Another Story From.DEAD OR ALIVE 「Little Lady」

ソメイヨシノ

Little Lady


Survive――。


「お前達、依頼が来ているんだが、頼まれてくれないか?」

ハーンがそう言った事に、パインもヴォルフも眉間に皺を寄せた。

頼まれてくれないか?その台詞だ。

いつもなら、依頼が来ている、その後、仕事内容に入り、こちらにNoと言わせないのがハーンだ。

「また殺しですか?」

パインがそう尋ねた。

「いや、そうじゃない。もっと面倒な仕事だ。実はある病院に入院している女性の話し相手だ」

それを聞いたヴォルフは無言で部屋を出て行った。

「やはりな。やってくれる訳がないよな。お前達はこの組織の中でもトップだ。こんな仕事は引き受ける訳がないよな」

「やってもええですよ」

「ホントか? パイン!」

コクンと頷くパイン。

パインは殺しはした事がない。

それは殺しの依頼が来ても、全てパートナーとなるヴォルフに任せるからだ。

その代わり、ヴォルフがやりたがらない仕事はパインがやる。


「彼女の名はウェンディ。実はな、この仕事、下っ端の奴等に任せてみたんだが、追い返されたんだ」

「追い返された?」

「ウェンディに条件を出されたらしい」

「条件?」

「身長は高く、スレンダーであり、尚且つ、美形でなければ駄目であると」

「ほならD.Pなら、略、どれでもその条件に合うんちゃいますか? どこにブッサイクな面持ったD.Pなんて創られとるんすか、おったら是非、俺が会ってみたいくらいですわ」

「そりゃそうだが、好みというモノがあるようでな。全員、追い返されたんだ」

「ワガママな姫やな」

「その通りだ。そのワガママ振りに皆、依頼を拒否して来たんだが、多額な報酬がもらえるんだ。簡単に諦める額ではないから困っている。でもお前とヴォルフが駄目なら諦めるしかないと思っていた」

