Another Story From.DEAD OR ALIVE「Mysterious Thief」

ソメイヨシノ

Mysterious Thief


【今宵、マッグプリンスホテルにお泊りのガイス様のAngel Lipを戦利品として頂きに参ります。ついでに生活費となるものも頂きます。ブラックタイガー】

「これが犯行予告状。で、これが」

【ブラックタイガー参上。Angel Lipと現金、確かに頂戴いたしました】

「Angel Lipがなくなった後に置いてあったというカード」

ディアはそのカードをグッと握り潰す。

「アンタ達はどこを警備してたのよ! どこを! 大体、犯行予告まで出してくる馬鹿よ? もう事前にその犯行はわかってるっていうのに、どうして阻止できないのよ!」

「し、しかし、ディア捜査官。あの時、催涙ガスを浴び、涙が止まらなくて――」

「誰が言い訳しろって言ってるのよ! 催涙ガスくらい予測できないで、それでもPPPなの!?」

そうは言うが、ディアも涙が止まらなくて、部下に指令をちゃんと出せなかったのも事実。

「これでAngelシリーズがなくなったのは、何個目? このままじゃあ、PPPの名が汚れるわ」


ディア=ケイト。

彼女は女でありながら、PPPの捜査官である。

Protective Police People、通称PPP。

ソルジャーと呼ばれる人間達の組織、即ち警察。

この世界はDead Person、通称D.Pと呼ばれるアンドロイドと人間がいる。

PPPの仕事は様々あるが、その殆んどがD.Pの犯行を取り締まっている。

アンドロイドより弱い人間を守るのがPPPの仕事。

だが、突然現れた怪盗ブラックタイガーに、捜査は行き詰まっている。


ブラックタイガーが最近狙う獲物はAngelシリーズ。

別名、天使の瞳と呼ばれるサファイア〝Angel Eye〟

別名、天使の髪と呼ばれるトパーズ〝Angel Hair〟

別名、天使の頬と呼ばれるサンゴ〝Angel Cheek〟

別名、天使の唇と呼ばれるルビー〝Angel Lip〟


「次は何!? 〝Angel Tear〟? 〝Angel Wing〟? その2つの持ち主なら、もう調査済みよ! さぁ、来るなら来ればいいわ!」

鼻息荒く、ディアは吠える。

「大体気に入らないのは、戦利品って言う事よ! 盗みに入った戦利品って事でしょ、それが気に入らないのよ! 生活費ってなんなのよ! 只のコソ泥の分際で怪盗なんて言われてるのが、なんかムカツクのよ!」

「し、しかしディア捜査官。ブラックタイガーの御蔭で、銃を密輸している、あの影の謎のボスがガイスだとわかり、それに関わっている犯人達までロープで縛りあげてくれています」

そう、ブラックタイガーは今迄、悪人達から宝石や現金などを奪い、悪人達はPPPに渡していたのだ。 

ディアはあからさまに表情がムッとする。

「だからなに? ブラックタイガーは悪くないって言うの? 物を盗んでおいて? 大体Angelシリーズは、昔、世界の宝だったのよ! それに手を出すなんて悪党もいいところだわ! きっと昔もAngelシリーズが消えた時、ブラックタイガーが絡んでいたのよ!」

それは絶対にないだろうが、今のディアの思考回路は爆発寸前。

誰も止められない。

「大体、今迄たまたま指名手配中の犯人達の手にAngelシリーズがあって、Angelシリーズを盗みに入ったブラックタイガーの邪魔をした者達を縛っておいただけって事でしょう?」

