第2話 投げ銭もらいました
【禍津世界樹の洞 第一層】
木でできた階段を下りながら1人で喋る。
「いや~マジで怖い。僕ね、ダンジョン初めてなんですよね。探索者と登録票は持ってますよ、もちろん」
肩元で浮いている魔導カメラと無線接続されたスマホに映る配信画面に表示される視聴者数はゼロである。
「最近は仕事仕事でねー。僕ァあんな量の仕事を押し付けられるなんて思っちゃいなかった! 横暴だ横暴!」
酔いがまだ残っていたのか、独り言は次第に愚痴になっていった。
「だからね、あんな仕事辞めて、配信で食って行こうって思ったんですよ! ……あ、リスナーさんおるやんけ! 初めましてー!」
スマホの視聴者数が1になった! これが思っていた以上に嬉しかった。コメント欄にポン、と一行だけコメントが表示される。
「『何やってんの』。えーと、うんち天賦さん。初コメありがとうございます! 今ね~。如月県の【禍津世界樹】に潜ってるんですよ。まだ一層ですけど」
スマホと周囲を行ったり来たりする視線に従って動く魔導カメラのお陰で配信画面がえらく揺れる。これはちょっと気にした方がいいな。僕が視聴者だったら秒で酔う。
できるだけスマホを見ずに周囲を映すように慎重に歩く。こうすることでダンジョン内部の様子を配信できるのと同時に、モンスター等の危険に遭遇する前に気付けるようになる。
「スマホも気になるけど、まずは周囲の探索を……っと、あれは……ゴブリンだ!
」
気持ち、!マークがついてるが小声だ。通路の影にゴブリンがしゃがみ込んでいる。俺は腰のベルトにぶらさがっている剣を抜き、そっと背後から忍び寄る。
「……ハァッ!」
「ッ!?」
振り上げた剣をゴブリンの脳天に向かって、叩き付けるように振り下ろす。気合いの声に驚いたのか、一瞬振り返ったゴブリンの顔に向かって剣の切っ先が突き刺さった。
「ウ……」
ゴプッと血を吐いたゴブリンがパッと光の粒子となって消え、その場にドロップアイテムが転がる。ビー玉みたいなサイズの魔力石と……
「おぉ、やったー! 見えてますか? アイテムですよ!」
出てきたのは安っぽい剣だ。正直、今持っているのとあんまり差はなさそうだが、僕にとっては初めてのドロップアイテムだ。正直、めちゃくちゃ嬉しい。
スマホの画面を見るといつの間にか視聴者が34人に増えていた。
「……え!? めっちゃ視聴者増えてる! えー、何すか、僕晒されてます!?」
あんまり増えるものだからビックリしてそんなことを言ってしまう。まだゴブリン1匹倒しただけだし、僕のストリーマーとしての実力なんて微塵もない。ならば面白半分に晒されてるくらいしか予想ができなかった。
でも心のどこかで、眠っていた僕の才能が開花してカリスマ的な何某かで視聴者が増えたんじゃないの? なんて思いたかった。
が、無情にもコメント欄には『うん』とか『はい』なんて肯定の言葉で埋め尽くされる。
「何でよ!? 僕なんかしたか!? 【禍津世界樹】に潜っただけだが!」
『だからだよ』
『そこ、だいぶ難易度高いぞ』
『ツベッターから来ました』
『はよ行け』
下から上へと爆速で流れていくコメント欄から必要そうなコメントだけを選んで、呟くように読み上げていく。
「マジか……知らんかった。ここってそんなにヤバい場所なのか。……え、帰ろうかな」
急に心細くなってきた。そういえば探索者登録票を取得した時の説明会では高難易度ダンジョンはパーティーを組んで行きましょうとか言っていたような記憶が微かにある。
でもストリーマーって基本、ソロだし……コラボ配信するような知り合いもいない。
あぁ、そうか。
ストリーマーって、強いからソロなんだ……。
頭を抱えたくなった。来るんじゃなかった。儲かるとか、聞かなきゃよかった。
チラ、とコメント欄を見ると『はよ行け』の文が1秒ごとに流れていく。
「……んん?」
その中に一つだけ色の違うコメントがあった。
『ダンジョン攻略祈願代 1000』
ひょっとしてこれは……な、投げ銭か!?
配信サイトの機能で収入プログラムをオンにしていたが、まさか貰えるとは思っていなかった。
「えっ、えっ、と……! 過敏ビンビン花瓶さん、1000コインありがとうございます! 初コインだー! めっちゃ嬉しい!」
お金を貰うというのがこんなに嬉しかったのは初めてだった。僕は今、初めてストリーマーとしてお金を貰えたのだ。
その大きな感情は、先程までの恐怖感を全て上書きしていた。
気付けば帰ろうという気持ちはどこへやら。もう前に進むことしか頭になかった。
というか、冷静になって考えてみればこれはチャンスだ。ツベッターという大手SNSに晒されただけで視聴者数が50倍になったのだ。もっともっと話題になれば、更にお金も貰えるかもしれない……。
へへへ……このチャンス、逃す訳にはいかないってもんだろう。
「よーし、祈願代いただいたことだし、どんどん進みますか!」
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