「俺一人やったら駄目なんスか?」

「いや、どちらかと言うとクールな奴が好みらしいから・・・・・・」

「・・・・・・なるほどなぁ」

「そうだ、お前、余り喋るな!」

「・・・・・・失敬やな。そやけど、話し相手ほしいんなら喋った方がええんちゃいますか?」

「そうだが・・・・・・」

「・・・・・・」


ミラクセントヨハネ病院――。

「意外やったなぁ」

「なにがだ」

「お前が素直に俺の言う事聞いて、この依頼を受けたっちゅうんが」

「いつもなら、こんなふざけた仕事はしないと怒るからか?」

「いや、怒るっちゅうか、ダダこねるっちゅうか」

「馬鹿言え、それはお前だろ。人も殺せないで、何がD.Pだ」

パインとヴォルフは話をしながら入院部屋に向かっていた。

何気ない話だが、やけに視線を感じているのを二人感じていたが、それは口には出さない。


白いドアの前、パインがノックするが、返事がない。

「検査とかでいないんじゃないか?」

ヴォルフがそう言うが、パインはドアを開けてしまった。すると、

「勝手に入って来ないでよ!」

と、枕が飛んで来る。

枕は簡単に受け止めたが、依頼者が子供に驚く。

「な、なんや、ガキやないか、ハーンさん、女性言うとったのに」

「失礼ね! レディに向かって何よ! クビよクビ! さっさと違う人に変えてもらって!」

そう吠える女の子に、パインとヴォルフは見合って笑う。

「何がおかしいのよ!」

おかしいのではない、D.Pと言わず、〝人〟と言った事が嬉しいだけなのだ。


「ウェンディ王女」

そう言ったパインに、

「お、王女? 私が?」

と、ウェンディは途惑う。

「ウェンディ王女、我々共が御気に召しませんでしたか? 確かにコイツは仏頂面ですが、命令に忠実な僕でこざいます」

そう言って、パインはベッドの横に跪き、ウェンディの小さな手の甲にキスをした。

「よくやるよ・・・・・・。っていうか、誰が仏頂面の忠実な僕だ」

と、ヴォルフは辺りを見回し、他に誰もいない事を確認し、俺かと悟る。

「気に入ったわ!」

ウェンディがニッコリ微笑み、そう言うと、ヴォルフが、

「ガキは単純でいい」

と、呟いた。


単純というよりも、なにやら、パインはウェンディの扱いがとてもうまい。

まるで今さっき会ったとは思えない程だ。

仲良く楽しそうに話している。

その話を黙って聞いている事しかできないヴォルフ。

ヴォルフは溜息を吐きながら、邪魔者にならないように病室を後にした。

「大きな病院だなぁ。中庭も広そうだ。俺達D.Pには縁のない場所だ、少し見学でもするか」

病院など来た事がないヴォルフは散歩してみる事にした。


中庭は木々もあり、小さな噴水まである。

ちょっとした公園のようだ。

「ヴォルフ」

「子守りは終わったのか?」

駆けて来たパインにそう聞くと、

「いや、検査に行ってもうたからな」

と、そう言って笑顔を見せたが、ヴォルフはパインのいつもの表情に違和感を感じる。

「どうした?」

「何がや?」

「いつもの表情を作ってるようだから聞いてやってるんだ」

「なんやソレ」

と、パインは笑う。

「ウェンディなぁ、足が動かんねと」

「らしいな」

「生まれつきらしいわ」

「あぁ、お前等の話を聞いてたから知っている」

「しかもお金持ちのお嬢さんらしいわ」

「そうだろうな。だからどうした?」

パインは空を見上げる。

「なぁ、ヴォルフ」

「なんだ?」

「お前、この世に目覚めた時から、最初に出会った御主人様の事、覚えとるか?」

「何の話だ」

「どうやら俺のメモリーにまだそんな古いもんが残っとったらしいわ」

「初めての主人の記憶か?」

「ああ。もうとっくに削除されとると思ったんやけどなぁ」


俺の最初の御主人様は小さな女の子やった。

足の病気で、車椅子が足やった。

彼女には人間のメイドだの、護衛だのが仰山おった。

その中でD.Pは俺だけやった。

親がおもちゃ変わりに俺を与えたんや。

ほんまワガママなお嬢さんでなぁ。

気の強さも抜群やった。

彼女の命を狙う奴等がおったんや。

そりゃそうや、彼女は一人娘。

足の病気やって言うても命に別状はない。

親の後継者は彼女と決まっとった。

彼女さえおらんようになれば、後継者になれる輩は仰山おった。

血の繋がった親戚中から、殺し屋が雇われたりしとったんや。

彼女、気ぃ強いから、助けてとか吠えたりせぇへんねん。

〝やるならやればええやん!〟

てなもんや。

それで、ある日、誘拐されてなぁ。

それを救出したんが・・・・・・。


「お前だろ?」

「話を折るなや!」

「ありがち」

「黙って聞けや!」


車椅子もどっかいってもうてなぁ。

俺が彼女をお姫様抱っこしてなぁ、屋敷に戻ったら、両親共、ほんま嬉しそうに泣いてなぁ。

無事を祈っとったんやろなぁ。

それから俺の株もますます上昇ってなもんで、扱いが良かった!

まぁ、何されても痛さがないD.Pやからなぁ、扱いなんぞ、どうでもええねん。

ほんまに嬉しかったんは、彼女が俺に心を開いてくれた事やったんや。

〝やまあらしみたいやね、髪〟

彼女はそう言うて、俺に、

〝やまあらしってポーキュパインって言うんや。これからはそう呼ぶから〟

言うてな、名前をくれたんや。

それから俺は、

〝おい、アンドロイド〟

やとか、

〝おい、マネキン〟

やとかは呼ばれんようになって、

〝パイン〟

そう呼ばれるようになったんや。

ヤキモチ妬きでなぁ、俺がメイドの女とちょっと話しただけで、俺の腕引っ張って、メイドと離そうとすんねん。

プクーっと頬膨らませてなぁ、可愛いかった。

せやけど、気付いたら、彼女は子供から大人へ成長しとったんや。

彼女は決められた結婚に悩んどった。

何度も相談された。

相談された挙げ句、

〝どうしてわからんの! 私が誰と結婚してもいいって言うん!? こんな足が動かん女と結婚する男なんて、お金目当てなんや! 愛がないんやで!〟

って怒られてなぁ。

俺にどないせぇっちゅうねんって思ったよ。


「そうだな、愛を語られても、愛を知らないD.Pには無理な話だ」

「抱き上げれても、抱き締めたる事もできへん。そやのに、俺は彼女と結婚したかったんや」

「マジかよ」

「多分な。でもそういう感情がわからんかった」

「当然だろ」

「若かったんやなぁ」

「そういう問題か? D.Pだからだろ。というか、お前のそのフザけた田舎方言口調も最初の地の影響かよ」

「若かったんやなぁ」

「・・・・・・」


結局、彼女は結婚してもうた。

俺は結婚式で彼女を奪う訳もなく、アホ面でウェディングドレス着た彼女を見とったよ。

もう車椅子を引くのは俺やない事に自分の存在理由を考えたりしてなぁ。

若かったなぁ、俺。

彼女がな、結婚式の前に、俺を呼び出したんや。

車椅子に座った彼女は純白に包まれとって、俺に、

〝パイン、キスして〟

そう言うた。

そう言われてもなぁ、キスってどうしたらええねん?

