第11話
塁と一緒に帰ってきた絵里香は、テーブルにキーケースについたままの鍵を置いた。
「お母さん、ゲームしていい?」
部屋の散らかり具合を見て、がっかりしながらリビングのおもちゃやお便り、新聞などをまとめた。
電子タバコの本体や掃除する小さな箒も食卓に散らかっている。
洗濯物も部屋干し用フックからずれ落ちている。
一つ一つのアクションにため息が溢れる。いつになったら、仕事から帰ってスッキリした気持ちで夕飯が作れるのだろう。
晃は掃除や洗濯を気が向いた時にしかやってくれない。
「ダメ、今からお風呂入ってしまおう。塁、疲れてるからご飯食べる前に入って、お母さんが夕飯作ってる時にゲームしてていいから。そしたら、すぐ寝れるよ。」
「えー、今、ゲームしたいのに。」
「んじゃ、お母さん先にお風呂入るね。塁はお父さんたちと入るんだよ?」
「やだー、やっぱり、お母さんとお風呂入りたい!」
「はいはい。んじゃ入ろう。」
絵里香は塁の服を脱がして、一緒にお風呂に入った。
何歳になったら男の子はお風呂1人で入るからと言うようになるのだろう。
公共の温泉施設では小学生以上の男の子は女風呂の入浴はご遠慮くださいと言う注意書きがあるところもある。
そのタイミングが1人でお風呂なのだろうか。
男女で違うのも大変だ。
瑠美は小学生で、ある程度自分の身の回りのことはテキパキとこなすが、5歳になった今でも塁は1人でできるくせにやってと甘えることが多い。
まだまだ親として手のかかるところが多い。
「ただいま。」
低い声で晃は玄関のドアを開けて入ってきた。後ろから元気になった瑠美が入ってきた。
「おかあさーん!!聞いてよ!お父さん、私のこと置いていこうとしたんだよ。」
「えー、また?」
「冗談だよ。病院の会計終わった後、ずっと俺のスマホでゲームしてるから、待合室にそのままにしておこうとしようかなって思って、遊んであげたの。」
「ひどいんだから。」
「いや、普通、自分のスマホ、置いていかないでしょう。」
晃は開き直るように、コンビニに寄って買ってきたであろう、お酒とつまみ、スナック菓子をテーブルの上に置く。
ついで、電子タバコも一緒に買ってきたようだ。
「ったく、ずっと我慢してたからイライラがたまるわ。ちょっと吸ってくる。」
晃はベランダに出て、電子タバコにお気に入りのブルーベリー風味のフレーバー差し込んで、スイッチを入れた。
「良いよね、喫煙者は、すぐに現実から逃げられて!!」
絵里香は嫌味を聞こえるように言う。
お風呂から上がったばかりで塁の髪を乾かすのにドライヤーを当てていた。
瑠美は、何事もなかったようにテレビのYouTubeでゲーム実況の番組を見ていた。
プールで溺れた人とは思えなかった。元気になってよかったとは思うが、全然、横になって休むってことはしない。
子供のスタミナってどこから来るのだろうか。
絵里香は今すぐにでも横になって休みたい。でも出来ない。
塁がお腹が空いたと騒ぎ始めた。
夕ご飯の準備をしないといけなくなった。
電子タバコをくわえながら、スマホのゲームを堪能する晃に怒りしか感じなくなった。
この男のどこに魅力を感じると言うのか。
相手してくれる女性がいるのならば、のしをつけてくれてやるとさえ感じてしまう。
きっと、今は生理前で PMS症状が出ているんだ。
こんなにイライラするのはホルモンバランスが悪いからだ。
恋人同士だったら、
どんな姿にも好きと感じる時さえ
あるが、
結婚して、何年も生活していると
ときめきが無くなって、
家の中に存在しているだけで
吐き気がする感情が出ることもある。
都合のいい時だけ、
犬のように言うことを聞いて、
そうかと思ったら、
猫のように気まぐれで
家事なんてやりたくないって
しっぽを振りながら、
自分の自由な時間を過ごしている。
父親としての役割とか
夫としての責任って
知っているのかと問いたいが、
あいつには眼中にはない。
お前がなんとかするんだろって
稼ぐだけ稼いで、
結局いろんな決定するのは妻の役目。
いやいや、お金くれればそれでいいなら、ATMがあるだけで十分、もっと人として、親として、夫として、少しでも良いから考えてほしいものだ。
(私はあんたのお母さんじゃない!!)
まな板ににんじんを打ちつけて、
千切りで切った。
きんぴらごぼうもピューラーで皮を剥く作業があって、簡単には作れない。
疲れて帰ってきた時くらい
出てきたものを
そのまま食べてほしいのに、
冷凍食品のからあげを出しただけで
何も言わずに黙って食べるの
やめてくれ。
手作りの食事がいいのはわかる。
それができないから冷凍食品とインスタント味噌汁とご飯、納豆なんでしょうが。
それでも十分な食事でしょう。
毎日じゃないならいいじゃないか。
それでも晃は、
その一瞬の食事さえも大事にすることはできなかったようで、
ほとんどの冷凍からあげを残しては、ご飯を2杯おかわりしてごまかした。
食べないなら、自分で食事を作ってくれと訴えたいが、作る気はないようだ。
「あとどれくらいでできる?瑠美、お風呂入れようか?」
「もう、ご飯できるし。タイミング悪いから。ほら、箸とかテーブル拭くとかやれるところやってよ。」
「あー、はいはい。」
台所に来た晃は、絵里香からふきんを受け取って、テーブルを拭く。
子供たちはずっとテレビ画面やゲームの画面に夢中だ。
この空間に普通に絵里香が声を出してもスルーされる。
変な声を出して、興味を引く。
「ピンポンパンポン。ご飯の時間です。」
こんなふうに言ってもゲームに夢中で興味を湧かない時もある。
子どもたちってずるい。
赤ちゃんの時はギャーギャー泣くくせに、ある程度大きくなってくると食事が出るのを好きなことして待っている。
たまには食器運んだり、手伝ってくれてもいいのに。
料理だって、一緒にしてくれてもいいと思うが、気が向いたときにしかしてくれなくなった。
ゲームやYouTubeに敗北している時点で親子関係は薄れている。
勝てるわけがない。
人気不動のゲーム実況【ヒ◯キン】や【チロ◯ノ】になんて。
親としての魅力は、食事、甘え、病院や習い事の送迎、お風呂、寝かしつけ、宿題の指導、そんなものだ。
一緒に遊ぶなんてしようもんなら、
時系列がお互いに合わずに終わることがしばしば。
どうして、やりたいって思う気持ちのタイミングがこんなにも違うんだろう。
一緒にキャッチボールやサッカーボールの蹴り合いをするだけなのに。
それでも尚、晃はずっと子どもたちと
同じテレビ画面やスマホのゲームをする。
どっちも子どもみたいだ。
絵里香はいつ休めるんだとため息をしつう、洗濯の準備や明日の持ち物準備に追われている。
寝かしつけのまま、絵里香も一緒にベッドで朝を迎えた。
夜中に洗い物を終えたかったのに、朝になってしまった。
もちろん、晃はそんなこと気にせずに、リビングのソファで寝てしまっている。
今日こそ、緑の紙を用意しようかと考えるが、忙しすぎてそんな余裕もない。
現実には程遠い。
また忙しない朝がやってくる。
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