第14話:二人きりの仕事/手がかり





 本日の目的地の詳細は明かされていない。


 車から降ろされた俺たちはを、目前に生い茂る竹林を進む。 そして開けた場所に見えてきたのは一棟の建物だった。


「幽霊屋敷……?」

「分かります。 一体何の研究をしているんでしょうね」


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極秘研究所の警備

研究内容について情報の開示はなし

入ろうとする者は誰であろうと阻止せよ

その者の生死は問わない

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 建物は蔦まみれでぼろい洋風の屋敷だ。


 土と草の臭いが鼻について、俺は鼻を鳴らす。


 明かりは月明りしかなく、人気はない。


――ギィ


 耳障りな音を立てる扉を開いて、照明を点ける。

 中はミステリーでも起こりそうな洋風のエントランスで、想像より綺麗で俺は少し安堵した。


「ちょっと一緒に来てください」


 夜子はそう言っていくつもある扉の一つへと迷いなく入っていく。 ここの警備依頼は定期的にあるらしく、彼女は経験者らしい。


「給湯室ですか?」

「はい、ここにあるものは全て使用して良いんです」


 夜子と一緒にテーブルと椅子をエントランスへ運び出し、給湯室の棚にしまわれていた菓子をテーブルに広げた。


「トランプとウノありますけどやりますか?」

「一星さん……意外と図太いですね。 ポーカーのルールは知ってますか?」


 仕事は順調だ。


 誰も来ないし、問題も起きていない。


 話を切り出すには丁度良いだろうと、俺は手札をテーブルに伏せた。


「一星さん、黒いサンタクロースについて聞いてもいいですか?」

「ええ、いいですよ」


 夜子は快く頷いた。

 

「黒サンタって何者なんでしょうね」

「さあ、まあ普通ではないですよね」

「盗られたスキルを取り返す方法ってあるんですかね」

「私に聞かれても困ります。 まあ安直ですが、黒サンタ本人なら可能かもしれないですね?」


 正直、俺は腹を探り合いながら相手から欲しい情報を引き出せるほど、口が達者ではない。 だから俺は息を吐いて、意を決して口を開いた。


「一星さんは田中さんよりも黒いサンタクロースに詳しいように感じました」

「だとしたら?」

「スキルを取り返す方法、もしくは黒いサンタクロースについて知っている情報を全て教えていただきたい。 実は知り合いが――」


 どういう感情なのか俺が話している間、夜子はずっと愉しそうに口角を上げている。 まるで己の手のひらで愚かに踊るお気に入りの人形を見るように。


「いいですよ」

「……え?」

「教えてもいいですよ、と言いました。 ただし条件があります」


 もっとはぐらかされたりするかと思いきや、彼女は違和感を感じるほど簡単に了承した。


 しかしA級冒険者の出す条件とは何なのか、俺は頷いて生唾を呑み込んだ。


「まず私を嫌いならないで欲しいです」

「えっと……分かりました、嫌いなりません」


 俺はそんなことで良いのかと拍子抜けしつつ了承した。 教えてもらっておいて嫌いになることなんてあり得ないだろう。


「あと、敬語もやめてください」

「え、そんなことお安い御用だけど」

「はい、じゃあどうぞ」


 夜子はそう言ってスマホの画面をこちらに見せた。 そこに表示されていたのは、メールアドレスだ。


「直接交渉してみて下さい」

「まさか……?!」

「巷で噂の黒いサンタさんの連絡先です。 あ、通報とかやめてくださいね?」


 そう言って微笑む夜子と黒サンタはどういう関係なのだろう。


 彼女は俺にとってお店の優しい常連さんであり、頼りになる同僚だ。

 しかし俺の知らない彼女の裏の一面――死神としての顔を垣間見た気がした。









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申し訳ありません、13話と14話を誤った順序で投稿してしまいました。


(正)第14話:二人きりの仕事/手がかり


こちらを先に読んだ方は、正しい13話を投稿しましたので、そちらも読んでいただけますと幸いです。 失礼しました。

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