唇と唇が触れ合う力はどれくらいなん?

そんなん考えとったら、

〝早く! これは御主人様の命令やで!〟

って言われたんや。

俺はしゃがみ込んで、彼女の肩を持とうとして、持てんかった。

抱き抱えるならええねん、彼女が俺の腕の中におるだけならええ。

でも俺の方から力を入れて、柔らかい人の体に触れる事がわからん。

俺等みたいに頑丈やない。

力加減がわからんのや。

まだ手の甲のへのキスなら挨拶や礼儀として、大体の力加減がわかるんやけどな。

唇ってなると、ほんま、全くわからん。

データーがないねんな。

目を瞑ってキスを待ってる彼女に、俺ができたんは、立ち尽くす事だけ。

彼女の目がパチって開いて、

〝パインなんて大嫌いや。あんたなんか愛の知らんマリオネットや!〟

かなり痛かったなぁ。

それから俺は屋敷の中で、彼女と一緒におる事が少なくなってなぁ。

彼女の旦那の護衛とかしとったなぁ。

気がつけば、彼女はおばあちゃん。

孫にも恵まれてなぁ。

子守りしたもんや。


「足が悪くても子供は生まれるのか」

「アホか! 生殖機能がないんちゃうわ! 足が動かんかっただけや!」

「ほぉ。それでやれるのか」

「下品やな、お前! 俺の思い出を!」

「・・・・・・」


彼女は俺に近付かんようになって来た。

俺の事が嫌いになったんやろかって思うて悩んだが、

〝もう私はしわくちゃのおばあちゃん。あなたはいつまでも若いまま〟

って言われて、そんなん気にしとったんかって安心したもんや。

俺が嫌いになったんやない、自分の姿に悲しんでたんや。

旦那は多忙でな、彼女が亡くなった日も屋敷におらんかった。

俺が彼女の最後を看取ったんや。

しわくちゃな手で、俺の手を握ってなぁ。

最後やのに、握り返す力さえわからんままで、俺は握り返せんかった。

ほんま、しわくちゃやねんで。

でもな、めっちゃ可愛く思えてなぁ。

誰にも見せたくない、俺だけに、見せてほしい顔やって思ったんや。


「ババァにか?」

「ババァにや」

「ほぉ」


最後の最後に愛おしいって感情を教えてもらったんや。

結局、彼女がどんなに歳いっても、俺の目には、若い時のまま見えててなぁ。


「都合のいい目の創りをしているな。もしくは不良品の目玉なのかもな」

「何言うてんねん! お前、愛よ、愛!」

「D.Pが愛なんてわかるのかよ。ま、思い出はなんでも美しいものだ」

「アホ! ほんまに彼女は奇麗やったんや!」

「それで?」


結局、俺は彼女に惚れてたって事や。

彼女がおらん事に、俺がどんだけ凹んだか。

その後の貪欲は御主人様は老人やった。

直ぐ亡くなって、また違うご主人に拾われ――。

人間っちゅうんは、いつか死んでまう。

それは俺等が守りきれんかった訳やない。

そやけど、みんな、D.Pを雇ってても、そのD.Pは役に立たず、主人を死なせたってな。

仕舞いにゃぁ、行く所もなくなって、迫害や。


「そうだな、みんなそうやって今の組織にいるんだろ」

「悲しい話やなぁ、しゃあないやんけ、人間には寿命があんねんから。それを死なせた言われてもなぁ。俺が守れんかったんは最初の御主人様だけや」

「最初も寿命だろ?」

「や、結婚させてもうた」

「・・・・・・いいじゃないか。結果、孫までできたんなら、そこはそれで拘るなよ」

「俺なぁ、最初の御主人様に感謝しとんねん。いろんな感情教えてもろうたから」

「・・・・・・」

「お前、感情あんまりないけど、ええ御主人様に巡り会わんかったんやろ」

「ほっとけ」

「ヴォルフっちゅう名前は誰がつけたんや」

「覚えてる訳ないだろ」

「俺は覚えとったで?」

「一緒にするな」

「でもウェンディに会う迄、すっかり忘れとった。いや、覚えとったけど、こんな鮮明に思い起こす事はなかったからなぁ。これから壊れん限りの長い月日、この大切なメモリーデータ―も消えて行くんやろなぁ。お前とこうして思い出語った事も消えるんやろうな」

