第三十二話 笑顔をもって答える

《草間町:東門》



 鶴姫が暁尖のところへたどり着く頃、

 暁尖は『剛鬼』に囲まれていた。


 ただでさえ巨大な者どもが、

 何十人という単位で暁尖を囲むのだ。

 中の状況が少しも分からない。


 それでも駆ける鶴姫。


 矢も効かない。

 中の状況が分からない以上、

 援護のしようがない。



 それでも鶴姫は駆け続けたのだ。



──────────────────────




「ふむ?」


 流石に死を覚悟した暁尖。

 だが、現実は異なった。


 目の前の『剛鬼』は、

 先ほどの暁尖の薙ぎ払いで崩れていく途中である。


 刹那を争う攻防戦なのだ。

 暁尖ほどの者ならば先の展開を予測していて動く。


 予測して死んだと判断していた。


 だが、その予測は外れた。

 まわりの『剛鬼』が暁尖から離れていく。


「いったい何が……?」


 離れていく『剛鬼』の隙間から鶴姫が見える。


「暁尖殿!」

「鶴姫殿か」

「申し訳ないでごじゃる。結局『霊鬼』を取り逃がしてしまって」

「いや、十分な働きじゃった。少なくとも『弓の霊鬼』は撃ち落としたじゃろう」

「……ですが、死を確認できたわけではないでごじゃる」

「そうかもしれぬ。こやつらは異常すぎる」

「私もそう思いまする。恥ずかしながら『霊鬼』と戦うのは初めてで……」

「大体の者はそうじゃろうて。儂らの世代でも経験がある者は多いわけではない」


 先代頭首 龍辰りゅうしんの時代は、

 鬼が襲撃することはなかった。


 先々代頭首 龍仙りゅうせんの時代は、

 龍仙が戦いを好んでいた、

 しかし、蹂躙に興味はなく

 強い者と戦うことを主としていた。


 ゆえに襲撃などはなかった。


 つまり少なくとも五十年少々の間は、

 人間は鬼との争いがなかったのだ。


「しかし、いったいこれはどういうことじゃろうか」


 話を続けながらも暁尖は

 『剛鬼』への警戒を解いてはいない。


「……円陣を組んでいるのでごじゃろうか」


 鶴姫の言っていることは間違っていない。


 事実、『剛鬼』は二人から離れた後、

 二人を中心として等間隔で円の形に並ぶ。


 そしてすべての『剛鬼』は中心を見ていた。


「……不気味じゃの」

「なにか……危険な感覚がするでおじゃる」

「違いない」


 練達の者『暁尖』の嗅覚は、

 相も変わらず『死』の匂いを嗅ぎつけている。


「鶴姫殿、悔しいとは思うがここは引くしかあるまい。儂がおとりになる故、先にこの場を離れてくれ」

「私も共に戦いまする!」

「ならぬ。勇敢と無謀は似て非なるものぞ」

「しかし、ここで逃げるのは『尊國六弓師みことぐにろくきゅうし」の名折れでござる」

「……わからぬか。足手まといだと言っておるのじゃ」


 厳しい目で鶴姫を睨む暁尖。

 

 未熟であると自覚のある鶴姫だが、

 足手まといという言葉を言われるとは

 予想もしていなかった。困惑を隠せない。


「で、ではせめて援護を」

「くどい!!」


 怒鳴る暁尖。

 身体をビクッと震わせた鶴姫の目には

 涙が浮かんでいた。


 その涙は恐怖からか、悔しさからか。


 うるんだ目を見た暁尖は心を痛めたが、

 それを表には出さなかった。


「ゆけ!」


 鶴姫は黙って頷いた。


 だが、すでに遅かった。

 『剛鬼』は前進を始めていく。


 百体以上の『剛鬼』を暁尖が相手取り、

 そこからおおよそだが七割割ほどに減った『剛鬼』。 

 それらが作った円陣が徐々に狭まっていく。


 縮むにつれて溢れる『剛鬼』たちは

 円陣の外側へと後退し

 それらが更に円となる。


 隙間はどんどんなくなっていく。


「一足遅かったか」

「申し訳ないでごじゃる」

「いや、こちらこそすまぬ。酷いことを言った」

「……本心じゃないことはわかってるでごじゃるよ」

「そう言ってもらえて幸いじゃよ」


 縮む円陣。迫る『剛鬼』。


「しかし、こやつらは一体……。知能がないはずなのに統率されたような動き。……しかし、何者かの命令を聞いているのであれば先ほど儂を殺せたはずなのに止めぬであろうが」