と、ヒステリックな声を出す。

「そ、そうでしょうか。Angelシリーズは昔に全て闇に消えています。それが今、本物として世間に現れ始めた。しかもこの国だけに。何かあるんじゃないでしょうか?」

「うるさいわね! とにかく、涙も翼もどっちも渡さないわ。次こそは掴まえてやる! 怪盗ブラックタイガー!」


ここはトロイという村。

この村には孤児が沢山いる。

それと一人のDead Personがいる。

彼の名をチゴル。

別名、怪盗ブラックタイガー。


彼は最初に出会った御主人様の命令を今も尚、忠実に従っている。

いや、御主人様の後を引き継いだと言った方がいいか――。

彼の御主人様はトレジャーハンターであった。

世界中を飛び回り、トレジャーを探し求めた冒険家である。

彼はその冒険家のパートナーであった。

だが、御主人様が亡くなり、彼は一人となった。

やがて、世界は変わり、トレジャーハンターという仕事はなくなった。

それでも主人亡き後もトレジャーハンターを続けていたが、殆んどの宝は、もう美術館や宝石店などの中。

世界が変わり、彼は怪盗となった。


だが、彼は善人からは宝石を盗まない。

それはトレジャーハンターから怪盗となっても変わらない信念である。

今回Angelシリーズを盗んでいるには、訳がある。

元々Angelシリーズは、彼の御主人様が世界中で冒険した時の戦利品であった。

その時に、その宝石達の名前はなく、〝大きなサファイア〟〝大きなトパーズ〟〝大きなルビー〟などと呼んでいた。

宝石達は、近づけると輝きが増す、不思議な石だった。

そしてその宝石達は、只、一つを除いて、貧しい国に寄付された――。

その時に、国の者達が、国を救った宝として、敬意を込め、天使の名をつけたのだ。

Angelシリーズは、全部で7個ある。

その内の6個は、それぞれの国で保管されていたが、ある時、偽物と入れ代っていた。

6個、全て――。

誰が盗んだのか、摩り替えたのかさえ、わからず、事件は闇に葬られた。

今ではイミテーションとして、それぞれの国の美術館で飾られている。


もうすぐ御主人様の命日だ。

オレッチは御主人様の命日までに宝石を全て揃え、全て、元の国に戻す。

Angelシリーズは御主人様の戦利品だ。

それを盗んだ奴等は悪い奴等だ。

現に今迄、Angelシリーズを持ってた輩は、ろくな奴等じゃなかった。

嘗て、Angelシリーズを盗み出した奴等は、6人で組んでいたんだ。

そして調度6個ある宝石を6人で分けた。

宝石は先祖代々伝えられたんだろうが、今の持ち主が、いい奴等なら、オレッチは盗むのをやめようと思っていた。

だが、先祖が悪いと、子孫も悪いって事なんだろうか、ろくでもない奴等だ。

調べた所によると、Angel Wingの持ち主も、偽札作りをしているとか。

それにAngelシリーズを持った奴等がノコノコと、この国のミラクという街に現れたんだ。

それだけで悪い事をしている奴等だとわかる。

何故なら、オレッチは裏情報を流した。

『本物のAngelシリーズを持っている者へ告ぐ。ナツナの暦上でのアビヌスの月の日。7個目の天使の心〝Angel Heart〟はミラクに現れる。本物はAngelシリーズと共鳴する光を放つだろう』

と――。

どいつもこいつも貪欲な奴等だ。

謎と言われ続けた、その大きなダイアモンド、Angel Heartを、Angelシリーズの宝石を1つでも持っていれば、手に入れたいと思う筈。

それにオレッチが流したその情報は裏でしか流れない。その情報を得たというだけで充分、裏の世界に足を染めていると言う事。


【今宵、ラニダ様が美術館に一時保管の依頼をしたAngel Wingを戦利品として頂きに参ります。それと生活費なるものを頂きます。ブラックタイガー】


そう予告状を出し、いつものように、チゴルは黒装束に身を包み、ブラックタイガーとしてミラクへ出向いた。

別名、天使の翼と呼ばれるエメラルド〝Angel Winrg〟

持ち主ラニダは、もう4つのAngelシリーズがブラックタイガーによって盗まれているのを知り、美術館に保管してもらう事にしたのだ。

もうAngelシリーズが消えたのは遥か昔の事。

先祖が盗んだ物だとしても、子孫に罪はなく、とっくの時効となっている。

だから堂々と美術館に保管を依頼できるって訳だ。

PPPには連絡しなくても、勝手にブラックタイガーが予告状を出してしまっている。

だから美術館の周りはPPPだらけ。


「大体、PPPって言ったって大した事はないんだよなぁ。オレッチはD.Pで、PPPは人間。普通、人間がD.Pに敵う筈もないし。それに、オレッチにはD.Pって特典の他に、エンテさん地込みの科学技術があるって訳。だからこんな赤外線、仕掛けたって、全然、余裕なんだよなぁ」

