第46話:転移と地下空間




「こんなとこにあるのか……?」


 やってきたのは東京都、郊外にある冒険者ギルド本部だ。


「それは実際見たら分かるでしょ……じゃあ行くよ」


 そう言って夜子は俺の手を取り、スキルを発動した――


――景色が一瞬にして変わる。


「便利でしょ~このスキル」

「便利というかずるい。 チートだ」


 彼女のスキル転移によって、俺たちはギルド本部の地下に潜入した。


「そのおかげでここまで来れたことについて」

「大変感謝しております……」


 俺たちは物置のようになっている地下室の床にある扉を、転移ですり抜けて先へ進む。


「というかなんで知ってるの? 色々と疑問なんだけど」

「企業秘密です」


 夜子はそれについて答えるつもりはないらしく、俺は彼女へ不信感を募らせた。

 黙り込んだ俺たちは螺旋を描くように階段を下っていく。 そしていくつかの扉を通りすぎて、一番奥にあるいかにもな古びた鉄製の扉を開いた。


「なんだよ……これ」


 そこには想像もしていなかった大空間が広がっていた。


 俺たちがいる場所から見下ろせるその空間はまるでダンジョンだ。 そして中心には光を放つ巨大な水晶が浮遊していた。


「あれは……?」

「ダンジョンコア。 全てのダンジョンの源と呼ばれているものです」


 今まで何度とダンジョンコアを破壊してきたが、どれも手のひらほど、大きくてもサッカーボールくらいの大きさがせいぜいであった。


 故に目の前のそれが特別であることだけは理解できる。


「モンスターはいないんだな」

「ですね。 チャンスかもしれませんね」

「……近づいてみよう」


 ここまで来て迷っても仕方ないと、俺は水晶に近づいた。


 水晶はゆっくりと明滅し始めて、近づくほどだんだんとその間隔が短くなっていく。 どう見ても何か起こりそうな気配である。


――ずずずずずず


 ノイズのような不快な音と共に、ダンジョンからひりだされるように何かが出てきた。 それは獣の前足だ。


 そして水晶から現れたのは真っ白な狼だ。


「守護者か」


 始まりのダンジョンコアを守るモンスターなのだ。 ただの狼ということはないだろう。


――WAooooooooooooo


「……?! まずいかもしれません」


 いつの間にか眼鏡型をかけた夜子が焦ったように呟いた。


「フェンリルです」


 と言われても戦ったことはないので、俺には何がどうまずいのかすら分からない。


「一度引き――――」


 何か言いかけた夜子の言葉を待たずに、俺は一歩前へ出て狼と対峙した。


「ここまでありがとう。 帰りたければ帰ってくれていい――


――俺は引かない。 引くわけにはいかない」

「いや、準備を整えて、作戦を練って来れば」

「そういうことじゃないんだ。 上手く言葉にできなくてもどかしいんだけどさ」


 意固地になっているわけじゃない。

 ただ漠然と、ここで引けば俺はもう前へ進めなくなる気がしていた。


 だから相手が伝説のモンスターだろうが、神だろうが、勝てるか不確定でも戦うしかないのだ。


「……ギリギリまで付き合いますよ」


 夜子はため息を吐いて、大鎌をくるりと回した。


「やばいと判断したら逃げますから」

「うん、そうしてくれ」


 むしろそうしてくれた方が気が楽だ。


 俺はいくつも守れるほど器用じゃないし、強くもない。

 守る者はただ一つ。


「さあやろうか」


 俺は長剣を構えて、狼に嗤ってみせるのだった。






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