ま、そりゃそうだな、パパだもんな、パパ!」

バカにしてそう言ったスカイに、フックスは、

「味方も敵もない。本当の事を言ってるだけだよ。パパは王だから、みんなを守る」

と、口喧嘩にもならない正論の台詞を返した。スカイはチッと舌打ち。

フックスはそんなスカイにニッコリ笑うと、

「でも助けてくれたのは嬉しかったと思うよ、オレは嬉しかった。さっきキャラメルあげたから、別のものあげるね」

と、手からチョコレートを出した。そしてハイッと手渡すから、

「なぁ、お前、昨夜、そのフォックステイル? って奴になって・・・・・・・他国の国の街で暴れてる賊達を――」

そこまで言うと、スカイは自分の手の中にあるチョコレートとキャラメルを見て、黙り込んだ。これは手品なのか、それとも――・・・・・・

「どんな仕掛けなんだ?」

「え?」

「種を聞いてんだよ」

「種も仕掛けもないよ、魔法だから」

「・・・・・・そうか」

スカイは頷き、聞かない方がいいかと思う。聞いたら、折角の魔法が解けてしまうかもしれないと、少しだけ夢を見られるこの国も悪くないもんなと思う。

「何? なんで笑ってるの? 今、オレ、面白い事なんもしてないよ?」

「あぁ、いや、魔法が解けたら、指名手配されちゃうかなってさ。ここは魔法の国だから、何も解けない方がいいのかなって思ったら、何も聞かない方がいいんだろうなって思ったんだよ、王様は嫌ってるが、賊連中は気に入ってるみてぇだからさ、この国」

スカイはそう言うと、チョコレートとキャラメルをポケットに入れて、

「それにしてもセルトの奴、どこ行ったんだ?」

と、セルトを探し始めた。

そのセルトは、フォックステイルの銅像を見つめていた。

この街にあるフォックステイルの銅像には、皆がコインを置いて行く。

願いが叶うなんて言われてる銅像で、コインを置いていけば、フォックステイルが願いを叶えてくれるなんて謂れがある。

銅貨が多く積まれている中、セルトは一枚の金貨を置く。

願いがある訳じゃない。

でも、セルトは時々、ここに来て、金貨を置いて行く。

「避けられてるのかな、ボクは――」

その声に、セルトは振り向いた。王が近付いて来る。

「キミに嫌われてるのかな。息子にさえも嫌われてるからね」

そう言った王に、

「・・・・・・少し厳しすぎるんじゃないですか」

セルトが言う。

「そうかな」

「あれじゃぁ、可哀想ですよ」

「うん。でも決めたんだよ。ボクはキミに出会って、決めたんだ。突き放す愛情も大切だって事。悪役もやらなきゃ、本当の正しい道に導いてやれない時もあるって事、キミが教えてくれたから」

「・・・・・・」

王が今、セルトの隣に立ち、セルトと一緒に銅像を見上げる。そして金貨に気付いた王が、

「セルト、やっぱりキミだったんだな、時々置いてある金貨、奇跡のコイン」

と、笑う。

「・・・・・・」

「どうしてボクを避けてるの? 来る時は、顔を出してほしいよ」

「・・・・・・アナタを見てると父を思い出して――」

「父親を?」

「似てるんですよ、アナタは俺の父に見た目が――」

そりゃそうだろうと、セルトの父は自分の父でもあるのだからと、王は思う。

だが、その事をセルトは知らない。

腹違いの兄弟だって事も知らないセルトは、

「アナタも知ってるでしょうけど、俺は父が大嫌いだった」

と、話し出す。

「でも俺は父の前では、とてもイイコだったと思う。そんな自分も大嫌いで、騎士である正義の姿を見せつける父に、俺は反抗したくて、でもできなくて、本当に父の前では言いたいことも言えなかったから、だから父親相手に大嫌いだなんて言えるフックス王子が羨ましいです。厳しくても、そこに愛がある事、フックス王子はわかってるんですよ。だからフックス王子はアナタを嫌ってない」

「そうかな。なら、セルト、キミはどうしてボクを避けてるの? キミのお父さんに似てるから?」

「似てるのは、見た目だけですよ。それに俺が父を恨んでたのはガキの頃で、今は・・・・・・多分言う程は恨んでない。寧ろ、感謝してる部分もあるんです。俺が強く逞しく育ったのは、父が鍛えてくれたからだった。そのおかげで、今の俺があるんですから。父は今の俺を認めないだろうけど」