D.Pの身のこなしと、赤外線スコープで、あっという間にAngel Winrgの元へ辿り着く。

この国の科学班のメンバーであるエンテという女性は、嘗て、トロイの村で、D.Pの医者をしていた。

メカトロニクスの天才であるエンテと暮らしていた事もあるチゴルだ。

怪盗の道具の発明品くらい、簡単に作ってしまう。

Angel WinrgにAngel Heartを近づけると、輝きが増した。

「共鳴している。本物だ!」

後は金庫からお金を奪うだけ。


【ブラックタイガー参上。Angel Winrgと現金、確かに頂戴いたしました】


今夜もディア捜査官の怒鳴り声が響いた――。


残るは別名、天使の涙と呼ばれる真珠〝Angel Tear〟


「チゴルにいちゃん」

トロイの村に帰ると、男の子が一人起きていた。

「何やってるんだ? シン、もう寝ないと駄目だろ?」

「ん、かくれんぼしてたんだ」

「かくれんぼ?」

「お昼に、みんなでかくれんぼしたんだ。でもまだ見つかってないんだ」

「ずっと隠れてたのか? 馬鹿だなぁ。もうみんな寝てるよ」

「そっか。チゴルにいちゃんはなんでそんな真っ黒けな格好してるの?」

「あ、いや、これは、最近流行りの怪盗のコスプレだよ」

「ふーん。ブラックタイガーだね!」

「そうそう」

「ブラックタイガー、凄いね、この前も悪者縛り上げちゃって! 僕、ブラックタイガー大好き!」

「そうだね。さぁ、もう寝ようね」

「うん!」

シンは無邪気に頷いた。

トロイの村は子を捨てる為にあるようなものである。

皆、子供を生んだはいいが、育てられず捨てる者がいる。

チゴルはD.Pだから、そんな人間の気持ちはわからないが、こうして子供達といると、絶対に守ってあげなければという気持ちで一杯になる。

だから余計に子を捨てる人間の気持ちはわからない。

トロイの村を巣立って行った子供達は、時々、お金を寄付してくれるが、自分達の生活で一杯一杯なのだろう。

それだけじゃ足りない程、ここには子供が多くいる。

子供が子供の面倒をみているようなものだ。

そんな子供達に、チゴルは、せめて、不自由なく物を与えてやりたいと思っている――。


次の日のニュースに、チゴルは驚く。

Angel Tearが昨夜、Angel Winrgと共に盗まれたと言うのだ。

しかも、Angel Tearの持ち主はブラックタイガーに殺されたと――。


<ブラックタイガーは殺しはしないと思っていました。しかも予告状もなく、Angel Tearを持ち去ったのです! 予告状はなかったのに、盗んだ後にはカードを態々置いて!>


ディアはテレビで、インタビューにそう答えている。


<ブラックタイガー! 確かにAngel Tearの持ち主は指名手配中の男だったわ。だけど殺してもいい訳ではないのよ! ブラックタイガー、あなたはこれで完全な悪よ!>