「で、ウェンディに惚れたのか?」

「アホか、まだ7歳の子供に惚れるか!」

「そりゃそうだ」

そう言って、ヴォルフは鼻で笑う。


「あの! あなた方、ウェンディ・ピーターのお見舞いに来た方ですよね!」

と、看護婦が走ってやって来た。

思い出に懐かしんでいる暇はなさそうだ。

「そうですが、何か?」

ヴォルフがそう言うと、

「ウェンディがいないんです!」

と。

「若い医者が検査や言うて連れて行きよったで?」

「検査は午前中で終わっています!」

それを聞いて、パインとヴォルフは、しまった!と顔を見合わせる。

病院内で視線を感じていた事を迂闊にも忘れていた。


病院を出て、二人、別れて走り出した。

ヴォルフはこの辺りの聞き込み。

パインは情報屋に聞きに。


「ちょっといいかな」

ヴォルフは、病院の向かいの広場でスケボーをしている少年達に声をかけた。

「この辺りで不審な車、見かけなかったかな? ずっと停まってたとか、急スピードでいきなり動いたとか」

少年達は顔を見合わせた後、一人の少年が、

「おにいさん、PPP?」

と尋ねて来た。

Protective Police People、通称PPP。

ソルジャーと呼ばれる人間達の組織、即ち警察だ。

ヴォルフは迷ったが、手の甲のシールを剥がし、

「俺はD.Pだ」

と、極印を見せた。

「D.P!?」

子供達は大声をあげ、ヴォルフは面倒そうな顔をする。

「見たのか? 見てないのか? どっちだ?」

ヴォルフの声色が苛立ちを表している。

「車は見てないけど、D.Pなら見たよ」

――D.P!?

「病院から女の子抱えた奴が屋根の上に飛んで行ったんだ」

「そんな事できるのD.Pくらいしかいないよね」

「僕達何かの事件の始まりかなって話してたんだよね」

「だからさっき、おにいさんにPPP?って聞いたんだよ」

少年達がそう話してくれる中、ヴォルフは考え始める。

――D.Pが雇われたのか?

――と、言う事は俺達Surviveの組織の者じゃなければ、ReviveのD.Pが動いているって事だ。

――面倒な事になってきた。

――だが、大体、D.Pを雇った主がわかってきた。

――おかしいと思ったんだ、話し相手くらいでD.Pを雇うなんてな。

――これは護衛と見せかけた、罠だ。

――D.Pのバトルに巻き込ませ、姫を葬るつもりか?

――だが、姫は運が良かったようだ。

――なんせ、来たD.P全て追い返し、俺達に依頼を申し付けたんだからな。

「で、そのD.Pはどこへ向かって行ったんだ?」

ヴォルフの表情に余裕がある。

負けを知らない表情だ。

少年達は皆、東の空を指差し、

「あっちへ行ったよ」

そう言った。

屋根の上を飛んで、東へ向かって行ったと言うことだろう。

「協力、どうもありがとう」

ヴォルフはそう言って、他に情報を求める必要はないと思ったのか、少年達に手を上げ、西の空へ飛んだ!

