第31話:優しくて鬼





――GYAAAAAAAAA


 俺は向かってくる翼竜を避け、通り過ぎる首に向けて重ねた両手を打ち下ろした。 


――ドンッ


 そしてすかさず短剣でとどめを刺した。


 練習通りだ。

 こういう飛行タイプとの戦闘は苦戦することが分かっていたので、よくよく練習を重ねていたことが功を奏した。 





「は……?」

「終わりましたよ。 はい、ドロップどうぞ」

「ええ?! ああ、どうも……って違う!」


 少女は我に返ったように突然叫びだした。


 そして俺の胸ぐらを掴んで詰め寄ってきた。


「なんなんですかあなたは?!」

「何って……ただの元冒険者ですけど」

「何級?! 名前は?!」

「3級、聖剣です」

「知らないわ……有望な冒険者はチェックしてるはずなのに……?」

「(この人、冒険者オタク……?)」


 思考の海に入り込んだ少女は置いておいて、俺は怪我人の様子を確認しに向かった。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。 助かったよ」


 冒険者の片腕は真っ赤に腫れ上がっていて、どう見ても大丈夫には見えない。

 なんとかしてやりたいが俺に医療の知識は皆無だ。 こうなっては撤退するしかないかもしれない。


「分からないんだったらどいてください……うん。 折れてはないけど、ひびが入ってる可能性はありますね」


 少女は冒険者の腕を触りながら言った。 そして包帯で応急処置を施していく。 その慣れた手つきはまるで看護師や医者のようだった。


「すごいな……」

「あなたも戦いを生業とするのならこれくらいできるようになった方がいいんじゃないですか? 仲間が怪我をしたらどうするんです? 見捨てるんですか?」

「おっしゃる通り。 私はソロだったので、気にしたこともなかったです」


 俺が肩を竦めると、少女は狂人を蔑むような視線を向けた。


「ソロ!? あなたはバカなんですか……いえ、余計なお世話でしたね」


 少女はため息を吐いて鞄から小瓶を取り出して、負傷した冒険者に差し出した。


「これは回復薬ですか?! こんな高価なもの使っていいんでしょうか……?」

「構いません。 必要経費です」


 回復薬は古傷すらきれいに治すものもあり、等級はあるがどれも非常に高価な代物だ。 冒険者がダンジョンで手に入れられアイテムの中でも当たりと言われている。


「一度出直せばいいのでは?」

「いえ、時間が惜しいので。 それに金はいくらでもあるのでご心配なく」


 少女は平然とした表情で言った。


 彼女がどれだけ回復薬を持ち込んでいるかは不明だが、今回の探索にどれだけ資金をかけるつもりなのだろうか。


「これで先に進めますね」


 少女は優しくほほ笑んだ。 彼女はいい雇い主であり、鬼でもある。


 何が彼女をそこまで先へと進ませるのか、俺には理解できなかった。


「今度は7、8、9番に先行してもらいます。 いいですね?」


 遠くから様子をうかがっていて、しれっと戻ってきたナナとハチは、愛想笑いを浮かべて頷くのだった。


 


 



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