ノプス受36あ5 初心者補助依頼

かいわれだいこんぶ

第1話 これは芋虫?

もうすぐ暑い季節。


少し大きめの籠、短槍、ナイフ、1日分の飲み水と練えさのような食糧、簡易治療セット、地図。

丈夫な長ズボン、膝までの靴下、長靴もどきのような靴、防刃効果のある長袖に、肘まである手袋。

顔半分まで布を巻き、さらにフード付きの上着。


うっすらと明るくなってきた時間帯に、籠を背負って短槍片手に目的地まで移動する。


重いし暑いし思いっきり不審者にしか見えないけどこれも仕事のためだ。


舗装されてない道路は歩くだけで汚れるし、ちょっと雑草跨ぐといつの間にか虫にやられるし、武器持ってる通行人とすれ違う時は緊張するし、道路では確率は低いけど魔物が出てきたら戦うか逃げるかしないとだし、早く依頼回数こなして街中の警備依頼受けられるようになりたい。



頭の中で愚痴を言いつつも歩き続けて目的地の看板が見えた。

田舎の道路看板ほどじゃないけど、なかなか目立つ看板で大きく「この先ギルド管理地、警備巡回有り。ギルド登録者も募集中!!!」と書いてある。募集の文字が一番目立つ色だ。



「地図ヨシ、服装ヨシ、武器ヨシ、ナイフヨシ、食糧ヨシ、治療セットヨシ、籠ヨシッ!」


管理地前の開けた場所で改めて装備確認をする。短槍に巻いてた布を軽く縛ってまとめて籠に投げ入れ、軽く振り回してから真っ直ぐ正面に構える。


「はじめは弓とか剣は使うな!どうせパニックになって当たらんし、振り回してケガするだけだ!」

「短槍でも構えて距離をとれ、穂先を相手に向けつつ細かく突け。可能ならば目を狙え!」

「小型の魔物なら槍で距離を取りつつ突いて血を流させろ、中型以上や対人の場合は逃げることを必ず候補に入れろ」

「魔法を使えるやつも同じだ!武器は使えるようになっておけ!」

「金を稼ぐために死ぬ奴は馬鹿だ、無理な状況なら逃げろ」


ギルドのおじさんが登録後の集団講習で言っていたことを思い出す。



今日の目的はアガメノソウ、ヤダウモソウ、シロトゲバシリソウの3つのどれか。全部乾燥させて使うし採取方法も同じで、しかもわかりやすい見た目だ。地図にも過去の採取場所はメモした。


魔物が出たら大きさにかかわらず逃げるし人の気配がしたら離れよう。

短槍をツンツン突き出しつつ考えをまとめる。



確認を終えて管理地に入るころには大分明るくなってきていた。

この世界ではクマ除けの鈴のようなものは無い、魔物がいた場合寄ってくるからだ。

足元と頭上、周囲全体に気を配りつつ管理地に入っていく。




「うーん?んーーー?」


地図で確認しつつ5カ所ほど生えてそうな場所を探してみたけど見つからない。

そんなに珍しい種類じゃないはずだし、他に誰かが採集した後なのか。

あんまり草木が元気に生えてて歩きにくい場所には入りたくないけど、今の状況だとそういう場所を回った方がいい気もする。


短槍で背の高い草を左右によけつつ、滑らないように足元に注意しながら進む。

今のところ魔物も人の気配すらない。



「どうして一本もないのぉ?」


草の汁やクモの巣、泥汚れに負けず進んだ先にも目的の植物はない。

むかついて倒木ずらしたりしてみたけどもちろんあるはずもない。


頭の中の予定では昼前にはそれなりの数採取できてるはずだったのに、現実は厳しい。成果は珍しそうな色した芋虫一匹である。ごねたらお金もらえないかな。

魔物の買取してるんだから最悪買取り駄目でも引き取ってもらうつもりだ。


ギルドの管理地だけあって地図さえあれば迷うことはないけども、絶対に魔物や野盗に出くわさないわけではない。

休憩もかねて昼になる前に食事という名の補給をしたい。食事をするときは周りに注意しないといけないので地図と相談し移動する。




「じゃあ魔物は見かけてないのね?」


休憩しやすいように柵が作られ、座れる場所で粘りっ気のない餅のような食事をモサモサと食べていると明らかに弓使うんだろうなぁ、という装備をした2人組に話しかけられた。