屋根の上を飛んで行くヴォルフに、

「かっこいい~!」

と、思わず少年達が叫んだ。

「あ~、D.Pをかっこいいなんて言ったらいけないんだぞ~」

「PPPに捕まっちゃうんだからなぁ~」

「っていうか、どうしてあっちを指差したのに、反対方向へ飛んで行ったの? あの人」



「ラオシューさん」

路地裏で酒を飲んでいるオヤジを呼ぶパイン。

「ん? おお、パインどうした?」

情報を提供してくれるオヤジだ。

情報を求めてくるのは主にD.Pだが、PPPにも売るネタも扱っているという噂。

左肩から腕そのものがなく、その為、D.Pなのか、人間なのかわからない。

だから彼はマトモに生活できずに、ホームレス同然である。

だが、情報屋という仕事は彼に合っているのかもしれない。

「セントヨハネ病院知っとるやろ。この街にある」

「ああ、あるなぁ」

「そこの入院患者がさっき行方不明になってなぁ」

「おいおい、いくら俺でも、ついさっきの情報なんてねぇよ」

「いや、患者の情報がほしいんや。誘拐される程の患者の情報なら持っとんのちゃうの?」

「・・・・・・うぃ」

ラオシューはグビーっと酒を飲むと、にやりと笑い、

「ウェンディ・ピーター。世界各国にあるブランド宝石店のご令嬢か?」

と、言った。

「幾らや?」

パインが交渉に持ち込む。

「おいおい、高いぜ、このネタは」

「ええよ。組織も承知の上やろ」

「いいだろう、これだけ用意できるか?」

ラオシューは酒を地に置き、右手の指が5本上がった。

「・・・・・・500万か。ええやろ。その代わり、つけや。仕事終わった後に、組織に請求するさかい。俺やから顔パスでつけでええやろ?」

「ああ、いい」

ラオシューは頷くと、再び酒瓶を持ち、グビーっと飲むと、ゲフッと酒臭い息を吐いた。

「あのご令嬢、足が動かねぇらしいなぁ」

「ああ」

「生まれつきとなってやがる」

「ああ」

「だが、幼い頃は歩いてたらしい」

「それはあれやろ、病気がまだ悪化してなかっただけちゃうんか。生まれつき病は体に持っとってんやろ」

「そうだなぁ、だが、足が動かねぇなら、車椅子で充分じゃねぇか。定期検診程度でいいんじゃねぇか?」

「!?」

「そう、何故、ずっと病院に入れられてるんだ? それはだなぁ、足を動けないよう薬を打たれてるんだよ、医者にな」

「なんやと!?」

「知ってるか? あのご令嬢の母親は実母じゃねぇらしい。ご令嬢が生まれて直ぐに死んだんだとよ」

「ほなら、彼女の今の母親は血の繋がらない母親っちゅう訳か」

「そうだ。若い医者とできてやがる。きんきらの宝石身にまとってな」

「ま~じで~!?」

「旦那はとっくに死んでる。セントヨハネ病院でな」

「ほなら、彼女の父親はおらんのか?」

「ああ、今、宝石店の全ての財産はウェンディ・ピーターにある。ウェンディ・ピーターが死ねば、全ての財産は、その母親に入るが、直ぐには殺せねぇ。何故なら、父親が死んでまだ4年だ。彼女に疑いがかかってるんだ。PPPが動いている。このまま何も不審な事がなければ、事件から5年後には、一応、法に基づいて、疑われずにすむって訳だ。恐らく、旦那を薬で殺し、その時に、セントヨハネの医者に金をちらつかせ、PPPに提出する遺体の状態データーに嘘を書き込ませたんじゃないかと、まぁ、ある看護婦からの情報だがな」

