第17話 岩の巨人
ズシンズシンと、ゴーレムが一歩歩くたびに地面が震える。
4メートルにも及ぶその巨体は、現実世界では滅多に見ることはない光景だ。
しかも、全て岩で出来ているなんて、さすがファンタジー空間。
しかし、ドシドシと音をたてゆっくり歩いているあたり、身体はやはり重いらしい。スピードはないと見ていいか。代わりに体重を生かした重い攻撃を仕掛けてきそうだな。
よく見ると一つの岩を切り出したりさているわけではなく、それなりの大きさの岩がいくつか連なって巨大な身体を形成している……無数の岩の集合体だ。
腕がかなり長いな。リーチはかなりあるか。
観察しろ。残機1も無駄にしねえように。
死ねないなら、戦いの中で見極めるのみ!
「ゴオオオオ!!」
早速ゴーレムは俺を敵とみなし、行動に移る。
自身の身長ほどもある腕を、天たかくあげる。おそらく、叩きつけ攻撃!
予想通り、ゴーレムはそのまま地面に巨大な手を振り下ろす。
ものすごい風圧と迫力! だが、ただの直線的な攻撃は避けるのも容易い。
俺は攻撃を見極め、追尾してきても大丈夫なようにギリギリで回避する。デュラルハンの<闇火球>みたいにされると厄介だからな。
そのまま地面に叩きつけられ、地面が僅かにグラグラと揺れる。
「ここ!!」
俺はすぐさま腕にフォーカスすると、一気に斬りつける。
威力はすげえけど、隙がでけえぜ!
——が。
斬りつけた剣はガンッ! と弾かれ、手から肘くらいまでに僅かに痺れが走る。
「――かってええ!? まじか!」
硬さがすごい、そりゃ岩だもんな。いくらダンジョン内で素の力が強化されていると言っても、俺の火力じゃそこまで攻撃を通せねえ。
おそらくジョブである闇魔剣士にステータス補正があるんだろうけど、どうやらSTRではないことは確かだった。
ほとんど攻撃としては通ってねえ。とはいえ、ここはHP制だ、切れてなくてもダメージは入ってるはず。
俺は硬直の長いその腕にさらに何発かの斬撃を加える。しかし、何事もなかったかのように腕を引き上げていく。
「ダメージ入ってる……よな?」
「ゴオオオオ……」
入ってないって言ってそう〜……。
すると、今度はその長い腕を叩きつけず、俺の方に向ける。
「ガガ……ガガガガ……!!!」
瞬間、スキル発動の淡い閃光。
そしてゴーレムの背後に岩の塊が出現する。
「不思議パワー……魔法スキルか!」
浮遊したその岩は、まっすぐに俺の元へと射出される。
その数、3個! だが、投擲はほぼ縦並びだ。避けるのに苦労はしない。
俺は腕と同じ要領で横にステップし、3回の攻撃を避ける。――と次の瞬間。
俺は目を疑う。
「おいおいおい! そんなんもありか!?」
ゴーレムはいつの間にかその巨体を丸め、一つの巨大な岩と化していた。
変形ロボも顔真っ青の変形だ。
そして、まるでバイクのエンジン音のような唸る音を上げると、タイヤのように高速回転して俺の方へと突っ込んでくる。
「マジかよ!!」
ガリガリと地面を削り上げ、土埃を巻き上げながら高速の殺人車両が迫る。
岩魔法を回避して体制を崩してる探索者に転がって高速タックルか、殺意高えな。あんなの食らったらミンチだぜ(まあ、HPやら鎧やらで即死ではないんだろうけど)。
俺はすぐさま<突撃>を使い、緊急回避する。
「おぉ、”バックドア”か! 教えてないスキルの使い方を早くもしているとは……やはり見込みがあるねえ〜」
呑気なおっさんの声が聞こえるが、今は集中!
転がる攻撃は確かに速度はえぐいが、ただの直線攻撃だ。これなら避けるのには苦労しない。体制を崩しているから仕方なくの緊急回避だが、次はあらかじめ予測して最小限のリスクで回避する。
ゴーレムはそのまま高速で転がり続け、3度ほど壁にぶつかって跳ね返るとそこで停止する。
基本直進しかしない丸まっての突進攻撃か。何らかの障害物……ここなら洞窟の壁に当たると方向転換してまた直進。3回折り返したところで終了か。
初撃が避けられればどうということはないな。折り返しのタイミングが攻撃のチャンスだが、この広さだと俺の足じゃ追撃は無理。距離を詰める正当なスキルがあれば違うんだろうが、<突撃>じゃ発動後の硬直が痛くて逆にボコられる。
スキルってのは応用的な使い方ができる利点もあるけど、やっぱ純粋な使い方なら正規のスキルの方が勝るか。
ゴゴゴゴゴゴゴ……と、音を立てながら、ゴーレムは元の形に完全に戻る。
変形から戻るところもだいぶ隙だな。
さて、問題はこの岩の体にどうダメージを与えるかだな。
俺は改めてゴーレムを観察してみる。
鎧のようにまとわれた岩。あの岩は防御力が高くてなかなか攻撃が通らない。
考えられるのは……岩の隙間か。
これみよがしに岩が連なっている。つまり、接合箇所はその分薄くなっているはずだ。
鎧なんかは、その防御力から鎧の隙間を狙って攻撃するという。
それを応用すれば、攻撃が通るかもしれない。
「試してみる価値はあるか」
「ゴオオオオ……!」
再度の岩石魔法。
飛び交う岩を避け、距離を保つ。転がるは多様出来ないスキルみたいだな。
そして、幾度かの攻撃を避けたところで、最初に受けた攻撃が飛んでくる。
「ゴオオオオオアアア!!」
振り下ろされる巨大な腕が、地面に埋まる。
この隙!
俺は剣を槍のように持ち、思い切り岩の隙間に突き刺す。
「!!」
ゴーレムの出す音が変わる。手応えありだ。
「弱点見っけ!!」
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