23.A級
その人物は身長150センチくらいの男性。和風の袴を着ている。
小柄なわりに顔は結構、老けていたが彫りの深い顔立ちをしていた。
更に特徴的なことに耳が人間のそれより少し尖っている。
「あ、あの……」
「ありがとう……」
「え……?」
遭ってそうそう感謝を告げる女性にその男性は戸惑いの声を上げる。
「私は今、非常に感動している」
未知との遭遇に揺は興奮を抑えられない様子だ。
「それでお主、何者だ? 種族! 種族を忘れずに付け加えてくれ!」
揺は目をらんらんと輝かせながら尋ねる。
「え? えーと、私は
「ど、ドワーフだと……!?」
「え、えぇ……
「素晴らしい……!」
多少のすれ違いがあるものの大きな差異はなさそうだ。
「ミカゲ、見ろよ! ドワーフだ! ドワーフ!」
揺は子供のようにきゃっきゃと喜ぶ。
その姿は少し微笑ましかった。
「それで、サジオさん、どういったご用件でしょう?」
浮ついている揺の代わりにミカゲが尋ねる。
「あの……お二人はこの先に行くのですよね?」
サジオは入ってきた方と反対側の洞窟の出口を指差す。
「そのつもりです」
「であれば、私、ついていってもいいでしょうか。ちゃんとお礼はします。言葉だけでなく、モノでも」
「おう、構わんよ」
横から揺は無警戒でOKする。
(ちょ、揺さん……)
「あの……一応、聞いてもいいですか? サジオさんはこの先に何があるかご存知なのでしょうか」
「ちょ! ミカゲよ……ネタバレはNG」
揺はぷんぷんする。
(一理あるけども……)
「え、えーと、じゃあ、ひとまず何があるかは言いませんが、この先には強力な妖獣がおりまして……私、戻れなくなってしまったんです」
「なるほど。行こう!」
もはや揺はYESありきだ。
そうして、サジオを連れて、洞窟の先へ進むことにする。
……
『名無し:お、戻った』
『名無し:おかえりー』
霊泉を出ると、配信が再開される。
(やはり霊泉から出る妖力が干渉していたのであろうか……)
その後、二人と土和夫のサジオは洞窟を進んでいく。
……
「……出たな」
「はい……」
しばらく進むと、新たな妖獣が現れる。
【妖獣
「なるほど、確かに
「はい……」
「だが、まだ狼狽えるほどのものでもない。どうする? 補助がいるか?」
「不要です……!」
……
「おぉ、お見事です」
鬼蛙をしりぞけたミカゲをサジオが讃える。
「ありがとうございます」
「ですが、まだまだこんなものではないのです。私は心苦しいのですが、戦うことができぬ故、ついていかせていただく手前、恐れ入りますが、ご警戒を……」
(……この人、どうやって
ふと、ミカゲは疑問に思う。
「ミカゲ、行くぞ!」
「了解です」
……
その後、数体の妖獣が現れた。
危険度のアベレージは70オーバーであった。
しかし、普段から危険度70のモンスターと無宝物でチャンバラをしているミカゲにとって、覚醒刀を装備した今、それほど難しい相手とは感じなかった。
更に進んでいくと、洞窟の先に明るくなっている空洞が見えてくる。
「ここです! ここに特に強い妖獣がいます! 警戒してください!」
「ミカゲ、警戒するぞ……」
「了解です」
ミカゲと揺は警戒感を保ちつつ、空洞に出る。
先程の霊泉よりはやや広く、直径、40メートルほどのドーム状の空間となっている。
霊泉とは異なり、泉があるわけでもないが、岩石の材質が灰色寄りなせいか、不思議とそこまでの洞窟内よりも少し明るかった。
しかし、パッと見では妖獣らしきものはいない。
「おい……見ろ……」
「ん……? え……!?」
ミカゲは揺が指差す空洞の中央部分を見る。
そこには人骨らしきものが転がっていた。
『名無し:事件発生』
『名無し:ぎゃぁああああ人骨ぅ』
『名無し:ざわ……ざわ……』
身長は150センチそこらであろうか。
それくらいの人骨が数体ころがっている。
「ドワーフのものか……」
「そうですね」
サジオが頷く。
『名無し:ドワーフ……だと?』
『名無し:いるのか!?』
『名無し:なんでそのドワーフの人骨が?』
にわかにコメントが活気づく。
(言われてみると、霊泉での出来事は配信してなかったからな……)
などと考えていると、上空から物音がする。
「で、出たぁああああああ!!」
サジオは大声を上げる。
岩が剥がれるようにして、
「こいつか……」
それは岩を纏った巨大な蜘蛛であった。
【妖獣
(……危険度……Ⅱ?)
==========
【危険度:推奨等級】
70~: D級以上
80~: C級以上
90~: B級以上
Ⅰ~: A級以上
==========
『名無し:ぎゃぁああ!! 危険度Ⅱだぁあああ』
『名無し:逃げてぇええええ』
【危険度上限オーバー、E級攻略者は直ちに戦闘から退避してください】
(っ……!)
ドローンが警告を発する。
「まぁ、そうなるわな……戦闘領域は……出てないか……ミカゲ、サジオを連れて、ひとまず入口のところまで下がれ」
そう言って、揺は束砂くん人形をぽいっとミカゲに投げる。
「し、しかし……」
「お前、また謹慎になりたいのか?」
「……っ」
「あのなぁ……そんな心配そうな顔するなよ。悲しくなるだろ?」
揺は眉を八の字にし、目を少し細めて、切なそうな顔をする。
「お前だろ? 言ったのは……」
「え……」
「夢を実現するには墨田ドスコイズ唯一の
「……!」
揺はくすりと笑う。
「そこで観とれ」
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