「しかもその医者と付き合おうとるっちゅう訳か」

「女ってのは怖いねぇ~」

ラオシューは言いながら、また酒を飲む。

「看護婦からの情報っちゅう事は、もしかしたら、この情報、PPPも知っとる可能性あるなぁ」

「そうだな、病院勤務の奴等には聞き込んでやがるだろう。まぁ、俺の知ってるのはここまで」

「あ、そうなん。まぁ、大体わかって来たわ、ありがとう。で、ウェンディの足は動くんか?」

「ああ、多分な」

「その情報だけで500万は安いわ」

と、パインは笑顔になる。

「全く、おかしなD.Pだぜ。ご令嬢の足がどうだろうが、どうでもいいだろ、その情報だけで500万は安いって、お前はどうしてそんなに――」

グチグチ言うラオシューの目の前に、もうパインはいない。

ラオシューは空になった酒瓶に、舌打ちし、

「空が眩しいねぇ」

と、一人呟いた。


「よぉ、ヴォルフ、奇遇やなぁ」

「あぁ、ホントに」

二人、待ち合わせもせず、出会った場所はピーターの屋敷の前。

「どうしてこの場所に?」

「ラオシューさんに情報もろてなぁ、D.P雇ったんはザニア・ピーター。ウェンディの母親や。最も血は繋がっとらん。ウェンディが邪魔で病院へ無理矢理入れとるんや」

「そんなとこだろうな」

「お前はなんでここへ?」

「D.Pが動いていると聞いてな。後は大体の予想で犯人を割り出した」

「アバウトやなぁ、毎回」

「情報屋から得た事も100%じゃないだろ。それでも俺達は同じ場所に来た」

「ああ」

パインは頷き、門の横にあるベルを鳴らす。

するとベルの横にあるモニターにメイドの顔が映った。

「どちら様ですか?」

と――。

もうヴォルフの姿はそこにはない。

「どうも、ウェンディの話し相手として雇われたんスけど、ちょっと偉い事になりまして」

「偉い事? 大変な事って事ですか?」

「はぁ、まぁ、えっと、依頼された御主人様おられますか?」

「奥様ですね、少々お待ち下さい」

インターフォンはその後切れたが、暫くすると大きな門が重い音を出し、開いた。

「さてと、ヴォルフはうまい事やっとんのかなぁ」

と、言いながら、パインは門を潜り、屋敷へと招かれた。

中は素晴らしい豪華三昧の全て。

玄関から見える大きな階段を、大袈裟な衣装で下りて来るのはザニア・ピーター。

「なんですの? 大変な事が起きたって」

「はぁ、いや、大した事やあらへんのですわ」

「は?」

「只の確認です」

「確認?」

「依頼内容はウェンディ・ピーターの話し相手になる事でしたが、それに間違いはありませんか?」

「え、ええ、ないわ。あの子は病院でずっと入院してなければならないので、退屈でしょう? ですから、せめてもの私からの気持ちですわ」

「成る程」

「それより、ウェンディは?」

「何がですか?」

「え、いや、ウェンディはどうなのかしらと思って。ちゃんとあなた達に迷惑はかけてない? ワガママな子だから」

「かけてませんよ、ええ子ですわ。あんまりええ子なんで、ほんまに話し相手だけでええんかなぁ思うて、心配になったくらいですわ。こんな楽な仕事やのに大金もらえるなんて」

「そ、そう」

「ほな」

「え、ちょっと、待ちなさい!」

「はい?」

「それだけなの?」

「はぁ、それだけですが何か?」

その時、メイドが、

「奥様、セントヨハネ病院からお電話です!」

と、受話器を持って来た。

だが、ザニアが受話器を耳につけた時、電話は切れている。

「あら? もしもし? もしもし?」

「どないしたんですか?」

「切れたのよ、どういう事かしら」

「さぁ? ほな」

パインは屋敷を出て、大きな門を潜ると、ヴォルフが壁に凭れ掛け、既に待っていた。

「電話回線切ったん、お前やろ」

「ああ、今、行方不明になったと言われたら、俺達の責任に成りかねない。依頼はあくまでも、話し相手。それ以上はない」

「で、あの女の部屋には入り込めたんか?」

「ああ、お前があの女と玄関で話をしていた時間内で、きっちり手に入れるモノは手に入れて来た」

ヴォルフの手の中にある手帳。

その中に書かれた計画と現金の受け渡し場所――。


ここは港。

大きな貨物船は、その殆んどが他国からの輸入物を運んでいる。

船倉庫が1、2、3、4、5・・・・・・。

ザニア・ピーターが直接D.Pを雇ったのはSurviveにだけ。

話し相手という依頼内容で。

Reviveに依頼を頼んだのは、直接はザニアではない。

何故なら、ザニアは今現在PPPに目をつけられている。

余計な事はできないのだ。

ザニア以外の人間が、D.Pを雇い、ウェンディを誘拐し、その報酬として、金を渡すには、人目につかない場所でなくてはならない。

組織へ金を払い込むと、銀行から足がついてしまう。

7番倉庫の扉を開け、コツコツと中へ入るヴォルフに、銃口が火をふいた。


バキューーーー・・・・・・ン・・・・・・


「悪いが、そんな遠くからじゃぁ、掠りもしない。もっと近寄った所を至近距離でぶっ放した方がいいだろう」

敵にアドバイスなどを与える余裕ぶり。

敵はザニア・ピーターの男である、若い医者。

「外で待機していたD.Pはどうしたんだ!!!!」

近寄って来るヴォルフに、男は銃口を構えながら、そう吠えた。

「D.P? あぁ、それなら心配ない、あのやまあらし頭のD.Pは完全に壊す事はしない甘い野郎だ。その分、お前に請求がいくだろうがな。D.Pに依頼するのはいいが、D.Pの仕事内容以外の仕事まで押し付けられ、壊れた場合、直す為の請求は依頼主に行くんだ。わかっての上の契約だろうな? パインは甘い、甘い故に請求される額は相当と思った方がいい」

「だ、だが、完全に壊れた場合は請求されない! お前達が壊されれば、多少請求されても、宝石店の財産で全て帳消だ!」

「気の毒だが、SurviveにもReviveにも、パイン以上に強いD.Pは存在しないだろう。俺を抜かせば」

「なんだと!?」

「つまり、俺達に負けはないと言う事だ。ウェンディ・ピーターはどこだ? 俺達に大人しくウェンディを渡し、PPPに助けでも求めに行くんだな」

「そ、それは自首しろと言う事か!」

その時、倉庫の奥のダンボールが物凄い音を出し、崩れ出した!