ディアはニュースを見てるであろうブラックタイガーに向けて、そう吠えている。

「えー、ブラックタイガーって悪い奴だったんだー」

「なんかカッコいいなって思ってたのになー」

「そうだよねー、なんかショックだよー」

ニュースを一緒に見ていた子供達はそう言いだして、思わず、

「ブラックタイガーはやってないよ!」

と、チゴルは大きな声を出してしまった。

子供達は皆、チゴルを見る。

「あ、いや、だって、ほら、なんかおかしいじゃん。きっとブラックタイガーの偽者だよ」

「そっかー」

子供達は単純で、すぐに頷いたが――。


偽者って誰だよ・・・・・・。


チゴルはブラックタイガーの偽物にも悩んでいたが、Angel Tearがどこに行ってしまったのか、それもわからず、頭を抱え込んでいた。

するとバラバラと空から音が降って来た。

ヘリコプターだ。

そして空からヒラヒラと落ちて来る紙――。

拾い上げ、見ると、

【今夜、ミラクの図書館にAngelシリーズを全て持って来い。来なければ、空から村に爆弾を落とす。ブラックタイガー】

と、書かれている。

「なんだよ、ブラックタイガーって! オレッチの他に誰がブラックタイガーって名乗ってるんだよ! くそっ!」

「チゴルにぃちゃん、あのね、あのね、シンくんが――」

子供達が何か口々に言って、纏わりついて来るが、今は、構っている暇はない。

「ごめんなー、ちょっと出掛けるから、一番上のおにいちゃんとおねえちゃんと遊んでるんだぞー」

チゴルはそう言うと、うちの中に立てこもり、作戦を練った。


夜――。

ミラクに現れる黒い影。

ブラックタイガーだ。

ミラクの図書館は大きい。

中庭もあり、カフェもある。

そんな図書館のどこで待っていればいいのだろう。


チゴルは裏からまわり、そっと図書館内部に入り込んだ。

コツコツコツと足音が響く。

1階には誰もいない。

2階へ行くと、やはり誰の気配もない。

3階――。

チゴルが3階に足を踏み入れた途端、建物全体にパッと灯りが点いた!


「シン!」

思わず、目の前にいるシンに声をあげる。

シンを片手で掴んでいる黒装束を身に纏った者。

チゴル同様、似た格好で、顔まで黒い布で纏っている為、男か女かさえ、わからない。

その後ろから現れる、一人の老人。

「キタナ、ブラックタイガー。サァ、エンジェルシリーズ、ワタスネ」

その老人の喋り口調が、無理矢理この国の言葉を喋っているように聞こえる。

恐らく、海を越え、やってきた外の者。

チゴルが流した裏情報を聞き、やって来たのだろう。

「お前等か! ブラックタイガーの名を勝手に名乗って、Angel Tearを奪ったのは!」

チゴルが吠えると、老人は汚い歯を出し、ニィッと笑った。

「ケイカクハ、ジュンチョウダ。アトハオマエカラ、エンジェルシリーズヲモライ、オマエヲ、ジサツ二ミセカケ、コロスダケネ! フタタビ、エンジェルシリーズハ、ヤミ二キエル。ダガ、ワタシノテノナカダガナ」

「シンは関係ないだろ!」

「シン? ナンダソレハ?」

「そこにいる子供だ!」

「ハハハ、ケサ、ムラヲナキナガラトビダシテキタトコロヲ、ツカマエタンダヨ」

「泣きながら?」

「ブラックタイガーハ、ワルクナイッテネ!」

「シン、お前、ニュース見て、それで、泣いてたのか?」

「ソウミタイネ! ダカラ、ブラックタイガーにアワセテアゲルトイッタラ、ヨロコンデツイテキタネ!」


だから子供達はオレッチに纏わりついて来てたんだ。

シンがいないと教えてくれようとしてたんだな。

なのにオレッチ――。


「Angelシリーズは持って来た! シンを離せ!」

チゴルは宝石を出し、老人に見せた。

「ヨシ、ソレヲ、ユカニオケ! ソシテ、ソノバカラ、3ポハナレロ! ソシタラコドモハ、カエシテヤル」

チゴルは言われた通り、宝石を6個、床に並べた。

Angel Heart。

唯一、トロイの村に残したダイア。


オレッチの御主人様が名付けたHeart。

世界に寄付した宝石達が天使の名を貰い、それで、これもAngel Heartとなった。

ごめんな、御主人様。

オレッチ、トレジャーハンターとしてもやってけなくて、怪盗になっても、この様で、挙げ句の果て、大切な村の宝まで奪われてしまうよ。

だけど、シンはオレッチにとって、どの子供よりも一番大切なんだ。

オレッチのダチに似てるから。

赤い帽子被った、おかしなシンバってD.Pに似てるんだ!

だから、オレッチは赤ちゃんで捨てられているアイツに、シンバの名前をとって、シンと名付けた。

オレッチはアイツを助けたい!

勿論、他の子供達が捕らえられていても、オレッチはこうするだろうけど。


チゴルは、1歩、2歩、3歩、宝石から離れた。

その時、

「ブラックタイガー!!!! 駄目だよ!!!! 諦めちゃーーーー!!!!」

シンが叫んだ。

「僕も、宝石もブラックタイガーが助けてあげなきゃ駄目でしょーーーー!!!!」

「ウルサイネ! ダマラスネ!」

老人がそう言うと、黒装束を身に纏った者が、シンを離し、シンの頭上で手を上げた!

