第21話 予選

「優勝したらスキルブックが貰えるぞ」



 そんなのあったんだ。


 マスターによると、超難関ダンジョンでたまに出るこれを使えばランダムでスキルが得られるとのこと。


 得られるはずのスキルを既に持っていた場合はスキルのレベルが上がるか、上位スキルを得られるとのこと。


 そして、これはレベル1000未満の探索者限定で出場は1人1回しか認められていない。


 各クランは有望な新人を送り込み、獲得したスキルブックを上位探索者に使ってさらに強化したいし、また優勝者にとってはより有利な条件でのスカウトを受ける可能性もある。


 マスターの目論見は、『白銀の輝き』の復活アピールだ。


 あれ? てことは優勝しなきゃいけないの?



「当然だ。この俺が指導しているんだからな。狙うは史上最高の低レベルでの優勝だ!」



 レベル1000未満なので、出場者は当然そのギリギリまで調整してくる。


 今までの記録はレベル725。


 これでも当時はありえない番狂せと言われたらしい。


 今の僕のレベルまだ300ちょっとなんだけど、どう考えても無理じゃね?


 しかも一度出場したらもう2度と出場できないんだけど。


 そしてさらに発せられる恐ろしい言葉。


「今からレベル上げ禁止な。大会まで俺との特訓漬けだ! 今日は休みだからな、明日からビシバシいくぞ」



 相変わらず鬼コーチだ……


 僕は明日からの地獄を想像しつつ自分の部屋に戻っていった。



◇◇◇



 誠が去った後。


「お父さん、本気なの? いくら何でも無理なんじゃ?」


「まあ大丈夫さ。てか優勝してもらわんと困る」


「なんで?」


「あの大会賭けができるだろ? なるべくレベルが低い方がレートがよくなるからな。それにクランの資金は何とかなったが、俺個人名義で借りた金がまだあんだよ。アイツに全ツッパで全部返してやる」


「お父さん、そのお金って……」


「気にすんな。娘のために金を使うのは親として当然だ」



 綾は雄也の借金が自分の治療のためであったことを察し、なんともいえない気分になる。


「もし誠が優勝できなかったら?」


「それはそれでもかまわんさ。ま、そうはならんように秘策があるがな」



◇◇◇



 そんなわけで全国探索者大会(Lv1000未満)の日がやってきた。


 まずは予選。


 受付にて名前を告げるが、受付のちょっと気弱そうな女の子が話しかけてくる。


「誠さま、よろしいのですか? いまのタイミングでしたら参加を取りやめて次の大会まで待てますよ……」


 あ、何か心配されてる。


 レベルがレベルだしな。


 が、今さら後に引けないんだよなあ。


 マスターに殺されちゃう。


「参加します。このまま受け付けてください」


 一応心配してくれたであろう女性に申し訳ないと思いつつ、当日のエントリーを済ませる。



◇◇◇



 予選は8ブロックに分かれてそこから2人だけが本選に出場できる。


 1ブロックにはだいたい20人くらいでまぜこぜになって戦う。


 僕のいるのはDブロック。


「それでは、Dブロック予選開始!!」


 アナウンスが流れて全員が戦闘態勢に入る。


「おい、あいつレベル324だぞ!!」


 と誰かが僕を指さす。


 【レベル鑑定】持ちかな。


 すると何人かがこっちに斬りかかってきたり、魔法を放ってきた。


 襲いかかってくる攻撃だが、これがちょうどいい。


 まとめて跳ね返して、こっちも同時に攻撃を重ねておく。


「闘気掌!!」


 オーラによる薄青の衝撃波を自分の周りにまき散らす。


 それと自分自身の攻撃によりダメージを食らう探索者たち。


 それを見た他の探索者は僕のレベルを声高に叫んだやつに狙いを定めた。


「おい、あいつ嘘をいいやがったぜ! レベル300があんなに強いわけがない! 仲間かもしれん! あいつから倒せ!」


 というありもしない妄想を誰かが言い、僕のレベルを叫んだ奴はあっという間にボコボコにされていった。


 僕は相手の攻撃を跳ね返しながら攻撃を加え生き残った。


 なお、マスターのさらなる訓練により【リターンLv4】まで上がっていて、跳ね返すダメージは40%増しになっている。

 

 もう一人残ったのは大きな斧を担いだ男だ。


 担いだ斧を振り回して自分から竜巻を起こしながら移動して敵をなぎ倒していたのが印象的だった。



 さて、とりあえず予選は生き残れてよかった。



 本戦からはテレビとネットでの中継がある。


 否応なく僕のことが知られることになる。


 もしここで僕が勝ち上がれば僕を追放した『漆黒の瞬き』、いや京極と里香に意趣返しができるだろうか?


 もしかしたらマスターはその機会を与えるために僕を出場させてくれたのかな。



 頑張ろう。


◆◆◆◆◆◆


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