そして現れたのは大きな体の男。

左手の甲にD.Pの極印。

そしてヴォルフの背後から走ってくるパイン。

「ヴォルフ、こっちは片付いたで」

と、言うが、もう一人D.Pが残っている。

かなり手強そうだ。

しかも、そのD.Pは、にやっと笑い、

「ヴォルフ、お前はReviveのD.Pだろうが。何をしているんだ? さっさとそこにいるSurviveのD.Pを壊したらどうだ?」

と、意味不明な事を言い出した。

「悪いが、そんな挑発はのらない。俺が受けた依頼は最後まで遣り遂げるのが俺のD.Pとしてのプライドだ」

ヴォルフはそう言うと、構えた。

パインも、意味不明のまま、構える。

「俺とやり合うつもりか? 俺はReviveでトップを誇るD.P、クライザス。ヴォルフ、お前とはこれから末永く仲良くなる筈だったんだがなぁ」

「お前がトップという肩書きも今日で終わりだ。俺という存在がReviveで頂点を極めるからなぁ!!!!」

ヴォルフはそう言うと、勢いよくクライザス目掛け突進した。

大きなクライザスの体は、再び、ダンボール箱の中に吹っ飛び、埋もれる。

だが、雄叫びを上げながら、クライザスを大きな体を余計大きく見せかけ、ヴォルフとパインを睨んだ。

ヴォルフは、直ぐに後退し、構える。

「頑丈っぽいな。お前、背後回れや。俺は真正面から攻撃や」

パインにそう言われ、ヴォルフは頷く。

クライザスはパインに激しく攻撃されるが、表情を全く変えない為、効いているのかさえ、全くわからない。

無抵抗に攻め立てているようだが、背後に回ったヴォルフの攻撃さえ、全く効いていないように思える。

だが、それもD.P故の痛さがないアンドロイドだからである。

クライザスは体中から電気が溢れ出ている。

クライザスはそんな自分の体の変化に気付き、パインを抱き、絞め始めた!

ビリっと感電する音が聞こえる。

だが、ヴォルフは攻撃を止めない。

何故なら、そんな捨て身の攻撃に出ても、パインのパワーとスピードなら抜け出せるとわかっているからだ。

むしろ、パインが絞め壊されるよう、じっとしているのは、ヴォルフの攻撃のタイミングを見計らっているのだ。

今、ヴォルフが大きく拳を振り上げる。

クライザスは、パインを締め付けているが、ヴォルフの無駄に大きく動いた気配にハッとし、後ろを振り向いた、その一瞬、パインはクライザスの腕の中から跳び出た!


バキィ!!!!


クライザスの胸にポッカリ穴が開き、ジジジッと電流が走る。

ヴォルフはクライザスの電流を腕に浴び、急いで、それを振り払う。

クライザスは動きを止めた。

シンと静まり返る中、コトンと銃が床に落ちる音がした。

クライザスまで壊れたのでは勝ち目はないと思った、あの医者が銃を捨てた音だ。

そして、

「ウェンディは、3番倉庫裏の白い車の中だ・・・・・・」

そう呟いた。

パインとヴォルフは、何もなかったように、その場を去る。


遠くから聞こえるPPPのサイレン。

誰かが騒ぎを追放したのだろう。

これでザニア・ピーターも捕まるに違いない。

パインとヴォルフは汚れた服を手でパンパンと叩く。

「で、どういう事や?」

「何がだ」

「お前がReviveのD.Pやって言う事や」

「あぁ・・・・・・」

ヴォルフはパインを見て、

「お前は本当にフザけた野郎だぜ」

そう言った。

「何がや」

「殺しはやらず、全て俺に任せる。D.Pも余程の事じゃないと打っ壊さない。家の掃除に、ペット探し、挙げ句の果てにはガキの話し相手。俺にそんな仕事ができると思うか?」

