Peter Pan Monochrome

ソメイヨシノ

1.ボクはピーターパン


僕達が生まれた世界は終わろうとしていた。


後数年すれば、この世界に巨大な隕石が堕ちてくるらしい。


その隕石は「サタン」と名付けられ、一時期は人々に恐怖を与えたと言う。


巨大隕石が堕ちてくる事など、映画などでもよくある題材で、ましてや今すぐという訳ではないのだから、回避する事が可能な筈だと思われるが、世の中、映画ほど簡単じゃないって事だろう。サタンは回避不可能な隕石で、この星に必ず落ちてきて、この星は壊滅的ダメージを受ける。


地下に避難シェルターがあると言われているが、そこに入っても無駄らしい。


もう終わろうとしている、この世界を支配する者はいなくなり、定められた法も秩序もないし、金は只の紙切れとなった。


そうなると、誰も働かなくなり、食物もなくなった。


今は怪我をしても、病に犯されても、診てくれる医者さえいない。


只、静かに、誰もがサタンが来るのを待っていた。


そして、そんな世界で僕は生まれた。


いや、僕達は生まれた。


生きていても未来がないから、子供達は捨てられるのだろう。


捨て子ばかりが、世界に溢れている。


大人なんて、どこにいるんだろう?


いるのは、子供ばかりだ。


いつしか、子供達は、子供達で手を取り合い、助け合って、生きていくようになった。


僕もその一人で、僕が赤ん坊の頃、生み捨てられていたのを、ウェンディと名乗る女の子に拾われ、育ててもらった。


食べる物は雑草とか、木の実とか、後は盗んで手に入れて、飲み水は公共の水道水が出ていたので、それを飲み、僕達の衣類はウェンディが縫ってくれた物で、寝る所はその時、その時で場所を変えた。


今日は仲間のみんなで頭シラミの駆除をする日だ。


髪を掻き分け、卵を見つけて、ひとつひとつ駆除をする。


僕達の生活基準はそれが当たり前だから、辛いとか悲しいとか寂しいとか、そういう感情はない。


寧ろ、楽しくて笑う事なんて、しょっちゅうだ。


「なぁ、シンバ」


僕の頭のシラミを探しながら、話しかけてきたコイツはロビン。


シンバと言うのは僕の事。


ウェンディが名付けてくれた。


「なぁに? ロビン?」


「あのさ、ウェンディママがいなくなって、もう何日経つのかな」


「あー、ロビンはマザコンだー!」


隣にいたマイケルがコロコロ笑いながら、そう叫んだ。


「違う! 気になっただけさ!」


ロビンは顔を真っ赤にして怒る。


「俺達を残して、急に姿を消して、もしかしたらウェンディママは自分だけ美味しい物を食べてるかもしれないだろ!」


「ウェンディママが? だとしたら、ロビンの分も美味しい物を持って帰って来てくれるよ、綺麗な雑草の柔らかいトコとか、酸っぱくない果実とか!」


「馬鹿だなぁ、シンバは! そんなもん、ご馳走じゃないんだぜ? この前、盗みに入った家には、甘い白い粉があった。あれはかなり美味かったなぁ」


食べれそうな雑草も見つからない時は、誰かの家に入って、盗みをする。


今迄、そうやって、知らない誰かの家のドアを壊して、中に入って、何か食べる物を盗んでも、誰にも見つかった事はない。


だけど、見つからないからと言って、やってもいい事じゃない。


悪い事は、悪い事だ——。


「・・・・・・僕は盗みは余り好きじゃないから、美味しくても美味しくなかったよ」


「シンバはイイ子ちゃんだからなー! オイラなんて、干し肉食った事あるぜ!」


マイケルが自慢たっぷりに言うが、嘘付け!とロビンにデコピンされる。


ウェンディママはある日、突然、姿を消した。


僕達を置いて——。


パッパー!!!!!!