そう言った後、別に認めてもらいたくはないけどもと笑う。そして、

「でも今の俺はアナタから見て、どうなんだろうって」

と、セルトは俯いた。

「どうって?」

「ガッカリ・・・・・・させるんじゃないかと思うと、怖くて、アナタに会えない」

「・・・・・・」

「別に父に認めてもらいたいとは思わない。父にガッカリされても構わない。だけど、アナタに認めてもらえないのはツライ。アナタにガッカリされたら、ちょっと、幾ら俺でも立ち直るのに時間かかるかなって・・・・・・自分の寒い冗談にも笑えなくなる」

そう言った後、

「俺のジョークに俺が笑えないって、それ、誰も笑わなくなるっつー事ですからね」

と、笑うから、王は、バカだなと、セルトの頭に手を伸ばし、まるで子供の頭を撫でるように、くしゃっと前髪を掻いた。そして、

「ガッカリなんてしないよ、キミはボクが憧れたフォックステイルそのものだ」

と、

「セルト、キミはフォックステイルだよ。ちゃんとフォックステイルを受け継いでるよ。キミの恐怖に支配されず死を恐れない強さはツナにそっくりだ、一人で何でもこなす所は天才的な器用さを持つカモメにそっくりだ、サードニックスのムードメーカーな所は皆の人気者のパンダにそっくりだ、世間で賊のレッテルを貼られても正義を貫く所は悪魔と言われても真っ直ぐに生きるシカにソックリだ、狼みたいな鋭い目付きをする所はリブレかな。そして、最後の最後まで、自分がどんな立場になろうとも、例え悪に思われても、それを演じ続け、やり遂げる所は初代フォックステイルにそっくりだよ――」

王はそう言って、セルトの腰に付けられたキツネの尻尾アクセサリーを見る。

「キミは、たった一人で、フォックステイル全員を受け継いでる」

「俺は初代を知らないし、アナタ以外のフォックステイルはよく知らない。だから褒められてるのは嬉しいけど、誰に似てるって言われるより、アナタに似てるって言われる事の方が嬉しいんだけどな。だって、俺の目標はアナタで、アナタを超える事だから。果てしない道のりと高すぎる山だけど・・・・・・フックス王子には負けたくない。まだ現役でやっていけるから、俺! まだまだやれます! アナタに近付ける迄! そんな自信ないけど、でも・・・・・・自信ついたら、ちゃんと会いに来ます、ガッカリさせない自信つけて、真っ向、会いに来ます! 父にソックリなアナタに何を言われても平気ってくらい自信つけますから、待ってて下さい」

「ははは、参ったな、ソレ、最高の褒め言葉だ。褒めたつもりが褒められるとはね」

少し照れたように、王はそう言うと、フォックステイルの銅像を見上げ、

「待ってる」

そう言った。そして、セルトも銅像を見上げた時、

「セルトー!」

と、スカイが走って来る。

王は振り向いて、そのまま、行ってしまうから、セルトは何もなかったかのように、

「んだよ、こんなとこまで追って来て、俺の女か、テメェは!?」

と、賊口調で怒り露わの顔でスカイに言う。

スカイは、横を通り過ぎていく王を横目で見て、そして、セルトに、

「何か言われたのか?」

そう聞いた。

「あぁ!?」

「あの王様に何か言われたのか?」

「何かって?」

「あの王様って、超ムカつくんだぜ!? 助けてやったのに賊に感謝しねぇとか言いやがってさ」

「フーン」

「ありがとうって言葉知らねぇんじゃねぇの? これだから王族ってのは嫌だね、お高く止まってさ。ま、あの王様の息子は面白ぇ奴だと思うけどさ・・・・・・」

「スカイ、お前はやっぱ賊にゃぁ向いてねぇな」

「は?」

「足洗って正解だよ」

「どういう意味だよ!?」

「いいか、お前にはもう関係ねぇ話だけどな、間違ってる考えを持ってるから、教えてやる。例え千の正義を貫いても、万の光を世に与えても、賊という傷跡はな、全て無効にするんだよ。賊ってのは、どんな正義も悪にする、そして光も闇にするんだ。その肩書きで生きるって事は、それでも構わねぇって、その信念を貫き、悪事を誇って生きるって事なんだよ。賊ってのは誰からも感謝されねぇし、感謝されるものじゃねぇし、誰からも認められねぇし、認められるもんじゃねぇんだ、賊が感謝されて認められたら世の終わりだよ、ガキが賊に憧れる日が来たら、世も末って事だ」

