第40話 エミからの贈り物
曇り空を見るとあの日、ダークエルフ達と一緒に戦った日を思い出す。今にも振り出しそうな空へと同じ色の煙が立ち上っていく。
7人で囲む焚火。朝食はそれぞれが持ち寄った物だ。僕達の朝食はアイザが用意してくれたもので、素材はよくある物だが調理の手順がしっかりしてるので一旦豪勢に見える。
しかしハドラー達の食事は干し肉と白湯だけという質素なものだった。葉物ひとつないので彩りもこの
「ハドラー、野菜は食べないのか」
「この先に出てくるモンスターのドロップ品が野菜なので、それを食べます」
「そっか……旅の途中で手に入れるんだな」
良かった。じゃあ今食べても後で食べても一緒ってことだ。
「じゃあこれ食べなよ。干し肉だけじゃ体に悪い」
「しかし王、これは我等の試練です。施しは受け取れません」
「どうせ後で食べるんだ。今食べても一緒だよ。モンスター倒せたら少し分けてくれたらいいからさ」
「……そういうことなら」
僕は自分の木皿の上に置かれていたハンバーガーをハドラーに渡す。それからアイザに残りの3人の分も用意してもらえるようにお願いする為に振り返ると、すでに3つのハンバーガーが木皿に載って用意されていた。
「将三郎さんならそう言うと思って」
「流石だよ、アイザ」
先読み能力が高すぎて僕は困ったような笑みを浮かべた。見透かされてるのかもって思えてしまうくらいだ。八咫も時々そういうところを見せてくるが……僕ってそんなに分かりやすいのかな。
「君達も」
「あ、ありがとうございます!」
頬に大きな傷をつけた1人が代表して受け取る。そういえば3人の名前、まだ聞いていなかったな。
「今更だけど、僕は将三郎。君は?」
「ブルーノです!」
「ブルーノ。よろしくな。そっちの2人、名は?」
ハンバーガーをガン見していた2人がハッと顔を上げる。焦ったような表情に思わず笑みが漏れてしまう。よく見れば2人の顔はそっくりだった。双子かな。
「キーロです!」
「アレッド!」
「彼等は双子で、俺を含めてハドラーの幼馴染なんです」
「へぇ~。昔っから仲良いんだな」
やっぱり双子だった。アレッドがちょっと幼そうな雰囲気だから弟かな。キーロはしっかり者そうだけど、二人共おっきな子犬って感じがして可愛らしい。
4人が揃ってアイザ特製ハンバーガーにかじりつく。ハンバーガーとは言ってるがハンバーグではない、焼いた肉だし、ソースもない。野菜を加えてパンで挟んだだけの、どちらかと言えばサンドイッチだ。
けれど肉の焼き加減は最高だし、野菜も新鮮だ。パンも程よい硬さで香ばしい。一口噛めば肉汁がソースとなって野菜もパンも全部を繋いで素晴らしい物に仕上げてくれる。
4人ががぶりと噛み、目を丸くして互いに見合っていたのがとても愛らしかった。
素敵な時間程あっという間に過ぎていく。一瞬で朝食タイムが終わり、野営時に広げていた荷物や焚火の処理をしているとアイザが僕のところへやってきた。大事そうに何かを抱えている。
「将三郎さん」
「どうかした?」
「これを渡すのをすっかり忘れていました」
アイザが差し出してきた物を受け取る。それは本だった。紫色のハードカバーの本。それが革のベルトで十字に留められ、開かないように閉じられている。
「これは……」
「魔本か」
アイザに尋ねようと本から顔を上げると八咫が僕の肩に留まって答えを先に言ってしまった。
魔本。以前、少しだけ話したことがあるのをリスナー諸君は覚えているだろうか。
これは魔法を覚える為のテキストだ。適合者だけが読むことができ、読めた者に魔法を授けるレアアイテムを越えたレアアイテム、ハイレアアイテムだ。
