22 焦るジュリオに冷静な彼女

「え……? き、君は確か……転入生の……クレア・フリーゲルさん……?」


ジュリオの身体が小刻みに震えている。……こんなこと主に対して思っていいのかは分からないが、いい気味だ。


不謹慎な気持ちを抱きつつ、僕はジュリオに語る。


「はい、この方が本日ジュリオ様のお見合い相手のクレア・フリーゲル様です」


「ジュリオ様。私の名前、覚えていてくださったのですね? 光栄ですわ」


クレアは笑みを浮かべているが……どことなく目に冷たい光を宿しているように見えるのは僕の気のせいだろうか?


「な、な、なんで……き、君が……ここに……と言うか……おい! クリフ!」


ジュリオは身体ごとグルリと向きを変えて僕を睨みつけてきた。


「お、お前……! 知っていたのか!? 彼女が俺のお見合い相手だということを!」


「はい、そうですけど? それが何か?」


しれっと僕は返事をする。ジュリオは余程興奮しているのか、もはやその本性を隠そうともしない。


「ばっかやろう! 『それがなにか?』じゃないんだよ! 何でそんな重要なこと今迄黙っていたんだよ!」


すると、そこへすかさずクレアが答える。


「それは、私がジュリオ様には黙っていてくださいとクリフ様に申し上げたからです」


「へ?」


ジュリオが目を見開いてクレアを見る。


「あ、あの……そ、それは一体何故だ? ……いえ、何故でしょうか?」


余程ジュリオはクレアに対して後ろめたいのか、弱腰の態度で彼女を見る。


「まぁまぁ、そんなことよりもまずは皆さんで席に座ってからお話したほうが良いのではありませんか? 今僕がお茶を淹れますので」


僕は笑みを浮かべながら二人に着席することを勧める。


「そうですね。クリフ様の言うとおりです。席に座りませんか? ジュリオ様」


「は、はい……そ、そうですね」


ぎこちない笑みを浮べながらジュリオは着席する。クレアも席につくと、僕は二人の為にとっておきの紅茶を入れる準備を始めた。


二人に背を向けながらお茶の準備をする僕はニヤケがとまらない。

……始めは二人の見合いに同席するなんて、うんざりだと思っていたけれどもジュリオは既に顔面蒼白になっている。

彼の焦りまくる姿を見るのは爽快だ。普段、ジュリオにこき使われている僕に取って代わってクレアが成敗してくれるのではないかと期待を寄せる。


「お待たせ致しました」


二人の前にカップに注がれた紅茶を置くと、クレアがニコリと僕に笑みを向ける。


「ありがとうございます。どうぞクリフ様もお掛け下さい。私達のお見合いに同席してくださいな」


「はい、分かりました」


彼女に言われて、僕も席に座る。


もはや、お見合いの席は完全にクレアが主導権を握っていた――

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