第21話 後ろからえいっ

 緊張の一瞬です。


「今日も訓練、頑張るぞ!」


 防具も身に付けて気合い十分な兵士の背中に向かって袈裟斬りにスクナヒコナを振り下ろした。


 その一撃で兵士は塵となって消えて、後には魔力石が転がっていた。


「あーぁ、訓練頑張ろうとした兵士を背後から……よくそんなことができるな。貴様はそれでも人間か?」

「おめーがやれっつったんだろうが!!」


 相手は人間と瓜二つ。だがモンスターだ。


 主君の為に剣を振るう、厚い忠誠心の持ち主。だがモンスターだ。


「やらなきゃやられるんだ。人間の所業じゃないとしても、人間の心で僕はここに立ってるんだ」

「ふむ、メンタルは問題なさそうだな……どうだ。やれそうか?」


 開けっ放しの倉庫の入口に肩で寄りかかりながら八咫が尋ねてくる。


 ……そうか、こいつ、わざと僕の精神を揺さぶったのか。確かに、普通ならこんな人間と瓜二つのモンスター……もはや別の人種と言っても過言ではないような生き物を斬ったら殺人を犯したような感覚に陥るだろう。動物だって殺すのは難しい。


 病んじゃう可能性だってあったけれど、僕はモンスターとして認識していたし、ダンジョンという場所の危険性も知っているつもりだ。


 だから、やれた。やれたし、今後もやり続けられるだろう。


「大丈夫だよ。ありがとう」

「構わん。死なれては困るからな」


 その後もぽつぽつとやってくる兵士に奇襲という形で討伐を繰り返した。倒す感覚は掴めてきたと思う。


 そうして学んだことは、『胴体を斬り飛ばせば大体死ぬ』だった。


 腕でも足でも駄目だ。やはり胴。胴しか勝たん。豪快にぶった斬ればどんな深層の兵士も倒すことができた。


「ふぅ……ちょっと休憩したいな」

「フードを被ったままならバレないし、座ればいいんじゃないか?」

「敵前で休憩するのか……豪胆だな」


 バレなければ何をしてもいいというのは犯罪に限った話ではなかったか。いや犯罪はバレなくても駄目だが。


「もっとこう、モンスターモンスターした顔してればもっと気が楽だったんだけどな」

「オークとかか?」

「うん。整った顔立ちだと、モンスターだと認識しててもやっぱりな」


 流暢に人間の言葉も話すし、やっぱり割り切ってても気持ちのいいものではなかった。


「では今後はそういうモンスターが出る方向に進むか」

「そうしてくれると助かる……長くやってると流石に病みそう」


 リスナーは大丈夫かな、とスマホのコメント欄を見てみるが、こいつらはネット上だと血気盛んだからもっとやれだの何だの言いたい放題だった。


 だが一部のリスナーは刺激が強かったのか、視聴者数が結構減っていた。やっぱりあんまりこういうのは映したくないな。


 ダンジョン配信を見てればモンスターとの戦闘なんてのは当たり前の光景ではあるけれど、極力こういうのは避けていきたい。


「倒せるって分かれば、これ以上倒す必要はないよな?」

「将三郎がそう言うなら、それでいい。先を急ぐとしよう」

「あぁ。ありがとう、八咫。お前のお陰だよ」

「ふん、礼は脱出してから聞くとしよう」


 モンスターに出会ったら殺されるかもしれない……それは依然として変わらない。だが必要以上に怯えることはなくなった。装備の性能が良いお陰だし、それは全て八咫のお陰だった。


 僕は改めて心強い友人に感謝の気持ちを伝え、不遜で失礼極まりないながらも細やかに気を遣い、手助けしてくれる友人と共に僕は灰燼兵団宿舎を後にした。



【禍津世界樹の洞 第96層 灰霊宮殿アッシュパレス 城門】



 でっけぇ門だ。こんなに見上げるほどにでかい門に出会ったのは初めてだ。見たところ、吊り下げ式だろうか。格子状のでかい柵が出入口を封鎖している。しかし種類は違えど門自体は神社仏閣のものを学生の頃に修学旅行で見させられたが、門の枠組みを含めてこれ程大きな物はなかった。


 何故言い切れるかって?


 門を見上げてスゲースゲー言ってる頃がピークだからである。


 そんなことはどうでもよくて……。


「これ、どうやって抜けるんだ?」

「スクナヒコナで斬ればいい」

「乱暴だなぁ」


 後先考えなくていいのであればそれでもいいけれど、他の人達にも迷惑掛からないかな、なんて考えちゃうな、なんて散々不意打ちで始末しておきながら兵士も生きてるんだからと考えてしまう。良い感じに壊れてきてるなぁ。


 ダンジョン探索者としてどっちかになるんだろうな。モンスターを尊重するか、しないか。


 前者も後者もわかるのだ。モンスターにも意志と感情があって、それぞれが生活している。それを尊重し、できるだけ戦闘を避けて探索するか。


 そしてモンスターはモンスターだと割り切って全て殺すか。


 できるなら僕は前者になりたい。卑怯な手段で手に掛けておいて何を言ってるんだってのは僕が一番思っている。知らなかったじゃあ済まされないってのも分かってる。


 けれど、知らなかったは立派な理由の一つになりえるものだと思ってる。だからこれから知っていけたら、それが一番良い。


「どうにか出られないかな。あんま乱暴にしたくない」

「貴様がそう言うなら、そこの扉から中へ入れ。門を上げる装置がある」


 門の横の石造りの枠組みに小さな扉がある。そこへ入り、備え付けられた梯子を上ると歯車のような見た目をした装置があった。これを回せば門が上へスライドするんだろう。


「勿論、二人で回すよな?」

「仕方ないな」


 重い歯車を二人で回し、どうにか開門することができた。兵士たちは出てこないな……警備とかおらんのか?


「この門を出れば95層。安地だ」

「面白い造りだな。階段以外の移動方法もあるのか」

「視覚効果としてだな。安地からここに来る時は階段移動だ」

「よう分からん」


 考えても仕方ないか。とりあえず、あっさりとしていたがこれで96層はクリア……かな。


 宿舎、城門と移動してきてこれからの行動の指針ようなものが見えた気がする。不殺というのは難しいかもしれないが、八咫のようにボスでありながら僕と友好関係を築ける者もいる。


 今後はそういう種族に出会えたら、できるだけ話し合いで解決できればなと思う。


「いつまで呆けてるんだ。行くぞ」

「あぁ、すぐ行くよ」


 こちらへ振り返る八咫の元へ急ぐ。色々あったが次の階層は安全地帯。


 さぁ、寝るぞ!

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