「・・・・・・セルト」

「当然だろ、俺達は人から奪うばかりで与える事は何もしやしねぇ。だから賊やってんだ。仲間だって明日にゃぁ敵になるかもしんねぇんだ。誰の事も信じられねぇし信じられる奴なんていやしねぇ。誰が好き好んで賊なんか信じるかよ。賊同士なら、余計にわかる。賊に信用なんてない。俺に裏切られた事のあるお前ならよぉくわかんだろ、そこんとこ」

「・・・・・・」

「俺達は同じ旗の下に集まった仲間だが、絆なんて、これっぽっちもねぇ。今、共に笑い、共に泣き、共に怒り、共に戦った同士だと思って、ナメてんじゃねぇぞ。賊は常に孤独だって事、忘れんじゃねぇぞ。誰にも頼れねぇんだ、甘えんじゃねぇぞ。ちょっといい事したからって褒められるとか感謝されるとか、勘違いすんじゃねぇぞ。ちょっと誰かを救ってみたからって救ってもらえると、期待してんじゃねぇぞ。賊が善意ある行動をしたとしても、そんなの只の気まぐれなんだよ」

「・・・・・・気まぐれ」

「お前は賊が正義だって思ってるとこあるから、そこんとこ、ちゃんとわからせといた方がいいだろうと思ってな。サードニックスは悪だぞ。無敵の悪を誇ってんだよ。俺達は絶対悪の存在なんだよ、人々からは忌み嫌われて、ガキ等は恐れて泣き喚く。それが、俺達が、この世界に映し出された姿で、俺達の存在なんだ」

「・・・・・・わかってるよ」

俯いてしまうスカイ。

だが、セルトは、そんなスカイに〝笑えよ〟とは言わない。

その代わり、セルトが笑ってみせる。いい笑顔で、空を見上げ、青空に深呼吸して、そして、フォックステイルの銅像を見る。

「いい国だよな」

黒い前髪を風で揺らし、爽やかな笑顔で言うセルト。

「え?」

「この国、いい国だよな」

「・・・・・・王から悪だって言われてるのに、いい国だって褒めるのか?」

「あぁ、だってよぅ、この国で救われた悪党共は大勢いんだぜ? なんせ、ここは魔法の国だ。賊達が普通に道を歩けるんだ。普通の人達と一緒に飯食ったりしてさ」

「そりゃ指名手配されてねぇし、ピリピリする必要もねぇから」

「あぁ、だからさ、悪党共は思い出すんだよ、自分が人間だったって事にな。絶対悪の存在って言っても、俺達は人間だからな。良心ってのが多かれ少なかれある。それを思い出させられたら、堅気になっちまうだろ」

「堅気に?」

「あぁ、俺達サードニックスの中にも、この国で堅気になって、働いてる奴っているんだぜ、お前まだ小さかったから知らないかもしれねぇけど、パン屋で働いてる奴とか、帽子屋やってる奴とかいんだぜ」

「パン屋!? 帽子屋!? 元賊なのか? しかもサードニックスが!?」

「まさに魔法だろ、化け物になった奴等を、魔法で人に戻しちまった」

そう言って笑うセルトに、スカイは、シャークが人を殺す度に痛みのない人間になる。

まさに痛さを感じない化け物となるのだと言っていた事を思い出す。

あの最強シャークも、この国に来たら、少しは痛みを取り戻すだろうか――。

「賊にもチャンスを与えてくれてんだ・・・・・・いい国だよ――」

「そうか、だから、あの王に厳しい事を言われても、サードニックスのみんな、何も言い返さなかったんだ・・・・・・あの王は賊達に対して、他の堅気のみんなと同じ扱いをしてくれてんだな・・・・・・突き放す態度は本当は手を差し伸べてて、厳しいのはそこに愛情があるからで・・・・・・見放すのは今の自分の姿を見直して欲しいからなんだな・・・・・・」