突然、辺りに大きな音が鳴り響いた。


車のクラクションだ。


今時、動いている車なんて、滅多にどころか、全くお目にかかれない。


道路には僕達のような捨て子が沢山溢れている。


その子供達が、轢かれそうになって、驚いて、道の隅に移動する。


大きな車は、僕達の目の前で止まった。


「すげぇ、車だ!」


と、ロビンとマイケルは車にソッと触れようとする。


「触るな! 汚れたらどうするんだ!!!!」


車の窓が開いて、そう吠えたのは、頑固そうな白い髭のお爺さん。


「うわぁ! 大人だ!」


大人なんて、初めて見るロビンは驚きの声をあげ、マイケルは驚きすぎて、ロビンの背後にしがみついた。ロビンも驚いて、顔を強張らせる。


「ごめんね、爺やはうるさくて。ボクにもいつも説教だよ」


と、言いながら、車から降りて来たのは、僕達と余り変わらない年齢の少年だ。


グリーンの上等な服を身に纏い、綺麗な白い肌とブルーの瞳とゴールドのキラキラの髪。


「・・・・・・シンバって、どこにいるか知らないかな? この辺にいるって聞いたんだけど」


そう聞かれ、ロビンもマイケルも僕を見る。


「僕がシンバだよ」


僕がそう言うと、美しい少年は僕をジロジロと見つめる。


汚い布を身に纏って、汚れて黒ずんだ肌とくすんだ瞳とボサボサで絡みまくった髪の僕。


だけど、捨て子はこれが普通だ。


少年の余りの美しさに、捨て子達は恐る恐るながらも、周りに集まってきた。


「・・・・・・キミがシンバ? ボクの弟?」


「え? 弟?」


「うん、ボクの双子の弟」


「双子?」


「双子って言うのはね、一緒に生まれたんだよ、だからソックリなんだけど、ボク達は普通の双子じゃないんだ、異父重複受精で生まれたから、父親は違うんだって。だからボク達は似てないけど、同じ母親から生まれた、正真正銘の双子なんだ」


言葉の理解はあるものの、知識のない僕にとって、その話は意味がわからなかった。


ボクの弟はマイケルだ。


ウェンディママがそう言った。


ボクの兄はロビンだ。


ウェンディママがそう教えてくれた。


この少年もボクの兄弟になるとしたら、この少年も捨て子なの?


母親って、ウェンディママの事——?


