人形と化け狐が空を歩く
小林飛翔(Al)
序章(プロローグ)
人の波と川の流れ
それは三途の川の決まりだ。
あなたはこの橋の上で、「おかえり」、と言ってはいけない。
もしも、この橋の上にいるとき、「おかえり」、と一言、言うと耳人形に耳をかじられてしまう。
そうだ。だから、「おかえり」、と言ってはいけない。
「僕の名は、人面犬の耳人形っていいます。
好きなのは耳をかじってしまうことです。
何でそんな変なことをするかって?
それは、僕が耳をかじることしか能がない人面犬だからです。
ねえねえ、言って、おかえり、って。
僕の名前は、耳人形。
この世には、悪い人間が多くてね。
中には警察でさえ見抜けない悪党もいるわけですよ。
そんな時には、僕が出ます。
それでね、そういう悪党ほど、この世の法律で裁くには、あまりに理不尽で楽すぎるんです。
だって、そうでしょ?
どんなに悪いことをしても、無期懲役というのは、刑務所でその人生を終えるまで美味しいご飯を1日3回も頂けるわけですよ。
だって、そうでしょ?
どんなに悪いことをしても、適正独居になっても狭い空間で何か考えながら堂々といきていけるんですよ。
ああ、おかしい。
おかえり、って言わせないと、いけないんですよ。
あんなにいい耳なし芳一は、悪くないのに、耳を取られましたよ。
悪い人間に対しては、耳をかじる。
橋って何と言われたら、三途の川にかける橋の上と答える。
他あったっけ。なければいいんだ。」
かじった耳は数知れず。今宵も人面犬、耳人形の勧善懲悪が始まる。
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