しかもダンジョンで得られる魔本は【原本】と呼ばれる一点物だ。替えの利かないものだから高額で売れたりもする。勿論、読めるのであれば自分で読むのも良い。原本は各出版社から一般販売されているいわゆる【写本】よりも低燃費で高威力なのだ。
「エミから預かっていたものです。助けてくれたお礼だと」
「そっか……口は悪いけど義理堅いやつだ」
僕は返す返す本を隅々まで調べる。何の魔法が使える本なのか、開かずに分かればと思ったがそういう情報は読み取れなかった。
「タイトルだけでも読めたらな」
「中身が読めるまでタイトルも読めないようになっている。まずは開くしかないだろうな」
「そういうものか……」
意を決してベルトを留め金から引いていく。ドキドキする気持ちを抑え、ゆっくりと表紙を開いた。
「う、わ……っ!?」
その瞬間、バチバチと静電気のような光が本から発生し、僕の腕を伝って全身へと広がっていく。不思議と痺れるような感覚はない。だけど怖さが凄い。
全身を駆け巡る電気はやがて本を持っていない右手へと集まっていく。どんどん集まっていってヤバい気配しかしない。
「や、八咫ーーーー!」
「向こうへ向けろ!」
言われた通り、誰もいない平原に向けて手をかざす。すると静電気が弾けるように放たれ、白草を焼いていく。
腕に集まった電気は無事に放電された。まだ空気がビリビリしているような感覚がある。しばらくみんな、何が起こったのか分からなくて動けなかった。
放電して放心……あんまり面白くないか。
「い、今のは……魔法?」
「そうだな。雷属性の魔法のようだ」
「適正あったのか……」
僕は持っていた本の表紙を見る。最初は読めなかったタイトルが【エンティアラの雷光】と読めるようになっていた。
「エンティアラの雷光、だって。確かにあのカオスオークの集落に落とした雷は凄かったな……」
「私も見てました。あれはエミの集落の魔法を扱える者達が一気に一点集中で放った魔法ですが、将三郎さんなら1人であの威力も出せるでしょう」
「えぇ……王様ってすごいんだな……」
驚いたけれど、エミのことだからこれも見越して僕へ魔本を寄越したんだろう。心の中でありがとうと礼を言い、腰の右側に本を留めていたベルトごとぶら下げ、レッグポーチに干渉しないように長さを調節する。
うーん。豪勢になってきたな。八咫から貰った夜烏のコートを中心に灰燼兵団練兵場から拝借したショルダーアーマーにめっちゃ足が速くなる靴。左の腰に王剣スクナヒコナ。右の腰には魔本エンティアラの雷光。右足にレッグポーチ。手持ち無沙汰なのでもう一つの王剣であるリョウメンスクナはレッグポーチに収納している。
「なぁ、八咫」
「なんだ」
「この靴にもコートみたいに名前とかあるのか?」
ずっと気になってた。アビリティ付きのアイテムであるコートに名前があるのに靴には名前がないとは思えなかった。でも貰った時に教えてもらえなかったからないのかなって。ずっと気になっていたのだ。
「【
「へぇ~。さぞかし格好良かっただろうな。今のこれもヴィンテージって感じで好きだけど」
「分かるか? 私も気に入っている。大事に扱えよ」
「勿論! 大事な相棒だよ」
ずっとモヤモヤしていたものが晴れていくようでスッキリした。【金烏の靴】。そして【
しかしなんというか、どんどん着せられていっているなぁと思う。まぁでも深層ともなれば使えるアイテムも多い。他の探索者と違って実力がないからちょっと申し訳なく思ってしまうが、見た目だけは引けを取らないはずだ。
それに見合う力を身に付けなきゃな……と改めて思う。
「さて、色々あったが出発準備は整った。行くとしよう」
八咫の言葉に全員が頷く。試練二日目。目指すはベクタ。それはどんよりと曇っているが、気合いを入れて進むとしよう。
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