「おいでよ、キミがボクの本当の弟かどうか、調べなくちゃ」


手を伸ばされ、僕は戸惑う。


綺麗な手が、僕に差し出され、まるで天からの導きのようで、神様の助けのようにも感じた。


「シ、シンバ? い、行くのか?」


ロビンが僕を不安そうに見つめて聞いた。


「シンバは行かないよ! 行くもんか!」


ベーッと舌を出し、少年を睨みつけるマイケル。


「じゃあ、キミ達も一緒に来る? ウェンディママにも会いたいだろう?」


少年はニヤニヤ笑いながら、そう聞いてきた。


「ウェンディママ!? ウェンディママがいるの!?」


僕が驚いて、そう聞くと、少年はニッコリ笑って、車のドアを開けた。


「どうぞ、後ろの席に座って? 汚してもいいよ、後で爺やが掃除してくれるからさ」


ロビンもマイケルも、自分達も行けるとわかった途端、急いで車に乗り込んだ。


「ちょ、ちょっと、2人共!」


「何してんだよ、シンバ! 早く乗れよ! 車だぜ、車!」


「そうだよ、シンバ! 気が変わらない内に、乗っておけって!」


気は進まなかった。


と言うより、ロビンやマイケルの興味津々な感情よりも、僕は不安の方が上回っていたんだ。


「さぁ、行こう」


少年は僕に手を差し伸べる。


ワクワクするような事が起こりそうな半分、不安が半分。


だけど、ロビンもマイケルも車に乗り込んでいるし、『僕は行かない』と言う言葉が出てこなくて、更に考える時間も残されてないようで、仕方なく、車に乗り込んだ。


すると、少年も中部座席に乗り込む。


全員が車に乗り込むと、他の捨て子達が、乗せてくれと、車をドンドン叩き出す。


「跳ね飛ばしますよ」


と、運転手の爺やは、冷静に恐ろしい事を言い出す。


勢いよくエンジンが鳴り、退ける者を笑うように、車が駆け出した。


「うわぁ、すげぇ、速いぜ!!!!」


と、窓を見ながら、ロビンが叫ぶ。


チリチリチリーン・・・・・・


鈴の音が聞こえ、僕は中部座席を覗き込むと、小さな女の子が、少年の隣にチョコンと座っている。腕に鈴のブレスレットをしていて、その鈴が鳴ったようだ。


綺麗なブロンドの髪と青い瞳は少年と、どこか、似ている——。


「あ、妹のティンク。喋れないんだ」


覗き込んでいた僕に、少年がそう言った。


「喋れないの?」


「うん、喋れないんだ」


「そうなんだ」


「うん、そうなんだよ」


「そっか」


「うん、そうだよ」


なんだか、変な会話だ。


「あ、そうだ、ボクの自己紹介がまだだったね? ボクはピーター。屋敷に着いたら、詳しい計画を話すね」


「計画?」


僕達が計画する時は、大抵が盗みの事。


まさか、泥棒の手伝いとかさせられるのだろうか——。


ロビンもマイケルも、車に浮かれすぎてて、はしゃぎ過ぎている。


今は不安なんてなさそうだ。


「とりあえず、屋敷に来て、清潔にしてからね」


ピーターはそう言って、ニッコリ微笑むから、僕も、ニッコリ微笑んで見せた。


やがて、車は薔薇園のような場所を走る。


窓が勝手に開くと、


「薔薇のいい香りがするよ」


と、ピーターが言った。


甘い香りが風と共に通り抜ける。


赤い薔薇と白い薔薇のアーチを抜けると、見た事もない白く大きな建物が見え始めた。


「まるで御伽噺に出てくる城だろ?」


そう言って笑うピーターに、ロビンとマイケルは唖然としたまま頷いた。


「うわぁ、動物がいるぞ、動物が一杯走ってる! 白色と茶色と黒色の動物だ!」


マイケルが窓から体を乗り出し、遠くを指差して、そう叫んだ。


ロビンも見せろ見せろと、窓から顔を出そうとする。


「危ないよ、2人共」


そう言った僕の台詞なんて聞いちゃいない。


「あれはね、馬だよ、馬を飼ってるんだ」


ピーターがそう言うが、馬なんて見た事も聞いた事もなかった僕達は驚く事しかできない。


「後で乗るといいよ、乗馬は初めて? だよね?」


「の、乗れるのか!? あれに? あの動物に乗っていいのか?」


ロビンがそう尋ねると、ピーターは、ふふふっと笑った。


そして、御伽噺に出てくるような城の前に止まると、僕達は車から降りた。


大きな屋敷を見上げていると、ピーターが、


「爺や、バスルームの用意して、特にシンバを綺麗にしてね」


そう言った。


どうして特に僕なんだろう?


そんなに僕が一番汚らしく見えたのかな?


「ティンク、おいで」


ピーターは小さなティンクを連れて、屋敷の中へ入っていく。


ブレスレットの鈴をチリンチリン鳴らし、ティンクはピーターと手を繋いで、でも僕をジィーッと見つめながら、屋敷の中へ入って行った。


僕達は爺やに案内され、広い入浴室へと連れて来られ、そして、丹念に体を爺やに洗われた。


体の皮が剥けてしまうんじゃないかと思う程に、ゴシゴシされて、体中が真っ赤になった。


頭シラミも変な薬をかけられ、一気に駆除してもらえたが、肌がピリピリしてならない。


初めて泡と言うものに触れた感想は、面白いって事だった。


マイケルは美味しそうだと口の中に泡を入れて、直ぐに吐き出した。


花のような香りがして、柔らかくて、ヌルヌルしてるけど、直ぐに水に溶けてなくなる。


不思議なものがあるものだなと感心した。


お風呂上りには、今迄、身に纏っていた布ではなく、上等な衣類が用意されていた。


「それでは、お食事の用意ができるまで、ご自由にしていて下さい」


爺やがそう言うので、僕達は頷いた。


「なぁ、食事の用意って、何が出るのかな? 干し肉たんまりか?」


「馬鹿だな、マイケル。あの馬って奴を食うんだよ、あれの丸焼きだろ!」


「うっひゃぁ! ロビン、あの馬って美味いのかな、楽しみだな!」


ロビンとマイケルはキャッキャッはしゃいでいる。


でも僕は、あの馬は乗る為にあるような事を言っていたのを思い出し、食べないんじゃないかと言おうと思ったが、なんとなく、2人のテンションの高さに付いて行けず、無言になっていた。


