第十四話 きびだんご
《
「かはっ……」
背中から大きな血しぶきをあげて倒れるペルさん。
「油断大敵だな。お前はきちんと警戒すべきだった。私を倒せたかどうかをな」
何もない場所から朔夜さんの声が聞こえる。
よく見ると、そこはほのかにモヤモヤとしていた。
やがて、それははれて朔夜さんの姿が見えだす。
「後ろから切るなんて、……卑怯なものね」
「勝負の最中、背を向ける奴が悪い。あーぁ、背中の傷は剣士の恥なのになぁ。かわいそ」
「アンタがやったんでしょうが!!」
膝をつき、起き上がろうとするペルさん。
「はいはい、ペルちゃん。勝負は終わりよ」
「待って! 私、まだ負けてない!!」
「うんうん。でもとりあえず治そうね」
「いやだ! もっかいやるわよ朔夜!!」
「もうお前の強さはわかったからいい。他の奴ならいいぞ」
「わかってないわ!」
「ペルちゃん。いいから……ね?」
「えっと……。わかった」
笑顔なのに怖いティナさんにペルさんは黙る。
なんだか僕は見てはいけないものを見た気がした。
ティナさんはそのまま
ペルさんの背中の傷にそっと手を当てる。
傷口はシューっと音を立て、
みるみるうちにふさがっていった。
「すごい!」
「治療魔法を見るの初めて? ふふっ、これすごいよね」
思わず声が出た僕に微笑むティナさん。
「君、名前なんて言うのかな?」
「こいつは桃太郎! 桃から生まれたから桃太郎だ!!」
なぜか朔夜さんが答える。
「こっちは栗太郎な!」
「えぇ!? じゃあ、栗太郎君は栗から生まれたの?」
「そうだ!」
堂々と嘘をつく朔夜さん。
そんなはずないじゃん。
どこの国を探してもそんな人いないよ?
「桃太郎君、栗太郎君。変なことに巻き込んでごめんね?」
「いえ、こちらこそ! 朔夜さんのせいでごめんなさい」
「それよりも、お主のその腰の魔具もペルとやらのと同じなのか?」
「んー。私のは光で刀身ができるけど原理は同じかも?」
「ほほう! 見せてくれんか!?」
「うん、いいよ。後でね♪」
武具のことしか考えてない栗太郎は
さっそく魔具の話をし始めた。
栗太郎は基本的には常識人なのに、
こういう時は本当にぽんこつだ。
ティナさんがいい人で良かった。
「朔夜さんといいましたね。貴女は鬼の中でどれくらい強いのでしょうか」
そんな中、スノウさんが朔夜さんに尋ねる。
「私はさいつよだ!」
「朔夜は確かに強いが、お主らが相手する者どもはもっと強かろうな。朔夜は勿論、そこのペルという者では相手の幹部級の者には手も足も出ず終わるじゃろう」
「おい、栗! そんなこと言うな!」
朔夜さんの言葉に続けて、栗太郎は言う。
でも確かに、僕も朔夜さんも
文字通り手も足も出ず負けていたから
朔夜さんも、ぐぬぬしか言えない。
「なるほど。思ってたより難しい状況なんだね」
「そうね。流石ミコトグニだね」
ロミオさんとティナさんがつぶやくように言った。
「ええと、皆さん。満足は行けたでしょうか」
おすおずと
「もう金輪際このような真似はやめていただきたいのですが……。とにかく、京安へ参りましょう」
そう言っては牛車の準備を始める時貞さんに
ティナさんが声をかける。
「そういえば、時貞さん。京安までの警護してくれるって話だったけど、どなたがしてくれるんですか?」
「それは私と浦島さんが請け負います」
「そうなんだ、よろしくお願いいたします」
治療を終えたティナさんは立ち上がり
改まって時貞さんに頭を下げる。
そして、僕の方を見て続けた。
「ちなみに桃太郎君たちはこの後どこ行くの?」
「僕たちは……、特に決まってないかな?」
「そうじゃの。しいて言うなら七大都市を回るから次は
「だな~。闘技大会出たいしな~」
「なら途中まででもいっしょに行かない? 人は多い方が心強いと思うの」
唐突なティナさんの提案に
それはやめてくれ! って顔をする時貞さん。
わかる。
朔夜さんという爆弾を抱え込みたくないよね……。
「それがいいと思うばい! 俺も桃ちゃんたちと一緒におりたいし!」
「浦島殿、私情をはさまないでいただきたい」
「でも、使者がそうして欲しいって言っとるとよ?」
「ですが……!」
その話を聞いて、
傷のふさがったペルさんも立ち上がる。
「いいじゃない! それで今度こそ朔夜と私の決着をつけるのよ!」
「もう勝負はついただろ、敗者」
「だ~れ~が~敗者ですって??」
「おっ? 怒ったかんな? 許さないかんな??」
「何の話よ!!」
ペルさんと朔夜さんがじゃれてる。
絶対この二人仲良くなると思う。
