8 自己紹介

「い、いえ! 違いますよ! 僕は貴女のお見合い相手ではありません!」


慌てて首をブンブン左右に振る。


「そうだったのですか……私の名前を御存知だったようなので、てっきり私のお見合い相手のジュリオ・モンターニュ様だと思ったのに……」


ため息をつくクレア。……ということは、まだジュリオの顔を知らないのだろうか?


「そう言えば、この学院に転入してきたのは、お見合い相手がいるからと話されていましたよね? それに婚約するとも……」


ハハハ……ま、まさか見合い前から婚約話しが出ているわけじゃないよな……?しかし、クレアの口からは驚くべき言葉が飛び出してくる。


「いえ。名目上お見合いと言う形になっていますが、婚約は既に決定されていますけど?……って、私ったら何故関係のない人にこんな話をしているのかしら……いきなりで失礼いたしました」


な、何だって⁉ 既に決定事項だって⁉ 焦る僕を前に、クレアは踵を返して去って行こうとする。


「あ、あの! 待って下さい!」


「はい、何か?」


振り向くクレア。しまった! 焦りのあまり、呼び止めてしまった。


「あ、あのですね……」


どうしよう、何も次の台詞を考えていなかった……! だけど、婚約者になるのだったら、あの夢が……正夢になってしまう! 


だ、だったら……


「何か?」


クレアは怪訝そうに僕を見つめている。よし!正直に話してしまおう!


「実は、僕は貴女のお見合い相手ではありませんがお相手の男性のことは知っていますよ」


「まぁ! 本当ですか⁉ でも何故あなたが御存知なのですか?」


「ええ、何しろその相手は僕が仕えている主なのですから」


「え? それでは……」


「はい、僕の主の名前はジュリオ・モンターニュといいます。ちなみに同じクラスに在籍していますよ?」


「そうなのですか? どなたですか? 教えて下さい!」


クレアは嬉しそうに笑った。


へ〜……気の強そうな女性かと思っていたけど、笑うと可愛いじゃないか……っといけない、いけない。

彼女はジュリオの婚約予定者で、僕とジュリオが監獄に入れられるきっかけになる女性なのだから気を引き締めないと。


「ええ、いいですよ。では一緒に教室に戻りましょう」


「はい」


そして僕とクレアは並んで教室へ向かった。




「そういえば、貴方の名前をまだ伺っていませんでしたね? 教えて下さいますか?」


「僕はクリフ・ブランディと申します」


「クリフ様ですね? これからどうぞよろしくお願いします」


「爵位は男爵なので、僕に敬語を使う必要は無いですよ?」


丁寧に挨拶してくる彼女に恐縮してしまう。


「そういうわけには参りません。両親から常に淑女としての教育を受けておりますから」


「そ、そうですか……」


同じ伯爵貴族なのにジュリオとは偉い違いだな……


「ですが、前の学校をやめて転入してくるなんてクレア様は中々行動力がありますね」


「そうでしょうか? でも私の婚約者になる方のことを早く知りたかったからです」


少しだけ顔を赤らめるクレア。


「あ、教室に着きましたよ。ジュリオ様は……」


そこで僕は息を呑んだ。


ま、まずい……


運悪く、ジュリオは女子学生たちに囲まれて談笑している真っ最中だったのだ――


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