僕達は屋敷内を探検しようということになる。


大きな階段の上にある絵画。


美しい大人の女の人が描かれている。


ぼんやり見つめていると、気が付いたら、ロビンもマイケルもいない。


キョロキョロしていると、


「すっかり綺麗になって見違えたね! 思ったとおり、白い透き通るような肌をしてる」


と、ピーターが現れた。


「・・・・・・あの、えっと、この人は誰?」


と、僕は絵画を指差した。


「ボク達のママだよ」


「ママ? でもこの人、ウェンディママじゃないよ?」


「ウェンディママはキミを育ててくれただけだろう? このママは本当のボク達のママなんだよ。ボク達を生んでくれたんだ。ボク達は異父兄弟だけど、ママはこの人、一人」


「・・・・・・ウェンディママはどこにいるの? ウェンディママに会わせて?」


「その前に、シンバの腕にある痣を見せてよ」


「痣? どうして痣の事知ってるの?」


「ウェンディママから聞いたんだ」


「ふぅん」


頷きながら、僕は袖を捲り、腕にある痣を見せた。


「・・・・・・本当にフェザーのような痣だね」


と、言いながら、ピーターも袖を捲り、腕を見せてくれた。


そこには羽の形をした同じ痣がある。


「なんで!?」


「これがボク達が双子である印だよ。ちゃんと調べないとわからないけど、きっとシンバはボクの弟だ。会った時、ピンときたし!」


「・・・・・・」


「ねぇ、シンバは妖精を信じる?」


唐突に話題が変わった。


「妖精?」


ウェンディママの話に出てくる妖精の事だろうか?


「うん、妖精」


「・・・・・・」


妖精を信じるかと聞かれ、YESかNOで答えればいいのだろうけど、答えた後の理由を聞かれても困る。なんせ、聞いた事があっても、見た事がない。


慎重に考えて答えるべきだろうか。


悩んでいる僕に、


「あのね、シンバ、キミにはね、やってもらいたい事があるんだ」


と、答えを待たずに、また話題を変えるピーター。


「なに?」


「こっちへ来て」


手を握られ、引っ張られていく。


ピーターの手は柔らかくて、温かくて、とても優しい感じがした。


広い屋敷の中を歩いていると、不思議な気分になる。


まるで、御伽噺の世界に入ったようだ。


「ここの部屋、開けて?」


そう言われ、僕は大きな扉を開けると、そこは壁全体に本がズラッと並んでいた。


「ちょっとホコリっぽいね、窓を開けようか」


言いながら、ピーターはカーテンを開け、窓を全開に開けた。


そこから見える景色は、美しい薔薇園。


そして風が、少しカビ臭い本のニオイの中に、薔薇の香りを運んでくる。


「ここにある本をね、全部、読んで欲しいんだ」


「全部!?」


「できない事はないよ、ボクは既に全部、読んだから」


「う、嘘でしょ?」


「本当だよ、だからシンバもできる。難しい字は辞書で調べながら読めばいい」


「な、なんで読む必要があるの?」


「もっと知識を付けて欲しいからさ。ここの本を全部読めたら、天才になれるよ」


「天才? そんなの興味ないよ」


「でもウェンディママの話は好きだったんだろう? なら、ここの本は気に入ってくれる筈だよ、きっと、面白いと思うよ」


ウェンディママの話は楽しかった。


海賊の話、人魚の話、インディアンの話、いろいろあった。


だけど、ここにある大量の本を全部読めなんて、幾ら面白いと言っても——。


「無理だよ、だってさ、僕は天才になんてならなくていいと思うんだ、だって」


「もうすぐサタンが来るから?」


「うん、いつ死ぬかわからないのに、そんな無駄な時間は——」


「明日、サタンが来るかもしれない。でも来ないかもしれないよ? それに無駄じゃないよ、今だって、充分、天才の素質があるんだから、その素質を活かさないと勿体無いよ」


「素質?」


「気付かないの? キミ、ボクと双子なんだから、まだボクと同じ7歳なんだよね? 7歳にしては言葉の理解もあるし、しかもボクのように知識を身につけて来たならわかるけど、キミは迷子だった訳でしょ? なのに、ウェンディママのお話だけで、難しい会話もできるじゃない?」


「迷子? 捨て子でしょ? それに、難しい会話なんてできてないよ? ロビンやマイケル達と同じだよ。僕が天才の素質があるなら、あの2人も天才?」


「あの2人は違うよ。だって、あの2人は何も考えずに車に乗り込んだ」


「え? それは僕も同じだよ」


「シンバは、あの2人が乗り込んだから乗っただけだろ? あの2人が乗らなかったら、シンバは乗らなかったんじゃない? それはシンバに考えるチカラがあるからだよ。でもボクは、シンバ一人を車に乗せる事は難しいってわかってたから、あの2人を誘ったんだけどね。そしたら、シンバは黙って車に乗ってくれた。それにシンバは捨て子じゃないくて迷子だったから、迎えに行ったんだよ」


