第2章:黒いサンタクロースと奪われた少女

第12話:黒いサンタクロース





 冒険者と喫茶店の雇われ店長、そして田中の仕事、俺は三足のわらじ生活にもだいぶ慣れてきた。


 そんな頃、一風変わった仕事――黒いサンタクロースの捜索――が舞い込んできた。


「黒いサンタクロース、最近噂になっているからみな知っているかもしれないが説明しよう」


 集められた俺たちは履歴書の束を渡された。


 それらは全員元冒険者らしく、名前と経歴、級数、そしてスキルが記載されているであった。 しかしその欄は全て『なし』と書かれていた。


「これは一体……?」


「全員黒いサンタクロースによってスキルを被害者だ」


「は? 奪われたって……そんなこと」


 田中曰く、最近この手の事件が多発しているらしい。


 被害者はみな中級以上のこれからを期待される、またはすでに活躍している優秀な者ばかりだ。


 相手は女であり、シスター服をいつも着ていることは分かっている。


 しかしとにかく神出鬼没。


 どこの誰かも全く分かっていない状況らしい。


「故に今回は優秀な君たちに手分けして捜索を頼みたい」


 集められた俺たちは二人一組のチームを作ることとなった。


 俺の相手は、


「よろしくお願いしますね、店員さん」


「こちらこそよろしくお願いします、一星さん」


 一星夜子だった。


 心強いし、何度記憶から消えても彼女は人当たりが良いのでやりやすいから助かる。







「捜せって言われてもどうしたらいいんでしょうね?」


 とりあえずやってきたダンジョンの低階層で、適当にモンスターを蹴散らしながら俺は夜子に話を振った。


「捜させるつもりはないんでしょう、そもそも」


「それはどういう……?」


 彼女は楽し気に笑う。


「優秀な冒険者がターゲットなのでしょう? ならば黒サンタは私たちが捜さずとも、向こうからやってくるのでは?」


「……なるほど、囮かよ」


 先に説明があればまだしも、後で別の人から知らされると理不尽に感じてしまう。


「まあ私たちは大丈夫ですけど」


「そうですか……心強いですね」


 今まで彼女と何度か話してきたが、自分の強さに自身はあるがわざわざ口に出すのはなんとなく彼女らしくないと俺は感じた。


「さあ、店員さんの実力をもっと見せてください」


「はいはい、かしこまりましたお客様」


 しかしそんな違和感はモンスターが現れたことで、頭の名から消えた。


「お疲れ様でした」


 それからしばらくダンジョンを探索して、今回の仕事は収穫無しで終わった。


「なんかすっきりしないですね。 モンスター相手なら倒せば終わりでいいですけど、人間相手は厄介だなぁ」


「そうですね、まあ見つけたところでどうにか出来るとは思えませんけど」


 今回の仕事中、夜子との会話に感じてた違和感に俺はようやく気付いた。 彼女はまるで黒サンタを知人のことのように話すのだ。


「……知ってるみたいに言いますね」


「まあ詳しいですね。 会ったこともありますし」


「はい? それじゃあスキルは?!」


「全力で逃げましたよ。 私のスキルは逃げることに関しては右に出るものはいないスキルでして」


 9級冒険者の夜子ですら逃げるだけで精一杯なんて、相手は一体何者で、どんなスキルなのか想像もつかなかった。


「それじゃあ私は帰ります。 おやすみなさい」


「ああ、お疲れさまでした。 おやすみなさい」


 この日の依頼は、なんだか消化不良のような後味の悪い結果に終わった。





 俺は家に帰って、日が昇るまで気分が晴れるまでモンスターを殴り続けるのだった。







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12話より2章となります。


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