第42話:銭ゲバヒーロー/掲示板②



 俺が病院から姿を消してから、困ったのは金だった。


 刑務所から出たばかりで、俺は財布も何も持っていないのだ。


 金が無いからご飯は食べれないし、身分証も携帯もないからカードを作ることもできない。 家に行くのはリスクが高い。


「せめてアイテムボックスがあれば動きやすいんだけどな」


 アイテムボックスには装備や最低限の非常食が入っていたはずだ。

 しかし刑務所にいる時に、ヒナに渡して預かってもらっていたので諦めるしかないだろう。


「まあ最悪ゴミでも漁る……いや川で魚でも捕まえるか」


 手段を選んではいられないが、さすがにわざわざ泥水をすする必要もない。


 そうと決まれば――


「ちょっと君! 待ちなさい!」


 俺はダンジョンの入り口でステータスカードをチェックしているであろう検閲を強引に突破していく。


 モンスターを出来る限りいなしながら、俺はまるでRTAしているかのような速度でダンジョンを駆け抜けた。


 ドロップアイテムはほとんどを捨て置く。

 俺はそれを売りさばくルートを持ち合わせていないから、拾う時間はただのロスだ。 出来る限り、一秒でも早く俺は俺たちを苦しめるこの世界を壊したかった。


 そのためにここを手始めに、俺は――


――全てのダンジョンを攻略してやる。


「助けて!」


 途中助けを求められて、閃いた俺は立ち止まってモンスターを蹴散らせた。


 そして助かったと理解して安堵する冒険者へ手を差し伸べ言った。


「助かって良かったね。 俺のことも助けてくれないかな?」


 ダンジョン探索していると、時より誰かのピンチに遭遇することがある。


 いるかいないかはギャンブルだが、俺は冒険者を助け、代わりと言ってはなんだが彼らは俺を助けてくれたらお互いにとって良いだろう。


「悪いけど無一文でさ……お金ください!」

「へ……?」


 戸惑った様子の冒険者からいくらか手持ちと予備の武器を融通してもらった俺は、上機嫌のままダンジョン最下層へたどり着きコアを破壊した。


「まず一つ」



***



『冒険者の談話室なスレ』


『このスレッドにおいて差別的な発言は禁止です』


『ゆるく雑談・情報共有しましょう』



名無しの冒険者:

ようやく俺たちに相応しい世界になってきた


名無しの冒険者:

陰キャが調子乗っている↑みたいな奴が見ていて痛々しい


名無しの冒険者:

あ? 俺たちのおかげでパンピーは安心して暮らせるんだから敬い、感謝されるのは当然だろ

むしろもっとするべきなんだよ


名無しの冒険者:

こういうやつに限って低級だよな


名無しの冒険者:

先日四級に上がりました

[画像]


名無しの冒険者:

[画像]

まあ若気の至りってやつだろう


名無しの冒険者:

八級……最高峰レベルの化け物やん


名無しの冒険者:

四級ドヤまん消えたな

これで平和になった


名無しの冒険者:

今日、ヒーローに助けてもらった件


名無しの冒険者:

え? あれって都市伝説的なやつじゃないの

銭ゲバヒーローって


名無しの冒険者:

窮地に突如現れ、助けた相手に金をせびるっていうダークヒーロー


名無しの冒険者:

ダークというか当然の権利な気もする

死なずに済むなら、いくらでも払うだろうし


名無しの冒険者:

どんなやつだった?


名無しの冒険者:

サングラス付けてた

性別は男


名無しの冒険者:

じゃあ黒サンタと同一人物という噂はデマか


名無しの冒険者:

本当なら別人で確定

黒サンタは女だ


名無しの冒険者:

そういえば最近ダンジョンいくつか消えたよな?


名無しの冒険者:

誰か攻略してんだろ

俺たちの食い扶持を奪わないでくれ


名無しの冒険者:

世界回帰教が動き出したか


名無しの冒険者:

攻略なんて前々からあっただろ

ただ今回は利用率の高いメジャーなダンジョンが攻略されて、ギルドやら事情を知らい情弱が騒いでるだけ


名無しの冒険者:

このまま全部攻略されるなんてこと・・・ないよな?


名無しの冒険者:

ないだろ

冒険者ギルドに消されるぞ


名無しの冒険者:

ダンジョンなくなったらどうなるんだよ、どうすんだよ


名無しの冒険者:

前に戻るだけ


名無しの冒険者:

そうなったらギルド、冒険者、うま味を吸ってる政府関係者が総出で止めるんじゃね?


名無しの冒険者:

日本VS謎の攻略者



***








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