「捨て子じゃないって言われても、よくわかんないし、それに、僕達が兄弟で、異父何とか? それってどういう事なのかも、僕には、わからないし——」


「異父重複受精は大人だって知らない人が多いよ。24時間以内に女性が2人の男性とセックスした場合に、両方の男性の子供を同時に妊娠することがある。それが異父重複受精。その双子を異父兄弟って言うの、つまりボク達の事だよね」


「セックス?」


「子供を作る行為だよ」


「どんな行為?」


「知識を身につければ、わかるよ」


「・・・・・・ウェンディママはどこ?」


「シンバが、知識を身につけたら、ウェンディママに会えるかもよ?」


そう言ってピーターは笑顔を見せる。


「ウェンディママに会わせたい為に、僕に本を読ませたい訳じゃないよね。何を企んでるの?」


「やっぱりシンバは頭がいいね。そう、シンバの言う通りだよ、ウェンディママは関係ない。でもウェンディママに会わせる為って言えば、素直に知識を身につけてくれるかなって思ったんだ。本当はね、ボク達の未来の為なんだよ」


「未来?」


「サタンが来るのは、いつかわからない。大人達はちゃんとした情報を残さなかった。それはもう既に大人達は違う星へ移住したから、残されたボク達はこの星に捨てられたからなんだ。捨てたものに情報なんて残す筈もない。本当はサタンが来る事だって、秘密だったのかもしれないけど、どこかで情報が漏れたんだろうね」


——何を言っているの?


——違う星へ移住した?


——誰が?


「知ってる? この星に残されたのは子供ばかりなんだよ。シンバ、大人に会った事ないでしょ? それとも見た事ある? 大人を」


「じ、爺やは? あれは大人だよね?」


「あぁ、爺やはいいんだ」


——なんで!?


——あれ、もしかして、オジイチャンに見えるけど子供なのかな?


——でも何故、大人だけで移住したんだろう?


——子供はいらないって事?


「ボクはね、ロストボーイと言うチームを作って、大人達が移住した星へ行こうと思う。ボク達を置いて、サタンから逃げた大人達を、今度はボク達ロストボーイが支配するんだ、逃がしやしない、一人もね」


——ロストボーイ?


——支配?


「それには、シンバ、キミのチカラ必要なんだ。ボク達は双子だろう? きっと、キミもボクと同じ天才的能力があるよ。7歳でIQが160なんて、二度もないだろうけど」


「IQ?」


「知能指数の事だよ。従来のIQは『知能年齢÷生活年齢×100』の式で算出されるんだ。主流の検査では最高値は160程度だってさ。IQは年齢を基準とした数値だから、年齢が違う人同士の知能をIQで比較する事はできない。それにまた別の知能検査で計れば異なるIQが検出されて、同じ知能検査でも2回目以降はIQが高くなるし、体調によっても結果は変わるよ。 だからIQが高いとか低いとか、あんまり関係ないし、高いから天才って訳でもない。だからボクが7歳で160のIQの持ち主でも、大した意味はないし、自慢でもない。じゃあ、何の為にIQの検査があるのか、それはね、知的障害者かどうか、健康であるかどうかとか、そういう検査なんだ。後は得た知識を比較する為。この場合、シンバとボクの知識を比較する為だよ」


「僕と比較するの?」


「するよ、シンバがここの本を全部読んで、全部、知識をモノにしたら、検査をして、ボクとどっちがIQが高いか、比べるんだ」


「そんな事をして、何があるの?」


「ロストボーイのリーダーを決めるのさ」


「リーダー?」


「ピーターパンだよ」


「ピーターパンって?」


「知らない? ウェンディママのお話は、ピーターパンの世界の話が多かった筈だと思うけど? 永遠に子供のままの少年、ピーターパン。大人の海賊共をやっつけるのさ。確か、ここの本の中に、ピーターパンの本がある筈だよ」


「御伽噺の話を現実に持ち出すなんて、馬鹿げてるよ」


「ハハハ、シンバはピーターパンにはなれないね、そんな大人みたいな事を言うんだもん」


大人顔負けの発言をしているのは、ピーターだって同じだ。


「ねぇ、シンバも、やっぱりピーターパンはボクだって思うだろ?」


そんな事、どっちだっていい。


只、僕は、知識を身につけなければ、ピーターの本質は見抜けないんだと言う事に気が付いた。


ウェンディママだって、本当にこの屋敷にいるのかどうかも怪しい。


違う星への移住の話も、サタンの事も、本当の事はわからない事ばかりだ。


だから知識を身につけようと思った——。

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