10 ちょっと思っていたのと違う

「多分、もうジュリオ様は教室に戻っていると思いますけど……」


あれから音楽室を後にすると、僕はクレアを連れて簡単な学校案内を行った。図書室と美術室を案内し終えたところで、そろそろ次の授業の開始時間になろうとしていた。

そこで教室へ戻って来たのだったが……


「クリフ様、教室へ入らないのですか?」


扉から中を伺う僕の背後からクレアが怪訝そうに声を掛けてくる。


「い、いえ。入ろうかなとは思っているのですが……」


僕はチラリとジュリオを見ると、彼はまだ女生徒達と話をしている。まずいな……


「あ、あの。クレア様!」


グルリとクレアを振り向いた。


「はい、何でしょう?」


「あ、あの。実はジュリオ様はお見合い相手のクレア様のお名前を御存知無いのですよ」


「え⁉ そうなのですか?」


「はい、そうなのです。だから突然クレア様が声を掛けられたら驚くと思うのですよね……」


ジュリオの側から女生徒達が離れて行くまで何とかして時間稼ぎをして……すると意外な台詞がクレアから飛び出した。


「大丈夫です、私の名前までジュリオ様が御存知無いなら声を掛けたりしませんから。フフフ……それよりもお見合いの当日、私の姿を見て驚く様子を見るのも面白いと思いませんか?」


クスクス笑うクレア。


「そ、そうですね……」


ひょっとすると、クレアは小悪魔的な性格の持ち主かもしれない。そんなことを思いながら教室をチラリと見て見ると、ようやく女子生徒たちはジュリオの側から離れて彼は今1人で椅子に座っている。


よし、今がチャンスだ!


「クレア様、見て下さい」


失礼かと思ったが、僕は背後にいるクレアに手招きした。


「はい、クリフ様」


「ほら、あの窓際の前から三番目に座っている金髪の男性がいますよね?」


「はい、あ……まさか、あの方が?」


「ええ、そうです。彼がジュリオ・モンターニュです。僕の主であり、クレア様のお見合い相手ですよ。どうです? 格好いいでしょう?」


しまった! また最後に余計な台詞を言ってしまった。出来ればクレアにはジュリオに興味を持たれたくないのに…‥‥! 僕はいつもジュリオにおべっかを使っているのでいつものように口が勝手にことばをついて出てしまった。


「そうですね……確かに格好いいかかもしれませんが……」


そしてクレアは今度は僕に視線を移した。


「?」


首を傾げると、ニコリと笑うクレア。


「でも、クリフ様も素敵だと思いますよ?」


「! あ、ありがとうございます……」


「では、ジュリオ様のお顔も確認しましたので教室に戻りますね」


クレアは僕の脇をすり抜けると、自分の席へと戻って行った。


う~ん……夢の中で彼女は自殺未遂を図ってしまった。なのでさぞかし気の弱い女性なのだろうと思っていたけれども……


「ちょっと思っていたのとタイプが違うみたいだ……」


僕はポツリと呟いた――

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