ビクッとし、しゃがみ込んで、シンは叫ぶ。

「助けてぇぇぇぇーーーー!!!! ブラックタイガーーーーー!!!!」

その声に反応するチゴルの心。

今迄にないくらいの漲るパワー。

気がつけば、黒装束の男を殴り、シンを肩に抱いていた。

「ナ!? モシヤ、オマエハD.Pナノカ!? メイレイ二、カビン二ハンノウシタナ!」

「・・・・・・そうだ。だが、お前が連れているソイツもD.Pだな。殴ってわかった」

「ワタシノペットダ」

「ペット!? 未だにペット扱いされてるD.Pがいるのか。お前の国はこの国より平和じゃないな」

チゴルはそう言うと、シンを下ろし、

「宝石持って、外で隠れて待ってるんだ」

と、言った。

「でも、ブラックタイガーは?」

「大丈夫、偽者ブラックタイガーをPPPに引き渡さないとな!」

そう言うと、シンはにっこり笑い、頷いた。


シンが宝石を持って、行ってしまうと、チゴルは、老人を睨んだ。

「お前は殺人でPPPに逮捕される。この国では、D.Pだけでなく、D.Pに命令した者も裁きを受ける! それだけじゃない! オレッチの可愛い子供達にまで危険を及ぼす所だった。その中でも、シンは恐怖を味わった! お前達は許さない!」

「フッ、ワタシノペットトヤルカネ? ワタシノペット、ノブナガハ、フツウノD.Pトチガウヨ! セイゼイガンバルネ!」

老人はそう言うと、偽者ブラックタイガーの後ろへ身を隠した。

偽物ブラックタイガー、ノブナガは、何と、長い剣を取り出して来た!

「剣!? 剣を扱うのか!?」

少し驚いたものの、チゴルは、直ぐに、

「ふーん、やっぱいるんだな、そういうD.Pって」

と、納得した。

当たり前だ、チゴルの仲間であるシンバというD.Pは剣を持っていたのだから。


ノブナガは俊敏な動きで、チゴルを襲う。

「ホッホッホッホッホ、ノブナガハ、サムライニンジャネ!」

老人がそう言って笑っている。

「サムライニンジャ? なんだそれ? D.Pじゃ駄目なのかよ!」

と、チゴルは、ノブナガが剣を振り切った一瞬、顔面に頭突きを食らわした!

だが相手もD.P、痛さなどないのだ、攻撃を受けても、ダメージ0と言った感じだ。

「ヤベっ!」

接近しすぎて、剣の刃がかする。

チゴルの腕に少し刃が入り、そこから電流が出る。

剣を左右に振りまわす、ノブナガに、チゴルは後退するしかない。

「くそっ! どうしたらいいんだ! このままじゃ・・・・・・」

このままではやられてしまう。

壊され、スクラップになるだけじゃない、宝石は盗られ、シンは殺され、村の子供達は――。

「ホーッホッホッホッホッホッ!」

老人の嫌な笑い声が図書館に響く。

チゴルは高く飛び上がり、棚の上に乗った。

そして、2階へ逃げる。

「ノブナガ、ニガスナ!」

その老人の命令に従うノブナガ。


2階で、棚の影に隠れ、チゴルはノブナガの様子を伺う。

ノブナガは慎重に、前後左右を何度も見ながら、歩いて来る。

そして、今、目の前を走る影に、ノブナガが、駆け出そうとした瞬間、足元のトラップに引っ掛かる。

ロープで足首を縛られ、宙ブラリになるノブナガ。

自慢の長い剣も床に転がった。

「へっへーん、オレッチの御主人様はな、冒険家で、自分より大きな動物をこうやって捕まえたもんだ」

などと言っている場合ではない、それくらいのトラップ、D.Pなら直ぐに抜け出してしまう!