そう言ったスカイに、セルトは、理解したかと、嬉しそうに微笑んだ。

そんなセルトをジッと見つめ、

「少しだけ・・・・・・わかったような気がする・・・・・・・セルトの事も――」

と、スカイが言うから、俺の事?と、セルトが不思議そうに聞き返すと、

「セルトはオイラの事が大好きだって事! 嫌いになった事なんて一度もなかったんだって事! いつもオイラの事を想ってくれてたんだって事!」

と、スカイは、今日一番の笑顔を見せるから、言ってろと、セルトは呆れた顔をしたが、否定はしなかった。勿論、肯定もしないが――。

「――さて、帰るか。オヤジが寄り道してんじゃねぇって、そろそろ怒る頃だ」

「・・・・・・なぁ? セルトはキャプテンに興味ないなら、堅気になろうと思わないのか?」

「俺は元々正義だからな、堅気になる必要ねぇだろ」

「はぁ!? 賊は正義じゃないんだろう!?」

「ほら、俺も、ここの王子みたいにフォックステイルやってっから。実は裏でヒーローなんだ、見ろ、その証のシッポだ」

「それ、この国の土産屋なら、どこにでも売ってたぞ」

「あれ、バレてる?」

「ダサいんだよ」

「お前、フォックステイルマニアの俺に喧嘩売ってんのか?」

「オタクめ」

「あぁオタクだ! オタクの何が悪ぃ!? 俺はな、フォックステイルの絵本コンプリートしてんだぜ! 超面白ぇんだぞ! グッズもイロイロと持ってる! 俺のお宝だ! あのお宝だけは誰にも渡さねぇ! サードニックスが堕ちても死守すんぜ! どんな戦争になっても、あれだけは誰にも奪わせねぇ!! 俺がアレキサンドライトになった時も大事に箱にいれてアレキサンドの船に持って行ったからな!!綺麗に1つ1つ包装紙に包んでな!!!!」

「嘘だろマジかよ!? よくシャークが許したな!? つぅか誰もそれお宝だって思わねぇし、只のガラクタだろ、マジで有り得ねぇし、グッズとか、いい大人が何やってんだよ? それに絵本はガキの読むもんだろ、マジ有り得ねぇよ」

「つか、お前も買ってんじゃん」

「こっ! これは!!!!」

「実際、興味はあんだろ? お前がガキの頃、俺のフォックステイルの絵本を勝手に引っ張り出して来た事あってさ」

「え!? この絵本ってそんな前から出てんの?」

「あぁ、でも俺の超大事な絵本だから、お前から取り上げた。これだけは触んじゃねぇって激怒りしたら、泣きながらわかったって、それ以来、お前、絶対に絵本に寄り付かなくなって、本を読まないガキだったから、学のねぇバカに育っちまった・・・・・・」

「オイラが頭悪ぃのって、セルトのせいだったのかよ!?」

気が付いたら、この国の魔法にかかってるみたいなのに、堅気にならない理由とか、フォックステイルって本当は何なのか、そういう疑問が全部、頭の中から消えていて、只、セルトと二人でバカみたいに笑って歩いていた。

そしてオイラも、ちょっとだけ魔法にかかったかもしれない。

いや、ちょっとどころか、相当、かかったかもしれない。

フォックステイルを全巻コンプリートしようと思っている自分がいるからだ。

でも・・・・・・あのフックス王子みたいに、コスプレして、大道芸人みたいな攻撃と芝居染みた妙な動きで、悪党相手に戦いたいとは思わないけど。

やっぱオイラは中途半端と言われても空で自由に生きて行きたいしな――。


今は中途半端な世代なのかもしれない。

飛行機乗りになると言っていたカインは整備士になった。

ララは大して興味もなかったのに押されるがままに舞台女優になった。

あんなにサードニックスでいたかったシンバも今では飛行機に乗っている。

みんな、中途半端だけど、その分、将来への道が幾つか選択できる程広がっている。

それはある意味平和への道なのだろう。

嘗て、その扉を切り開こうとした者達が残した子供達への道。

正義でも悪でもない、中途半端だけど、平和な世界への扉。

だけど・・・・・・その道はその道で生きる者にとっては辛く、苦しく、険しいものだ――。

好きな事を貫き通せず、押さえられるような・・・・・・それに大人達は気付いているだろうか。

だが、いい大人に巡り会えれば、どんな世でも、子供達は光を持つ。

青い空のように――。


~Sky Pirates×Fox tail END~


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