第14話:二人きりの仕事/手がかり
本日の目的地の詳細は明かされていない。
車から降ろされた俺たちはを、目前に生い茂る竹林を進む。 そして開けた場所に見えてきたのは一棟の建物だった。
「幽霊屋敷……?」
「分かります。 一体何の研究をしているんでしょうね」
=======================
極秘研究所の警備
研究内容について情報の開示はなし
入ろうとする者は誰であろうと阻止せよ
その者の生死は問わない
=======================
建物は蔦まみれでぼろい洋風の屋敷だ。
土と草の臭いが鼻について、俺は鼻を鳴らす。
明かりは月明りしかなく、人気はない。
――ギィ
耳障りな音を立てる扉を開いて、照明を点ける。
中はミステリーでも起こりそうな洋風のエントランスで、想像より綺麗で俺は少し安堵した。
「ちょっと一緒に来てください」
夜子はそう言っていくつもある扉の一つへと迷いなく入っていく。 ここの警備依頼は定期的にあるらしく、彼女は経験者らしい。
「給湯室ですか?」
「はい、ここにあるものは全て使用して良いんです」
夜子と一緒にテーブルと椅子をエントランスへ運び出し、給湯室の棚にしまわれていた菓子をテーブルに広げた。
「トランプとウノありますけどやりますか?」
「一星さん……意外と図太いですね。 ポーカーのルールは知ってますか?」
仕事は順調だ。
誰も来ないし、問題も起きていない。
話を切り出すには丁度良いだろうと、俺は手札をテーブルに伏せた。
「一星さん、黒いサンタクロースについて聞いてもいいですか?」
「ええ、いいですよ」
夜子は快く頷いた。
「黒サンタって何者なんでしょうね」
「さあ、まあ普通ではないですよね」
「盗られたスキルを取り返す方法ってあるんですかね」
「私に聞かれても困ります。 まあ安直ですが、黒サンタ本人なら可能かもしれないですね?」
正直、俺は腹を探り合いながら相手から欲しい情報を引き出せるほど、口が達者ではない。 だから俺は息を吐いて、意を決して口を開いた。
「一星さんは田中さんよりも黒いサンタクロースに詳しいように感じました」
「だとしたら?」
「スキルを取り返す方法、もしくは黒いサンタクロースについて知っている情報を全て教えていただきたい。 実は知り合いが――」
どういう感情なのか俺が話している間、夜子はずっと愉しそうに口角を上げている。 まるで己の手のひらで愚かに踊るお気に入りの人形を見るように。
「いいですよ」
「……え?」
「教えてもいいですよ、と言いました。 ただし条件があります」
もっとはぐらかされたりするかと思いきや、彼女は違和感を感じるほど簡単に了承した。
しかしA級冒険者の出す条件とは何なのか、俺は頷いて生唾を呑み込んだ。
「まず私を嫌いならないで欲しいです」
「えっと……分かりました、嫌いなりません」
俺はそんなことで良いのかと拍子抜けしつつ了承した。 教えてもらっておいて嫌いになることなんてあり得ないだろう。
「あと、敬語もやめてください」
「え、そんなことお安い御用だけど」
「はい、じゃあどうぞ」
夜子はそう言ってスマホの画面をこちらに見せた。 そこに表示されていたのは、メールアドレスだ。
「直接交渉してみて下さい」
「まさか……?!」
「巷で噂の黒いサンタさんの連絡先です。 あ、通報とかやめてくださいね?」
そう言って微笑む夜子と黒サンタはどういう関係なのだろう。
彼女は俺にとってお店の優しい常連さんであり、頼りになる同僚だ。
しかし俺の知らない彼女の裏の一面――死神としての顔を垣間見た気がした。
===================================
申し訳ありません、13話と14話を誤った順序で投稿してしまいました。
(正)第14話:二人きりの仕事/手がかり
こちらを先に読んだ方は、正しい13話を投稿しましたので、そちらも読んでいただけますと幸いです。 失礼しました。
====================================
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます