第4話 首なしの騎士
「おいおい、ここコボルドすげえ数いるな、巣でもあんのか?」
俺は剣を振るい、迫り来るコボルドを狩り続けていた。
闇から断続的に飛び出してくるコボルド達。一匹一匹はそこまでの強さではないのだが、注意するべきは恐ろしい速さの突進攻撃だ。手に持った小さな斧を振り回し、一心不乱に突撃してくる。
既に10匹近くは倒していたが、未だに闇の向こう側にその気配を残している。
「経験値稼ぎ放題かよ……っと!」
俺はコボルドの突進攻撃の方向を一瞬で見極めて避けながら、的確にその首に剣を振り下ろす。
コボルドは短い悲鳴を上げ、泡となって消える。
俺はいつもゲームをやる要領で、じっとコボルドたちの動きを観察した。
こいつらは二つのスキルを持っている。一つは直進する時に一気に加速するスキル、もう一つは乱舞のように斧を振り回すスキルだ。
この二つのスキルを軸にした攻撃を繰り出し、突進に怯んで一気に距離を詰められれば、乱舞で粉微塵にされるという凶悪コンボ。気迫にビビって逃げ腰になれば、あっという間にHPを削られるだろう。
だが、突進の後の隙がデカいから、初動さえ避けられれば一方的にタコ殴りに出来る。
不可避に思える突進も、その方向や速度・距離が一定で、乱舞の斧の軌道も完全にパターン化されている。そこはスキルだからこその弱点というところだろうな。そうやって行動パターンが分かってしまえば、倒すのは楽勝だ。
「にしても、一撃で倒せる雑魚ばっかだし……ここってチュートリアル用のエリアとかか?」
コボルドの繰り出すスキルも単調でよけやすいのだけだし、それが連続するあたり繰り返し練習するための場所なんだろう。ここを最初にクリアしておけば、探索者としての最低限の戦闘の基礎は身につけられるって訳だ。
それから俺は追加で二体のコボルドを狩り、良く動けている自分の身体に満足する。
肉体が強化されると言うことは、俺の普段の意識と肉体の操作感覚がずれると言うことだ。ゲームでいえば、デバイスの感度が変わるようなものだ。僅かな感度のずれでも、エイムはかなり不安定になる。
だが、思ったより体と脳はリンクしているようだった。確かに身体能力やスタミナは強化されているのだが、不思議といつもの感覚で動ける。これなら、俺のイメージ通りの動きが出来る。
「――うっし、そろそろどれくらい強くなったかもう一回見てみるか!」
お待ちかねのステータスタイムだ。
俺は左手首に付けているブレスレット型のウェアラブル端末を、時計を見るように前に構える。
すると、ブゥンと音が鳴り、青白いホログラムディスプレイが浮かび上がってくる。長方形の半透明ホログラムディスプレイには、探索者としての俺の能力が表示される。
[ステータス]
Name:テンリミット
Job:ノービス
Level:3
HP:200/200
[スキル]
<突撃> Lv1
「お! よっしゃ、ジョブのレベルが3まで上がってる! いやあ、何度見てもいいな、ステータス画面! くぅ~!」
俺は目頭を押さえながら、感傷に浸る。
コボルドとの戦いの最中で、俺はちらちらとこの画面を起動しては感動していた。
プレイヤーネームにレベル、HPに所持スキルの表示。まさしくゲーム同様だ。ゲーマーなら垂涎ものの神システムだ。
ステータスは、俺達がダンジョンに入った時に纏う”魔素の鎧”を計測して数値化してるみたいだが、詳しいことは良くわからん。
このゲーム――もとい、ダンジョンではジョブの概念があり、ジョブごとに覚えられるスキルが異なるらしい。つまり、ジョブによって戦い方が変わってくるのだ。まさにスキルゲーであり、レベルがたとえ低くてもスキルの使い方、戦略次第でレベルが上の相手にも勝てるチャンスがある。
俺の現在のジョブは初心者用のノービスだ。
「けど、3レベルじゃジョブスキルはまだなし……っと。ノービスはなんレベルで手に入んのかなあ。唯一今俺が持ってるスキルが、<突進>Lv1だな」
これは、コボルドが落とした
「このスキル、ちょっと試してみてえな。多分コボルドが使ってる突進攻撃のことだろうけど。ただの捨て身に見えるけど……使い方次第でなんとかなるか?」
ここはゲームではなく、現実だからこその利点もある。ゲームだと決まった威力、方向、対象にしか撃てないスキルたち。けど、現実ならいくらでも使い方に応用が利くはずだ。
俺は試しにスキルを発動してみる。
「<突撃>!」
瞬間、身体が俺の視線の方向へ一気に吸い寄せられる。――いや、俺の身体が突進しているんだ。
高速で3メートル程直進したところで、ピタリと俺の身体が止まる。
「うおっ、早え! 体が勝手に高速で前方に移動……これがスキルか……!」
俺は初めてのスキルに感動を覚える。ただの突進スキルだが、俺の身体能力の限界を超えて前進したのは間違いない。やっぱりただの捨て身特攻っぽいが、きっと使い所はある。
茜から見せて貰った映像では、本当にファンタジーゲームのような戦いをしていた。もっとスキルが増えれば、俺もあれが出来るかもしれないんだ。
「くう~夢が広がるなあ! ゲームする時は紙装甲の回避タイプが多いから、たまには盾持ったタンクとか魔法ってのもいいなあ。一撃が重いタイプも捨てがたい」
あれやこれやと、ジョブについて夢が広がっていく。
すると、少しの間鳴りを潜めていたコボルドが背後から奇声を上げて飛び出してくる。
「いい加減、剣ばっか振り回してるのも疲れてきた――なっと!!」
俺は慣れた手つきで横一線、コボルドの首を跳ね飛ばす。さすがにファントムダークの雑魚敵の方がまだいやらしく飛び出してくるぜ。もしかして、ゲームより易しいのか? あのゲーム雑魚敵でさえ中ボスみてえな強さだからな。
「ふぅ、とはいえさすがにキリがねえな。いい加減――って、おいおい、個で敵わないから次は集団か!?」
前方に、複数のコボルドの姿が現れる。さっきまでより多い。もしかすると、これが最後か? これで集団戦を突破すればチュートリアル終了みたいな。
「いいぜ、これがラストウェーブか。かかってこいよ!」
俺は剣を構える。
「いざ――――あれ?」
しかし、彼らはかっこよく構えをとった俺を通り過ぎ、俺の背後へと消えていく。俺のことなど振り返らず、一直線に。
「は? なんだ……逃げた……?」
何から? 俺の方に向かってきたんだ、俺からではない。ということは――。
俺はすぐさま正面の闇に視線を向ける。
こういう時のパターンは一つしかない。
そこに、何かいる――。
遅れて闇の中から、ガシャン……ガシャン……と重々しい金属音。そして、ズザザと何かを引きずる音が聞こえる。さっきまでの、コボルドが地面を走り回るペタペタとした乾いた足音じゃない。
そして次の瞬間。さっきまで薄暗かった洞窟に明りが灯る。
「まぶしっ……! んだよ一体」
眩しさに細めた目を何とか凝らし、俺は正面を見る。
すると、そこには一人の騎士が立っていた。
甲冑を着て背丈ほどの剣を持ち、マントをはためかせている。しかし、俺は一目でこいつが探索者ではなくモンスターだと理解した。何故なら。
「頭が……ない……?」
それは、頭がない騎士――首なしの騎士だった。
そしてその足元には、巨大なモンスターが倒れていた。緑色で巨大な体躯、角を生やしたモンスター。おそらく、オークだろうか。さっきまでのコボルトとは根本的に違う、ボス級の大きさだ。
そこで俺はハッとする。
まさか……あれが本来のここのエリアボスモンスター……ってことか?
俺は思わず笑みをこぼす。
「ははっ! おいおい……ダンジョンってそんなかっこいい演出までしてくれる訳?」
おそらくは引きずっているオークを倒したのがこの首なし騎士ってとこか。
ゲームならここでカッコいいテキストやムービーが挿入されるところだな。
すると首なし騎士は俺の方を見ると、甲冑をカシャンカシャンと鳴らしながらこちらへと向かってくる。
オークの次は俺の番というわけだ。
首なし騎士は右手に持った巨大な剣を天高く掲げ、そして、ただ真っすぐに振り下ろす。
「おいおい、何空振りして――――ッ!?」
俺は咄嗟に背筋が震え、慌てて右側に飛びのく。
刹那、さっきまで俺が立っていたところを何かが物凄い速さで通り抜けていく。
直後、俺の後方でドガーン! というアクション映画でしか聞いたことないような爆音が鳴り響き、土煙が舞い上がる。
洞窟の壁には、深々と裂創が刻みつけられていた。そして地面には、深くえぐられた巨大な裂創。
「あっぶねえ……。おいおい……飛ぶ斬撃ってやつ? 威力すげえな。初見殺しにもほどがあるだろ!」
依然として首なし騎士は、静かにこちらへと向かってくる。
「はっ! なるほどな、こっからがダンジョン本番ってか。かっこいい演出と共にチュートリアルのボス戦開始って訳ね。いいぜ、コボルドは雑魚すぎて飽き飽きしてたところだ」
俺は楽しさのあまり笑みを浮かべる。
「いいぜ、かかってきやがれ! チュートリアル、初見でクリアしてやるよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます