第60話 復活したドワーフ達

「【流転する紫電コンティニュアム・ボルト】!!」

「ギィ!? ギギッ……ギギャアア!!」


 目の前の恐竜に向かって、昨夜覚えたばかりの魔法を放つ。


 それは紫色の電気の紐だった。昨日、僕が指先で作っていたような長い電気の紐。しかし紐というよりは縄、かな。太くて長い紫電のロープが、指先で跳ねさせていたように地面や岩、木をバウンドしながら、不規則な動きで獲物を追う。


 その猛追から逃れようと踵を返し、崖を駆け上がろうとするが紫電はそれを逃さない。鋭い爪が崖に食い込み、今にも跳ね上がりそうなその瞬間、紫電が足に巻き付いた。その途端、感電した恐竜が甲高い悲鳴を上げる。一瞬で全身が焼け焦げ、嫌な臭いと白煙が立ち昇り、横倒しになった恐竜が塵となって消えた。


「狙った相手を追尾して焼き焦がす魔法、といったところか」

「相手に当たるまで追尾し続けると魔力の消耗が大きくなるみたい……ちょっと疲れた」


 本を閉じて腰のベルトに仕舞い、レッグポーチから取り出した水を一口飲む。ふぅ、と人心地ついたところで改めて先程、人生で初めて発動させた魔法について思い返す。


 まず、追尾性能は素晴らしいものだった。僕が魔法を当てたいと思った相手を意識するだけでしっかりと追ってくれるのは非常に有能だ。追尾の仕方も良かった。あれなら多少機敏性が高いモンスターでも逃れるのは難しいだろう。


 反射するように跳ね、その対象が電気を通す物質でもちゃんと跳ね返る。その点は電気であって、やはり魔法だ。跳ねる回数や追尾する距離についてはこれからも研究する必要があるが、それについてはそれ程考慮する必要はないと思っている。届かないなら届かないで別の方法を考えればいいだけだ。仲間もいることだし、これ一つに頼りっきりになるわけでもない。


 そしてこの魔法の弱点。それは空中に浮かび続けるモンスターに対しての追尾性能が悪いことだ。何かに跳ねることで敵を追い掛ける。ならば、その跳ね返る為の物がなければ?

 恐らくだが、一直線に伸びて終わるだろう。できれば空気中の塵とか、何かしらを選択して反射してほしいがそんな高度な使い方ができるとも思えない。現に今、空気中の物は無視して目に見える物にだけ反射していた。


 ある程度、距離のある敵への攻撃手段を得ることはできたが、鳥とかそういったモンスターには相変わらず手が出ない。結局アイザや八咫、ヴァネッサに頼るしかない現状を打破できないことに溜息が出そうになるが、ギリギリで飲み込んだ。


「初めての魔法だ。これからも頑張るから、よろしく頼むよ」

「えぇ、私は将三郎さんの一番の臣下ですから」

「私様も頑張るぞー!」


 助けてくれる2人の前で弱音は吐けない。王として頑張るのみ、だ。


 さて、今日も修行をしながら食料を調達していた。食が細くなっていたドワーフ達も、休むことと、食べることを思い出し、どんどん元気になってきた。骨と皮しかなかった腕は今はもう細マッチョくらいの太さにまで戻っている。


 その分だけ消費量は日に日に増えていった。僕を中心とした外部組が主に調達班として動いていたが、動けるようになったドワーフ達も、動ける範囲でだが自主的に狩りを再開し始めていた。お陰様で僕達は少し離れた場所で、ドワーフ達は近場で狩りをすることで食料調達量はは消費量を上回ることができた。




 そして時は流れ、時返し当日。


 すっかり元気になったドワーフ達は大急ぎで祭の会場をセットしていた。数日前から準備を始めた夜店や櫓は急ピッチで組み上げられ、あっという間に形になっていた。今は細かい装飾が施され、町もすっかりお祭りムードだった。


「凄いもんだな……」

「数日でここまで作り上げるとはな。経験があるとはいえ、流石はドワーフだ」


 町の広場がよく見え、尚且つ人の邪魔にならない建物の屋根に腰を下ろしていた僕と八咫の視線の先にあったのは大きな日時計だった。花と魔力石で縁取られた日時計を囲むように店や櫓が建てられ、一目でそこが一番盛り上がる祭の中心地であることがわかる。


 僕が知るドワーフそのものの姿に戻ったドワーフ達は、もう酒の入ったジョッキを片手に広場を行き交っている。まだカンカンと何かを叩く乾いた音が響く。建築を続ける音が続いているというのに、気の早い奴等だ。


「ま、今日は時戻しの祭だし、明日から頑張るってことだから許せるか」

「しょうちゃーん」


 気の抜けた声に振り返ると屋根裏から続く窓から這い出てくるヴァネッサが見えた。狭いからか女児姿に変化していたヴァネッサは、這い出てからいつもの美女姿へと変化する。雑な使い方だけど便利だなぁ。


「しょうちゃん言うな」

「私様も腹減った。何か食いに行こうぜ~」


 いつも通り僕の注意を無視したヴァネッサが僕の袖を引っ張る。確かに朝食べただけで、それから何も食べてない。そろそろ日も天辺を過ぎる頃。思い出したかのように胃がきゅぅ、と収縮する音が聞こえてくる。


「急にお腹減ってきたな……よし、ちょっと早いけれど、言えば商品出してくれるだろう。行くか」

「よっしゃー行くぜー!」

「あ、ちょ、おい!」


 袖を掴んでいたヴァネッサはそのまま立ち上がり、そのまま屋根から飛び降りた。疲れていたままの僕は成す術もなく、そのまま屋根から転げ落ちる。ひぅ、って息を呑んだお陰で悲鳴が出なかったのが情けなくも唯一の救いか。


 何とか着地しようと短い時間で姿勢を制御しようと試みるが、強引にヴァネッサに引っ張られ、抱き抱えられ、風の力でふわりと着地する。


 王を名乗る男は情けなくも美女にお姫さま抱っこをされながら衆人環視の前に降り立ったのだった。


「おぉ、王様なのにお姫様のようだぞ!」

「どっちが王様か分からんな、ハハハ!」


 酒に酔ったドワーフ達に笑われる王様がそこにいた。くそ、こんなに頑張ってるのに何でこんな辱めを受けなければならないんだ……。


 こんな羞恥を味わわせたヴァネッサは、そんなことなど微塵も考えずに涎を垂らしながら並ぶ出店をキラキラした目で見ている。


「うーっし、食うぞ!」

「もう、どうにでもしてくれ……」

「お? じゃあ吐くまで食うぞ!」


 僕の気持ちなんて微塵も考えないヴァネッサは腕の中から僕を解放し、今夜の為に鉄板を熱する屋台に向かって1人、軽い足取りで向かうのだった。

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