チゴルは急いで、ロープでノブナガの体中をグルグルに縛り上げる。

「これ、無理に引き千切ったら、電流流れるから。PPPが持っているD.P用の手錠のロープ版だよ。だから無茶しないでね」

だが、ノブナガはそれを引き千切ろうと始めた。

「嘘! やめろよ! お前、壊れるぞ!」

「ノブナガハ、ワタシノメイレイヲキク。タトエ、コワレテモネ!」

階段の上から老人がそう言った。

「マジかよ・・・・・・」

どうやらマジらしい。

「やめろ! お前、マジで壊れちゃうぞ!」

だが、やめろというチゴルの命令はノブナガの心には届かないようだ。

チゴルはノブナガの長い剣を持ち、ロープを切った!

切った衝撃で、ロープに仕込まれた電流が剣を通って、チゴルの腕まで流れる。

すぐに剣は離したが、バチバチと両手に火花が散り、右腕はショートした。

「ホォ、オモシロイネ! テキトナルモノヲタスケルノカ!」

ノブナガは、床にゴロンと転がったものの、ショートして動けないようだが、壊れきってはいないようだ。

それを見て、チゴルはホッとする。

そして、老人をキッとにらんだ。

「ヤメトイタホウガイイネ! イマゴロ、ワタシノブカガ、サッキノコドモヲミツケダシテイルネ!」

老人がそう言うが、チゴルはニッと笑い、

「それなら大丈夫だよ。なんせシンは村一番のかくれんぼの天才だから」

そう言った。

老人のポケットに仕舞ってあるトランシーバーが鳴り、子供がみつからないと慌てた声が聞こえた。

「さぁ、オレッチにボッコボコにやられちゃうか、素直にお縄につくか! 言っとくけど、オレッチは老人だからって手加減はしないからな! 悪い奴には御仕置が必要だからね!」

老人は素直にお縄についた。


PPPがサイレンを鳴らし、図書館に集って来る。


【Angel Tear、確かに頂きました。今宵は、生活費となるものがなさそうなので、他はなにも盗らず去ります。偽者ブラックタイガーに注意! ブラックタイガー】


そう書かれたカードに、ディアは、

「ほぉら、やっぱりね、偽者だと思ったのよー」

などと言い出し、老人達を連行した。


月日は流れ、イミテーションとして飾られていた筈のAngelシリーズが本物になっていると言うニュースが流れる。

世界中で怪盗ブラックタイガーの仕業だと盛り上る。

テレビ特集などは、謎の怪盗ブラックタイガーで持ちきりだ。


そして子供達の中で流行っている遊びがブラックタイガーゴッコ。

勿論、トロイの村の子供達もブラックタイガーゴッコがブーム。

「チゴルにぃちゃん! 悪者やってー!」

などと言われ、チゴルはブラックタイガーになった子供達にやられる悪者をやらされる。


「うひゃー、やられたー!」

「はーっはっはっはっは、悪者め! 参ったかぁ!」

「参りましたぁ!!!!」

「じゃあ、おやつは頂くぜ!」

そんな子供達に、オレッチ、ブラックタイガーになったら、あんななのかなぁと悩むチゴル。

「チゴルにぃちゃん!」

「ん? シンもブラックタイガーゴッコか?」

「あのね、あのね、僕ね」

「うん?」

「ううん、やっぱり内緒! でもね、チゴルにぃちゃん、ブラックタイガーに似てて、だぁい好き!」

シンはチゴルに抱きつく。

抱き返せないD.Pのチゴルは、シンの頭をポンポンと軽く叩く。


あの夜――。

〝シンくん、ブラックタイガーに出会った事は誰にも言っちゃいけないよ?〟

と、約束したのだ。


「チゴルにぃちゃーん、早く悪者やってよー!」

「おう! よし、じゃあ、来い、ブラックタイガー1、ブラックタイガー2、ブラックタイガー3、ブラックタイガー4め!」

「僕も混ぜてー!」

「よし、じゃあ、ブラックタイガー5、お前も来い!」


御主人様、Angelシリーズは、全て元に戻せました。

あの頃、子供達に大人気だった冒険家。

御主人様も、こうして子供達に真似られていましたね。

オレッチはトレジャーハンターじゃなくなったけど、少しだけ、御主人様に近づけたように思えます。

「チゴルにぃちゃーん!」

「おう! 来い! ブラックタイガー11め!!!!」

怪盗ブラックタイガーの人気は当分、続きそうです――。


~Mysterious Thief END~

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