第27話 王命
エミの案内で着いた場所は仮設住宅といった雰囲気のシェルターが並ぶ場所だった。ここが新ヴィザルエンティアラだそうだ。
オークの襲撃から逃れてきたということで集落の周りは丸太や魔法で作ったような土の壁が築かれている。
これまでは外界からの襲撃がなかったからこういう防壁もなかったんだろうな。知識ゼロから作り出したにしてはちゃんとしっかりしている。
「中央広場というか、あの空地で待ってて」
「何でも手伝うから、すぐ言ってください」
「うん、ありがとう」
エミが指差した空地には大きなテーブルと椅子が何脚か置かれていた。とりあえず置きましたって感じがする。青空作戦基地だな。
エミに言われた通りに僕と八咫、アイザ、サフィーナと4人で座っていると何人か人を連れたエミが戻ってきた。
「彼等は今回の作戦に参加する部隊の隊長。王様だけど陣頭指揮はお願いしたい。外の知識を利用させて」
「陣頭指揮か……分かりました。精一杯やらせてもらいます」
戦地での指揮なんてやったことないよぉ……できればブレーンとして動きたかったが断れるような状況でもない。王様だけど謹んで拝命致すしかなさそうだ。
「それとその敬語もやめて。長ったらしい会話は作戦行動の遅延に繋がるから」
「う……わかった」
万が一の時に身を守る為のへりくだり保身作戦が……。アイザも何だかうんうん頷いてるし、八咫は知らん顔だし、サフィーナは目が合うと目を逸らされた。何なん。
「さて、今の状況を話す」
基本的にダンジョンのフロアは円形だ。この集落の位置は時計で言うと2時から3時の位置にある。元は円の中心にあったそうだ。それ以外の森は焼けてしまった。つまり、3/4が燃えてしまったことになる。
「惨いな……」
「私達が生きていれば森はいくらでも何とかなる。問題は戦闘の際の支障の方」
僕も経験したがダークエルフは樹上からの攻撃を得意としている。ノート族は弓を、エンティアラ族は魔法を使う為に攻撃手段は違うが、攻撃方法は似通ったところがあった。
なのでこの最後の森で迎え撃つしかないのだ。
そういった条件での作戦立案……の前に、どうしても僕は聞かなければいけない事があった。
「そも、ダークエルフ達は僕の会合には駆けつけてくれたのに何故、この状況で集まらない?」
「危機は自らの力で以て乗り越えなければならない……それがダークエルフの掟としてあります」
「掟……?」
掟のせいでエミ達の部族が滅んだらどうするんだ。
「じゃあアイザ、なんで君はエミの部族を助ける?」
「エミは私の腹違いの妹です。部族である前に家族……」
「ごめん、ちょっと待って。理解できない。いや、訂正する。何となくは理解できる」
掟というものを重んじる精神は理解できる。それが守られてきたからこそ、今がある。積み重ねてきた歴史がある。それを破ることで先祖に対して無礼を働くこと、歴史に泥を塗るのも理解できる。
だが部族である前に家族というなら、部族は家族ではないのか?
共に暮らし、切磋琢磨し、生きてきた数少ない身内なら、それはもう家族だ。値は繋がっていないとしても、家族と呼べるはずだ。
「僕は王ではあるが外部の人間だ。種族も違うし、考え方も違う。だから僕の思考を押し付ける事はやめようと思っていたけれど、これだけは駄目だ。僕の、王としての意に反する」
王の意に沿わない考えは、言葉が強いが謀反だ。反旗だ。
平らかなる王になる為には、僕の手の届く範囲で信頼してくれた者は救わなきゃいけない。そうしなきゃいけない。
「アイザ。エミ。この他次元層からの侵略に対し、僕はダークエルフ全部族の危機と判断した。オーク達がここを滅ぼした後にまっすぐ帰るとは思えない。エミの次はアイザかグランかもしれない。だからこれに対し、敵オークへ全部族を以て抵抗するべきと命令するよ」
干渉し過ぎないようにと思っていたが、それが間違いだった。王であるならば干渉せずにはいられないのだ。外部がなんだ。掟がなんだ。目の前で滅びようとしている人に、家族に、そんなしょうもない理由で手を差し出せないなんて僕の心が許せない。
「異論はあると思う」
「……」
「掟を守る志は立派だ。積み上げてきた歴史を蔑ろにしてしまうという感情も理解しているつもりだ。けれど、掟を順守して死ぬことは許さない」
「将三郎さん……」
アイザを見る。どういう表情をしたらいいのか分からないのだろう。泣きそうな、悔しそうな、嬉しそうな、そんな顔をしていた。
「アイザ、エミ。僕は君達に一宿一飯の恩義もある。王として、客として。手伝うなんて言葉は取りやめる。ガチガチに食い込ませてもらう。干渉させてもらう!」
「っ、すぐに他の部族に連絡してきます!」
立ち上がったアイザが風よりも速く駆けていく。
「エミ、作戦の立案に協力してくれ。部族の特性と内情が知りたい。そこの2人は情報収集をお願い……頼みたい」
「わかった」
「了解しました」
いつも通りの無表情だ。しかしやる気に満ちた目をしている。呼ばれてきた2人も僕からの直接の命令で気合いが十分に入ったように見えた。自信過剰かな。
「サフィーナは僕達のサポートを。何かあったら助けてくれるかな?」
「は、はい……っ!」
サフィーナは緊張した面持ちで力強く頷く。サフィーナを見ていると肩に力が入り過ぎたのを自覚できた。強張った肩を叩いてサフィーナの力も適度に抜かせる。
「じゃあ私は資料を取ってくる。サフィーナ、手伝って」
「はい……!」
踵を返したエミの後を小走りでサフィーナが駆けていき、残ったのは僕と八咫だけだった。
椅子に座り、ふぅ……と息を吐く。周りは騒がしいが、ここだけは異常なまでに静寂に感じた。隣の部屋のテレビの音のような、隔たれた音を聞きながら空を見上げる。
「八咫、僕は間違ってるか?」
「どうだろうな。この王命がもたらす結果が楽しみだ」
「ふん。ちゃんと導けよ、神様」
「はは……王の意のままに」
空笑いで返す八咫を一睨みし、僕はこれから起こりうることを考えることにした。
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