「どこからきて何の目的で……。何が始まってるのでごじゃろうか……」

「わからぬ。だが、儂は単独でこやつらを五十は倒した。知能がない。つまり複雑なことが出来ない。ゆえに初めから何者かにプログラム決まった法則を与えられていたとすれば……」 


 近づく死の足音。


 『剛鬼』がぴたりと止まる。

 そして周りの『剛鬼』が眩く光りだした。


 まるで体内に太陽が存在し、

 身体の毛穴などからその光が漏れているかのように



 瞬間、暁尖は相手の狙いに気付く。



 あくまで狙いだけだ。

 何が起こるかまでは完全に予測しえない。


 ただえさえ規格外のことばかり起きている。

 であれば発想はどこまで飛躍すればいいのか。


 まるっきり検討さえつかない。

 考えきるには、予想しきるには時間が足りない。


 だが、狙いは間違いないだろう。


 鉄をも超える防御力を持ち、

 死すら凌駕する不死身性を持つ。


 そんな者達を倒せるものがいるならば。

 それも大多数を倒せるものがいるならば。


 おそらく『剛鬼』は使い捨て。

 再生力を持たないことでもそれは推測できる。


 鬼の生命力はすさまじい。

 

 切り分けた身体を動くようにできるよりも

 再生できる方が簡単だろう。


 この小鬼たちはおそらく誰かに作られた

 もしくは改造された者達なのだ。


 であれば使い捨ての手駒で出来ること。

 それは将棋で例えれば明確。


 

 『歩』で金や銀。

 もっと言えば飛角をとれればこの上ない。



 暁尖の脳内でその事実にたどり着いた。



 伝える時間はない。



 逃がせる時間はない。



 老い先の短い自分が、

 未来有望な若者に出来ること。



 死はとっくに覚悟した。



 プログラム決まった法則がなければ、

 自分の命はとっくに無くなっていただろう。



 であれば、今。



 今、自分がすることは一つ。



 暁尖は鶴姫の身体を掴み、

 足払いをかけて倒す。


「暁尖殿! 一体何を!!」


 それに暁尖は答えない。

 もう時間はないと思っているからだ。


 そして自身の身体で鶴姫をおおう。


「暁尖殿!!」


 鶴姫は馬鹿ではない。

 今、暁尖が何をしているかを把握しているのである。


 涙を流す鶴姫に、

 暁尖は笑顔をもって答える。


 これの最後の言葉と知って。


「すまぬ。じゃが、これから先の未来はお主ら若者の時代じゃ。……ミコトグニを頼んだぞ」


 『剛鬼』から漏れていた光は、

 その身体を突き破るかのように増して……拡散する。


 暁尖は自身の中にある仙力全てをもってして

 自己の身体の強靭化へと回した──。






 全ての『剛鬼』は、爆発した。







──────────────────────



読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )


強すぎるチートな老人は早期退場をさせられる。


出たよ! コテコテなパターン!!!


大体、誰かを守って死ぬんよ。

もしくは闇落ちした弟子にやられるんよ。

 

今回は前者の様で……。


いや、わからんけどね?

実はやられたのは鶴姫かもやからね?


もはや二人とも違うかもやけどね!?


なんか気づいたらあとがきが

私の感想コーナーになってる気がする。


まぁ、ミトクロの一番の読者は私だからね!!!

ファン一号は譲れないよ!!!


というわけで!

また次話にてお会いいたしましょう!!


ありがとうございました!!!











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る