ギルドマークの付いた装備にギルドマークの鞄、そして身分証を見せながら近づいてきたときは「職質ってこの世界にもあるんだ」と思ってしまったが、彼女らは巡回中の職員だった。


「行った場所を教えてくれるのはうれしいけど、食べながらうんうん頷いて地図を指さすのはやめてくれる?」


金髪ショートで気の強そうなお姉さんが言う。

確かにマナーは悪いだろうが、身元確かな職員のいる今が安全に食事をするチャンスである。チャンスは逃すなと講習の時におじさんも言っていた。


「この子?って言っていいかわからないけど警戒心が強いのか図太いのかわからないわね、さっきも姿見せた瞬間逃げ出そうとしてたし」


こっちはもう一人の赤いロングヘアを後ろでまとめてるお姉さん。


どうやら食べ終わるまで待っていてくれるらしい、目の前で鞄を下ろして二人とも飲み物を飲み始めた。よし、ゆっくり食べよう。




「ヤダウモソウすら見つからないのは探し方が悪いと思うんだけど、話を聞いた感じだと本当に無いのね」

「地図の裏にメモで描いてある絵もものすごく上手ね、しかも3種類ともいろんな角度から描いてあるし」

「うわ、本物みたい」

「このシロトゲバシリソウなんてギルドにある絵より上手だわ」


ギルドで実物を見て何回も描いたメモが好評である。



「あぁ~、前はひどかったみたいだけど最近は管理地の巡回もしてるし、ギルド関係者の不正取り締まりも厳しくなったわ」

「お給料ちょっと増えたけど、巡回も回数増えたり時間変えたり人数増やしたりね~」

「今も私たちとは別ルートでここ巡回してる組いるし、入り口にも待機してる職員いるしね~」

「看板汚れてると怒られるから綺麗にするのも私たちの仕事で、たまに塗りなおしとかもするの」


どうやらここ数年でいろいろと綺麗になったらしい、採用基準と給料も上がったと。

ちなみに金髪の方がリネさん、赤髪の方がラーラさんというらしい。




「はぁ、お前たちがサボってたわけじゃないのはわかった。一応確認が必要なこともだ。」

「当然です、こんなもの見たことがありません。見るだけなら危険はなさそうなので確認していただけです。」

「その割には楽しそうに喋ってるように見えたんですけど」

「仕事中ですよ?何を言ってるんです?」


捕まえた芋虫見ながらギルドのお姉さん達と楽しくお茶してたら、髭生やして腰に剣を背中には短槍2本差したごついおじさんと、腰に剣2本差してる茶髪のお兄さんが話しかけてきた。この二人もギルド関係者らしい。芋虫くん人気だな。



「こんな黒と黄色の縞々、目玉のような模様に大きな触覚、何より大きさがな」

「毒もってそうな見た目っすね」


芋虫くん50センチはありそうだし、太さもワイン瓶よりちょっと太いくらい。

捕まえた時も触角伸ばしながら頭とお尻ブルブルして元気だったな。

今は籠の中で捕まえたところの周辺にあった草入れたやつムシャムシャかじってるけど。



「俺とラチャオは一応ここで採取できる他の物を含めて、さっき教えてもらったルートを逆に確認しながら戻る。お前たちは念のために一緒に先に戻っていろ」 

「………、一か所ほぼ崖のところじゃないっすかこれ?」


髭のおじさんはゴデルダラス、茶髪のお兄ちゃんはラチャオという名前らしい。




「これって補助依頼失敗になるんですか?」

「いや、今回の場合は君に帰還を要請したようなものだからな、失敗にはならないようにするし情報を確認できれば情報料を払うようにする」

「この芋虫ギルドで買い取ってもらえますかね?」

「新種じゃなかったとしても珍しい種類だろうから買い取りはされるだろう、金額が決まるのは少し時間がかかるかもしれないが」


どうやら芋虫くん売れるらしい、










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