「桃太郎君、どうかな?」
「ええと……。どうする栗太郎」
「お主のしたいようにすると良い。まぁ、ワシは魔具を見れる機会じゃから一緒に行っていいと思うがの」
ものすごい私情を後半にねじ込んだ栗太郎。
でも、正直な話をすると
僕は一緒に行きたいかもと思っている。
山の外に出てまだすぐだけど、
外の世界がこんなに刺激的なものだとは
全然思わなかった。
それに、なんだかこの人たちと一緒にいるのが
当然な気がした。
理由はよくわからないんだけど。
「じゃあ、みんながいいのなら……行きたいです」
「ふふっ。じゃあ決まりだね!」
ティナさんはポンッと手を叩き微笑む。
「改めて、私はティナ。クインピアに雇われた傭兵さんです♪」
「ペルよ。朔夜には負けてないわ」
「ロミオだよ。一応スノウの護衛役なんだ。スノウの方が強いけど……」
「スノウです。クインピアの代表としてミコトグニに来ました」
それぞれがもう一度名を名乗った。
それに僕たちも応える。
「朔夜! さいつよの美少女剣士だ!」
「栗太郎じゃ。後でお主らの武具を見せて欲しい」
僕の番が来る。
「えぇと、桃太郎です。よろしくお願いいたします!」
本当の名前は辰夜だけど、まだ慣れてない。
栗太郎しか僕の名前を呼んでないし、
とりあえず桃太郎と名乗ることにした。
「よかったばい! これで朔夜ともまた一緒たい!」
「はぁ……。問題が山積みですね……」
喜ぶ浦ちゃんと、悩める時貞さん。
どんどんと賑やかになっていって、
時貞さんには悪いけど正直僕はうれしかった。
その時、僕はふと思いつく。
「あの、お近づきの印と言ってはあれですけど。これミコトグニのお菓子です。よかったら皆で食べませんか?」
僕は天来港で買ったキビ団子を取り出す。
「なによそれ、砂団子?」
怪訝そうな顔で見るペルさん。
「もう、そんな意地悪するはずないでしょうペルちゃん。桃太郎君、一つ頂くね?」
そう言ってティナさんは一つ
キビ団子を取って頬張った。
「ん! おいしい! もちもちしてちょっと甘いんだね!」
「なによ。そんなに言うなら私も一つもらうわ」
そう言ってペルさんも一つ取って口に運ぶ。
「じゃあ、私も頂きます」
「ちょっと不安だけど、気になるから僕ももらおうかな」
スノウさん、ロミオさんと続いて取っていく。
「悔しいけど、確かにおいしいわ!」
「食べたことない味です。独特で……。似たようなものを織姫さんのところで食べたことがあるけれど私はこっちのほうが好きかもしれません」
「確かに。どう見ても砂団子だと思ったんだけどすごいね!」
ペルさん、スノウさん、
ロミオさんはそれぞれ喜んでくれた。
気に入ったようでペルさんがもう一つもらおうと
きびだんごへと手を伸ばす。
「もうひとつもーらいっ! ってあれ?」
あれ??
十個くらいあったのにない!!
犯人は絶対……!
「朔夜さん!!」
そこには口いっぱいに詰め込んだ
ハムスターのような顔をした人がいた。
「ふぉごっ。わたふぃじゃなふぃ!」
「嘘おっしゃい! そんな膨れた面してよく言えるわね!!」
ペルさんが鋭い言葉を浴びせる。
「わふぁったわふぁった。これやふからおこるな」
そう言って朔夜さんは手に持っていた団子を渡す。
「ったく、アンタ意地汚いわね……」
不服そうな顔をして、
その団子をひょいと口に放るペルさん。
そして、ジャリジャリと噛みしめて……。え?
ジャリジャリ!?
「ぺっぺっ! 何よこれ! 本当に砂団子じゃないの!!!」
「へへーん! 騙されてやんの~!!」
「待ちなさい! アンタ絶対ぶっ飛ばしてやるんだから!!」
ティナさんの「仲良しさんね~」という言葉と
時貞さんの「前途多難……」という言葉。
そしてみんなの笑い声が混ざり、
僕たちは草間町を目指すこととなった。
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読んでいただけてありがとうございます(˘•̥⧿•̥˘ )
ついに出ましたね『きびだんご』!
このシーンは大切ですよね!
さて、新キャラのメンバーは私的にすごく推しです!
戦闘面ではロミオがいちばん厨二病!
みんな楽しみにしていただきたいところでごじゃる。
ちなみに書いてて楽しいのは
ペルさんとスノウさんです(にっこり)
てなわけで!
また次話にてお会いいたしましょう!
ありがとうございました!!
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