第4話 異世界から来たということは、異世界から来たということなんです
「あー……」
椅子に深く腰掛け、疲れ切った息を吐く。
自称異世界人のアンジュは、ひとまず家に居候させることにした。
本人も俺の近くにいることを望んでたし、異世界人だろうと女の子を夜中に放り出すような真似はできない。
……のはいいんだけど。
「トウヤ、この突起はなんですか? あっ、部屋が急に暗く……」
「トウヤ! この小さな風車、自分で風を起こします! 涼しい!」
「トウヤ、トウヤ! 水が! 水がこんなに出ます! もしや真下は井戸ですか!?」
異世界人、好奇心が半端なかった。
目に映るすべてのものに目を輝かせて、あれやこれや聞いてくる。
スマホを見せたときに平然としてたのは、ぐっと我慢していたらしい。
今は落ち着かせるために風呂に入れているところだ。
「しかし……とんでもないことになったな」
風呂が沸けるのを待つ間、改めてダンジョンを消す理由を聞いた。
なんでも、ダンジョンは今も拡大を続けていて、いつか世界を内側から崩壊させてしまうのだとか。
世紀末みたいな世界になるわけじゃなく、世界そのものが消えてなくなるという。
ダンジョンがこの世界できて10年ちょっと。まさかそんなことが起きているとは。
「なんか、情報とかあんのかな」
スマホで検索してみる。
キーワード変えていろいろ調べたけど、ヒットしたのはダンジョンができたばかりの頃の新聞記事、あとはラノベや漫画ばかりだった。
「まあ、薄々そんな気はしてなかったけどさ。……ん?」
画面の上に、ネットニュースのバナーが出た。
見出しに百地モアの名前があったから、思わず読んだ。
「あ……」
読んでしまった。
「あああああーーーーーっ!?」
直後、脱衣所の扉が勢いよく開く。
「トウヤ!? 何事ですか!?」
「たたっ、大変なことになったぞ! って服着ろ!?」
裸でびしょ濡れのまま剣だけ持ってきたアンジュが、周囲を見渡す。
「ですが、敵が来たのであれば……!」
「そういうんじゃないから! ちゃんと身体拭いて来い!」
服を着て再び出てきたアンジュにネットニュースの記事の一覧を見せる。
『地獄に仏、百地モアを救ったヒーロー!』
『有名配信者を助けた少年、過激演出でメンバー紹介』
『無名の少年配信者、その正体は』
「さっきのことがもうニュースになってる。モアのことだけじゃなくて、君のことも!」
「なんと」
俺や自分の顔まで載った記事に目を通して、アンジュはほっと息を吐いた。
「私たちの目的は知られていませんね。安心しました」
「え、えらく冷静だな」
「世界の命運に比べれば、この程度のことは」
「そっか……。まあ、確かに言われてみれば……」
「それに私、別の世界から来てますので!」
えっへんと胸を張るアンジュ。
着ているシャツやズボンはミサキのお下がりだからか、こうしていると、ミサキが帰ってきたみたいだ。
「トウヤ?」
「……あ、いやなんでもない。それで、これからのことなんだけど」
俺が切り出すと、アンジュはやる気に満ちた顔で俺の対面に座った。
「ダンジョンを消すにしても、ひとまず配信は続けていこうと思う。【地獄】のさらに奥なんて聞いたことないし、情報収集も兼ねてな」
「異論はありません。先ほども言いましたが、私もダンジョンの起源へ向かう方法は、わかっていませんので」
「そこが一番問題だけどな。……そして、ミサキの治療費稼ぎのためでもある。上手くいけば、探索者の収入以上になるかもしれない」
ネットニュースのコメント数は、どんどん増え続けている。明日からどうなるのか怖いくらいだ。
「こうなったら後には引けない。協力してくれ、アンジュ」
「び、微力ながら頑張ります。ですが、その……」
「うん?」
「機会を逸していて、やや言いにくいのですが……」
「なんだ?」
アンジュは赤らめた顔で問いかけてきた。
「配信とは、何ですか?」
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