「・・・・・・」

「それにな、Surviveの方針よりもReviveの方針の方が俺に合っている」

「・・・・・・」

「考えてみろ、Surviveに俺とお前がいたんじゃぁ、ReviveのD.Pは一気にやられちまうよ、俺達にな」

「・・・・・・」

「俺がガキの話し相手の依頼を素直に引き受けたのは、これがお前との最後の仕事だったからだ。だが、結構、最後に相応しい楽しい仕事だったよ」

「・・・・・・」

「実はパイン、俺も最初ではないが、昔の俺の主人を思い出したんだ。俺も小さな少女に飼われた事があった」

「・・・・・・」

「その少女との出会いは雨の日だった。俺は彷徨っていた。何故、彷徨っていたかは忘れた。恐らく、新しい主人を探していたのかもしれないな。その時に出会った薄汚い少女。俺への最初の命令は〝母親を殺して下さい〟だった。虐待を受けてたらしく、その少女の体中は痣と傷でボロボロだった。俺は命令通り殺した――」

「・・・・・・」

「俺はD.Pだ。親なんていない。だから少女の気持ちはわからない。だが、その少女は母親を殺してほしかった訳じゃなかったんだ。どんなに酷い目にあっても、子は親を愛す。少女の二度目の命令は〝私を殺して下さい〟だった――」

「・・・・・・」

「お前の最初の主人やウェンディのように、ご令嬢ではなく、みすぼらしい子供が、俺に命令をしたんだ。殺せと――」

「・・・・・・」

「黙るなよ。お前が黙ると、気持ち悪い」

「・・・・・・」

「お前が言ったように、いつか忘れるだろう。メモリーデータ―も容量越えたら、昔のから消えて行くって聞いた事がある」

「忘れへんよ」

「うん?」

「大事なメモリーは保護できるらしいで」

パインはそう言って笑った。

「馬鹿な。それじゃあ、まるっきりコンピューターだろ」

「忘れへんよ。人間も大事な記憶は忘れんらしいで。老人になってボケても」

「俺達と人間は違う。俺達はD.Pだ」

「・・・・・・そうやな。それでも俺とお前は次に会ったら、敵かもしれんっちゅう訳や」

「ああ。俺のSurviveでの最後の仕事だ。小さなレディを迎えに行こうか」

ヴォルフはそう言って、歩き出す。


皮肉なもので、二人思い出す主人は小さな少女であり、そして二人別つ日の最後の仕事も小さな少女――。


ヴォルフがSurviveを去り、パインのパートナーは変わった。

長くは持たず、直ぐにパートナーは変わり、そんなある日――。


「パイン? パインでしょう?」

そう言って、ミラクの街で出会った女性。

「誰・・・・・・やったっけ?」

「私よ、ウェンディ! ウェンディ・ピーター!」

すっかり奇麗に成長したウェンディは立っていた。

「ヴォルフはどうしたの? 一緒じゃないの? 懐かしいわぁ。私、今は宝石店のオーナーなの。あの頃、まだ幼い私の依頼を受けてくれて、命まで助けてもらったのに、話し相手ってだけの依頼料しかもらってくれないんだもの。そうだわ、あの頃の分、今なら、たくさん払えるんだけど」

「ちょ、ちょっと待てや。お前、ほんまにあの頃のウェンディなんか?」

そりゃそうだ、彼女はすっかり大人である。

パインが動揺するのも無理はない。

「そうよ、変な事聞くのね。ね、それより食事なんてどう?」

パインはきょとんとした顔をする。

「どうしたの?」

「いや、俺、これから仕事なんや」

「そうなんだ、じゃあ、仕方ないね。ヴォルフは一緒じゃないの?」

「ああ、今はアイツとは組んどらん」

「どうしてぇ? パインのパートナーはヴォルフが合ってるじゃない」

「そう言われてもな。組織がちゃうねん、アイツは引き抜かれたんや、別の組織に」

「ふぅーん」

「お前、あのデカい車で、じいちゃん呼んどるで」

「あ、ジイヤだわ。行かなくちゃ。じゃあ、パイン、またね!」

「ああ、また・・・・・・」

また会ったら、ウェンディはどれくらい歳をとっているのだろう。

小さな少女が、もう大人だ。

D.Pと人間の時間の流れの違いを感じる。

だが、月日は流れているのだ。

あれだけ、ヴォルフと対立などできないと思っていたが、すっかり対立する事に慣れてしまう程の――。

ヴォルフはReviveで新しいパートナー、いや、メンバーと言った方がいいか、いつも4人で行動をしている。

ウォルク、ラン、ロボというD.P達と一緒に。

それに引き換え、パートナーを未だにコロコロ変えるパイン。


ふぅっと溜息を吐き、空を見上げた。

「俺にもまた出来るんやろか、パートナーが・・・・・・」

大切な小さな女の子の思い出を話せるような――。


~Little Lady END~


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Another Story From.DEAD OR ALIVE 「Little Lady」 ソメイヨシノ @my_story_collection

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