第26話 裏側 

「お前、ズルしただろ」


「ん? 何のことですかね?」




 無事優勝してから『スキルブック』をもらって『白銀の輝き』の建物内で僕と綾とマスターでお祝いをしていた。


 マスターが聞いてきたのは最後の決勝戦のことだ。


「ズルじゃなくて立派な僕のスキルです!」


「まあそうなんだが、極力使うなとは言っておいただろう。経験にならないからな」


「でも電次郎は京極の弟子で、京極の指示で僕を痛めつける、って言ってましたからね」


「そうか、それならしょうがないな」


「お父さん、誠の何を禁止したの?」


「ああ、ステータス操作だな」


 僕のスキル【リターン】は対象を過去の状態に戻せる。


 だから、電次郎の攻撃力と防御力をレベル1の時の状態に戻してやったのだ。


 開幕早々に。


 最初にあんなこと言われなければギリギリ負けそうになるまで使う気はなかった。


 なので攻撃を食らっても致命傷にはならないし、こちらが殴れば一撃KOだ。



「そうだったの……」



「だから、武器防具の破壊の禁止ルール発表した時は笑ったぜ。問題はそこじゃねーからな。別に最初から相手をレベル1と同じ状態にしておけば勝てるからな。武器を粉々にしたときはびっくりしたが、まあおまけみたいなもんだよな」



「決勝直前のルール変更についてクランとして抗議しないの? 誠に対してあからさますぎたのに……」



「いや、わかっててわざとやったんだろうから放置だな。批判覚悟であんなことやらかしたのに『漆黒の瞬き』が無様に負けたからな。今だってネットがギルドと『漆黒の瞬き』の癒着を追及してるし、うちとしちゃああれだけ上等な装備を構えて相手の得意技を封じたうえでボロ負けした『漆黒の瞬き』を見たので十分だ。これ以上あいつらからのヘイトを稼ぐ必要はない」



「そうなんだね。誠、スキルブックはもう使った?」



「いや、まだだよ。今から使うね。……【エクステンション】ってのが手に入ったよ」



「聞いた事ねえなあ…… またはるかを呼ぶか。あいつなら喜んでくるぞ」



◇◇◇



 次の日、タブレットでクランのホームページをチェックしていた綾が大量のメールやダイレクトメッセージに困惑していた。


「綾、どうしたんだ?」


「あ、お父さん、クラン宛に取材の申し込みのメールとかメッセージがいっぱい来てるよ。多くて読み切れないよ。うわっ、ウズテレビからも来てる、最悪」



「ちっ、俺のクランのことを散々貶めたくせに今更手のひら返しかよ。それは返事せず放っておけ。無視が一番だ」



 気になったのでマスターに聞いてみたけど、『漆黒の瞬き』との合同攻略の前は「日本の期待を背負う最高のクラン」とか言ってたのに、失敗してから「お粗末なクラン運営、日本の恥」とか手のひら返しが凄まじかったらしい。


 そんな放映を繰り返していたのがかつては日本で最大の視聴者を誇っていたウズテレビだった。


 ネットに押されはじめてからは視聴者を取り戻すため、手っ取り早くゴシップばかりを扱うようになっていた。


 栄華を誇ったクランの没落なんてのは、そんな彼らの金儲けの材料でしかなかったのだ。



「低レベル優勝の記録を大幅に更新したものね。どうしよう誠、取材とかなんか受けてみたい?」



 綾は探索者でデビューしたときから『白銀の剣聖』というのをアピールしていたからこういうのには慣れているらしいが、僕はそうじゃない。


 でも、何事も経験だ。


 一つくらい受けてみてもいいかもしれない。



「じゃあ、一番有名なYoutuberヤミキンなんかどう? この人は見た目と違って誠実だし優しいしノリがいいから初心者にもおすすめよ。こっちからコラボでも頼もうとしたら何年待つかわからないぐらい人気だから、向こうから来てくれるなんてちょうどいいわ」


 僕も名前は聞いたことあるけど、ヤミキンさんは探索者というわけではなく、その時々のホットな話題をマルチに取り扱う人だ。


 なので探索者についてもある程度理解があるということ。


 でも、そんな大物なんて大丈夫かなあ……。


「内容は独占生インタビューの配信だって。ギャラは×千万円。顔出し有り無しは選べるって。内容は全て事前打ち合わせ。想定外の質問は絶対しない。いいんじゃないかしら」


「ついでに『白銀の輝き』の復活を宣伝してこい」


 というマスターの一言でインタビューを受けることが決定した。


◆◆◆◆◆◆


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