第13話 上へ

【禍津世界樹の洞 第99層 灰霊宮殿アッシュパレス 安全地帯】



 目が覚めた。床の上で寝たせいでだいぶ体が痛いが少し動けば凝りもほぐれるだろう……。


 誰かが話しているような声が聞こえる。寝返りを打つと八咫がスマホの画面の前で座って喋っていた。


「ふむ……なるほど、大体わかった」

「何してんの……」

「おぉ、起きたか。9時間も寝るとは豪胆なのか呑気なのか……」


 ボリボリと頭を掻きながら起き上がる。9時間は寝過ぎだろ……。


 八咫の前に置かれたスマホを取り上げ、時間を確認してみる。もう昼の1時だった。


『やっと起きたか将三郎』

『おい八咫ちゃんを映せ』

『寝起きのおっさんなんか見たくねぇよ』


「まだ24だ。おっさんじゃねぇよ。将三郎言うな」


 僕だって寝起きから胸糞悪いコメントなんか見たくない。十分すぎる程に休憩した僕はスマホをポケットに仕舞い、いよいよダンジョンを逆探索を開始……しようとしてぎゅぅぅ、とお腹が鳴った。


「そうだ……飯」


 レッグポーチにはクッキーとサンドイッチしか入ってない。ただでさえ1日分もいのに、八咫の分も用意するとなるとそれこそ1食分にもならない。どうにか食料の確保をしなきゃ餓死するぞ……。


「八咫、どうにか食料を確保したいんだけど、何か良い方法はないかな」

「ふむ……それならダンジョン内のモンスターを食べれば良いんじゃないか?」

「……お前それ本気で言ってる?」

「無論、本気だが」


 オークが豚肉みたいで美味しい~! なんてのは漫画の世界だけの話だ。ここじゃあそも、倒した時点で塵になって消える。まさかドロップアイテムに肉が出てくる訳じゃあるまいし……。


「まさにその通り。ドロップアイテムだ」

「モンスター倒したら肉とか野菜が出てくるのかよ」

「出てくるとも。知らんのか?」


 そんな話は聞いたことがない。僕だけが知らんのか?


『好き嫌い分かれるけど、食う人もいるよ』

『俺は食いたくない』

『意外と旨かったぞ。ジビエみたいな』


 取り出したスマホで見るコメント欄では常識のように語られていた。初心者講習では聞いたことなかったけどな……。多分、中級以上の講習とかであるのかもしれない。それか、僕が聞き逃していたか。


 初心者が食糧難に陥るくらい深層まで潜るようなこともないだろうし、講師の人も豆知識程度にしか言わなかったんだろう。きっとそうに違いない。


「まぁいいや……でも食料になるモンスターを倒せっつったって、ここは深層だぞ。僕の力で倒せないよ」

「その為の私だろう?」

「はっはぁ……そういう手伝いはしてくれるんだ?」

「死活問題だからな。死なれては困る」


 はて……困るというのはどういうことだろう。あんまり考えたくない話ではあるが、僕が死んだとしたら、八咫は最下層に戻ればいいだけの話だ。困るようなことはないと思うが……。


「将三郎が主になった時点で私は階層主として逸脱してしまった。いわばこれはイレギュラーなことだ。だからこうして自分が納める階層から離れることもできる」

「確かに……何も考えずに安地に来たけれど、移動できてるね」

「ラスボスとして君臨していたダンジョンを駆け上がる最中に将三郎が死ねば、私も路頭に迷うということだ。だから死なれては困るということだな」

「なるほど、理解した」


 職無し烏が急に放り出されて一羽でやっていけるとも思えない。僕の命の為にもしっかり食料は確保していこう。


 僕は食糧問題を八咫任せにすることを決めてクッキーとサンドイッチを八咫と半分こした。偶数で持ってきてよかったぜ。




 食事を終えた僕達はついに安地から98層へと向けて歩き出した。5層の安地もそうであったように、ここにも無数の上り階段が等間隔で並んでいた。


「さて……どの階段から行こうか」

「あの階段だな」

「その根拠は?」

「草の匂いがする」

「……よく分からんが、八咫が言うなら悪い選択じゃないだろう。行くかぁ」


 魔導カメラを手に取り、こちらに向ける。


「じゃあ俺達はこれから地上目指して頑張るぜ。応援よろしく~」

「貴様らリスナーの応援があれば将三郎も挫けずに頑張れるだろう。すまんが少しの間、よろしく頼む」

「親目線やめろ」

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